哲学 第9回 「自由主義」 By ミル&アダムスミス、ロールズ 2007年6月5日 吉田 パロ「社会がなぜ大切なんだっけ?」 ピロ「人の人生が意味を持つのは、それ単独でじゃない。社会の中で だからさ。つまり、社会は、人が善く生きるための器なわけだ。」 パロ「なるほど。ひどい社会では、われわれは自分が望むように生きら れない。いや、そもそも自分の人生を正しく望むなんてことも難し いのかもね。」 ピロ「デカルト、パスカルの時代以降は、社会について、神とは切り離 して、思想が編まれてきた。」 パロ「政教分離。当然だね。」 ピロ「いや、そうとも言えないけれども、とにかく日本は、そうした近代 のヨーロッパの伝統をアジア非欧米世界では真っ先に受け入れ、 現在の社会を作ってきたとは言えるだろう。」 パロ「黒船と原爆の威力に脅えてね。」 ピロ「ともかく、受け入れてすでに歩きつづけている。」 パロ「いまや、世界の自由主義陣営の重要な一角だね 。」 ピロ「・・・。自由主義って、日本のどの政党が代表しているのかな?」 自由主義 古典的自由主義(政治&経済の自由放任主義。個人個人の自由な判断 によって社会の望ましい秩序をつくる。国家、社会の介入をできるだけ減 らす) 政治的自由主義 リベラル 言論と参加の自由 経済的自由主義 新古典派 所有と取引の自由 政治経済の自由主義 リバタリアニズム 両方 ⇔全体主義? 社会主義、共産主義 国家による調整 共同体主義 伝統や文化的価値の尊重 ⇔権威主義 宗教、王権の権威による統治 アメリカ「リベラルな社会民主主義」VS.「新古典派を支持する保守主義」 John Stuart Mill 自由主義の3人 J.S.ミル(1806-1873) 功利主義者として先週紹介 社会全体の幸福とともに、個人のプライベートな領域を擁 護 アダム・スミス(1723-1790) 元祖自由主義者(古典的自由主義) • 経済的自由主義(市場の原理) • 政治的自由主義(道徳感情論) ロールズ(1921-2002) 現代のリベラリズムの擁護者 正義の原理として自由の擁護 Adam Smith (1723-1790) Photo: Baker Library, Harvard Business School http://www.pragmatism.org/american/index.htm 3人とも、個人の自由を最大限認めようとするが、身 勝手わがままを認めるのではなく、市民としての個 人個人の判断を信じて社会を作ろうという発想。 権 威 的 統 治 議 会 と 市 民 の 台 頭 ス ミ ス J.S. 主社 義主 会 ・ 主 市義 民・ 新義 運自 ・ 社 動由 会 主民 資 本 主 義 ・ 帝 国 主 義 1633年 ガ裁判、41年 デ『省察』 1688年 名誉革命、87年ニュ『プリンキピア』、89年 ロ 『統治論』 1733年 ケイ「飛び緋」、65年 ワット蒸気機関 1776年 ベ『政府論断章』、81- カ『○○批判』 1775年 アメリカ独立戦争、89年 フランス革命、ナポレ オン 1815年 ウイーン会議 1832年 イギリス選挙法改正(民主化)、46年穀物法廃 止(自由化) 1859年 ミ『自由論』 1918年 第一次大戦(1914-) 1922年 ソビエト社会主義共和国連邦(-1991) 1945年 第二次大戦(1939-) 1955-1970ごろ 公民権運動、反戦運動、女性運動、環 境問題、学生運動など A. 古 典 的 自 由 主 義 スミス、ミル、ロールズの時代 ミ ル ロ ー ル ズ 功利主義「最大多数の最大幸福」 快楽計算は範囲を考慮する 社会の総ての人について、 (快の合計)-(苦の合計)を計算 a = (a1+ + a2+ + a3+ +・・)-( a1- + a2- + a3- +・・ ) b = (b1+ + b2+ + b3+ +・・)-( b1- + b2- + b3- +・・ ) a > b なら A > B 快楽計算によって、最大多数の最大幸福を 実現するのが善い選択 個人の行為選択、立法や政策の判断の基準 国民による多数決(議会など)を正当化 J.S.ミルの功利主義 ベンサムの功利主義の批判的発展 ベンサムの継承 最大多数の最大幸福が善である 批判「不満足なソクラテス」 ただし、「幸福」な生(善く生きる)には、情操(愛 や美、崇高、利他的感情など)がポイント(T) 快にも質の区別がある(生理的な快に対して、情 操的な快の区別) 快楽計算は、質の高い快に重み付けして、最大 化をはかるべき。 公共性と自由の重視 質の高い快として利他的な快を重視 =公共の領域(他人に関わる領域)における功利 主義(質も考慮した快楽計算) 選挙制度の改良(比例区、専門性に重み付け) 教育(リテラシー)の必要 社会福祉、平等(女性、植民地)の重視(T) 他人に関する領域→まず公共性を優先 人に害を及ぼさないなら自由(危害原理) 自分自身にのみ関わる領域→自由を尊重(T) 自由の尊重 (功利計算外の)私的領域に関する自由の尊重(≒カ) 思想と両親の自由 趣味と探求の自由 団結の自由 議会制民主主 義を支える 自由を侵害するもの 社会の慣習や道徳法則(カント) 不当な政治権力 公共・福祉/個人・自由のバランス バランスのとれた社会、人間を善しとする 古典的自由主義(経済) 「市場の原理」(『国富論』アダム・スミス) 取引き=満足条件=幸福の定量化 生産者と消費者の満足度(幸福量) 最大化システム 国家による調整は必要ない 神の「見えざる手」による調整 売っても いいよ 買っても いいよ 条件 独立した利己的個人 合理的な判断 wikipedia 余剰の領域 =満足量 古典的自由主義(政治) 「同感の原理」(『道徳感情論』アダム・スミス) 「人間がどんなに利己的なものと想定されうるにしても、 明らかにかれの本性のなかにはいくつかの原理があって、 それらは、(略)、他の人びとの運不運に関心をもたせ、 彼らの幸福を、(略)彼にとって必要なものとするのであ る。」 この利己心と同感、+理性的判断力によって、自律 的に社会が構成される。 法や権力、権威による強制でなく、市民的道徳をベース に置く。 個人個人が同感を伴った利己的関心に基づいて、理性 的に判断し、自由に振舞うこと。 古典的自由主義(レッセ・フェー ル)の問題 経済的自由主義 市場における自由競争→格差社会と個人の切捨て 格差の固定と拡大→帝国主義、アンフェアーな搾取 企業の力の暴走→労働者の人間疎外 政治的自由主義 マスコミによる世論操作→市民でなく大衆政治 代議制の機能不全→政党の非政治化 過度な個人主義→公共、伝統的共同体の破壊 ヨーロッパを中心とする、共産主義、社会主義、社 会民主主義、共同体主義へ ロールズ自由主義の背景と目的 北米における自由の伝統によって、社会契約 論を基礎付ける リベラルな形で社会正義(justice)、公正 (fairness)の実現を目指す 背景:戦後の市民運動(社会的不正の是正) 人格の相互承認(カント的正義) 功利主義批判(社会における幸福の総量だけを 検討して、その配分を問題にしない点) ロールズの原理 正義の2原理 1:自由の最大限の(他人の自由を侵害しない限 り) 2:権利としての機会の平等(どんな恵まれない 人であっても納得のいくような配分。 • 「無知のヴェール」=自分がどんな立場に生まれるか どうかが分からないとしても、納得のいく社会(ルー ル)を目指す=公正べきだ この、2原理に基づいて、社会をつくることで、 自由主義的に社会正義を実現できる ロールズへの批判 共同体主義より ロールズの考えは個人主義 人間の幸福は、共同体的な土壌のもとで実現 無知のヴェールの奥のピュアな個人では判断もできない リバタリアニズムより ロールズの考えは自由主義、個人主義は不徹底 国家による再配分を認めるから 国家は暴力から個人を保護、契約を執行するだけの最小 国家(「夜警国家」)であるべきだ 参考文献 『人と思想 J.S.ミル』、菊川忠夫(著)、清水書院。紹 介本 『世界の名著38 ベンサム J.S.ミル』関嘉彦(編著) 中央公論社(絶版)。 『世界の名著31 アダム・スミス』大河内一男(編著) 中央公論社(絶版)。経済学の超古典『国富論』収 録 『道徳感情論 上/下』アダム・スミス、岩波文庫 The theory of moral systems 処世術のhow to本としても。 『ロールズ』川本隆史、講談社「現代思想の冒険者 たちシリーズ」、ロールズ主義者のロールズ論
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