自費出版『自由主義政府論―A.スミスの政府論と J.S.ミルの政府論との対比―』 大畑智史 現在、日本においては、民営化、将来の社会保障の充実のための税制の在り方、等の国 家運営方法についての議論が活発です。このような議論はかつてからなされていまして、 資本主義経済体制が確立しつつあった 18 世紀イギリス、あるいは、その矛盾が露呈し出 した 19 世紀イギリスにおいても、そのような議論はありました。『国富論』[1776 年]を 著したことで有名な A.スミス(以下、スミス)も、政府論の中で政府機能、租税、公債、 等について論じていますし、経済学(『経済学原理』[1848 年]他参照)に留まらない分野 で著名な J.S.ミル(以下、ミル)も政府論の中でそれらについて論じています。現代日本 におけるそのような議論にはない視点を獲得する、ということはその議論の内容を進展さ せる上で重要なことでしょう。この面で、とりわけミルの政府論は検討に値するのではな かろうかということが、自身の出版理由の一つになっています。当然、ミル政府論研究の 深化、ということもその一つです。字数の都合もありまして、これらの点についてだけ紹 介させて頂きます。 ミルは、経済学、自由論、論理学、政治論、教育論、功利主義論、人口論、宗教論、等 の学説を説いた人物です。非常に簡潔ですが、彼の政府論は、こうした議論と関連する形 で説かれます。当時の資本主義経済体制の中で、彼はどのような(自由主義)政府論像を 持ったのか、あるいは、彼の政府論は他の彼の学説とどのように関連しているのか、とい う点を少しでも紹介できればと考えました。ミルの学説内で説かれる、方法論的視点、人 間進歩の視点、宗教的視点、国民的性格、等は、先述の議論ではあまり詳細に加味される ことはないようです。こうした視点を交えることは重要です。例えば、方法論的視点の相 違だけで、著書で紹介するような違いが出てきますし、宗教的要因がかつて施行された支 出税の廃止の一因であると指摘されること等を考えればそのことは分かるのではないでし ょうか。 では、もう一つの点についてですが、ミルは、政府論を含めた経済学を他の部門と密接 に絡めたものとして説いた、というようなことを『ミル自伝』 [1873 年]の中で述べます。 自身の著書においては、彼の政府論はどのような学説と関連しているのか、ということを できる限り具体的に分析したり、彼における政府論と経済学方法論との関連性を分析した りしています。これらの視点は、ミル研究においては詳細に分析されてこなかった視点で す。そうした分析の際にはスミスの政府論との対比ということをしていますが、この対比 によって、ミルの政府論の性質がよく分かるのではないかと思います。 最後になりますが、思いもしなかった支援の下に出版された理論的研究書としての本書 は、当然専門性には配慮していますが、専門でない方にも読んで頂けるような形になって います。 かつての学説の現代的意義について関心がある方、 歴史そのものに関心のある方、 御一読してみてはいかがでしょうか。ミルの思想を検討して何も得ることがなかった、と いうことはないと思います。
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