Title 蒙古社会経済考( Abstract_要旨 ) - Kyoto University Research

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蒙古社会経済考( Abstract_要旨 )
伊藤, 幸一
Kyoto University (京都大学)
1967-05-23
http://hdl.handle.net/2433/212234
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
【1
4】
氏
伊
藤
幸
い
とう
こう
経
学 位 記 番 号
論 経 博 第 1
6号
学位授与の 日付
昭 和 4
2年 5 月 23 日
学位授与 の要件
学 位 規 則 第 5条 第 2項 該 当
学位 論文題 目
蒙古社会経済考
論 文 調 査 委員
教 授 堀 江 保 蔵
(主
済
学
いち
学 位 の 種 類
博
士
査)
論
文
内
教 授 堀 江 英 一
容
の
要
教 授 山 岡 亮 一
旨
本論文 は, 元朝成立期 ごろの蒙古社会 を, チ ンギス ・ - ← ンを戴 く蒙古民族 が どのよ うに して世界制覇
をな しとげたかを中心に, 主 として経済史的方法で研究 した もので, プ ロロ- グ, 第 1編基礎編, 第 2編
経済編, 第 3編社会編, エ ピローグか ら成 る。
第 1 編 では, まず モ ンゴル高原 の 自然が文化地理学的に概観せ られ, と くにそのステ ップ地帯が, 住民
の遊牧専業化傾向に対 して持 った意味が明確に諭ぜ られてお り, つ いで, チ ンギス ・ - ー ンの外征 を促 し
た もの として, 人 口過剰説, 好戦的性状説 に対 し, 蒙古民族 の生業や生活状態を考察す る必要 が力説 され
ている。
それを受 けて書 かれた第 2編 は, 生産 と流通の 2章 に分述 されている。 第 1章で と くに重要 視 す べ き
は, (1)牧畜 の対象 とな った羊 ・ 馬 ・ 牛 ・ 山羊 ・ 酪駄 などの家畜 は, 食料用 ・ 燃料用 ・ 加工材料用 ・ 交通用
などそれぞれの用途 に対 して特色を持 ち, しぜん 自給 自足 に近 い経済 を可能 な らしめ, もって蒙古民族 の
あいだに遊牧専業化を発達 させ た こと, (2)牧草地の占拠 争いか ら, 武力の大小その他 を条件 と して, 遊牧
集団に大小強弱の差が生 じ, 同時に家畜 を含 めた全財産の私有制が成立 し, か くてそ こには, 集団の頭首
とその従属者 の別, 大集団 と小集団 との別が生 じた ことであ って, 著者 はそ こに至 る過程 を詳 しく論 じて
いる。 流通 を論 じた第 2章では, 交通機関 としての家畜 の ことや駅逓制度の こと, さ らに外部民族 との通
商関係や通貨の ことが, や は りそれ らを主 として必要 とした有勢者の状態 に着 目して述べ られてい る。
第 3 編 は社会構成 と社会慣行 の 2 章か ら成 り, と くに重要 なのは, 蒙古民族 のあいだに遊牧社会特有の
封建制度 が成立 した ことを論証 している第 1 葺である。 すなわち, 自然の状態や武力 ・ 支配力 などによ っ
て遊牧の限界 (縄張 り) が生 じ, 多 くの遊牧集団が形成せ られ, その縄張 りは固定化の傾 向を持 ち, それ
ぞれ領主 を戴 く領地 とな り, やがて チ ンギス ・ - - ンを最高 の権力者 とす る ピラ ミッ ド形 の社会構造が実
現 したと説 く。 これは生産や流通の発達 に照応す る発展であ って, このよ うな発展があ って初 めて強大 な
元朝が成立す ることができたとしている 以上のよ うな社会秩序 を明確に した もの として書 かれているの
。
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が第 2 章であ って, そ こでは, 蒙古大法典, 儀礼的慣行, 社会理念 が取上げ られて いる。
本論文 の結論をなすエ ピローグでは, 蒙古民族の掠奪 ・ 外征が生産力を補足 ない し発展 させ るための も
のであ った ことと併せて, 「遊・牧社会 に封建制度 な し」 とす る一般的通説 に対す る否定的批判を繰返 し,
元朝成立期 ごろの蒙古社会 は封建社会- の移行期であ った ことが力説せ られている。
論 文 審 査 の 結 果 の 要
旨
(1) 本論文 は, 時代 を元朝成立期 ごろに限 るとはいえ, 蒙古民族 の経済 ・ 社会 について総括的に書 かれ
た, 類例の極 めて少 ない論文 である すなわち, ウラジ ミルツオフ (ロシア入学者), 岩村忍, 安部健夫
。
ら諸氏 の論考以外 には, 断片的な研究 しか存 しない蒙古民族 の経済 ・ 社会 につ いて, その 自然的環境, 氏
族 の性状 などを背景 に置きなが ら, これを封建社会への移行期 として捉えた本論文 は, それ として重要 な
存在価値 を持 っている。
(
2
) 本論文 は, 文献資料 に忠実 に依拠 して書 かれている。 もともと固有の文字 を持 たなか った この時代
の蒙古民族の研究 は, 漢民族や西方の商人 たちによ って書かれた紀行類 その他 に拠 るはかな く, これ らの
文献 によ っで書かれた第 2 次資料 は, 日本人学者 によるもの, 西洋人学者 によるもの共 にす こ ぶ る 多 い
が, 本論文 の著者 は, これ らの文献 を博捜 し, 批判的に利用 して いる。 また第 1 次資料 ともい うべ き中国
文献をかな り広汎 に渉猟 して お り, その読解力 において も間然す るところがない。
(3) 研究方法 は歴史的接近方法 にきわめて忠実である。 すなわち, 特殊 な 自然的環境の もとにおけ る蒙
古民族 の生産 と生活 に絶えず着 目しつつ, その経済 の発展を社会組織の変化 に関わ らせ, もって, 同民族
が世界史的な大帝国を築 きえた基底 を明 らかに して いる。 と くに注 目すべ きは, 原始的経済形態であると
見 られがちな遊牧経済 を, 経済発展の一段階 として位置づげ, 採取経済の牧畜専業化 を全経済および社会
の発展の基底 に置 き, そ こに成立 した社会組織 を原始社会か ら封建社会への移行期 として, 発展の姿 にお
いて捉えた点であろ う
。
(4 )
もっとも, 本論文 には論証必ず しも十分 でない幾つかの点がある。 第 2 編第 2 章の中の商業や金融
に関す る叙述 がその例であるが, もっとも重要 なのは封建社会 に関す るそれである すなわち, 封建 的支
。
配者 に対す る被支配者の身分 関係 ・ 財産 関係 などが必ず しも明 らかに示 されて いない。 しか し, 算 1 次文
献 に拠 るべ き ものの存 しない状態の下 において は, これ は, ある程度, 止むをえない こ と で あ り, む し
ろ, 封建的社会関係の紐帯 とな るものが, 農耕民族の場合 とちが って, 家畜 であ り, その再生産 をめ ぐっ
て封建 関係が結 ばれて行 ったとす る点 に, 本論文 の独創性 を認めるべ きであろ う。
(5) 以上要す るに, 本論文 は, 上述 のよ うな, 多少の不十分 な点があるに もかかわ らず, 著者 に経済学
博士 の学位 を授与す るに値 いす るものと信 じる。
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