Title 南北戦争 - その史的条件( Abstract_要旨 )

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南北戦争 - その史的条件( Abstract_要旨 )
山本, 幹雄
Kyoto University (京都大学)
1965-09-28
http://hdl.handle.net/2433/211618
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
】
ー
6 雄 お士
幹
本
もと
学 位 の 種 類
文
学
学 位 記 番 号
論 文 博 第
学位授与 の 日付
昭 和 40 年 9 月 28 日
学位授与の要件
学 位 規 則 第 5 条 第 2 項 該 当
学位論文題目
南北戦 争- その史的条件
論 文 調 査 委員
教 授 前 川貞 次 郎
(主
的博
山
やま
氏)
17
号
査)
論
文
内
教 授 井 上 智 勇
容
の
要
教 授 管
泰 男
旨
本論文 は, 第一章 「展望」, 第二葦 「社会構成的分析」, 第三章 「政治史 的条件」 および第四章 「世論」
か らな る。 著者 はまず第一茸で, ア メ リカ史の画期 としての南北戦争 (内戦 ) の一般的位置づ けをお こな
い, ついでいままでのおびただ しい諸研究を史学史的に整理 し, そ こか ら二つの主流 と考え られ る学派を
とりだす。 すなわ ち, その一 つはマル クスをふ くめて の経済 的解釈で, 内戟 を, もっぱ ら資本制 と奴隷制
との制度的抗争 として とらえ, 内戦 の必然性 ・ 不可避性 を強調す る学派で あ り, 他の一つ は, 内戦の本質
を人為的に構成 された南北両地域の地域間闘争 と規定 し, その可避性 を強調す る, いわゆ る 「修正学派」
で ある。 著者 は前者が内戦の もつ地域間闘争 としての性格 を無視 し, 後者 が制度的分析 を回避 している点
を批判 し, 内戦 を制度的抗争 と地域間闘争 との二重の抗争 として とらえ るべ きこと, 制度的抗争が同時に
地域間闘争 に転化す る歴史過程の分析 を, 主要 テーマ とす ることを明確 にす る。
第二章 「社会構成的分析」 においては, まず19 世紀 中期 のアメ リカ北部 における資本主義 の成熟度につ
いて, 国勢調査報告 などの史料 に もとづ いて一般的展望 を こころみ, この時期の北部社会が資本制社会 と
しては末だ充分 に成熟 していなか った ことを指摘 す る。 ついで この時期 の基本階層 と考え る農民層 を分析
し, その実態をあ きらかに し, アメ リカの特性 の一つであ る公有地 の無償分与が, 農民層 に とって最 も重
要 な政治問題で あった とす る. さらに労働者 の実態を, 賃銀 ・ 労働条件 ・ イデオロギー と運動の諸点を通
じて検討 し, 労働者 にとって もまた公有地 の無償分与 の要求を中心 とす る 「国家改革運動」 を通 じて政治
問題- の関心が高 まった ことをあきらかにす る。
第三章 「政治史的条件」 において, 前章 との関連 において, 1840- 60 年 の政治過程, と くに土地問題 を
中心 とす る政党 の動向を追求す る。
すなわち,
公有地 の無償分与の理念 は, 1846年 の 「 ウイルモ ッ ト建
議」 で, 奴隷制大土地所有 の拡大阻止 とい う政治的 スローガ ンとして表明 され, 48 年 に結成 された 自由土
地党が これを綱 領 として とりあげ, 奴隷制大土地所有 を擁護す る既存の二大政党 (民主党 ・ ホイ ッグ党)
との抗争が激化す る。
「1850年 の妥協」, 54 年 の 「 カンサ ス ・ ネブラスカ法案」 は, 奴隷制の拡大を要求
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す るこの二 大政党 の反撃 を示す もので, これを契機 に北部 の農民 ・ 労働者 の要求 を結集 した共和党が形成
され るにいた る。 ついで1856年 の大統領選挙 における共和党 の敗北 を分析 し, 共和党が北部 の資本家階級
などを結集す ることに失敗 した結果で あること, 共和党が全 階級 をつつみ こむ地域 (北部 ) 政党 にな って
いなか った点 をあ きらかにす る。 しか し, 1857年 の不況 に対す る民主党政府 の不況対策が北部 の資本家階
級 を共和党 に参加 させ ることにな り, また同年 の 「 ドレ ッ ド・ ス コット判決」 が民主党 を南北二派 に分裂
させ る基礎 をつ くった とす る。 ついで 1860年 の大統領選挙戦 の分析 を通 じて, 共和党が北部 の全 階級 の利
益 をつつみ こむのに成功 したのに反 し, 民主党南 部派が奴隷制 の拡大を主張 し, その実現不可能な場合 に
は連邦か らの分離 を うた った綱領 をかかげ, ここに地鯵闘争 の形勢が あ きらか とな った とす るo しか し リ
ンカーン大統領 当選 の この時点 (60年 11月) で は, なお民主党北部派 の介在 によ って, 完全 な形での南北
間の闘争 は未成立で あ り, したが って武力行使 を ともな う内戦 の到来 は未定で あ った とと く。
算四章 「世論」 では, 1860年 11月か ら61年 4 月の南部軍 の武力行使 にいた る過程を, 新聞論調 にあ らわ
れた世論 の動向を通 じてあきらかにす る。 すなわち, 共和党が民主党北部派 との妥協 に失敗 し, 南部諸州
が分離を断行 して独立政府を樹立 し, ために孤立 した共和党 はついに武力強制を決意す る。 このため民主
党北部派 は分解 し, 南 部 の奴隷主層が先制攻撃 をお こない, ついに武力抗争 としての内戦が到来す るにい
た ったとす る。
要す るに本論文 は, 南北戦争 の本質が, 資本制 と奴隷制 との制度的抗争 と同時 に南部 と北部 との地域間
闘争であ った ことを, 1840年代以後 の歴 史過程を分析 す ることによ ってあ きらかに した もので ある。
論 文 審 査 の 結 異 の 要 旨
アメ リカの南北戦争 (内戦 ) の研究 は, 独立革命 の研究 とともに, ア メ リカ史 において も最 も研究業績
の多い分野 の一つで ある。 いわば 「混乱」 状態 にあるいままので諸研究 を, た くみに整理 した著者 は, 内
戦 の本質が資本制 と奴隷制 との制度的抗争であると同時 に, 南 部 と北部 との地域間闘争で もあ る と い う
二重抗争 の性格 にあ ることに注 目し, 両者 の綜合 的把握 を試 みよ うとす る。 この問題提起 は正 しい といえ
る。 さきに 「 ア メ リカ黒人奴隷制」 (昭和32年 ) を公刊 して南部奴隷制社会 の分析 をお こな った著者 は,
本論文において は, もっぱ ら北部資本制社会 の分析解明 と, 内戦 にいた る政治過程 を, 南 部 の動向を も考
慮 にいれつつ綜合 的に追求 しよ うと試 みてい るが, その試図はおおむね成功 してい る。 と くに第三章 ・ 第
四章 にみ られ るダイナ ミックな政治過程 の叙述 は, 内戦 にいた る経過 をい きい きと浮彫 りに し推賞すべ き
ものがある。
I
本論文 においてほ, 北部 におけ る奴隷解放運動 自体 の考察や, 南北両地域間の境界諸州 の動向の解明に
は, なお不充分 な点があるが, 論文全体 の論 旨を損 うほどの ものではない。
わが国において も, 南北戦争を対象 とす る研究論文 はす くな くはない。 しか し著者 のよ うに国勢調査報
告や当時 の新聞論評 などの根本史料 をは じめ数多 くの研究文献 を利用参照 し, 綜合的に内戦到来 の過程を
あ きらかに した実証 的研究 はほとん どな く, 学界 に寄与す るところ大であ ると考え る。
よって, 本論文 は文学博士 の学位論文 として価値 あ るもの と認め る。
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