谷 勝宏

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たに
かつ
]
ひろ
氏名・ (本籍 )
谷勝
博士 の 専 攻
分野 の 名 称
博士 (法
学位 記 番 号
博ろ第34号
学位授 与の要件
学位規則第 4 条第 2 項該 当
学位授 与の 自付
平成 8 年12月 18 日
学位 論 文 題 目
現代 日本の立法過程
宏
( 徳島県)
学)
−一党優位制議会の実証 研究 −
審査
委
貞
主査
教授
教授
論文
宮
澤 節
浦
内
生
部 法
容
穣
の 要
教授
久
米
郁
男
旨
日本 の国 会にお ける立法過程 の特 質 に関す る197 0年代 までの支配的理解 は,官僚 の支配 的影響力 と
国会外 にお ける実質 的決定 とに注 目す ることによって,立法過程 における国会 自体 の存 在意 義 の乏 し
さを強調するものであったといえよう。 しか し,1980年代に入ると, このような支配的理解 に対する
批判が現 れ るよ うにな った。その囁矢 となったの ほ, アメ リカの政治学者 マイク・ モチズキ による分
析で ある。モチ ズキによれば,手続 き問題 に関す る全会一致主義,短 い会期,委員会制度, 二院制等
の, 日本の国会が備えている構造的特徴のゆえに,野党はかなりの抵抗力を発揮することが可能であっ
て, その ことによ って,国会 自体が立 法 に対 す る相 当の決定力 を行使 しうる。 このよ うに野 党の抵抗
力ーVisc o sity すなわち粘着力 と呼ばれ る一に注 目す ることによ って従来 の理 解 を批 判 す る視点 は,
日本 の研究 者に よって も操 喝 され, 現在で はきわめて有力 な立場 とな っている。 この立場 によれ ば,
日本 の立法過程 は,官僚制 支配 を中心 とす るエ リー ト・ モデルで はな く,官僚制 の ほかに政 党,利益
集団,世論 等の多様 なア クターの影響力が交錯す る多元主義 モデルによ ちて, よ りよ く説明 しうると
され る。
著者 は,基本 的 に多元主 義モ デルを採用 しなが ら,従来 の研究 が抱 えている実証研究 と して の不十
分さを批判 す る。すなわ ち,従来の研究が,政府擁出法 案の成立率等 に関す る統計 的分 析 によ って立
法過程 の マクロな性 格付 けを行 うことを中心 と して きたのに対 して,個別 の政策 レベル における アク
ターの影響 力を具休的に検 討す るこ とによ って,多元主 義モデルの妥 当性 を ミクロな政 策論 レベルで
裏付 ける必要性を主張する。そのために著者は,本論文において,1970年代の保革伯仲期から1990年
代の政権 交代 にいたる約20年 間の 自民党一党優位制の下 にお ける実態 について,多 元主 義仮説 の検 証
に取 り組 む。文 書資料,質 問紙調査, その他 のデータを駆使 した分析 の基本 的結論 は, 議員 内閣制 の
下での一党優位という,一般的には議会の機能が極めて限定 されることが予想 される条件の下におい
ても,野党 の立 法行 動が有 権者 に対 す る政府・ 与党 との競合 関係 を作動 させ, 国会 にお ける議員立 法
や議員修正の実現によって,政党を主体 とする国会が実質的な政策形成のアリーナとして機能 しうる
というものである。この実証研究の提示が,本論文の主たる目的である。
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一9
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同時 に著 者 は, 日本 の立法過程 の将来 につ いて,規範的 な提言を も行 う。 それ は, 日本 の立法過程
が基本的には多元主義モデルで理解 しうるとしても,官僚主導型への囁向の危険性を伴 った政策決定
手続 の不透明性 は否定す ることがで きず,公 開の場 での討論 によって国民 の諸利害 が調整・ 統合 され
る議会制民主主義 を実現 す る法 システムが必要 だ と考 え るか らで ある。 そ こで著者 は,本論文 の随所
において,米英 の議 会 と比較 しなが ら, 国会 の制度・ 慣行 の特殊性 によって 日本 の国会 の審議・ 情報
公開機能が粗なわれている状況に対 して,議会制民主主義 という正統化装置によって国会が果たすべ
き社会的利害 の調整 と国 民合意の調達 とい う機 能を作動 させ るための制度改革・ 過程改革 に向 けた提
言を行 う。 この法政 策論 的 な主張が,本論文 の第二 の 目的 である。
以上の内容を持つ本論文は,序章のほか 9 葺か ら成 り,大 きく三つの部分に分けることができる。
第一部 は,主 に政 党の立 法行動の集計デ ータによって立法・ 予算過程の政治的動態 を解明す る第 1 章
から第 5 章である。第二部は,政策過程における政党,官僚軌 利益集団,参議院,国会スタッフな
どの多元 的諸 アクター・ 機関 の相互作用 と影 響力 に よって立法過程 の構造 と システムを分析す る第 6
牽か ら第 8 章 で ある。第三郡 は,一党優位制 か ら政権交代 への立法過程 の構造変化 の中で,議員立法
の政策的 内容 と政 党の纏出動機.決定・ 非決定要 因を明 らかに し,政党本位 の立法過程 への転換 を可
能とす る議員立 法を活用 した国会の制度・ 機 能の改革案 を考察す る第 9 章 である。以下,各章 の内容
を要 約す る。
序章「現代日本の立法過程の分析視角」は,議会のあり方に対する著者の規範的視点を提示す る。
菅者 は,立法・ 審議機能 による議会の類型を棟極議 会 と消極議会 に分類 し,議院 内閣制 と一党優位制
が合体 した 日本 の国会 が受動的 ア リーナ型 となる傾向を尭服 するために,行政 に対す る監視機能 と政
策代替案の実現 とを重視 した政党 の議会活動 を促進 し,選挙 と立法過程 の連環関係 を機能 させ る こと
によって,国民 の諸利害 が統合 され る政治 システムをめ ざした改革が必要 である と主張す る。
第1 章「国会 にお ける政 党の立法行動」 は,保革伯仲期以降の国会 におけ る重要対決法案 の導入 か
ら成立までの過程も 与野党間の様々な交渉や戦術の面か ら分析 し,マイク・ モチズキ らによって擁
示され た日本 の国会 に関 す る「vise osity 理論」 を実証的 デー タに基づ いて追試す る。その結果 ,「一
党優位 システムにおいても,優越政党が国会での圧倒的多数に支えられて常に政策を押 し切 ることが
できるとは限 ら」 ず,結果 的 に,与野党 の交渉・ 調整 によって実質的 な法案修正 がな され るな ど, 国
会の立法機能 は決 して脆 弱で はない とす る,国会機能論が実証 される。 しか し著者 は, こう した野党
の
「粘着性」 によ る国会 の機能性 は, その反面での副作用 と して,政策立案決定機 関 と しての委 員会
の機能 を形骸化 し, 国会対策委 旦会 をベースに した非公式機関での与野党間 の駆 引・ 調整 が国会の事
実上 の政策決定 の頓 にな ってい る実態 を も詳述 して いる。一
帯2 章「保革伯仲期 以降 にお ける国会運営」 は,国会対策中心 のいわゆ る国対政治型 の審議決 定方
式が「非妥協的政策 にお ける非 公開 の場 での受益配分を め ぐるバーゲニ ング」 と して形成 された構造
的要因 を,保革伯仲期 以降の 自民党 内閣 の融和的 な国会運営 と議会 内少数派 の野党 の抵抗戦 術 との相
互作用 に見 出す 。さ らに菅 者 は, この決定方式 の下 で立法の成果 が上 が ること(出力の実質化) に反
比例して.
,国会での国政調査・ 公聴・質疑・討論という審議機能が,趣旨説明聴取要求や審鮒 巨否に
よる時間引 き延 ば し脚争 によって, 質量 ともに低減・ 空洞化す る現象 を指摘 し, 個別委員会 レベ ルで
の委旦金運嘗 の裁量 権の実質的分権 化に よって審議・ 情報公開機能 を活性 化す る方策を検討す る。
第3 章「利益集団・ 社会階層の政党の政策形成・ 立法行動への影響」 は,政党の承策形成と立法行
動に対 して立法 の入力 ソースと しての支持利益集団 や社会階層が及 ぼす影響 を分析す る。 そのために
著者 は,各政党 の議 旦立法操出 と内閣提 出法菓への対応 とを集計 した政策 領域別の デー タか ら,各政
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党の政策優先順位の析出を行 う。その結果,政党の立法行動が支持基準の利益集団や社会階層の意向
を強 く反映する敏感性を持つ と同時に,支持政党なし層が拡大する有権者の支持獲得を立法活動のター
ゲッ トと して, 自民党 と野党 との間で競争 が展開 され,結果的 に,政党 が民意 吸収機能 を通 じて, 官
僚機構 に対 して政策決定上 の主導権 を確保す る ことが可合印こなったと主 張す る。
第4 章「政党の選挙公約の実効性」も,選挙公約の分析をとお して,政党の行動と支持集団・
・_
貫持
階層 との関係 を分析す る。菅者 は,政党 の選挙公約 の優先政策イ シュー,有権者 か らのマ ンデー トに
対する政党の公約の実行嵐 政党のアカウンタビリティに対する有権者の業績評価を分析 し,諸野党
間に,労組 の部分利益 に拘束 され る社会党,行政改革 で自民 の補完政党 とな る反 面,福祉政策 で野党
協力を形成する公明・民社党,反独 占資本主義の独 自性を示す共産党といった,政権戦略での分裂が
見られる ことを指摘 し, この分 裂を奇 貨 として与党 の自民党 が,公約 にお いて争 点を回避 し,利 益分
配政策 において高 い公約実行虔 を示 してい る実態 を解明す る▼
。 この知見 に基 づ いて著者 は,包括政 党
による短期的 な利益調整型政治 が抱 え る硬直 的な政策 システムに代えて.政 党が中長期的 な視点 か ら
選挙公約 を通 じて政策 ヴィジ ョンを提示 し,投票行動 を通 じて国民の多元的な要 求を集約 す るシステ
ムを採用す ることによ って,多元主義 的停滞 を蒐服 し,政策 の質的充実を図 ることを提案 す る。
第5 章「政府予算 の民主的統制 一国会の予算修正機能」 は,政府予算 に対 す る国会 の財政議 決権 を
民主的統制の観点からとらえ,予算が国会における蕃謙・諌決プロセスにおいてどのような修正・ 変
更を受仇 最終的に決定されるかを分析する。分析の基礎データは野党の共同修正要求案である。こ
れによ って著者 は,政党 の協 力類型 と修正 の形式,歳 入歳 出総額 の増減,修正要求 の政策 的選好,修
正項 目の実現率,与野党 のバーゲニ ング過程等 の多角的な分析 を行 い,結論 と して,国 会の予算決定
過程 が,予算修正権 の限界 とい う制度的問題点 を政 治 レベルで実質的 に棚上 げ して お り,社 会的弱者
や生活者 の選好 を反映す る野党 のイ ニシアテ ィブに よって,政府 の漸変主義 による予算編成 に対 抗 し
て,再配分的政策 におけ る一定 の政 策変換機能 を持 つ ことを示す。す なわ ち,立法過程 にお けると同
様に,予算過程 において も多元主義 モデルが妥 当す ると主張す る。
以上,第一部 を構成す る 5 章 によって, 日本 の立法過程 の基本的 な多元主義的特徴 が確認 され る。
続く第 6 章「政策過程における官僚制・政倉・利益集団の関係」は,分析の対象を国会の前段階に
拡大 し,政府審議会, 自民党政調 会等 にお ける政策立 案・ 決定 について,官僚制,政党,利 益集団等
の影響力関係 を検証 す る。著者 は,政府の審 議会 にお ける官僚 の優位制 が際立つ ものの,第 二次臨調
以降,審議会 への民 間労組 の参 加が促進 され ることによって, コーポ ラテ ィズム的状況 の下で,国会
前段階 で労組頂上 団体 と省庁・ 経済界 との合 意が形成 されてい ることと, 自民党政務調 査会 における
族議員 を中心 とす る多元 的利 益 の媒介・ 調整 機能が 自民党の行政・ 国会運営 におけ るイ ニ シアテ ィブ
を増大 させてい ることとを指摘 し,国会提出の事前段階 に政策決定 の実質的機能 が移 行 して いる事実
を明 らかにす る。他方, 菅者 は,低成長下での財政的制約の中で,支持利益集団への受益の配分を巡 っ
て展 開 されて きた国会にお ける与野党間の競争関係が, 1989年の参議院選挙 での与 野党逆転 以降 ,対
立か ら協 調的ス タ ンスへの転換 が一層加速化す る ことにな り,与党が予測 的対 応を取 ることによって,
野党 の影 響力が黙 示的 に行使 され るよ うにな った ことを論述す る。 これ らの知見か ら著者 は,政 策過
程の諸 段階 にお いて多元 的 なア クターの影響力 が存在す るために,立法過程 の中心が政党 によ る代表
制シス テムか ら拡 散 され,統治 の実態 が権力集 中型 か ら権力分散型 に変容 したと主張す る。
第7 章 「政策作 成活動 における参議院 の機能」 は,国会 の二院制の下での参議院 の独 自性 を志 向す
る政党 の立法行動 と制度 が,政党政治 の支配力 が強 い日本の立法過程での政 党( と くに野党 )の影響
力を可能 にする要因になっていることを指摘する。著者は,政策定式化における議員立法での独創性
−1 1 −
や内閣纏出法案申先議権の主張,審議過程における内容面での法案修正,政府提出法実に対する衆議
院と異なる議決対応や廃案への意思表示等,参議院の院内政党の持っ衆議院に対す る独 自性が,政策
決定 におけ る参集院 の再考作 用を可能 と して いると述 べ る一方, こうした自律性 を行政 に対 す る参議
院によ る監視機能 や政策提言等 の国会の政策立案能力 の向上 に結 び付 けることの重要性 を指摘 す る。
第8 章「立 法調 査 ス タ ッフの政策 形 成へ の影響 」 は, 国 会機 能論 を, 政党 構 成の 変化 や制 度的
v isc osity とい った政党 間の影 響力で捉え る視点 に加 えて,国会 の立 法調査 ス タ ッフに よ る立 法 調査
補佐機能 とい う組織 的 リソースの面 か ら検証 す る。菅者 は,調査方法 と して委員会調査室 ス タッフに
対す る郵送調査法 と ヒア リングを用い,調査 室ス タッフが野党 を通 じて政策形成 に関与す る機会 が相
対的 に多 い ことを明 らかに して, 1970年代以 降の保革伯仲が,野党の政策立 案への関与 を通 じて調査
室の影響力 を増大 させた と述 べ る。 さらに80年代 に は,調査室へ の需要 の増大 に対応 して各省庁 との
人的交流 や情報 ネ ッ トワー クを強化 し,調査 スキルの向上 を図 る ことによって,従来 の政府追及 のた
めの問題点持株型 か ら,政策 の詳細 な数値 を活用 した分析梶菓型の手法 を導 入す るよ うに変化 した こ
とを指摘 し,国会 の立法機能 の実効 化に調査補佐 ス タッフが一定の役割 を果 た した ことを主張す る。
他方,著者 は,調査室 ス タ ッフに内在 す る政策操実 における自制的消極 主義 を, 党派的任用 の導入 に
よって横極主義 に転換 させ ることを検討す る。
、
以上の3 華氏 立法過程の多元主義的理解においても十分に検討されてきたとは言い難い政策形成
段階 やアク ターを取 り上 げ ることによ って,多元主義的理解 の実証的基 盤を拡大 した ものとい うこと
がで き る。
最後 の第 9 章「議長立法 のア ジェンダ・ セ ッテ ィング機能 一一 党優位制 か ら政権 交代へ」 は,議員
立法 に注 目 しつ つ,序説 に対応 す る規範 的主張 を展開す る。すなわ ち,過去 20年 間の議 旦立法 の,政
策形成へ の影響力 を, 自民党一党優位期 と政権交代期 の 2 つの時期 区分 において分 析す ると ともに,
政権交代 と連動 す る選挙制度 の下 での国 会の立法・ 統合機能 の強化策を提言 す る。議員立法 の分析 に
おいて著者 は, セオ ドア・ ロウィの政策類型 を援用 し,政府立法の補完的役割に止 どまるとされてき
た議員立法 が,世論 や利益集団 の多元的 な利害 を反映す ることに よって政党 の利益 集約・ 表出機能の
重要 な政策手段 であ ることを指摘 す るとともに,保護的規制政策や再分配 的政策 を中心 に野党 の議員
立法 が,公衆 レベルで発生 した政策 イ シューを公共政策 の議題 に設定す る外部発生 型の ア ジェンダ ・
セッテ ィング機能 を有 し,少数者 の権利 を創造す る機能 を持つ とす る仮説 を検証 し,政 権交代 による
野党 の政権 への参加 が,議員立 法を政府 の公共政策 の公式 ア ジェ ンダの中 に取 り入れて い く作用 を持
つことを主張 す る。また著者 は, 議員立 法によ る政党 の政策表明が,小選挙 区制 を中心 とす る新 しい
選挙 システ ムの下 で,有権者 の政 権選択 を通 じて,国民 の利害を国会が調整・ 統 合す る作用 を機能 さ
せる点 を指摘 し,観 点立 法を中心 とす る立法 過程 への転換 とその ための国会の審議 ルール・ 政策決定
過程 の改革案 と して,議員立 法発議要件 の緩和,議員立法の審査曜日の設定,行政の執行過穫の監視 ・
評価機能 の強化,政策秘書 を コーディネー ター とす る政党 スタ ッフ・ 国会立 法 スタ ッフ・ 関連利害団
体等 の間 の政策 ネ ッ トワー クの構築等を梶奏 す る。
論文 春
圭
結果
の 要
旨
本論文 の意義 は, 何 よりも, 日本の立 法過 程に関 す る多元主義的理解 につ いて, その分析 の精度を
格段 に高 めた緻密な実証 的研 究 を提示 したことにあ る。著者 自身, 5 年間 はど参議院事務 局 に勤務 し
て,立法 過程を内部 か ら知 りうる立場 にあったが,本 論文の元 にな った詩論文 は, すべて高専教官 と
ー1 2 −
なってか らの数年 間 に立 て続 けに発表 され た もので あって, 著者 の研究意欲・ 能 力 と生 産性 は賞賛 に
値す る。 日本人 に よる立 法過程の実証研究 と して,疑 いな く最高水準 の業績 であ る。本論文 は,また,
具体的 な政策領域 や立法 を め ぐる諸 アクター間 の影響力 の レベルにおいて分析 を行 うことによ って,
法社会学 としての立 法過程 研究について もー つの モデルを提供 した もの と評価す る ことがで きる。政
治学者が法現象 を研 究す ることが乏 しい 日本 の状況においては,本論文 のバ イオモア的意義 も強調す
べきで あ る 。
もちろん,本論文 に問題 がないわ けで はない。た とえば,国会審議 における野党 の粘着性 を もた ら
した要因 として国会 内の諸制度 と一党優 位制 の両者 が上 げ られ るが, これ らの独立変数相互 間の関係
は明 らか ではない。また,実証研究 の知 見か ら著者 の規範的主張 が当然 に導 出され るとは言 い難 いで
あろ う。小選挙 区制 の導入 によ って政党 間の争 いが異 な る公 約をめ ぐる もの となるかの ような期待 に
対して も, む しろ政党間 の共通性 が高 ま るので はないか とい う予測 も成 り立 ち うる。さ らに, よ り根
本的 には,著者 が立 法過程 を「多元性」 とい う概念 で特徴 づけ ること自体 に も批判 があ りうる。著者
が取 り上 げる具体的事例 の中には, た しかに野党 に しかア クセスがない労働団体,消費者 団体等 の影
響力が認識 しうる場合 も含 まれ るが,著者 の用語 法によれば,従来「鉄 の三角形」 と呼 ばれて きたよ
うに官僚制・ 与党以外 に業界 団体間 の競争 があ るに過 ぎない場合 や,極端 な場合 には官僚制 以外 に与
党が登場す るにす ぎない事例 で も,「多元 的」立法過程 の例証 とされ る可能性 が あ る と思 われ るか ら
であ る。 そ して何 よ りも,立法過程 の多 元主義 的理論 に対 して本論文 がいか なる修正 や拡 張を施す こ
とになるのか とい う点 について,著者 自身によ る結論 が書 かれ るべ きであ った ことは明 白であ る。 こ
の点 での著者 の謙抑性 は惜 しまれ る。
しかこ
し
これ らの疑問 は,著者 が今後 の論稿 において答 え るべ きものであ って,実証研究 と して の
本論 文の圧倒的 な意義 を否定 する ものではない。我 々審査委貞 は,本論文 の著者,谷
( 法学 )の学位 を授与 され るに十分 な資格 を有 す るもの と判定す る。
−1 3 −
勝宏 氏が博士