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自由論題8「東・東南アジアの農村」
報告2
坂田正三(アジア経済研究所)
「ベトナム農村工業化の系譜」
本報告は現在のベトナム農村、特に北部地域における農村工業の集積の形成過程とその
要因を明らかにすることを目的としている。17世紀のヨーロッパや江戸・明治期の日本で
は本格的な近代工業化が起こる以前に、農業に比較劣位を持つ農村地域で土地に対する人
口圧力が高まった結果、在来産業の発展が起きたとされる。一方、東南アジアでは、1960
年代に始まる「緑の革命」以降、農業の機械化と資本集約的な農法の導入により、土地に
対する労働投入量の増加をともなわない収穫増加が起こり、その結果、農民階層分化労働
力の余剰が起こり、それが農村工業発展の源泉となった。
一方、ベトナムでは、1986年に開始された「ドイモイ」と呼ばれる経済自由化以降に、
農村工業の発展が起こっている。それは、農業生産・流通の自由化により化学肥料や農業
機械への投資が増加し、他の東南アジア諸国と同様、土地に対する労働投入が減少し、余
剰労働力が農村工業に向かったことが最も大きな要因のひとつである。
しかし、なぜその余剰労働力が年の近代セクターに向かわず、農村のインフォーマルセ
クターに向かったかという問題については、これまで、近代工業部門の過小な雇用吸収力
という点から説明する議論のみであった。一方、本報告は、計画経済体制の終焉とその後
の政府による政策、農村外の経済・社会環境の急速な変化という観点からの説明を試みる。
具体的には、合作社(協同組合)や国営企業解体による資源の移転、規制色の強かった民
間企業設立、常住戸籍制度による国民の管理などの政策、経済自由化による消費市場の多
様化、貿易自由化などの多様な要因が農村工業化に寄与してきた。本報告では、マクロデ
ータと報告者によるフィールド調査の結果から、その様相を見ていく。