腸間膜静脈硬化症(151110)

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腸間膜静脈硬化症(151110)
製薬会社の MR から情報提供があった。使用している漢方薬もあるので、注意していこうと思う。
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腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis:MP)は、大腸壁内から腸間膜の静脈に石灰
化が生じ、静脈還流の障害によって、腸管の慢性虚血性変化をきたす疾患であり、静脈硬
化性大腸炎(phlebosclerotic colils)とも呼ばれる。2)
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基本的な病態として腸間膜静脈の石灰化に伴う慢性腸管循環不全による虚血と考えられて
いる。1)
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MP 症例の 9 割近い症例が漢方薬の内服歴があり、なかでも生薬である山梔子を含有する
漢方薬を長期間内服している症例が多く存在する。このことから、MP と漢方薬は強い関連が
考えられる。1)
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漢方薬服用歴の有る患者は 147 例(87.0%)、そのうちサンシシ含有漢方薬の服用患者は 119
例(81.0%) 2) →感度は 8~9 割なので、かなり高い。
(参考文献 2 より引用)
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サンシシ中のゲニポシドが大腸の腸内細菌によって加水分解され、生成されたゲニピンが大
腸から吸収されて腸間膜静脈を通って肝臓に到達する間に、アミノ酸やたんぱく質と反応し、
青色色素を形成するとともに、腸間膜静脈壁の線維性肥厚・石灰化を引き起こし、血流を鬱
滞させ、腸管壁の浮腫、線維化、石灰化、腸管狭窄を起こすと考えられている。2)
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漢方薬の服用歴のない症例もあり、その他の要因として、環境要因や遺伝的要因、合併疾
患との関係性や免疫異常の関与など、様々な考察がなされているが現在のところ漢方薬(サ
ンシシ)以外に関連性が強く示唆される報告はない。2)
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主に腹痛(右側)、下痢、悪心・嘔吐が認められるが、無症状(便潜血陽性を含む)の症例もあ
る。また、症状の重いものではイレウスを呈する場合もある。2)
(参考文献 2 より引用)
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静脈硬化性大腸炎の症状は主に腹痛、下痢、嘔気・嘔吐などのイレウス症状であるが、無症
状のこともある。主に回盲部から横行結腸までが侵され、CT や X 線で右側結腸領域に多数
の線状・網目状の石灰化が見られることが特徴である。大腸内視鏡では、粘膜面は暗紫色、
暗黒色などの特徴的な色調を呈し、腸管浮腫によりハウストラの腫大や不明瞭化を認める。
さらにびらんや潰瘍を合併したり、腸管の狭窄や狭小化を伴う場合がある。3)
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X 線所見における腸管周囲の石灰化や腸管壁の肥厚、内視鏡所見における特徴的な色調
変化と壁の肥厚は特異的な所見と考えられる。これらの所見が右側結腸を中心に認めること
も特徴的である。1)
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右側結腸を中心とした粘膜の色調変化(暗紫色、青銅色など) 2)
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(参考文献 1 より引用)
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単純 X 線/CT:右側結腸を中心とした大腸壁あるいは腸間膜静脈に沿った線状、点状の石
灰化 2)
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CT 所見:大腸壁あるいは腸間膜静脈に沿った線状、点状の石灰化(91.2%) 2) →感度が高
い。
(参考文献 1 より引用)
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臨床的には特徴的な内視鏡所見と生検所見、あるいは内視鏡所見と CT による腸管壁や腸
間膜静脈の石灰化が確認できた場合に本症と診断されるのが通例である。2)
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治療法は確立していないが、原因物質と考えられている漢方薬を内服している MP 症例に関
しては、漢方薬の休薬が有効である。しかし、MP 症例のなかには、漢方薬休薬による保存
的加療で、症状の改善しない症例が存在する。これらの症例が手術の適応となる。1)
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確定診断がついた場合には漢方薬の投与を中止:薬剤投与中止後、経過観察あるいは薬物
治療(抗凝固薬等)。但し、イレウスや繰り返す重度の腹痛を呈する場合は腸管切除の考慮も
必要。2)
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概して予後良好で、自覚症状は改善するが、線維化・石灰化等の回復には長期間が必要。
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また、手術例においては漢方薬中止により、経過は順調に推移。2)
原因不明の慢性腹痛で漢方薬を長期間使用している場合には想起してもいいと思う。でも、CT
のある施設だったら CT は撮ってしまうような気がするので、それほど診断で困ることは無いのか
もしれない。かなり特徴的だし。
もちろん重症度によると思うが、CT が無い施設であれば、まずは不必要な漢方は中止するがい
いと思う。漢方薬であっても、必要が無ければ漫然と服用を続けるべきではない。
参考文献
1.
大津健聖, 松井敏幸, 岩下明徳.腸間膜静脈硬化症.G.I.Research 23(2): 156-162, 2015.
2.
松井敏幸, 清水誠治.漢方薬による腸問膜静脈硬化症.ツムラ/日本漢方生薬製剤協会パン
フレット
3.
田村謙太郎, 陣崎雅.Case1 [救急画像編] 慢性的な腹痛です. 原因を発見してください.レジ
デントノート 15(13): 2369-2370, 2013.
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