Pictet Market Monthly

ご参考資料
ピクテ・マーケット・マンスリー 2016年4月発行
新興国株式市場 注目のトピックス集
Pictet Market Monthly
新興国、注目のトピックス集
3月の新興国株式市場は、原油・商品価格の上昇やドル高基調の一服感に加え、ユーロ圏の追加金融緩和策の発
表や米国の利上げペースの後退などが追い風となり、先進国株式を大きく上回って上昇しました。
注目のトピックス
3月の新興国株式市場
新興国株式市場は月初、2月末に中国が預金準備率の引
き下げを発表したことや、米国の2月の非農業部門雇用者
数が市場予想を上回って増加したことなどを受けて世界
的な株高となる中、上昇しました。また、中国の全国人民
代表大会においてインフラ投資計画の拡大など景気のて
こ入れに前向きな姿勢が示されたことや、米ドル高基調の
一服感、産油国における生産調整期待などを背景に原油
や商品価格が上昇したことも追い風となりました。さらに、
欧州中央銀行(ECB)による追加金融緩和の発表や米連
邦公開市場委員会(FOMC)で利上げペースの後退が示
唆され、中旬にかけても上昇基調が続きました。その後、
ベルギーのテロ事件や原油・商品価格の反落などからマ
イナスの影響を受ける局面もありましたが、月末にかけて
米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が追加利
上げに慎重な姿勢を示したことなどを受けてさらに上昇し、
月間でも先進国株式を大きく上回る上昇率となりました。
地域
中国
アジア
トピックス
ページ
預金準備率引下げ、人民元に
ショックを与えず
2
資源価格上昇に一役買った全
人代の注目点
3
2極化する中国不動産市場
4
人民元、落ち着きは見られる
が
5
2極化する中国不動産市場で
起きていたこと
6
インドネシ インドネシア、政策金利は為
替次第か
ア
今後の見通し
長期的には、新興国経済は、若い労働人口が豊富である
ことなどを背景に、中間所得層の持続的な拡大や構造変
化に後押しされ、先進国を凌ぐ成長力を有しているとの見
方には変更ありません。
しかし、今後も当面は米国の金融政策や中国の経済・政
策動向、原油価格動向などに市場の注目が集まることが
予想されます。市場の先行き不透明感はリスク回避の姿
勢を強め、新興国株式市場にマイナスの影響を及ぼすた
め当面注意が必要と考えます。中国経済の先行きについ
ては景気刺激策の効果により大きな下振れは回避され、
安定化に向かうと予想されます。中国経済の先行き見通
しに対する過度な懸念が後退していけば、新興国株式市
場全体にとってプラスの効果をもたらすと考えます。ここ最
近の新興国株式市場の反発は、米ドル安や相当程度冷え
込んでいた投資家心理が改善し買い戻しの動きがみられ
たことなどが背景にあると考えられます。今後も持続的な
上昇基調を辿っていくためには、新興国の企業業績の本
格的な回復が待たれます。直近では世界的にみると製造
業の回復を示唆する経済指標の発表など明るい材料もあ
り、今後も企業業績動向には注目してく必要があると考え
ます。
ピクテ投信投資顧問株式会社
国
台湾
南米
ブラジル
7
金融緩和が期待される台湾の
状況
8
ブラジルGDP事情
9
ブラジル、弾劾裁判の可能性
高まる
10
ブラジル大統領弾劾裁判への
道のり
11
新興国株式の様々なバリュエーション(投資価値評価)を
みると、特に株価純資産倍率(PBR)などの資産ベースの
バリュエーション中心に過去平均や先進国よりも割安な水
準が続いています。特に、ここ最近、業績が低迷し、低バ
リュエーションとなっている銘柄のうち、今後の景気回復で
業績が回復すると見込まれる銘柄については投資家の注
目を集める可能性があると考えます。
(将来の市場環境の変動等により、コメントの内容が変更され
る場合があります。)
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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新興国株式市場 注目のトピックス集
預金準備率引下げ、人民元に
ショックを与えず
上海G20が終わり、3月5日から全国人民代表大会(全
人代、日本の国会に相当)が開幕するこの時期に中国
人民銀行(人民銀)は預金準備率を引き下げ流動性を
供給しましたが、人民元安などは確認されていない状
況です。
中国人民銀:2016年初めて預金準備率を引
き下げ、景気下支え策を強化の方向か
中国人民銀行(人民銀)は2016年2月29日、声明で預金準備
率(3月1日適用)の0.5%引き下げを公表、大手銀行の準備率
は17%となります(図表1参照)。
人民銀の周小川総裁は上海で開催された20ヵ国・地域
(G20)財務相・中央銀行総裁会議開幕前に、必要ならば追
加行動が可能と金融緩和の可能性を示唆していました。また、
楼継偉財政相は経済の構造改革を支えるため、財政赤字を
拡大させるとも述べています。
どこに注目すべきか:
預金準備率、供給サイド改革、全人代
図表1:中国の預金準備率と人民元(対ドル)の推移
(日次、期間:2011年3月1日~2016年3月1日(日本時間13時))
22
%
21
20
19
18
17
16
11年3月
預金準備率(左軸)
人民元(対ドル、右軸)
人民元/ドル
6.6
6.4
6.2
安 人民元 高
上海G20が終わり、3月5日の全国人民代表大会(全人代、
日本の国会に相当)開幕前に、人民銀は預金準備率を引き
下げ流動性を供給しました。注目点は次の通りです。
まず、テクニカルな問題として、市場への資金供給方法を期
限がきたら元に戻るオペでなく、今回は恒久的な資金供給
拡大となる預金準備率への変更と見ています(参考:今日の
ヘッドライン2016年1月25日号)。人民元建預金残高と引下
げ率から7,000億元程度の資金供給増と見込まれます。一
方、3月期限のオペは(報道では)1兆元を超える程度が見
込まれ、恒久的な流動性への置き換えが見込まれます。
次に、タイミングの問題です。1月の流動性供給で公開オペ
を選択した理由は金融緩和が人民元安を引き起こす懸念が
あったからでしたが、今回、人民銀が不十分ながら事前のア
ナウンスをしたことや、足元の市場環境の落ち着きなどを受
け変動が抑えられた可能性も考えられます。例えば2016年
年初には製造業購買担当者景気指数(PMI)の低下が中国
の株安、人民元安の引き金となりましたが、3月1日に公表さ
れた2月の財新PMIは48.0と前の月から0.4低下しましたが
(図表2参照)、市場への影響は小幅に止まりました。
最後に、今後の注目点ですが、中国は年内あと3回の預金
準備率引下げと2回の利下げもありえると見ています。ただ
し回数だけに目を向けるより、金融緩和により供給される流
動性が株式市場や人民元にプラスとなるかに関心を払うこと
が大切です。例えば中国の構造問題である過剰債務の解消
はプラス要因ですが、その温床となっているのは地方政府の
債務で、その解消には債務交換が必要で、実施には国債発
行も想定されるため流動性の供与が役に立つ場面が想定さ
れます。また、中国は鉄鋼や石炭セクターなどで顕著な過剰
設備の削減を進める必要がありますが、単に削減を唱えるだ
けでは難しく、地下鉄や水道など遅れているインフラ整備など
を組み合わせ、バランスを取る必要があると思われます。
中国で長年回避されてきた供給サイドの改革(過剰設備の削
減や、それらを放置していた国有企業の改革)に着手する動
きが年初から見られます。5日からの全人代ではどこまで具体
的に食い込めるかに注目しており、今回の金融緩和も構造改
革の一連の流れの中で捉えるべきと見ています。
6.0
13年3月
15年3月
図表2:中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の推移
(月次、期間:2013年3月~2016年2月)
52
指数
51
50
49
48
47
13年3月
政府PMI
財新PMI
2016年年初
PMIは前月 今回も前月
比0.4低下 比0.4の低下
14年3月
15年3月
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
※コメントは2016年3月1日時点
ピクテ投信投資顧問株式会社
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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新興国株式市場 注目のトピックス集
資源価格上昇に一役買った
全人代の注目点
全人代の公表内容を受け資源価格が上昇した背景は
中国の財政政策、インフラ投資拡大への期待の表れと
見られますが、単なる期待で終わらないよう、実行性が
問われる展開が想定されます。
中国全人代:経済目標達成に向け財政政策
拡大を示唆、構造改革は二の次
中国の全国人民代表大会(全人代、2016 年3 月5日~16日
の予定:日本の国会に相当)第4回会議で、李克強首相は初
日に政府活動報告を行い、第13次5ヵ年計画(2016年~2020
年)の発展理念と財政政策などの数値目標について言及し
ました。例えば、財政赤字はGDP(国内総生産)比3.0%と2015
年の赤字2.3%を上回りました。鉄鋼消費国である中国で政策
担当者が景気てこ入れに前向きな姿勢を示唆したことで3月
7日の市場では鉄鉱石価格など資源価格や主な資源関連国
の通貨が大幅に上昇しました。
どこに注目すべきか:
全人代、供給サイド改革、インフラ投資
全人代の公表内容を受け資源価格が上昇した背景は中国
の財政政策、インフラ投資拡大への期待の表れと見られま
すが、単なる期待で終わらないよう、今後は実行性が問わ
れる展開が想定されます。
全人代の公表内容で注目点された点は以下の通りです。
1つ目は実質GDP成長率目標が前年比+6.5%~+7%と前年の
同+7.0%から(目標を範囲にすることで)引き下げたことです
(図表1参照)。その背景は李首相が「長年の矛盾が経済の
下押し圧力」と述べたように過剰生産、(住宅の)過剰在庫な
ど構造問題が手付かずであることです。成長目標を範囲とし
たのも、構造問題に着手した場合の成長率への影響に幅を
持たせたためとも考えられます。
2つ目は構造問題解決に向け利益無く生きながらえている
「ゾンビ企業」の整理、淘汰を目指す供給サイド改革です。
報道では180万人が余剰人員といわれる鉄鋼、石炭などの
セクターが対象となる模様です。供給サイドの改革の必要性
は、中国当局が本格化させることを年初から示唆していまし
たが、今回は想定される失業対策に500億元(約8,750億円、
2016年、失業基金の規模1,000億元)を財務省の予算案で
計上するなど具体化が進んだ印象です。
3つ目は財政政策の拡大です。2016年のGDPに対する財政
赤字の比率を3%へ拡大することで、構造改革に伴う痛みへの
手当て(失業対策)や法人減税が見込まれています。また、経
済の失速や構造改革の痛みを減らすために、財政支出など
を通じてインフラ投資の方針が示されています。例えば、報道
では、交通網の整備として5ヵ年計画中の鉄道への投資総額
は3兆8,000億元程度と見込まれています。年平均で7,600億
元程度と高水準の投資が見込まれています。中には北京と
香港を結ぶ高速鉄道の新設が草案に盛り込まれている模様
です。また、道路建設にも投資計画が盛り込まれるなど、全
人代を受けた資源価格の上昇はインフラ投資の拡大による
鉄などへの需要の回復期待が大きかったものと見られます。
ただし、5ヵ年計画(2016年~2020年)草案の中には中国と台
湾を結ぶ鉄道の構想も盛り込まれるなど、実現性に疑問のあ
る内容も一部ながら見られます。今後、期待から実行性へと
市場の中国の政策を見る目が厳しくなることが想定される中、
市場の期待が失望に変わるリスクにも注意が必要です。
中国の2月の貿易統計は市場予想を大幅に下回るなど、中国
の経済環境は厳しい状況で、「景気を最優先」した内容である
今回の全人代に市場の期待は高いものの、2012年11月の習
近平政権誕生以来推し進めてきた政策で地方政府などは新
規投資に対し萎縮も見られるだけに、スムースな政策転換の
可否が今後の注目点と見られます。
図表1:中国政府活動報告等、全人代の主な内容
項目
2016年成長目標
政策の内容、目標数値
実質経済成長率6.5~7%、都市部新規就業者増
16年~20年5ヵ年計画 年平均6.5%以上の中高速成長
供給サイド改革
ゾンビ企業の淘汰、国有企業改革
財政政策
財政赤字対GDP比率を2.3%から3%に拡大
減税等
法人税減税、企業の政府基金への負担軽減
インフラ投資
高速鉄道、交通網整備(年2兆元程度)
金融政策
通貨供給量(M2)を12%から13%へ
出所:各種報道等を基にピクテ投信投資顧問作成
※コメントは2016年3月8日時点
ピクテ投信投資顧問株式会社
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新興国株式市場 注目のトピックス集
2極化する中国不動産市場
中国の不動産価格は主要都市で大幅に上昇していま
すが、回復は一部の地域に偏っており、大都市と地方
都市で2極化しているといえます。中国政府がどのよう
にバランスよく不動産市場を回復させるのかが注目され
ます。
中国の大都市で住宅価格が大幅上昇、政府
は沈静化に向けた措置を検討
中国の住宅価格は、2014年後半から2015年前半にかけて低
迷した後、回復傾向にあります。全国70都市の新築住宅用
建物の価格変化を見ると、2015年前半を底に前年比で価格
が上昇している都市が増えていることがわかります(図表1参
照)。4大都市(北京、上海、広州、深セン)などの主要都市に
ついては、2016年1月の新築住宅価格が深センでは前年比
+51.9%上昇、上海では同+17.5%上昇となるなど、高い伸びを
示しており、一部の都市で住宅市場が加熱している可能性
が懸念されはじめています(図表2参照)。
陳政高・住宅都市農村建設相は「われわれは『Tier1』市(主
要都市)の住宅価格の変動に特に注目しており、これらの当
局と緊密に連絡を取っている」と発言し、中小規模の住宅供
給を増やし、違法な取引を取り締まっていくとしています。
宅価格の回復は大都市など一部の地域に偏っており、中国
政府は住宅バブルは抑えつつ、地方の住宅市場の活性化を
模索する展開が想定されます。実際に直近に発表された住
宅市場の規制緩和は大都市を除いたものとなっています。
2016年2月2日に、中国人民銀行と中国銀行業監督管理委員
会は、北京、上海、広州、深セン、三亜を除く大半の都市を対
象に住宅ローンの頭金比率を1軒目の場合は25%から20%へ、
2軒目の場合は40%から30%へ、それぞれ引き下げました。
大都市と地方都市で不動産市場が2極化する中、中国政府が
どのようにバランスよく不動産市場を回復させるのかが注目
されます。
図表1:中国・主要70都市の新築住宅価格が
上昇した都市数の推移
(前年同月比、月次、期間:2013年1月~2016年1月)
都市
70
50
どこに注目すべきか:
2極化、地方都市への拡大
30
10
-10
13年1月
14年1月
15年1月
16年1月
図表2:中国・主要70都市の新築住宅価格騰落率
(前年同月比、2016年1月現在、騰落率、上位/下位5都市)
60 %51.9
40
17.5
20
10.3 10.2
9.9
0
-4.9
湛江
-4
蚌埠
襄陽
丹東
-3.6 -3.8 -3.8
銀川
広州
南京
北京
上海
-20
深セン
ここまで4大都市をはじめとする大都市で不動産価格が上昇
した背景には、株式市場の資金が規制緩和が期待される不
動産投資に向かったことがあります。2015年6月以降、株式
市場が下落する一方、金融緩和が実施されており、不動産
市場に資金が向かったと考えられます。
次に当局による規制緩和も不動産価格を押し上げる要因と
なっています。中国政府は利下げや住宅ローンの頭金に関
する規制の緩和、住宅取得税などの軽減を実施するなど、
不動産セクターへの締め付けを緩めています。
また深センについては、経済特区であることの効果もあった
とみられます。深センについては、土地、住宅ともに供給不
足である一方、同市に集積するテクノロジー企業の幹部な
どからの旺盛な需要があることから、不動産価格が大幅に
押し上げられたと言えます。
このような中、今後の注目は住宅市場の回復が大都市から
地方都市へと拡大していくかという点です。現時点では、住
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
※コメントは2016年3月10日時点
ピクテ投信投資顧問株式会社
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新興国株式市場 注目のトピックス集
人民元、落ち着きは見られるが
人民銀の周総裁の発言は、金融緩和を続ける中国が
景気支援のために通貨安政策を取りづらい背景は外
貨建て債務の水準が高いこと、そしてその解消は道半
ばであることを示唆したとも見られます。
中国人民銀総裁:北京のフォーラムで、周小
川総裁は中国企業の債務拡大に警鐘
中国人民銀行(人民銀)の周小川総裁は2016年3月20日、北
京で開催されたフォーラムで、中国企業の借り入れ対GDP
(国内総生産)比率が高過ぎると指摘、中国はより安定した
資本市場を発展させる必要があるとの認識を明らかにしまし
た。周総裁は中国企業の債務水準の高さに対し警告したとも
受け取れる発言となっています(図表1参照)。周総裁は、中
国が違法な資金調達の問題を抱えていることと、外貨建ての
行き過ぎた借入(レバレッジ)を防ぐ規制が引き続き必要だと
訴えています。特にレバレッジ比率が高くなれば、マクロ経済
リスクの影響をより受けやすくなるとも述べています。
どこに注目すべきか:
ドル建債務、キャリー取引、外貨準備高
いわば巨大なキャリー取引が行われてきたと見られます。し
かし、米国の利上げ観測と、人民元の(対ドル)引下げで、ド
ル債務の返済が加速したものと見られます。中国当局は人民
元安を抑制するための為替介入で外貨準備を使用したことが、
外貨準備高減少の背景と見られます(図表2参照)。
足元の人民元市場は落ち着きを取り戻し、2016年2月の外貨
準備高の減少ペースに鈍化も見られ、中国企業の債務返済
の動きに落ち着きも見られます。しかし、周総裁の発言は債
務解消は道半ばであることを当局が認めたと解釈でき、今後
も中国企業の債務問題には注視が必要と見ています。
図表1:中国と新興国民間非金融部門負債対GDP比率
(四半期、期間:2006年1-3月期~2015年7-9月期、対GDP比率)
210 %
中国
190
170
新興国
150
人民銀の周総裁の発言は、金融緩和を続ける中国が景気
支援のために通貨安政策を取りづらい背景は外貨建て債
務の水準が高いこと、そしてその解消は道半ばであること
を示唆したとも見られます。
2015年8月頃、人民元安に伴い株式市場などが変動して以
降、国際機関は中国企業の債務問題を指摘しています。例
えば国際決済銀行(BIS)は四半期報告で新興国、特に中
国(そしてブラジル)の民間部門の債務の増加ペースに対し
警告しています(図表1参照)。また、経済協力開発機構
(OECD)は中国企業の債務がGDP(国内総生産)比率で
160%に達していると指摘、特に借入比率が高い部門として、
セメントや鉄鋼、石炭、といった業種をあげ、中国に対処の
必要性を指摘しています。
次に、BISの四半期報告を参考に、ドル建債務と人民元の
問題を見ると、中国企業は人民元とドルの関係が安定的で
あった時期に調達コストの低いドルの借入を増やしていた
模様です。一方、調達した資金が投資(またはオフショア人
民元預金も選択肢)されていた可能性をBISは指摘しており、
130
110
90
70
06年3月
09年3月
12年3月
15年3月
出所:国際決済銀行(BIS)のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
図表2:中国の外貨準備高の推移
(月次、期間:2006年2月~2016年2月、兆ドル)
5
兆ドル
4
外貨準備高
3
2
1
0
06年2月
09年2月
12年2月
15年2月
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
※コメントは2016年3月22日時点
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新興国株式市場 注目のトピックス集
2極化する中国不動産市場で起き
ていたこと
中国不動産市場の2極化について、本紙2016年3月10
日号で紹介しました。中国当局は過熱気味の不動産投
資抑制の方向で動き出しています。ただし、中国の直
面する問題は山積みで解決には時間がかかると見られ
ます。
中国人民銀南京支部:住宅ローンのリスク管
理を呼び掛け
報道によると、中国人民銀行(中央銀行)の南京支部は声明
で、住宅購入で本来なら自己資金で用意すべき頭金が、不
動産会社やオンライン金融、小口融資会社からの融資で提
供されたものであれば、各銀行は住宅の買い手側に住宅
ローンを提供すべきではないと指摘しています。
どこに注目すべきか:
中国不動産市場、購入規制、李克強首相
図表1:中国・主要70都市の新築住宅価格騰落率
(前年同月比、2016年2月現在、騰落率、上位/下位5都市を表示)
80
60
%
56.9
40
20.6
20
13.3 12.9 11.8
0
丹東
湛江
蚌埠
南充
-3.1 -3.2 -3.5 -3.6 -3.9
銀川
広州
北京
南京
上海
-20
深セン
中国不動産市場の2極化について、本紙2016年3月10日号
で紹介しましたが、中国当局は過熱気味の不動産投資抑
制の方向で動き出しています。ただし、中国の直面する問
題は山積みで解決には時間がかかると見られます。
今回のレポートでは、中国の一部で過熱する不動産市場を
通じて中国が直面する問題点を述べます。
1つ目の問題は中国の不動産市場が2極化している点です。
報道によると中国人民銀行の周総裁も過熱する大都市と
回復が見られない地方都市(図表1参照)を問題として指摘
しています。2極化が中国当局にとって問題なのは、利下げ
のように、中国全体に効果が波及する金融緩和政策の使
用が控えられる場面も想定されることです。軟調な世界経
済の回復を受け、中国の輸出が低迷する中、内需の喚起
に金融緩和政策の必要性が高まっていると見られるだけに、
不動産市場の2極化は当局にとって、頭の痛い問題と見ら
れます。
2つ目は不動産価格上昇の背景に質の問題が含まれてい
ることです。報道によると、住宅市場が過熱している上海市
は3月25日に住宅購入の規制を強化しました。主な内容を
見ると、上海戸籍を持たない人が税金や社会保障を納め
れば購入可能となる期間を2年から5年に引き延ばしたこと
や、2軒目の住宅購入に求められる頭金比率を従来の3割
から住宅規模に応じて5割から7割へと引き上げています。
さらに、先の南京市同様に、住宅ローン申請における頭金
は自己資金であることが求められています。しかし、このこと
は反対に言えば、上海などの不動産市場上昇の背景には頭
金への融資など、質に問題のある資金も使われていたことに
なり、健全な回復とは呼びにくい状況です。
最後に、中国政府が目指す市場メカニズムの重視の遅れに
対する懸念もあります。先ほど紹介した上海の住宅購入規制
の強化は深センでも実施されています。主な項目は、頭金比
率の制限、戸籍を持たない人への購入制限など同様の内容
で、いずれにせよ行政手段による対応です。住宅規制に関し
ては数ヶ月前に規制を緩和したばかりなど、場当たり的な行
政対応が繰り返されている印象で、中国政府が目標とする市
場メカニズムの活用には相当な距離があるように思われます。
ただし、当局の住宅問題に対応する姿勢には変化の兆しが
見られます。例えば、2013年の就任以来、不動産市場につい
て発言が限定的であった李克強首相が、不動産市場の変動
を抑え、不動産市場の健全な発展を支持するスピーチをして
いるのは異例とも見られます。問題解決の第1歩が、問題の
存在を認識することであるとするならば、中国当局の対応に、
ささやかな変化(改善)の兆しは感じられます。
それでも、中国は過剰在庫や債務の解消等への対応を積み
重ねながら解決に向かわなければならず、中国の不動産市
場の問題解消には時間がかかる可能性も考えられます。
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
※コメントは2016年3月29日時点
ピクテ投信投資顧問株式会社
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6
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新興国株式市場 注目のトピックス集
インドネシア、政策金利は
為替次第か
3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)直後の金融政
策会合でインドネシア中銀は緩和姿勢を維持、今回の
利下げで緩和サイクルが終了したわけではないとの考
えを示唆する一方、次の行動は慎重を期すとも表明し
ています。
インドネシア中銀:3会合連続利下げ、経済成
長てこ入れを重視
インドネシア中央銀行は2016年3月17日、政策金利の引き下
げを発表、政策金利であるレファレンス金利を7.00%から0.25%
引き下げ6.75%としました(図表1参照)。市中銀行が中銀に
預ける翌日物預金に対して支払われる預金ファシリティー金
利(FASBIレート)と、貸出ファシリティー金利もそれぞれ0.25%
引き下げました。市場の事前予想では過半が利下げを予想、
残りは据え置きを見込んでいました。
どこに注目すべきか:
インフレ見通し、ルピア動向、米国金融政策
図表1:インドネシアルピア(対ドル)と政策金利の推移
(日次、期間:2013年3月18日~2016年3月17日)
%
8.0
7.5
7.0
6.5
6.0
5.5
13年3月
ルピア/ドル 15,000
14年3月
安 ルピア 高
3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)直後の金融政策会
合でインドネシア中銀は引き続き緩和姿勢を維持しました。
今回の利下げで緩和サイクルが終了したわけではないとの
考えをインドネシア中銀は示唆しましたが、次の行動につい
ては慎重を期すとも表明しています。
この背景を探るべく、声明文を振り返ります。まず、利下げ
の背景を見ると主に3つがあげられます。
1つ目は消費者物価指数(CPI)はインフレ率の目標水準内
(4%±1%)で足元推移し(図表2参照)、インドネシア中銀は
2016年から2017年も目標に収まる見込みを示唆しています。
2つ目は、国内需要下支えの必要性です。例えば、国内自
動車販売を見ると2月は前年同月比でマイナス0.6%と回復傾
向は見られますが、依然前年割れの状況です(図表2参照)。
国内需要の回復は概ね緩やかであり、金融政策による下支
えは必要な状況と見られます。
3つ目は、そして恐らく最大の要因は2016年1月の最初の利
下げ以降もルピア高傾向が維持されていることです(図表1
参照)。声明では、中国、ユーロ圏そして日本など他の国や
地域が緩和姿勢であること、米国も3月のFOMCで利上げ
ペースの後退を示唆しており、金融政策の方向性に調和が
見られるため、不確実性の低下が示唆されています。
しかしながら、インドネシア中銀が今後の利下げに慎重さを示
した主な背景はルピアの安定性に次の懸念があるからと見て
います。まず、ルピアは経常収支の赤字分を、海外からの投
資(資本流入)が下支えする格好となっています。仮に構造改
革の停滞で、インフラ投資が低下する状況となった場合、資
本流入の反転が懸念されます。
次に、経常収支の赤字分を資本流入でカバーする構造は、米
国が利上げペースを早めた場合に影響を受けやすく、その結
果としてルピア安の可能性も懸念材料と見られます。
米国のイエレン議長は金融政策の先行きは「経済指標次第」
を常套句としていますが、インドネシア中銀の場合はルピア次
第となりそうです。
14,000
13,000
12,000
11,000
主要政策金利(左軸)
10,000
ルピア(対ドル、右軸)
9,000
15年3月
16年3月
図表2:インドネシアのCPIと自動車販売の推移
(月次、期間:2013年2月~2016年2月、前年同月比)
30%
20%
10%
0%
-10%
インフレ目標上限=5%
-20%
インフレ目標=4%
-30%
国内自動車販売(前年同月比、左軸)
CPI(前年同月比、右軸)
-40%
13年2月
14年2月
15年2月
%
9
-0.6%
7
5
3
16年2月
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
※コメントは2016年3月18日時点
ピクテ投信投資顧問株式会社
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
7
12
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新興国株式市場 注目のトピックス集
金融緩和が期待される
台湾の状況
台湾の3月24日の金融政策会合の市場予想を見ると大
半が利下げを見込んでいますが、その背景は世界景気
の影響で台湾の景気回復が鈍いこと、低水準のインフ
レ率、台湾ドルが足元、堅調であることなどによります。
台湾中銀:経済下支えのため政策金利引き
下げの見込み
2016年1月16日に投開票された台湾総統選で国民党から民
進党へ政権交代(就任式は5月20日予定)が実現しました。
1月の総統選挙後初となる金融政策会合が3月24日に開催
が予定されています。市場の予想では大半が利下げを予想
しており、政権交代となっても金融政策は従来からの金融緩
和路線が維持される公算となっています(図表1参照)。
どこに注目すべきか:
台湾GDP、インフレ率、台湾ドル、年金
図表1:台湾の政策金利と台湾ドル(対米ドル)の推移
(日次、期間:2014年3月27日~2016年3月23日)
1.9 %
34
台湾ドル/米ドル
安 台湾ドル 高
台湾の3月24日の金融政策会合の市場予想を見ると大半
が利下げを見込んでいますが、その背景は世界景気の影
響で台湾の景気回復が鈍いこと、低水準のインフレ率、台
湾ドルが足元、堅調であることなどによります。
利下げ予想の背景となる注目ポイントは以下の通りです。
まず、台湾のGDP(国内総生産)成長率は2015年10-12月
期が前年同期比でマイナス0.5%となっています(図表2参照)。
ハイテク産業の輸出に強みを持つ台湾は世界景気の影響
を受けた格好で、例えば台湾行政院主計総処(DGBAS)が
2016年の台湾のGDP成長率予想を2.32%から1.47%へ引き
下げたのも同様の理由であり、金融政策による下支えが期
待されます。ただし、2016年の成長見通しが引き下げられ
たとはいえ、1.5%程度の上昇は見込まれており、2015年後
半のマイナス成長からは回復する予想となっています。
次にインフレ率も低水準での推移が見込まれています。た
だし、足元を見ると、2月は消費者物価指数(CPI)が前年同
月比でプラス2.4%と上昇していますが、食料価格上昇によ
る一時的な現象と見ています(図表2参照)。例えば、野菜価
格は1月の寒波の影響で供給不足から急上昇していること
や、中国の長期休暇である春節の時期がCPIに影響した可
能性が考えられます。なお、台湾当局(DGBAS)は2016年
のインフレ率は年率で0.69%と予想するなど低水準での推移
を見込んでいます。
最後に、足元、台湾ドルが上昇傾向であることも利下げの支
援材料と見られます。逆に、金融緩和が予想されているにも
かかわらず台湾ドルが堅調な背景に注目すると、いくつかの
要因が考えられます。まず、2月の台湾南部地震から鉱工業
生産が市場予想以上に回復するなど台湾の成長力への信頼
感は依然高いと思われます。また、新政権の方針を確認する
必要があるものの、政府債務残高の対GDP比率は3割程度と
財政政策に余裕があり、景気の下支えには金融政策の更な
る拡大から財政政策へのシフトも想定されます。さらに、台湾
当局は積み立て不足となっている年金改革に重点を置くと見
られ、長期的な低金利維持による年金資産の悪化は回避す
るとの見方があることも通貨高の遠因の可能性もあります。
台湾は短期的には金融緩和政策が維持されるも、その後は
財政政策などへ徐々にシフトする展開も想定されます。
33
1.8
32
1.7
31
1.6
30
政策金利(左軸)
台湾ドル(対ドル、右軸)
1.5
14年3月
29
16年3月
15年3月
図表2:台湾のGDP成長率とCPI(インフレ率)の推移
(月次、期間:2006年3月~2016年2月、GDPは四半期)
6
%
15
%
2.4%
10
3
5
0
0
-3
06年3月
-5
CPI(前年同月比、左軸)
台湾GDP(前年同期比、右軸)
08年3月
10年3月
12年3月
-10
14年3月
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※コメントは2016年3月24日時点
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新興国株式市場 注目のトピックス集
ブラジルGDP事情
ブラジルの2015年の年間GDP成長率は3.8%の減少、
2016年のGDP成長率も再びマイナスが予想されるなど
ブラジル経済は当面厳しい状況が続くと思われますが、
足元では最悪期は脱しつつある兆しも見られます。
ブラジル10-12月GDP:前期比で1.4%減
市場予想ほどは悪化せず
ブラジル国家統計局が2016年3月3日に発表した2015年1012月期実質GDP(国内総生産)は前期比1.4%減少と、マイナ
ス成長とはなったものの、市場予想(同1.6%減)、7-9月期(同
1.7%減)を上回りました(図表1参照)。また、前年同期比は
5.9%の減少となりました。なおブラジル地理統計院(IBGE)が
発表した2015年年間のGDP成長率は3.8%減少し、1990年以
来最大の落ち込みとなりました。また、国際通貨基金(IMF)
によると2016年のブラジルの成長見通しは3.5%減少(2016年
1月時点予想)となっています。
どこに注目すべきか:
ブラジルGDP、消費者信頼感指数、失業率
ブラジルの2015年の年間GDP成長率は3.8%の減少、4%近い
マイナスとなったのは債務不履行(デフォルト)を起こした
1990年以来です。2016年の成長率も再びマイナスが予想さ
れるなどブラジル経済は当面厳しい状況が続くと思われま
すが、足元では最悪期は脱しつつある兆しも見られます。
まず、2015年10-12月期のGDP成長率の内容を振り返ると、
項目別では個人消費(前期比1.3%減)と純輸出(輸入の大幅
減による)は相対的に全体平均(同1.4%減)を上回りました。
一方、マイナス項目は財政改革(削減)による政府支出の減
少と実質金利負担が重いため投資がマイナス要因です。
次に10-12月期GDP成長率が前期比1.4%減少と市場予想を
上回った背景をセクター別の成長率で見ると、農業部門の
予想外のプラス成長が寄与したものと見られます。資源関
連の下落がブラジルの成長を抑制する要因となる中、農業
が小幅ながら成長を補った格好です。
しかし、ブラジルの経済成長が回復に向かうには投資、消
費、輸出など複数に渡るセクターの回復が必要で、当面回
復は難しく、マイナス圏での推移が見込まれます。ただし、
一部に回復の兆しも見られます。
例えば、GDP成長率(前期比)をみるとマイナスの程度が緩
やかに切り上がっています(図表1参照)。また、仮に2016年
の成長率がIMFの予想通りであるなら、各四半期の成長率は
均(なら)してみれば-1%より小幅のマイナスが想定されます。
次に、個人消費の動向を左右する可能性がある消費者信頼
感指数に底打ちの兆しも見られます(図表2参照)。消費者信
頼感指数の悪化は失業率の上昇に伴う動きとなっていました。
失業率の先行きは予断を許さない展開ではありますが、雇用
市場と消費者信頼感指数の動きに注目が必要と見ています。
最後に、ブラジル中央銀行が3月2日(現地時間)に2会合連続
となる政策金利の据え置きを公表しました。高水準のインフレ
率を考慮すれば利上げも想定される環境下、据え置きにより
経済重視の姿勢を再び示唆、投資などへの波及が(将来的
に)期待されます。その上、政策金利を据え置いて以降、レア
ル高傾向となっていることもプラス要因です。即断は厳禁なが
ら、慎重に回復の兆しを見守る姿勢も必要と思われます。
図表1:ブラジルGDP(前期比)の推移
(四半期、期間:2013年1-3月期~2015年10-12月期)
2.0
% 1.5
1.5
0.6
0.6
GDP(前期比)
0.5
1.0
0.1
0.5
0.0
-0.5
-0.1
-0.2
-1.0
-1.5
-0.8
-2.0
-1.3
-1.4
-2.5
-2.1 -1.7
13年3月
14年3月
15年3月
図表2:ブラジルの消費者信頼感指数と失業率の推移
(月次、期間:2011年3月~2016年2月)
8
失業率(左軸)
消費信頼感指数(右軸)
%
指数 120
7
110
6
100
5
4
11年3月
90
12年3月
13年3月
14年3月
15年3月
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※コメントは2016年3月4日時点
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新興国株式市場 注目のトピックス集
ブラジル、弾劾裁判の可能性
高まる
足元、ルセフ大統領の退任の動きが強まっていますが、
それを好感し通貨レアルや株価は上昇基調にあります。
当面、ブラジルの政治動向から目が離せない状況が続
くと考えます。
ブラジル:ルセフ大統領退任を求め
過去最大規模のデモ発生
2016年3月13日、ルセフ大統領の退任を求める大規模なデ
モがブラジル各地で行われました。資源価格の下落などを背
景に経済がリセッション(景気後退)に陥るなど厳しい状況が
続く中、政府要人の汚職スキャンダルもあり、政府に対する
ブラジル国民の不満が強まっています。
今回のデモは参加者が300万人を超えたと地元メディアは伝
えていますが、デモの参加者はルセフ政権の汚職に憤る中
間層が主体で、デモは平和的に行われているとも報じられて
います。
どこに注目すべきか:市場は好感、次の連
立、左派政権の継続
図表1:通貨レアル(対ドル)とブラジル株式市場の推移
(日次、期間:2015年3月11日~2016年3月11日)
レアル/ドル
60,000
55,000
レアル(右軸、逆メモリ)
50,000
45,000
3
3.5
40,000
4
35,000
30,000
15年3月
2.5
ブラジル株式(左軸)
高 レアル 安
ルセフ大統領の退任を求める動きに対し、足元、通貨レアル
や株式市場は上昇しています(図表1参照)。ルセフ政権下
で遅れていた財政改革への進展を期待しての動きと見られ
ますが、通貨レアルや株価が本格化に回復するには、ルセ
フ後の政権の姿に注目する必要があると思われます。
まず、最近のブラジルの為替、株式市場の動向を見ると両
市場ともに回復傾向にあります。足元、ルセフ大統領弾劾裁
判の動きが強まっていたことから、市場は弾劾裁判をプラス
要因と受け止めていると見られます。一方で、この間、原油
価格の下げ止まりや、最大の貿易相手国である中国の預金
準備率引き下げとその後の鉄鋼石価格の上昇なども下支え
要因とは見られます。
次にルセフ政権の今後を占う上で注目されるのが、連立与
党の動きです。2014年に再選した労働者党(PT)ルセフ大
統領はブラジル民主運動党(PMDB)党などと連立与党を構
成していますが、PMDBは3月12日の党大会で連立解消を
30日以内で決めるとしています。労働者党の創設者でルセ
フ大統領のアドバイザーでもあるルラ前大統領の訴追やル
セフ大統領の再選選挙での資金疑惑などを受け、連立解消
をも視野に入れた動きが見られます。仮に連立解消となれば
弾劾裁判が実施される可能性は高まると見られます。
もっとも弾劾裁判に必要な賛成票の獲得にはPMDB以外の
連立与党が賛成に回る必要があるとみられますが、大規模デ
モが発生するなど、国民の不満が高まっていることもあり、更
に連立与党離れが起きる可能性にも注目が集まります。
最後に、ルセフ政権後、どのような体制になるのかも注目され
るポイントです。ルセフ大統領の労働者党は補助金を多く出
す傾向があるなど左派政権であり、ともすれば財政改革の遅
れの要因とも見られています。ブラジルのデモがルラ前大統
領やルセフ大統領に対するもので、左派政権は維持されるの
か、それとも時間をかけてでも左派政権まで変えてしまう大き
な変革になるのか、現時点では不透明ですが、注目される点
です。
例えば近隣のアルゼンチンでは左派政権から市場重視のマ
クリ政権に政権が移行したことで市場にとってプラスの変化が
起きていると市場では捉えられています。
今後の動向次第では、政治的に大きな変革となり、金融市場
への影響も大きくなる可能性があることから、当面、ブラジル
の政治動向から目が離せない状況が続くと考えます。
15年6月
15年9月
15年12月
4.5
16年3月
※ブラジル株式:ボベスパ指数(現地通貨ベース)
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
※コメントは2016年3月14日時点
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ブラジル大統領弾劾裁判への
道のり
市場ではルセフ大統領の弾劾裁判は現在のブラジル
政局の停滞打破への期待もありますが、弾劾裁判可決
の行方は不透明であること、また仮に弾劾成立となって
も、後継者への期待が高まっていない点に注意が必要
と見ています。
ブラジル民主運動党(PMDB):連立離脱、
弾劾投票控えたルセフ大統領に打撃
ブラジル大統領の所属する労働党と連立を組むブラジル民
主運動党(PMDB)が2016年3月29日に連立政権から離脱し
ました。PMDBはルセフ政権で6つの閣僚ポストを獲得しまし
たが、全員辞任の意向です。議会の弾劾投票を控えるルセ
フ大統領にとり打撃となる可能性があります(図表1参照)。
PMDBの連立離脱は予想されていたため、発表後のレアル
の動きは小幅に止まりました。
な3分の2を超えていないと見られます(図表2参照)。連立与党
の進歩等、共和国党など連立に止まるべきかを検討している
他の政党が弾劾裁判の行方を左右すると見られます。
2つ目は弾劾成立(またはルセフ大統領の途中辞任)の場合
2018年までの任期を得る可能性があるテメル副大統領です。
中立で堅実な政策運営は評判です。しかし、国民からの知名
度は低く、人気が高いとはいえません。市場が期待する財政
改革には国民の理解が必要なだけに懸念もあります。手続き
上困難かもしれませんが、選挙が望ましいのかもしれません。
図表1:ブラジル大統領弾劾裁判関連の流れの概略
どこに注目すべきか:
ブラジル弾劾裁判、3分の2、副大統領
市場ではルセフ大統領の弾劾裁判は現在のブラジル政局
の停滞を打破するきっかけになるとの期待もあります。しか
し、弾劾裁判可決の行方は不透明であること、また仮に弾
劾成立となっても、後継者への期待が高まっていない点に
注意が必要と見ています。
まず、ルセフ大統領に対する弾劾裁判の流れを確認します。
2015年12月、野党はルセフ大統領が国営石油公社の汚職
を見逃したなどの理由でブラジル議会下院に弾劾請求を行
い、2016年3月に下院に特別委員会が設置され、弾劾裁判
実施の可否を審議しています。仮に成立した場合、下院で
弾劾裁判の採決が行われます(早ければ4月)。
次に下院が賛成多数(3分の2以上、342議席)となれば上院
に送られ弾劾手続き継続の可否を問う採決が行われます。
ここで過半数が賛成した場合、ルセフ大統領は180日の離
任、テメル副大統領が代行(暫定大統領)、上院に弾劾法廷
が設置されます。弾劾法廷が罷免とし、上院で弾劾採決が
行われます。そこでも3分の2(54議席)以上の賛成となれば
ルセフ大統領は失職、テメル副大統領が大統領に昇格しま
す。以上の流れを踏まえ、市場にブラジルの政治改革の前
進を期待する声もありますが、次の点には注意が必要です。
1つ目はPMDBが政権を離脱したことで、野党は過半数を超
えたと見られますが、上院、下院共に弾劾裁判成立に必要
年月日
2016年3月17日
2016年3月29日
予想:2016年4月
予想:2016年4月
予想:2016年5月
予想:2016年5月
予想:2016年5月
予想:2016年後半
ブ ラ ジル弾劾裁判の流れ
下院の大統領弾劾の特別委員会メンバー選出
ブラジル民主運動党(PMDB)連立離脱
下院に最終見解提出、下院委員会で採決
下院が弾劾の採決(可決は342議席以上)
上院特別委員会設置、弾劾裁判審議
上院議会で弾劾手続き継続採決(過半数)
可決した場合:ルセフ大統領一時離任
上院で弾劾採決(可決は54議席以上)
図表2:ブラジル議会勢力分布
下院(定数513議席)
野党
(259)
上院(定数81議席)
野党
与党
労働党 与党
労働党 (34)
(254)
(47)
その他 (与党),
その他 (与党),
58
12 その他
野党,
野党,
その他
29
190
与党,
与党,
22
196
PMDB
PMDB
可決に54
(野党),
可決に342
(野党),
議席必要
議席必要
69
18
離脱 (あと7)
(あと83)
離脱
※与党、野党の区分は報道機関により異なり幅を持って解釈する必要あり
出所:各種報道等のデータを参照しピクテ投信投資顧問作成
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