くさび型における物理ゲルの対流ダイナミクス

くさび型における物理ゲルの対流ダイナミクス
( 首都大物理)小林 和也、及川 典子、栗田 玲
【はじめに】
物 理 ゲ ル は 高 分 子 鎖 が 三 次 元 の 網 目 構 造 を 形 成 し 、そ の 内 部 に 溶 媒 を 内 包 し 膨 潤 す る
ことで構造を保ち、弾性や液体性、輸送性を併せ持つ機能性物質であり、食品から生
体 組 織 ま で 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 物 理 ゲ ル の 架 橋 点 は van der waals 力 程 度
の比較的弱い相互作用で形成されているため、ある転移点を境に熱可逆的にゾル・ゲ
ル転移することができる。物理ゲルは食品をはじめ生体組織まで幅広く応用されてい
るにもかかわらず、物理ゲルの熱輸送に関する研究はあまり行われていない。
物理ゲルの熱輸送は非平衡物理としても興味深く、流体の上面を冷却し、下面を均一
に加熱することによる密度差によって発生する熱対流はレイリー・ベナール対流とも
呼ばれ、これまで典型的な非平衡系現象として研究が行われている。しかしながら、
物理ゲルのように粘性が温度に強く依存する系における研究はあまり行われていない。
このような粘性が温度に対して大きく変化する系はマントルなどの地球科学とも関連
す る 。マ ン ト ル 対 流 に 関 す る 研 究 で は 粘 性 の 温 度 (a)
依存性は非常に重要である。
さ ら に 熱 対 流 に 関 す る 研 究 で は 、上 面 を 均 一 に 冷
却 し て 実 験 が 行 う 多 く 、実 験 的 に も 上 面 を 不 均 一
に冷却した場合における熱対流現象に関する研
究も少ない。
(b)
そ こ で 本 研 究 で は 下 面 全 体 を 一 様 に 加 熱 し 、上 面
を不均一に冷却することによって粘性の温度依
存性が大きい物理ゲルの熱輸送現象がどのよう
に変化するかを実験的に調べた。
(c)
【結果と考察】
実 験 の 結 果 、物 理 ゲ ル は 上 面 の 温 度 不 均 一 に よ っ
て 系 内 部 で 不 均 一 に 粘 性 が 大 き く 変 化 し 、 ゾ ル ・ (d)
ゲル転移点を境に自発的にゾル領域がくさび型
の よ う に 分 離 し 、そ の く さ び 内 部 で サ イ ズ の 異 な
る 複 数 の 対 流 が 発 生 す る 。そ し て 発 生 し た 大 き い
対流渦は次第に小さな対流渦に押されるように
く さ び 内 部 を 先 端 側( 細 径 側 )か ら 末 端 側( 太 径
側 )へ 移 動 す る 現 象 が 起 こ る こ と を 発 見 し た 。本 (e)
研 究 会 で は 、こ の 実 験 結 果 に つ い て 具 体 的 な 説 明
を行う。
Fig1: く さ び 内 部 に お け る 対 流 の
移 動 (a) 30 m in,(b) 40 m in,(c)
50 m in,(d) 65 m in,(e) 80 m in
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