Title コンピュータを用いたレタリング教育に関する定量化の 検討 Author(s

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コンピュータを用いたレタリング教育に関する定量化の
検討
北浦, 肇
文化女子大学紀要. 服装学・生活造形学研究 (25) (199401) pp.219-222
1994-01-31
http://hdl.handle.net/10457/2227
Rights
http://dspace.bunka.ac.jp/dspace
コンビュータを用いたレタリング教育に関する定量化の検討
北浦
肇*
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H
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j
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a
u
r
a
要
旨 レタリングの教育の初期段階においては,文字の構成を理解させ,文字全体と部分との大き
さや幅等の比率を把握させることが必要である。ところが従来の教育では,かたちを形成することに重
点を起き,文字の各々の部品の構成は,主観による所が大きかった。文字のデザインにおいては,各々
の部品の比率や配置も重要な要素であると考えられる。そこで本研究では,コンピュータを用いたレタ
リング教育のシミュレーションの作成を目的として,漢字の部首の定量化について試みた。その結果へ
んの幅については,っくりの画数によって何種類かに定量化できることがわかった。また,へんのバラ
ンスを取る上で基準となる,たて線の位置は,へんの幅によって決定できることもわかった。
リング技術を修得させることができる。すなわ
1.はじめに
ち,予め漢字の組み立てについて十分に理解さ
せることが必要で、ある。また,組み立てに際し
現在,デザインの教育において,コンピュー
ては,それぞれの漢字に即したパランスを考え
タの活用に関する種々の検討がなされている。
させなければならない。たとえば同じ部首であ
本研究は特に,視覚伝達デザインの分野におい
っても文字によって,その文字全体に対する大
て重要な基礎のうちのひとつとされているレタ
きさの比率が変わってくる等の問題が生じてく
リングについて,コンピュータを用いることで
る3)。現状において,文字のレタリングを行う
その教育効果を高めることを考えた。
際,比率やバランスは主観による所が大きく,
日本で使われている文字には,漢字,平仮
そのために数多くの経験にゆだねられていた。
名,片仮名,アルファベット等の種類がある
そこで,図 lに示されるようなレタリング教育
が,その中でも特に漢字は,その数が非常に多
の全体の流れの中で,漢字の組み立てについ
いために,全ての文字について一つ一つレタリ
て,コンピュータを用いたシミュレーションを
ングの技術を修得させてゆくことは非常に困難
行うことによって,その理解を助けることを考
である。そこで漢字のレタリングの教育に当た
えた。
っては,次のような流れが考えられる 1),
2
)。
まず漢字を,てん・はね・はらい等の構成要
本研究ではコンビュータによるシミュレーシ
ョンの作成のために,漢字の部首の定量化につ
素や,へん・っくり・かんむり等の部首に分解
5
)。筆者は既に,にんべんにつ
いて検討した 4),
し,漢字の構成について理解させる。その上
いて定量化を行い,定量的なレタリング教育の
で,それらの構成要素や部首それぞれについて
可 能 性 を 示 唆 し た 6)。 本 紀 要 で は 更 に , て へ
レタリング技術を修得しそれらを組み合わせ
ん,きへんについて定量化を検討し併せて報
ることによって,数の多い漢字に対応したレタ
告する。これらのへんは,いずれも常用漢字の
中で5
0字以上の文字に使われている点,基準と
*本学助手 デザイン教育
なるたて線が含まれている点で共通しており,
(219)
│漢字│
分解
「↓↓
]
部 首
構成要素
〔
?
;
ミι
三
喜
〕 [
:
之J
L
Z
Z
J
L〕
理解
技術修得
│ │
h
l jZ7Z
こすっ
組み立て九一-一一一・ L...~ シミュレーション!
」
ぜこよる学習
│レタリング│
図 1 レタリング技術修得の流れ
, 4画のへんの中から抽出した
各々 2画
, 3画
ット・イメージに分解した。
② 図 2に示したように,各サンプルの,へ
ものである。
んの特徴をそれぞれ a, b, cとし,
2
. 解析の手法
ドット数
によって数値化し,へんの構成要素とした。
③ 各サンフ。ルの,っくりの画数を調べ,あ
漢字の書体には明朝体とゴシック体の 2つの
わせて文字を構成するためのひとつの要素とし
基本形があるが,本研究ではサンフ.ルとして,
T
こ
。
現在,ディスプレイや駅のサイン等で広く使わ
5
5
0を選んだ 7
)。またサ γ
れている,ゴシッグ 4
④ 以上のデータを基に, コンピュータを用
いて各要素のヒストグラムと, 2つの要素間の
プルとなる文字は,常用漢字の中で各々該当す
相闘を求めた。
るへんを持つ全ての文字とした 8)。
3, 結
漢字の書体にはほとんどの場合,正方形かそ
果
れに近い形の基準枠が設定されており,文字は
①
その基準枠に合わせて納まるように設計されて
いる。ゴシック 4
5
5
0の場合も, 4
5x5
0の比で基
っくりの画数と a値とについて相関処理
を行った結果,図 3に示されるように,いずれ
準枠が設定されている。そのことを利用して次
のへんについても負の相関関係がみられた。ま
のような手法で解析を行った。
た,図で分かる通り,いずれのへんについても
①基準枠の左右が1
0
0d
o
tとなるように分
解能を設定し,イメージ・スキャナを用いてド
局所的にサンフ。ルが集中していることがわかっ
た
。
(220)
コンピュータを用いたレタリング教育に関する定量化の検討
J
b
l
-fC
図 2 へんの解析のためのデータ
縦軸: ai
{
直
d
o
t
5
5
横軸.っくりの函数
5
0
圃
・
1
0
•.
4
5
••••.•
--E
-
一--
2
5
0
3
5
4
0
画
2
0
2
5
0
・
.
..
・ 胃
圃
ー
闘
3
5
3
0
1
5
きへん
相関係数 =-0.789
5
0
f
E
t
-
4
0
..••...•.
•...•
•...••
••..•
••..•
3
0
••
・
・
・
・
掴
・
•••
E
3
5
4
5
・
・
?
4
0
5
0
d
o
t
5
5
てへん
相関係数 =-0.687
--EE--
4
5
d
o
t
5
5
にんべん
相関係数 =-0.732
3
0
1
0
1
5
画
2
0
2
5
0
5
1
0
1
5
画
2
0
図 3 っくりの画数と a値との相関図
。
0
.
2
0
.
4
②
b値についてヒストグラム処理を行った
結果,図 4に示されるように,いずれのへんに
2d
o
tに集中していることがわかっ
ついても 1
た
。
にんべん
総 サ γ フ.ノレ数 =86
平 均 =11
.95
標 準 偏 差 =0
.
5
5
d
o
t
③
a値と c値とについて相関処理を行った
結果,図 5に示されるように,いずれのへんに
ついても強い正の相関関係がみられた。
。
4
. 定量化の検討
解析の結果に基づき,へんの定量化について
てへん
総 サ γ プノレ数 =78
平 均 =12.17
標 準 偏 差 =0
.
4
7
d
o
t
。
検討してみると,次のように考察することがで
きる。
① へんの幅は,いずれのへんに着いても,
っくりの画数によって変化しているが,それぞ
れ二つあるいは三つの値で代表させることが可
きへん
d
o
t
総サゾプノレ数 =53
平 均 =
1
2
.
1
5
標 準 備 差 =0
.
4
1
図 4 b値のヒストグラム(最大値を1.0とした時
の相対度数)
(2
2
1)
d
o
t
2
5
縦軸
横軸
:d
直
a値
d
o
t
2
5
2
0
d
o
t
2
5
2
0
2
0
-園
1
5
.・.
1
5
.
圃圃・・圃
圃..圃圃圃.
1
5
.園田園
-圃圃圃
圃
てへん
相関係数 =
0
.
8
7
4
1
0
ト ・ " 固
相関係数 =0
・8
1
9
d
o
t
0
1
0
きへん
相関係数 =
0
.
9
4
8
d
o
t 5
d
o
t
2
15 3
5
2
1
5 3
0 3
5 404550555253035 4
0 5
0 4
5 5
5
0 3
5 4
0 4
5 5
0 5
5
目
図 5 a値と c値との相関図
能である。
②
今後の課題として,他の部首についても定量
へんに含まれるたて線の幅は,文字によ
って多少異なるが,一つの値で代表させること
化を試み,全ての文字に対して一般化が可能で
あるかどうか,研究を進めて行きたい。
が可能である。
③
へんに含まれるたて線の位置は,へんの
幅によって決定される。
日頃ご指導を賜った本学家政学部長の荻村典明
これらの事から,文字をレタリングする場
合,へんの幅や,たて線については定量的に扱
うことができる。すなわち,
謝辞
教授,またご助言を頂いた本学の馬越純一郎教
授,楊国林助教授に深く感謝の意を表する。
2種類または 3種
参考文献
類のへんを用意しておき,各文字のっくりの画
1)真覚静子著:改訂基本レタリング,鳳山社
数によっていずれか一つのへんを組み合わせる
(
1
9
9
3
)
ことで,ほぼバランスのとれたレタリングを簡
2
) 吉田佳広著:やさしいレタリング,マーノレ社
単に作成することが可能となる。
(
1
9
7
7
)
3
) 横津一彦,梅田三千雄,淀川英司:人間の漢字
5
. 結 論
パターン認識特性一線図形近くに基づく認識モ
デルの提案とその有効性の検討一,電子情報通信
本研究ではコンピュータを用いた解析によ
学会論文誌 Vo
l
.]69-ANo.5(
1
9
8
6
)
り,へんの定量化を行った結果,文字を定量的
4
) 陳和明,小沢慎治,北川節:計算機を用
に扱えることがわかった。これは,コンビュー
いた書道練習システムの試作,電子情報通信学会
タを用いたシミュレーション学習によって,初
論文誌 Vo
l
.]71-ANo.9(
1
9
8
8
)
期のレタリング教育に非常に役立つことを示唆
e
t
r
i
s
e
y
: Model5
) Roger D
. Hersch,Claude B
basedMatchingandH
i
n
t
i
n
go
fFonts,
Computer
するものである。
G
r
a
p
h
i
c
s,
Vo
l
.25No.4(
1
9
9
1
)
実際のレタリングの作成に当たっては,っく
6
) 文化女子大学第 2
7回学内研究発表会要旨集
りの画数ばかりではなく,他の様々な要因を考
(
1
9
9
3
)
えながら,徴妙なバランスの調整を主観的に行
7
) 鎌田経世著:新設計書体〈ゴシック 4550),グ
わなければならない。しかしこの結果からレ
1
9
8
0
)
ラフィッグ社 (
タリング教育の初期段階において,学習者に対
8
) 長津規矩也,原田種成,戸川芳郎編:新明解漢
し,一つの基準を与えることができ,その有用
和辞典第 4版,三省堂 (
1
9
9
0
)
性を示すことが可能になった。
(222)