物理学演習 IIB 問題 No.1 (物理数学 II) 2015 年 9 月 28 日 注意:問題は 1 から 8 まで連続しているので, 問題 1 から順に解いていくこと。 1. [内積の定義された線形空間] V を N 次元複素線形空間 (複素ベクトル空間) とする。定義から, V の任意の 2 つの元 (ベクト ル) u, v に対して, その線形結合 c1 u + c2 v (c1 , c2 は複素数) も V の元である。V の 2 つの元 u, v の内積 (u, v) は, u, v から決まる複素数であり, 性質 (i) (u, c1 v 1 + c2 v 2 ) = c1 (u, v 1 ) + c2 (u, v 2 ), (ii) (u, v)∗ = (v, u), (iii) (v, v) ≧ 0 (等号は v = 0 のとき) (1) を満たす。 (a) (c1 u1 + c2 u2 , v) = c∗1 (u1 , v) + c∗2 (u2 , v) を示せ。 √ (b) 性質 (iii) から, v のノルム ||v|| ≡ (v, v) ≧ 0 を定義することができる。シュワルツの不 等式 |(u, v)| ≦ ||u|| ||v|| (2) が成り立つことを証明せよ。また, 等号が成り立つのはどのような場合か答えよ。 2. [正規直交基底] N 次元複素線形空間 V の正規直交基底を {e1 , e2 , · · · , eN } とすると, その内積は, (i, j = 1, 2, · · · , N ) (ei , ej ) = δij (3) である。V の任意の元 v は, 正規直交基底の線形結合として, v= N ∑ vi ei (vi は複素数) (4) i=1 と表せる。係数 vi を, この正規直交基底における v の成分という。 (a) vi = (ei , v) と表せることを示せ。 (b) V の 2 つの元 u, v の内積 (u, v) を, 成分 ui , vi を使って表せ。 (c) 正規直交基底の選び方は一意的ではない。新しい正規直交基底を {e′1 , e′2 , · · · , e′N } とする と, e′i は V の元なので, もとの正規直交基底の線形結合として, e′i = N ∑ ej Uji (5) j=1 と表せる。Uij が ij 成分である N × N 行列を U とするとき, U がユニタリー行列である ことを示せ。 (d) (4) の v を, 新しい基底を使って, v= N ∑ vi′ e′i (6) i=1 と表すことができる。新しい基底における成分 vi′ を, もとの基底における成分 vi を使っ て表せ。 1 3. [線形演算子] 複素線形空間 V における線形演算子  は, V から V への写像であり, 線形性 Â(c1 v 1 + c2 v 2 ) = c1 Âv 1 + c2 Âv 2 (c1 , c2 は複素数) (7) を満たすものとして定義される。(以下では線形演算子のみを扱うため, 単に「演算子」とよ ぶ。) 線形性から, V の任意の元に対する  の作用は, 基底に対する作用によって決まる。正規 直交基底 {e1 , e2 , · · · , eN } に対する  の作用を, Âei = N ∑ ej Aji (8) j=1 とする。Aij が ij 成分である N × N 行列 A を, この基底における演算子  を表す行列という。 (a) Aij = (ei , Âej ) と表せることを示せ。 (b) v = N ∑ vi ei に対して, Âv の成分 (Âv)i を求めよ。 i=1 (c) 2 つの演算子 Â, B̂ の線形結合 a + bB̂ (a, b は複素数) と積 ÂB̂ を, (a + bB̂)v = aÂv + bB̂v, (ÂB̂)v = Â(B̂v) (9) によって定義する。演算子 a + bB̂, ÂB̂ を表す行列を, 演算子 Â, B̂ を表す行列 A, B を 使って表せ。 (d) 演算子  を表す行列は, 基底の選び方に依存する。新しい基底 (5) における行列 A′ を, も との基底における行列 A を使って表せ。 4. [エルミート共役] 演算子  のエルミート共役 † を, 任意のベクトル u, v に対する式 (u, † v) = (Âu, v) (10) によって定義する。 (a) (a + bB̂)† = a∗ † + b∗ B̂ † を示せ。 (b) (ÂB̂)† = B̂ † † を示せ。 (c) († )† =  を示せ。 (d)  を表す行列を A とするとき, † を表す行列を求めよ。 5. [エルミート演算子とユニタリー演算子] Ĥ † = Ĥ を満たす演算子 Ĥ をエルミート演算子という。また, Û † Û = 1̂ = Û Û † (1̂ は恒等演算 子) を満たす演算子 Û をユニタリー演算子という。 (a) Ĥ がエルミート演算子のとき, (v, Ĥv) が実数であることを示せ。 (b) Û がユニタリー演算子のとき, (Û u, Û v) = (u, v) が成り立つことを示せ。 (c) エルミート演算子を表す行列はエルミート行列であることを示せ。 (d) ユニタリー演算子を表す行列はユニタリー行列であることを示せ。 2 6. [固有値問題] 演算子  に対して, ゼロでないベクトル v が存在して, (λ は複素数) Âv = λv (11) が成り立つとき, v を  の固有ベクトル, λ を固有値という。演算子  が与えられたとき, その 固有値と固有ベクトルを求める問題を固有値問題という。 (a) エルミート演算子の固有値は実数であることを示せ。 (b) エルミート演算子の異なる固有値の固有ベクトルは直交することを示せ。ただし, 2 つの ベクトルが直交するとは, 内積がゼロであることを意味する。 (c) ユニタリー演算子の固有値は絶対値が 1 の複素数であることを示せ。 7. [エルミート演算子の固有値問題] エルミート演算子  の固有値問題を考える。ある正規直交基底 {e1 , e2 , · · · , eN } における  を表すエルミート行列を A とする。一般に, エルミート行列 A は, 適当なユニタリー行列 U を 使って, U −1 λ1 0 AU = 0 .. . 0 0 λ2 0 .. . 0 λ3 ··· ··· .. . (12) のように対角化できる。ここで, U −1 はユニタリー行列 U の逆行列である。(12) を成分で書け ば, (U −1 AU )ij = λi δij となる。 (a) このユニタリー行列 U を使って, e′i = N ∑ ej Uji (13) j=1 とおくとき, e′i は  の固有値 λi の固有ベクトルであることを示せ。(したがって, 行 列の固有値問題を解けば, 演算子の固有値問題が解ける。(13) は (5) と同じ形であり, {e′1 , e′2 , · · · , e′N } は新しい正規直交基底をなす。) 具体例として, 2 次元複素線形空間におけるエルミート演算子  が, 正規直交基底 {e1 , e2 } に 対する作用 Âe1 = ie2 , Âe2 = −ie1 (14) によって定義されている場合を考える。 (b)  を表す 2 × 2 行列 A を求めよ。また, A がエルミート行列であることを確かめよ。 (c) 行列 A の固有値を求めよ。 (d) U −1 AU が対角行列になるような 2 × 2 ユニタリー行列 U を求めよ。 (e) 演算子  の固有ベクトルからなる正規直交基底 {e′1 , e′2 } を求めよ。 3 8. [同時対角化] 2 つのエルミート演算子 Â, B̂ を表す行列 A, B が同時に対角行列になるように正規直交基底を 選ぶことができるとき, その 2 つの演算子は同時対角化可能であるという。そのような基底に 対する演算子の作用は, Âei = ai ei , B̂ei = bi ei (15) となる。ここで, ai , bi は行列 A, B の固有値である。(15) を満たすベクトル ei を,  と B̂ の 同時固有ベクトルという。 (a) 2 つの演算子 Â, B̂ が同時対角化可能ならば, それらは可換 ÂB̂ = B̂  でなければならな いことを証明せよ。(逆に, 2 つの演算子が可換ならば, それらは同時対角化可能であるこ とが証明できる。したがって, 2 つの演算子が可換であることは, それらが同時対角化可能 であるための必要十分条件である。) (b) 2 つの演算子 Â, B̂ が可換であること (ÂB̂ = B̂ Â) と, それらを表す行列 A, B が可換であ ること (AB = BA) は同値であることを示せ。 具体例として, 2 次元複素線形空間における 2 つのエルミート演算子 Â, B̂ を表す行列が, ある 正規直交基底 {e1 , e2 } において, ( A= 0 1 1 0 ) ( , B= 2 −1 −1 2 ) (16) である場合を考える。 (c)  と B̂ が可換であることを示せ。 (d) 2 つの行列 A, B を同時対角化するユニタリー行列 U を求めよ。 (e) 2 つの演算子 Â, B̂ の同時固有ベクトルからなる正規直交基底 {e′1 , e′2 } を求めよ。 [補足] ここでは, 線形空間のベクトル v と線形演算子  を, 基底の選び方に依存しない量として導入 した。線形代数学の初歩では, これらの代わりに, vi = (ei , v) を成分とする列ベクトル ⃗v = v1 v2 .. . (17) vN と Aij = (ei , Âej ) を成分とする行列 A を使うことが多い。⃗v と A は基底の選び方に依存した 量であるが, それらを使った記述は, v と  を使った記述と同等である。 4
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