2 算数教育研究 (1)研究主題 見通しをもち筋道を立てて考え、表現する能力を育てる算数指導 サブテーマ「一人一人の考えや力をよく知り、生き生きとした授業をめざして」 ①研究主題について 本校では、平成17~19年度の3年間、文部科学省から「学力向上拠点形成事業」の 指定を受け、「見通しをもち筋道を立てて考える能力や態度を育てる算数指導」を研究主題 として研究を進めてきた。 その中で、サブテーマの「一人一人の考えや力をよく知り、生き生きとした授業」を目 指し、学びの度合い別や願い別学習、T・T指導などの少人数指導や個に応じた指導を取 り入れることで、どの子どもも課題に対してじっくりと取り組む姿勢が定着してきている。 また、「全国学力・学習状況調査」では、算数A問題 算数B問題ともに、和歌山県や全 国の正答率を10%以上上回るなど、一定の成果が得られている。しかし、そうした研究 の中で「一人一人の考えをグループやクラス全体に伝えていくこと」「一人一人の学力向上 をクラス全体の学力向上へ向かわせていくこと」に課題があることも見えてきた。 そこで、平成20年度には、「一人一人の考えや力をよく知る」ことに焦点を当て、「考 えノート」を見直し、かかせることを中心に「一人一人の考えを確かに表現する」研究を 行った。 次に、平成21年度には、自分の考えをみんなに広げていくことに焦点を当て研究を進 めるために、研究主題を「見通しをもち筋道を立てて考え、表現する能力を育てる」と設 定した。そこでは、「考えノート」をより有効に活用し、表現力を高めていくための「考え ノートの書き方」について研究を行った。 平成22年度から25年度は、和歌山市の研究指定を受け、思考力と表現力を伸ばすこ とに重点を置き、話し合い活動を充実させることで、「一人の考えをグループやクラス全 体」に伝えていくことで、学力向上を目指した研究実践を進めた。 また、25年度には第60回近畿算数・数学教育研究和歌山大会の小学校部の会場校と して、本校の研究実践の取組を全学年の公開授業の形で提案した。 平成26年度・27年度も和歌山市の研究指定を引き続き受け、個人の考えを全体の考 えに広げていくための表現力の育成に学校全体として取り組んでいる。 また、平成 27 年度は、ICTやデジタルコンテンツの活用も考え、より分かりやすい 授業を工夫するとともに、子どもの表現力をさらに高めていきたいと考えている。 ②サブテーマについて ○一人一人の考えや力をよく知る 学習における力とは、学びの度合いのことである。学びの度合いとは、取り組みの姿 勢や知識・理解、技能等様々な要素がある。その時々で必要な要素を見極め、それにつ いての評価を行いながら指導を進めることが大切である。 ○生き生きとした授業 授業の主体は子どもであり、子どもの目が生き生きと輝く授業こそが私たちの目指す ものである。子どもが「分かった」「できた」「考えることが楽しい」という充実感・達 成感を味わったとき、子どもの目が生き生きと輝く。 一人一人の子どもに充実感・達成感を味わわせるためには、子どもの願いに応じた学 びの場を設定することが必要不可欠である。そこで私たちは、子どもたち一人一人の学 びに応じた学習の場の設定を行うことが最重要課題だと考え、 『子どもの願いに応じた学 びの場の設定』に焦点を当てて取り組んでいきたい。また、一人一人の考えや力をより きめ細かくみとり、一人一人の考えのよさや個性を認め、より子どもに寄り添った授業・ 一人一人を生かす授業を工夫していきたい。 (2)主題達成のために 子どもたちが見通しを持ち筋道立てて考え、自分の考えをしっかりとみんなに話し、生 き生きと輝く授業を実現するための方法を、教師側の取り組む内容としてまとめ、研究課 題として設定した。 ①研究課題 ・ ・ ・ ・ 主体的に学ばせ、考えること、学習することの喜びを味わわせる学習過程のあり方 学び方を高める少人数学習~一人一人の学びの度合いや願いに応じた授業~のあり方 評価規準の明確化と形成的評価の重視による、学びに応じた支援のあり方 ICTやデジタルコンテンツを活用した、より分かりやすい授業のあり方 ②研究課題達成のために (ア)基本とする学習過程 自分の問題としてとらえる ① つかむ ・既習と未習を明らかにする 解決の方法や結果を見通す ② 見通す ・考えを組み立てる(考えノートにまとめる) ・問いをもつ 筋道を立てて考え、解決し正 しいかを立証する ③ 確かめる ・自分の考えを説明する ・友達の考えと比べる ・問題解決を通して大切なアイデアを見つける 考えたこと、解決の筋道、結 果を自分の力でまとめる ④ まとめる ・各自が自分の考えを見直し、考えノートにま とめる 「このことはどんなことに 使えるのか」 「数量や形・場面 が変わってもできるのか」と の事例で確かめる ⑤ ひろめる ・アイデアをさらに深めたり確かなものにした りする 1時間の授業が、課題提示から結論に至るまでの授業にとらわれることなく、その日の 1時間が、自分の考えを組み立てる段階であってもよいし、みんなで見つけたものを確か め合う段階であってもよい。どの1時間にもこの学習過程のすべてが入っているというこ とではなく、子どもたちが納得しあいながら探究活動をすすめ、追及し発見する喜びを味 わわせることが大切である。 集団思考時に、つかむ(学習問題をみんなのものにする)見通す(友達の見通しをよく 知る)といった段階を大切に扱い、磨き合いの場の中に学習過程の全過程が入っている学 習となるようにすることで、個人学習時にも、つかむ・見通すだけでなく確かめる・ひろ めるといった過程も入れた学習をする子どもを育てたい。 (イ)学習過程の子どもの姿 ○つかむ段階 学習過程の中の“つかむ”は与えられた課題を自分の問題としてとらえる段階であり、 既習と未習を明らかにし、学習問題を生み出す段階のことである。 ○見通す段階 学習過程の中の“見通す”は学習問題の解決への見通しを立てる段階である。 ここでいう見通しとは ◇ 課題に対して、結果を予想するもの(結果の見通し) ◇ 解決の方法、手順、使用する既習事項など(方法の見通し) ◇ 学習の筋道がわかる学習計画的なもの(学習の見通し) といったものである。 自分の考えを組み立て、さらに自分なりの問いをもつ段階である。 この段階は、既習事項としてどんな知識・技能や考え方を身に付けているかというこ とで差が生ずる。結果を得ていなくても絵や図に表し、困ったことをかいている子ども も、自分の考え(見通し)をもっているという意味で認めるようにする。 この段階で自分の力に応じた見通しをもったうえで磨きあいの場(確かめる段階)に 臨めば、どの子どもも問題意識をもって積極的に学習に参加するようになる。そして、 自分の考えの過程を詳しく話そうとするものである。 ○確かめる段階 学習過程の“確かめる”は、見通し(自分の考え)が正しいかどうかを立証すると共 に、問題解決を通して大切なアイデアを見つける段階である。この段階は個人と集団の 両面が考えられる。集団思考の中で繰り返し確かめることを経験させることで、個人思 考の場でも常に自分の考えが正しいのかどうか確かめてみる子どもが育つと考えている。 この段階が楽しいものとなることが、「算数好き」をつくることになるし、「わかって楽 しい」「考えることが大好き」という子どもを育てることになる。 そのためには、子どもの思考の流れを理解し、それに沿った授業を進めていく必要が ある。そこで、見通す段階での個人思考の過程をとらえ、それぞれの段階の子どもたち を授業に位置づけながら学習を進めるようにする。それぞれの子どもたちのアプローチ の仕方をはっきりさせ、そのよさを認めながら学習問題を全体のものにする。 学習問題を全体のものにしてこそ、どの考えの子どもも積極的に話し合い活動に参加 し「分からなかったことが分かった」「困ったことが解決された」「新しいことを発見し た」という満足感を得られるからである。 ○まとめる段階 学習過程の“まとめる”は、考えたこと、解決の筋道や結果を自分の力でまとめる段 階である。「分かったことはどれか」「自分の考えはどうか」「みんなで発見したことは どうか」と学習を振り返るために書かせたい。 学習を振り返ることを習慣づけていけば、個人思考時にも「本当にこの考えでよいの か」 「さらによい考えはないか」と問い返し、考えてきた見方や考えの筋道の善し悪しを 自分で確かめようとする子に育つ。もし、失敗であれば「おかしいなあ。どうしてだろ う」という疑問を抱き、観点を変えて問題を見つめなおし、すべての場合にあてはまる きまりを見出していこうとする。正しい結果がでても「本当にこの方法でよいのか」「こ の方法で条件に合う問題をすべて処理することができるのか」と考え、他の事例で試し てみようとする。この段階を通して、問題解決の大切なアイデアを見つけたり、新しい 問題を生み出したりするのである。 ○ひろめる段階 学習過程の“ひろめる”は、 「今日の授業でのアイデアを使ってどんなことができるか」 「少し数を変えてみたら同じことがいえるか」と意識することで、 「よりよい方法はない か」「数量や形・場面が変わってもできるのか」と他の事例で確かめることで、アイデア をさらに深めたり、確かなものにしたりする段階である。 (ウ)一人一人の学びに応じた学習 『子どもたち一人一人の学びに応じた学習の場の設定』に焦点を当て、 ◇低学年では一人一人の考えのよさや個性を認め、個を生かした授業を ◇中学年では子どもの願いに応じた学びの場を設定した指導の授業を ◇高学年では一人一人の学びに応じた学習の場を取り入れた授業を というように、段階を追って学習を行う。 「学びの度合い」とは、算数的にみた力だけでなく、学び方からみた力も含んでいる。 子どもたち一人一人の学びに応じた授業を展開することによって、理解度に合わせて 学習速度・学習内容の量を調整したり、繰り返し指導を受けられる機会を補償したり、 学習スタイルに合わせて学習内容の理解を一層深められたりする。 (エ)評価規準の明確化と形成的評価の重視 ○正しい自己評価ができる子を育てる 子ども自身が正しい自己評価をし、それをオープンにできるようにするためには、 「分 からない」「教えて」と言えたことが自分にとっても満足のいく結果を生んだという経験 をもたせることが大切である。そのために教師は支援しなければならない。 ◇ 自分の質問にみんなが真剣に答えてくれた ◇ すごくよく分かった ◇ 自分の説明が分かってもらえた ◇ ○○さんが質問してくれたおかげでよく分かった といったような満足感を何度も繰り返し味わわせることで、安心して自分の気持ちを表 現できることを感じ取らせるようにする。 また、学習の振り返りに書く「考えノート」を活用し、学び方や授業の重点のとらえ 方を学級のみんなに紹介することで、頑張っている友達の姿を賞賛する学級作りを行う ことも大切である。 紹介された子どもは「しっかり書いてよかった。今度も頑張ろう」「僕の問題がみんな の問題として取り上げられた」と満足し、これからも積極的に授業に参加しようと思う。 ノートの中に登場した子どもは、「私が質問したのでみんながよく分かった」「僕の考え がみんなを納得させた」等、自分の考えや努力に価値を見出してくれたことに喜びや成 就感がもてる。周りの子どもも、よい「考えノート」の書き方や「自分も頑張れば認め られるのだ」というように意欲が高まっていく。クラスの中に受容的風土をつくり、分 かる喜びを何度も経験することで、 「分からない」ことを意思表示する子どもに育つ。そ して、正しい自己評価を行う良さや学ぶ喜びが分かるようになると考える。 ○学びに応じた支援 どんな支援が必要か見極めるには、子どもの学びを適切に評価する必要がある。子ど もの学びを想定し、支援を多様に準備することで一人一人の学ぶ喜びを保証していくこ とができる。 (3)研究の視点 ①一人一人の子どもの考えや力をよく知る手だて ◇評価規準の明確化 ◇形成的評価の重視 ◇子どもの考えの把握 子どもの考えをとらえる場 学習前 ・事前調査 ・前単元、前時までの 学習から考えて ・前時の学習の場で 書いた考えノート 学習中 ・個人思考の場で書く考えノート ・操作活動の中で ・発言 学習後 ・学習後に書く考えノート ・問題作り ②学びに応じた支援のあり方 ◇効果的な指導 ・教材研究の充実 ◇学びに応じた教材、教具の開発 ・デジタルコンテンツの活用 ◇その子の考えを学習に位置づける工夫 ◇単元構成の工夫 ・学習の流れを大切にした単元構成 ・興味や挑戦への意欲が持続できる単元構成 ・子どもたちにも、学習計画が見通せるような単元構成 ・既習を生かせる単元構成 ◇課題提示の工夫 ・興味関心をひきつける課題 ・いろいろな考え方や解き方ができる課題 ・既習事項が生かせる課題 ・少し抵抗のある課題 ・発展性のある課題 ・ICTを活用した課題 ◇操作活動の重視 ・具体物、半具体物、絵や図、表やグラフを使った操作 ・思考実験的な念頭操作 ③学び方を学ばせていく方法 ◇「聞く・話す・書く」といった力を身につける。 ・ブロック目標 ☆低学年 自分の考えを大きな声で話す。 ☆中学年 自分の考えを順序立てて話す。 ☆高学年 自分の考えと友だちの考えを絡ませて話す。 ◇思考の場として「考えノート」を位置づける ・自分の考えをしっかりもたせることが大切であると考え、一人一人に「考えノート」 を持たせ、そこに、個人思考の場での思考過程が説明できるように、また、学習を 振り返る場面で考えの変容や高まりを書くように指導する。 ・ブロック目標 ☆低学年 ○で囲む、(矢印)→、色分けなど簡単な図を使ってかく。 自分のしたこと、思ったことなどを絵や図、お話でかく。 ☆中学年 自分の考えを図や式、言葉などを使ってかく。 既習の事柄を活かしてかく。 わかったことや友だちの考えのよいところなどをかく。 新しく学習した算数用語を使ってかく。 ☆高学年 自分の考えを図や式、言葉などを使ってよくわかるように工夫してかく。 既習の事柄や単元の中でつながりを意識してかく。 自分の考えと友達の考えをくらべてかく。 ◇手を使って考える習慣をつける ・積み木・おはじき・磁石玉・色カード等その場に適切な学習具の操作 ・紙を切ったり、貼ったりと何をしてもいいという雰囲気作り ・絵や図をノートにかく習慣 ・考えの過程や思いをかく習慣 ◇互いに高めあう発表の仕方を工夫する ・具体物等を使って、自分の考えていることがよりわかりやすいように話す ・話している子どもの心の中を想像しながら聞く ◇学習を生活の場に結びつける工夫をする ・かけざんさがし ・わりざんさがし ・角さがし ・立体さがし ・%さがし ④教材研究をする際の3つの観点 教材を見る目 子どもを見る目 ・教材の系統 ・教材のねらい ~どんな見方、考え方をつけたいか~ ~どんな力をつけたいか~ ・単元構成をどうすればよいか ・この教材で願いたいことは何か 等 ・願う子ども像 ~どんな子どもに育てたいか~ ~どんな力をつけたいか~ ・今の子どもの実態 ~算数的に、学び面で、子どもたち の性格から~ ・どんな学び方をさせたいか 等 授業する力 ・場の設定は自然か ・学習の流れは子どもにとって自然か ・期待した考えが、本当に出てきそうか ・子どもに分からせる工夫 ・どの考えを、どの順に取り上げたいか ・板書計画 ・学習具や図は、イメージ作りに適切か ・ICTやデジタルコンテンツの活用 等
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