Ⅶ.研究内容1【単元構成の工夫】 (1) 思考のつながりを把握するための「学びの地図」の活用 ① 「学びの地図」の作成 小学校新学習指導要領総則の第42-(4)及び,中学校新学習指導要領総則の第42-(6)では,「各 教科等の指導に当たっては,児童生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動 を計画的に取り入れるようにすること」が新たに規定として盛り込まれている。 そこで,本研究所では,前研究において,単元の学習を計画する際に「単元イメージ」の作成を行うこ とにした。また,今年度より新しい研究が始まったことに伴い,再検討を行った結果,より子どもが身 近なものとして活用できるようにするために名称を「学びの地図」とした。 なお,「学びの地図」には,単元の学習内容や授業の流れだけではなく,単元の学習で必要となる既 習事項や単位時間で身に付ける必要がある事項(到達点)を明示するようにしている。 ② 「学びの地図」作成のねらい 学びの地図を授業で用いることは,教師・子どもの双方に利点があると考える。本研究所では,以下 のようなねらいをもって学びの地図を活用している。 (1)教師が子どもの実態をとらえ,つまずきを想定しながら,それに対するフィード バックをしやすい単元構成にできる →すべての子どもに基礎・基本を定着させることをねらいとして (2)子どもが単元の学習の流れを的確に把握できる →子どもが見通しをもって授業に臨み,単元を通した課題をより意識して学習できるように することをねらいとして →子どもにとって,これまで学習したことやこれから学習することの意義や意味を理解しな がら学習を進めることをねらいとして (3)既習事項を活用する場面を明確にすることができる →単元全体を通しての子どもの思考の流れを想定し,既習事項の最適な活用場面を設定する ことをねらいとして 「学びの地図」を活用することで,教師が単元構成を考える際に子どもの思考の流れや既習事項を確 実に把握できるだけではなく, 子どもにとっても問題を解決していく上でのツールとしての役割を担い, 問題解決や思考の深まりにつながっていくと考えている。 ‐6‐ ③ 協力校で作成した学びの地図の例(6年 単元名「電気とわたしたちのくらし」 ) 学びの地図 これまでの単元では… ○「電気のはたらき」(4 年) ・乾電池の数やつなぎ方による電流の強さの違い ○「電流が生み出す力」(5 年) ・電磁石と電流の向き ・電磁石の強さ ・光電池を使ってモーターを回す 教師が子どものつまずきを 想定しながら,フィードバッ クしやすい単元構成にする ことができます。 (1) 電気は,つくることができるのか(4 時間) ①② 電気は,どのようにしてつくられ,利用されているのかを調べること ができる。 ③ 発電機で電気をつくっていろいろな器具に流し,電気がどのように変換 されるのかを調べることができる。 ④電気のつくり方と利用のされ方をまとめることができる。 子どもが単元の流れを的確 に把握することができます。 (2) つくった電気は,ためることができるのか(3 時間) ⑤ つくった電気は,ためることができるのかを調べることができる。 ⑥⑦ ためた電気は,どのように使われているのかをまとめることができ る。 既習事項を活用する場面を 明確にすることで,思考の流 ることで,思考の流れを具体 化することができます。 (3) 電気は、熱に変えることができるのか(4時間) ⑩⑪電熱線の太さによって,発熱のしかたに違いはあるのかを調べ、電熱 線の太さと発熱の関係についてまとめることができる。 ( ⑧⑨電気を熱に変えて使っているものを探し,電熱線に電流を流すと発熱 するかを調べることができる。 単 元 を 通 し た 課 題 ( 4 ) 電 気 を 利 用 し た 物 を つ く ろ う 3 時 間 ) ‐7‐ (2) 見通しと振り返りの充実を図った問題解決的な学習 ① 問題解決的な学習の学習過程 児童生徒の思考力を育むために,各教科の学習において問題解決的な学習過程を充実させることが重 要である。 例えば算数科では, 「問題→課題→解決の見通しをもつ→自力解決→集団解決→まとめ→練習問題」 の一連の過程で数学的な考え方が養われる。 「解決の見通しをもつ活動」や「学習を振り返り,学習内容 を確実に定着させる」学習活動が重要となることは,現行の学習指導要領の中にも明記されている。 そのため,本研究所では問題解決的な学習の学習過程を設定するにあたり「見通し」と「振り返り」 を重視し,下記の図のように設定した。 【問題解決的な学習の学習過程】 ○つかむ 気 興味・関心や問題意識を高め,自分なりの課題 をもつ。 付 く ○見通す 既習や経験したことなどに基づき,解決の見通 しをもつ。 考 え る 納 得 す る 「単元を通した課題」を提示す ることで,学ぶ目的が明確にな り,結果や解決方法,表現方法 などがイメージしやすくなる。 自力での解決にあたり,何が問 題(わからない)なのかを明確 にすることで,追究場面での思 考を深めることができる。 ○追究する 互いの考えを表現し合いながら,考えを深め広 げるなど,集団で課題を追究する。 ○まとめる・振り返る 解決の道筋を振り返ったり,学んだことを深め たりする。次への学習の意欲をもつ。 ‐8‐ 授業作文や,自己評価・相互評 価による振り返りの工夫をする ことで,より確かな学習内容の 定着を図ることができる。 ② 見通しをもたせる工夫 問題解決的な学習は考える学習であるといえる。考えることのスタートには児童生徒の疑問から生ま れる学習課題が不可欠である。学習課題がなければ,児童生徒が学習の見通しをもつことは難しい。そ こで,単元導入場面での工夫が重要なものとなってくる。 本研究所では,「単元を通した課題」を位置づけた。児童生徒が考えたくなる課題,考える必要性や 必然性のある課題を設定することで,既習事項などを結びつけ,答えの予測や解決方法,表現の仕方な どを考えて学習計画を立てることができる。 例えば,下記に記した事例では, 「探検で見つけた生き物を,1 年生に文章で紹介しよう。」という単 元を通した課題を設定した。この課題で,相手意識や,目的意識が明確になり,1 年生にわかりやすい 文章を書くにはどうしたらよいかという視点から,カードの活用や,原稿用紙の使い方など課題解決の 方法を見通すことができた。 小学校 2 年生 国語「発見したことを紹介しよう」の実践より 児童生徒に必要感の ある「単元を通した 1時間目 つかむ 課題」を設定する。 ◆単元を通した課題「探検で見つけた生き物を,1 年生に文章で紹介しよう。 」 →1 年生からのビデオレターを見て,1年生に探検で見つけた生きものを教えてあげよう。 2時間目 見通す ◆文章の書き方について知る。 →教材文を読み,相手に伝わりやすい文章の書き方を考える。 3時間目 追究する 教材文を参考に,相手に 伝わりやすい文章を書く ために必要な学習活動を 考え,学習計画に加えて いく。 ・発見カードを作る。 ・友達と作文を読み合う 等 4・5時間目 追究する ◆文章の構成を考える。 ◆文章を書く。 →探検のことを詳しく思い出してカ →カードをもとに,発見したことを紹 ードに記入する。 介する文章を書く。 見通す段階で考えた学 試行錯誤を通し 習活動を具体化する。 て,作文を仕上 げていく。 ‐9‐ ③ 振り返りの場面の工夫 学習を振り返る場面を単元(本時)の終末に設定することも大切である。練習問題に取り組んだり, 自己評価や相互評価を取り入れたりすることで,学習内容の定着を図ることができるとともに,学習課 題に対する自分の考えを深めることができる。 本研究所では,今年度より本時の終末場面で「授業作文」に取り組むこととした。授業の終末にその 学習内容を振り返り,文章で表現することで,児童生徒一人ひとりが解決の道筋を改めてたどったり, 深めたりすることができるとともに,教師側にとっては,児童生徒がその課題に対してどのように理解 しているのかを評価する1つの手立てともなる。 「授業作文」の実践事例 小学校 3年 「小数」の学習より(児童の授業作文から) ○本時では, 「小数と分数の大きさを比べるにはどうしたらよいか」という課題での授業を行った。 授業の終末で「小数と分数の大きさを比べるときは…」の続きを一人ひとりが考えて文章化し,授 業のまとめとした。 ・小数と分数の大きさを比べるときは,分数を小数に直して比べればいい。 7 12 =0.7,10=1.2 10 ・小数と分数の大きさを比べるときは,小数を分数に直してもいいし,分数を小数に直してもいい。 7 12 =0.7,10=1.2 10 のように直すとやりやすい。 中学校 3年 社会「地方の政治と自治」の学習より(生徒の授業作文から) ○これまでの地方自治の授業、そして、今日の授業を振り返り、“地方自治に参加する” というこ とはどういうことなのか,自分なりの考えを表現した。 ・地方自治というのは、私たち住民が意見を述べ、住民の求めを実現し、地域住民を支える大切な場 であると思う。そこに、私も参加するってことは、私自身、地域の一住民として地域を盛り上げ、 守っていくことなのだと思う。 このように,問題解決的な学習の中で見通しと振り返りを充実させることで,学習過程を通して児童 生徒は常に思考を繰り返しながら課題に取り組むことができるようになる。 問題解決的な学習を通して, 「自ら考える術」を学び, 「考える経験」を積み重ねることによって,思考力を高めていくことができる と考える。 ‐10‐ (3) 2通りの知識・技能の活用場面の整理・位置づけ 釧研が考える「活用」 「用いる活用」 既習の見方・考え方,知識・技能を用いて,新たな見方・考え方を見つけ出す。 「活かす活用」 本単元で習得した力を使い,他の問題や生活場面の問題に応用する。 思考力は,各教科等の指導において,基礎的・基本的な知識・技能の活用を図ることによって培われ る。本研究所では,この「活用」方法を「2 通り」に整理した。 2 つ目は, 「用いる活用」である。単元の追究場面では,前時までの学習や自身の生活経験で身に付け た知識・技能を用いて,課題の解決を図っていく。既習・既知の知識・技能を用いて課題を解決する中 で,新たな見方・考え方を見つけ,拡げていく。 2 つ目の活用は, 「活かす活用」である。本研究所では,見通しをもち,問題解決的な学習を主体的に 取り組ませるために「単元を通した課題」の設定を行っている。単元終末には,本単元で学んだことを 活かして,他の問題や生活場面の問題に応用したり,学んだ結果をまとめて発表したりする。 「用いる活用」で子どもが見つけ,身に付けた知識・技能,見方・考え方も基礎的・基本的な知識・ 技能となり, 「活かす活用」や次の単元の「用いる活用」のもととなる。「用いる・活かす活用」は,課 題解決を図り,思考力を培っていくために,どちらも重視すべき活用である。 よって,本研究所では,活用を上記の 2 通りに整理し,両者を区別して効果的に取り入れることが思 考力の向上に結び付くととらえている。 指導例 小学校 3 年生 社会科「見直そう わたしたちの買い物」 スーパーマーケットに スーパーマーケットに おける工夫や努力とい おける工夫や努力につ った営みについて学習 いて,買い物調べの結果 したことを活かして, や保護者への調査,普段 自分の考える「一番の の買い物での経験を想 スーパーマーケット」 起して考える。 企画書を作る。 ‐11‐
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