高久 竜太郎さん 水資源専門官 開発途上国のニーズで最も高いのは、水とエネルギーだろう。とりわけ水は、飲料水も農業用水 も、生命に直結する資源であり、その持続的な入手はまさに国民の生命線。この水資源の管理 を、日本の農林水産省から ADB へと舞台を移して取り組むのが、高久竜太郎(たかく・りゅうたろ う)さんだ。 農業工学を学び、農水省へ 2007年11月に入行した高久竜太郎です。中央・西ア ジア局(CWRD)の環境・自然資源・農業課で水資源専門 官(Water Resources Specialist)をしています。 私は農業分野で生きてきました。農学部の農業工学科 で灌漑排水、土地改良、水資源管理や農村計画を学び、 修士号を取得してから農林水産省に入りました。日本の 役所は国内各地に赴き、現地での仕事が多い職場でもあ ります。まず北海道の網走管内で、3年間灌漑用ダム、パ 一昨年、日本の両親をマニラによんで、生活とオ フィスを見てもらいました。待遇面、生活、子ども の教育環境を実際に見て安心したようで、良かっ たです。 イプライン、排水路の設計、積算、工事監督などをしまし た。その後、本省で約5年間、農村の土地利用に関する法律改正案や、農村の防災事業の企画 立案や予算の取りまとめを担当。そして、熊本県の小さな町に1年半滞在して、農業を通じた町の 活性化のための企画立案、それに伴う条例改正を担当しました。この町には2002年9月までい ました。 カンボジアの大使館で経済協力担当、戦略つくりと農業案件を実施 次に、カンボジアの日本大使館に移り、書記官として、農林水産、水、環境、防災分野の経済協 力と経済を担当しました。無償資金協力や技術協力の案件形成と調整に携わり、また、メコン川 委員会の担当として ADB や世界銀行との援助調整を経験しました。当時の国際協力機構(JICA) や国際協力銀行(JBIC)と共に、セクターごとに戦略を作り、また、日本の対カンボジア援助計画 の作成にも参加させてもらいました。2003年から06年までの3年間のカンボジア勤務を経て再 び日本に戻り、鹿児島にある農水省直轄の農業水利事務所に赴任しました。工事課長、設計企 画課長として、大隈半島で二つの国家プロジェクトの完了に目処をつけることができました。その 際、市議会の対応には気を使い、予定通りにプロジェクトが完了できるかということに心を砕いた のを覚えています。 また、職場では労働組合が強く、良好な職場環境の維持にも腐心したことが印象に残っていま す。 応募機関を絞った 鹿児島勤務時代、勉強時間をたっぷりとれたことは、私にとっては幸運でした。カンボジア勤務 時代に入手したデータを基に論文を執筆することもできました。国際機関への応募書類の書き方 とか、面接の受け方などの情報を入手し始めたのはこのころで、プレゼンテーションの仕方も勉強 しました。 実際の応募にあたっては、国連食糧農業機関(FAO)と ADB に絞って空席状況をチェックしまし た。前者は農業専門の政策、技術支援機関ですし、ADB はアジアでの灌漑を含めた水関連のプ ロジェクトを多く手がけており、両機関ともカンボジア勤務時代に同じドナーとして一緒に仕事をし た経緯もあり、馴染みがあり、また自分のスキルが役に立つだろうと思ったからです。 東京でのビデオインタビューや、マニラの最終面接でのテクニカルパネルでは、プレゼンテーシ ョンの他に、大変具体的で技術的な質問があり、それに対して明快な応答が求められました。こ れらをなんとか切り抜けられたのは、それまでに現場を通じて培った技術的な経験と、明確で簡 潔さが求められる市や町議会での答弁、農水省で国会答弁の準備をした経験が生きたと思って います。 現在の仕事は、農村の人々が必要な灌漑用水 の供給システムのリハビリ事業や、洪水被害の軽 減を図る河川管理事業に取り組んでいます。担当 地域は中央・西アジア全土です。 例えば、タジキスタンでは洪水の被害軽減と灌 漑事業を担当しています。前者はアフガニスタン 国境の国際河川で堤防建設、洪水予測警報シス アフガニスタン北部・マジャルシャリフでの灌漑水路修復 現場 テムを構築するものです。ハード面は政府が、ソフ ト面は政府とNGOが連携してそれぞれ進めてい ますが、堤防設計や施工計画が不十分だったり、 実施中に洪水被害にあったり、政府とNGOが意見対立することもあります。技術的サポートや事 業計画の変更、意見の調整は、担当として不可欠な役割です。同じ地域では、灌漑事業も行って いますが、まだ多くの国が、水の制御と利用双方に脆弱さを抱えているといえるでしょう。今年は、 ウズベキスタンでの灌漑事業の案件形成や、中央アジア諸国での水資源セクターの戦略ペーパ ーの作成支援等も行うこととなっており、忙しい年になりそうです。 ADB はスタッフの役割が明確化されている反面、個 人がになう責任の範囲が広く、また成果主義のためプレ ッシャーに感じる部分もありますが、多くの国から水分 野での支援を求められており、やりがいを感じています。 また、相手国政府の意見を最大限に尊重した仕事の進 め方はアジア的ともいえ、気に入っています。家族もマ ニラの生活を楽しんでいると思います。 アフガニスタンとの国境河川でのタジキスタンの 河川堤防の修復現場 (取材と構成:吉田 鈴香)
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