かどの たかふみ 葛野 高文さん エネルギー専門官 アジアの目覚しい経済成長を支えてきた要素の一つは、開発援助を中心とした大規模な資金を 投入して整備された基幹インフラである。しかし、インフラはまだまだ不足しており、アジアの経済 成長を持続させるためには 2020 年までに約 8 兆ドルのインフラ整備が必要であると ADB は試算 している1。その半分に当たる 4 兆ドルがエネルギー分野のインフラ需要であり、エネルギーとりわ け安定した電力供給が、経済成長と生活向上にいかに大切であるかが窺える。エンジニアリン グ・コンサルタントとして日本の ODA 事業の現場で得た経験を活かして電力インフラの開発に携 わっているのが、葛野高文(かどの・たかふみ)さんだ。 社会基盤工学を学んだエンジニアから始めた経歴 2006 年 6 月に入行した葛野高文です。東南アジア局エネルギー 課のエネルギー専門官(Energy Specialist)です。今年 8 月に異 動するまでは中央・西アジア局エネルギー課で 4 年間、同様に エネルギー分野に従事していました。 私はエンジニアです。1999 年に東京大学大学院で社会基盤 工学専攻を修了した後、土木技術を用いて途上国開発に貢献し たいとの思いから、開発コンサルタント会社である日本工営株 式会社に入社しました。以後 7 年間、東南・中央アジアや南米の ADB のソフトボール大会では日本チー ムのキャプテンを務めました。毎週末、 子供のサッカーチームのコーチもして いますが、おかげでゴルフが全然上達 しません。 電力、水資源、上下水、都市計画など多様な分野の開発に従事 しました。様々な事業の計画、設計、施工管理、とモノづくりの各 フェーズを体験し、これらの現場経験が自分の礎になっていま す。 ヤング・プロフェッショナルとして ADB への転職を考えた最大の理由は、ドナー側の立場でよりよい案件を形成して実施したかっ たからです。また、国際的な組織で勝負したいという思いもありました。コンサルタント時代、様々 な地域で仕事をする機会が与えられましたが、やはり日本と地域的に最も密接しているアジアの 発展に寄与したく、ADB を希望しました。 私はヤング・プロフェッショナル制度のもと ADB に入行しました。「ヤング」と言っても 31 歳でした が、インフラの重要性が改めて再認識されはじめた時期にうまく職を得ることができました。ADB に転職して 5 年になり今では業務に慣れましたが、同じ開発従事者でも、コンサルタントとドナーで は立場も考え方にも違いがあるので当初は戸惑いました。 初めの年は中国の農業・環境改善案件の形成や実施管理のサポートが主たる業務で、エンジ ニアリングの要素も限られており、現場から離れてしまったことを後悔することもありました。しかし それは、ドナーとして政府や地方自治体との対話の進め方や、ADB の数あるポリシーやガイドラ 1 ADB. Infrastructure for a Seamless Asia. 2009. Manila インをじっくり学ぶには適した一年間でもありました。 中央・西アジア局に異動して間もなく、アフガニスタンでの大型新規案件を纏め上げる機会を得 ましたが、治安問題はもとより、政府の極端な事業実施能力不足、不足する良質なコンサルタント、 建設費の高騰などに悩まされました。しかし、コンサルタント時代にマスタープラン策定や施工管 理を通して学んだ教訓を織り交ぜることで、満足のいく案件を作り上げることができました。この時 までには、ADB のポリシーや手続きについて十分な理解が既にあったので、それに加えて現場経 験を案件に取り入れる余裕があったからだと思います。とは言え、実施は一筋縄では行かず、開 発援助、とりわけ紛争地域における開発の難し さを実感しました。そんな中、ADB が 2002 年か ら進めていたウズベキスタンからアフガニスタ ンへの電力輸入を可能にする送電線が完成し たニュースは嬉しいものでした。標高 3,800m を 超える山脈を含む総延長 420km の約半分に対 して ADB が融資を提供したものです(案件詳 細)。完成を受けて首都カブールへの電力の安 定供給が実現したのですが、同国の電化率は アフガニスタンでの現地調査にて。 未だに十数パーセントなので、自分が手掛けた案件が、更に多くの町や村に灯りをともすことを願 っています。 中央アジアから東南アジアへ 中央・西アジア局時代には、キルギスタンやウズベキスタンの案件に携わりました。旧ソ連時代 に建設されたインフラが数十年に亘って放置されてきたキルギスタンでは、2010 年に電力系統の リハビリ案件を形成したほか、電力需要の 9 割以上を水力発電で賄う同国の水力発電所のリハビ リ案件も形成中です。一方ウズベキスタンは、天然ガスに恵まれた国ですが、それはいずれ枯渇 するという危機感から太陽エネルギーの開発に着手する方針を固め、ADB がパートナーとして選 ばれました。まだ調査が緒についたばかりですが、未使用の広大な土漠に太陽熱発電施設が建 設され、クリーンな電気が供給される日を心待ちにしています(案件詳細)。 今年 8 月からは東南アジアの発電所や地方電化事業などを担当しています。コンサルタント時 代に慣れ親しんだ地域ですが、今回は現場レベルの貢献はできなくとも、ドナーとしてセクター全 体の発展に寄与する仕事ができればと思っています。そのためには、個別の案件だけでなく、構 造改革であったり、民間資本の誘致、地域協力、ドナー協調など様々な議題について政府と対話 しなければなりません。ADB 職員の発言は時には一国の発展に大きな影響を与えることもありま すので、当該国の事情に合った適切なアドバイスができるように毎日が勉強です。 (取材と構成:吉田 鈴香)
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