第 49 回アジア開発銀行(ADB)年次総会における 麻生副総理総務演説

第 49 回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
麻生副総理総務演説
2016 年 5 月 4 日(於:ドイツ フランクフルト)
1.冒頭
 総務会議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、
 ドイツ政府及びフランクフルトの皆様の温かい歓迎に心より感謝申し上げ
ます。
 ADB はこれまで 50 年の長きにわたり、アジア地域の経済発展と貧困削減
の推進をリードしてきました。今後、ADB が地域の発展により一層大きな役
割を果たしていく上での主要課題について、私の考えを述べたいと思いま
す。
2.質の高いインフラの推進
 アジア地域が持続的な経済発展を果たしていくためには、インフラの質の
向上と、そのための投資を促進することが重要です。この考えの下、日本
は昨年 5 月、安倍総理のイニシアティブの下、「質の高いインフラパートナ
ーシップ」を打ち出し、11 月には具体化のためのフォローアップを発表しま
した。
 その具体策として、民間セクターにおけるインフラの投資を推進するため、
本年 3 月に ADB に新たな信託基金を創設しました。この信託基金を通じ、
日本から 5 年間で最大 15 億ドルを投融資します。さらに、日本は、本年 1
月に運用を開始したアジア・太平洋プロジェクト組成ファシリティ(AP3F)に
4000 万ドルの貢献を表明しました。AP3F と連携しつつ、PPP 案件の組成
支援と、インフラ投資への民間資金の動員に ADB とともに取り組んでいき
ます。
 また、公共インフラの整備促進のため、JICA と ADB の協働により、途上国
への戦略的・総合的な支援を可能とする枠組みを新たに策定しました。こ
の枠組みにより、JICA と ADB で合わせて 100 億ドルを目標に融資を行うと
ともに、貧困削減日本基金(JFPR)を通じてインフラ案件の組成支援を行っ
ていきます。この枠組みにより、案件の開発を上流段階から支援すること
で、途上国のニーズに沿った形で質の高いインフラの開発を促進していき
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ます。
 地域で最も重要な開発パートナーとして、ADB は案件の質を高める政策を
推進していくべきです。この観点から、ADB が、案件に高い技術を導入す
る取組みを推進するとともに、Value for Money の概念に基いた調達制度
の改革を実施することを強く期待します。
 また、ADB の組織体制と人材の強化も重要です。この観点から、中尾総裁
が進めてきた業務の効果的・効率的運用を目指す業務改革の推進を強く
支持します。また、日本は、日本の高い技術を持つ人材がより多く ADB に
貢献できるよう努力していきます。こうした取組みは、日本と ADB との連携
の強化を推進するとともに、アジア地域における質の高いインフラの推進
に役立つものと考えます。
3.ADB の役割と日本の貢献
 アジア地域に膨大なインフラ投資需要が存在する中、ADB がインフラ開発
において主導的役割を果たすことが重要です。この観点から、来年 1 月に
実施されるアジア開発基金(ADF)と通常資本財源(OCR)の統合の実現に
より、ADB が限られた資金を効率的に活用し、アジアの膨大なニーズに効
果的に対応していくことが重要です。統合による支援量の拡大と、先に述
べた ADB の高い技術の導入への取組みが、ADB 業務の両輪となって働い
ていくことに強く期待します。
 また、ADF-OCR 統合と時を同じくして、ADF 12 の財源補充が予定されてい
ます。アジア地域は、災害が多く、また、伝染病の蔓延しやすい地域であり、
ADF 12 が、こうした新たなリスクの予防及び対応といった課題に効果的に
取り組んでいくことが重要です。日本は、低所得国支援の重要性と、こうし
た地域の課題を認識しつつ、ADF 12 においてもこれまで同様最大ドナーと
しての責任をしっかり果たしていく所存です。
 災害対応の経験と知見を豊富に有する国として、日本は、災害分野の支
援を重視しています。昨年のネパールでの震災やミャンマーでの洪水被害
に対しては、日本からの二国間の支援に加えて、JFPR を通じ、Build Back
Better の要素を取り入れた復興支援を行ってきています。また、保健分野
においては、JFPR を通じ、ラオス、モンゴルなどにおける医療制度の改革
支援や、大メコン地域(GMS)における感染症対策支援などの支援を推進
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してきています。
 持続的開発目標(SDGs)において世界における新たな開発課題が明確に
された今、ADB が 2030 年に向けた長期戦略の更新にあたり、地域と ADB
が直面する課題を明確にしていくことが重要です。新戦略には、先に述べ
た災害や地域保健といった新たなリスクへの対応を適切に反映していく必
要があります。また、2020 年までに地域の多くの国が中所得国に発展する
ことが予測される中で、今後、ADB が中所得国への関与を選択的・戦略的
に行っていくことが重要です。また、新戦略においては、ADB がプロジェクト
中心の機関であるという位置付けを維持しつつ、プログラム融資による途
上国の構造改革支援を効果的に組み合わせていくべきです。さらには、経
済危機により強いアジアを築くために、危機対応の枠組みを整えていく必
要があると考えます。
4.ともにひらくアジアの未来
 上記に述べたように、アジア地域の発展のために ADB に期待される役割
は質・量ともに拡大しています。こうした中で、ADB がさらに大きな役割を果
たしていくには、総裁の強いリーダーリップが不可欠と考えます。中尾総裁
は、2013 年 4 月の就任以来、ADF と OCR の統合、業務改革、気候変動関
連支援の倍増方針の打出し等、数々の実績を残してきました。引き続き、
中尾総裁の強いリーダーシップの下、ADB がアジア地域の発展にさらなる
貢献を果たしていくことを強く期待します。
 来年は、設立 50 周年という節目の総会が横浜で開催されます。アジア地
域及び ADB が新たな時代に入っていく中で、このような記念すべき総会を
ホストできることを光栄に思います。横浜市は、19 世紀後半の日本の開国
以降、日本の発展と海外との交流の歴史を担ってきた重要都市の一つで
あり、アジアと ADB の未来の発展を議論する場所として最適であると確信
しております。日本は、この重要な総会の開催に向けて、しっかりと準備を
進めて行く所存です。
 御清聴ありがとうございました。
(以上)
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