複素周回積分による数値積分の理論誤差解析および応用 緒方 秀教 1 , 平山 弘 2 1 電気通信大学大学院情報理工学研究科情報・通信工学専攻 神奈川工科大学創造工学部自動車システム開発工学科 e-mail : [email protected] 2 1 はじめに 台形公式は周期解析関数の 1 周期区間積分に 対して高精度な積分値を与える.[1] ではこれに 着目し,任意の有界閉区間上の実積分に対し, これを複素周回積分に変換して台形公式を適用 した高精度な数値積分公式を提案している.本 研究ではこの数値積分公式に対し理論誤差評価 を与え,また,その応用,佐藤超関数論との関 係についても触れる. [1] で示された数値積分公式の概要を,以下 に記す.区間 [a, b] ( −∞ < a < b < +∞ ) 上の 積分 ∫ b f (x)w(x)dx I= (1) a を考える.ここで,f (x) は与えられた関数 f (x), w(x) は重み関数である.C を複素平面内の閉曲 線で区間 [a, b] をその内部に含むものとし,f (x) を複素関数に拡張した f (z) は C およびその内 部を含む領域で正則であるとする.このとき, Cauchy の積分公式を用いると,積分 I は次の ように書き換えられる. { } ∫ b I 1 f (z) I= w(x) dz dx 2πi C z − x a {∫ b } I 1 w(x) = dx dz. f (z) 2π C a z−x ここで, ∫ Ψ(z) = a b w(x) dx z−x とおくと,積分 I は次のように表される. I 1 f (z)Ψ(z)dz I= 2πi C ∫ α 1 = f (ϕ(u))Ψ(ϕ(u))ϕ0 (u)du, (2) 2πi 0 ここで,C のパラメータ表示を z = ϕ(u), 0 5 u 5 α (ϕ(u) は周期 α(> 0) の周期関数)と した.関数 Ψ(z) の具体形は,例えば,( (a, b) =) z+1 (−1, 1),w(x) = 1 の場合は Ψ(z) = log z−1 となり,(a, b) = (0, 1),w(x) = xα−1 (1−x)β−1 ( α, β > 0 ) の場合は, ( ) 1 1 Ψ(z) = B(α, β) F α, 1; α + β, z z となる.(2) 最右辺に台形公式を適用すること により,次の数値積分公式を得る. I ' IN ≡ N −1 h ∑ f (ϕ(kh))Ψ(ϕ(kh))ϕ0 (kh). (3) 2πi k=0 後で述べるように,この数値積分法は佐藤超 関数の理論と密接な関係がある.そこで,(3) で与えられる数値積分法を,ここでは「超関数 法」と呼ぶことにする. 2 理論誤差解析 [2]4.6.5 節の定理を用いて,数値積分公式 (3) の誤差評価に対する下記の定理を得る.この定 理から,数値積分公式 (3) の誤差は標本点数 N を大きくしていくと指数関数的に減衰すること がわかる. 定理 1 積分路 C のパラメータ表示関数 ϕ(w) は複素平面内の帯状領域 | Im w| < d0 ( d0 > 0 ) で正則,| Im w| 5 d0 で連続,そして,周期 α の周期関数であるとする.−d0 5 δ 5 d0 なる 定数 δ に対し線分 0 5 Re w < α, Im w = δ の 関数 z = ϕ(w) による像である閉曲線を Cδ と し,Cδ の内部である領域を Dδ とする.ただ し,−d0 5 δ1 < δ2 5 d0 のとき Dδ2 $ Dδ1 で あるとする. 関数 f (z) は D−d0 で正則,関数 Ψ(z) は D−d0 \ [a, b] で正則であるとする.このとき,0 < d < d0 なる任意の d に対し,数値積分公式 (3) の誤 差に関して次の不等式が成立する. |I − IN | 5 2α max |f (ϕ(w))Ψ(ϕ(w))ϕ0 (w)| Im w=±d × exp(−(2πd/α)N ) . 1 − exp(−(2πd/α)N ) 3 数値計算例 のことについて言及する.佐藤超関数とは,大 雑把に言えば,正則関数の境界値の差で表され る関数である.すなわち,実軸上の開区間 (a, b) を複素領域 D が含むとして,D \ [a, b] で正則 な関数 F (z) を用いて 積分 ∫ 1 I= xα−1 (1 − x)β−1 ex dx 0 = B(α, β)F (α; α + β; 1) = 3.71819 70362 84701 . . . × 104 ( α = β = 10−4 ) に対し,超関数法と DE 公式で積分の近似値を 計算し,その誤差の標本点数 N に対する変化 の様子を図 1 に示した.ただし,本方法の方法 では,複素積分路 C として楕円 z = ϕ(u) = 1 1 + 2 4 ( ) ( ) 1 i 1 ρ+ cos u + ρ− sin u, ρ 4 ρ ρ = 10 をとっている.数値計算は C++でプログラミ ングし,倍精度計算で行った. 図から,超関数法による数値積分の誤差は標 本点数 N に対し指数関数的に減衰しているが, DE 公式ではまったく近似値が計算できていな いことがわかる.この理由は次のように考えら れる.DE 公式では,標本点を積分区間端点に 集積するようにとっているが,この数値例の場 合あまりにも特異性が強いので,十分な精度を 得ることができない.一方,超関数法では特異 点である積分区間端点を避け,複素平面上の被 積分関数が穏やかに変化する積分路上に標本点 を取っているので,被積分関数の特異性による 精度の低下を免れるのである. 2 log10(relative error) 0 a<x<b と表される f (x) を(佐藤)超関数と呼ぶ.そ して,正則関数 F (z) を超関数 f (x) の定義関数 と呼ぶ.超関数 f (x) の区間 (a, b) 上の積分を次 で定義する. ∫ a 0 5 u < 2π, b I f (x)dx ≡ − F (z)dz, C ここで,C は区間 (a, b) をその内部に含み,領 域 D に含まれる正の向きの閉積分路である. 本研究で扱っている数値積分公式に話を戻 すと,(1) の被積分関数 f (x)w(x) は F (z) = −1 f (z)Ψ(z) を定義関数とする超関数と見な 2πi すことができる.すると,元の積分 I の周回積 分表示 (2) は,超関数の意味での f (x)w(x) の 積分にほかならない.したがって,超関数法は は考えている実積分 I を与える超関数積分を台 形公式で近似計算していることに相当する. 数値実験例で示したように,超関数法は端点 に極めて強い特異性のある積分に対して有効 であるので,境界要素法に現れるような特異 性をもつ積分に対して有用であると考えられ る.さらに,超関数の理論では Cauchy の主値, Hadamard の有限部分といった特異積分も通常 の積分と統一的に扱うことができるので,超関 数法はこうした特異積分の計算にも応用できる と期待できる. 謝辞 本研究は JSPS 科研費 25400196 の助成 を受けている. -2 -4 -6 hyperfunction rule DE rule -8 参考文献 -10 -12 -14 -16 0 5 10 15 20 N 25 30 35 40 図 1. 超関数法と DE 公式の誤差 4 f (x) = F (x + i0) − F (x − i0), 佐藤超関数論との関係,応用 本研究で超関数法と呼んだ数値積分公式は, その名の通り佐藤超関数論 [3] と関連がある.そ [1] 平山弘:周回積分変換法による数値積分 法,第 44 回数値解析シンポジウム講演 予稿集,2015 年,21–24. [2] P. J. Davis and P. Rabinowitz: Methods of Numerical Integration, 2nd. ed., Academic Press, San Diego, U.S.A., 1984. [3] 今井功:応用超関数論 I,II,サイエン ス社,1981 年.
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