講義配布版

数学 B 第 6 回
担当: 田中 冬彦1
特異点
6
6.1
特異点と留数
特異点
領域 D で定義された関数 f について, z = c が f の孤立特異点とは
∃ r > 0 s.t. 0 < |z − c| < r で f は正則
と定義. また z ∈ D で f が微分可能な時, z を正則点ともいう (ローラン展開の説明も
参照.). 孤立特異点という時は, 主に c ∈
/ D を想定している. (例: f (z) = 1/(z − c) は
D = C \ {c} で正則であり, f は z = c を孤立特異点にもつ.)
問 138. 以下の関数について正則点でない孤立特異点をすべて挙げよ.
(a) 多項式 P (z), D = C.
1
, D = C \ {0, −3}.
+ 3)
( )
1
(c) sin
, D = C \ {0}.
z
(b)
z 2 (z
問 139. cos z ̸= 0 なる点で tan z :=
正則である.
sin z
と定義する. 定義されている集合上では tan z は
cos z
(a) tan(1/z) について, z = 0 を含め定義されていない点をすべて求めなさい.
(b) (a) を利用して, z = 0 が孤立特異点か調べなさい.
問 140. f (z) = 1/(ez − 1) とおく.
(a) ez = 1 を満たす複素数 z をすべて求めなさい. (ヒント:z = x + iy とおいて ez = ex eiy
としてみよ.)
(b) f の正則点でない孤立特異点をすべて挙げよ.
1
たなか ふゆひこ, 基礎工学部 J 棟 J612 号室, [email protected]
1
ローラン展開
f は 0 < |z − c| < R なる領域 D で正則とする. (したがって, z = c は孤立特異点.)
(i) 領域 D に含まれる任意の閉円環 r1 ≤ |z − c| ≤ r2 で
f (z) =
∞
∑
an (z − c)n
n=−∞
のように一様収束級数に展開できる.(ローラン展開)このとき, 展開係数は一意
に定まる.
(ii) ローラン展開において −1 次の項の係数 a−1 を留数 (residue) という.
( I
)
dz
f (z)
Resz=c f := a−1 =
2πi
|z−c|=ϵ
(iii) ローラン展開において
−1
∑
an (z − c)n を主要部という. 主要部が 0 の時, z = c
n=−∞
を正則点という. 主要部が無限に続くとき, つまり a−k ̸= 0 なる正の整数 k が無
限にあるとき, z = c を真性特異点という. 主要部が有限項, つまり
a−k
a−1
+
·
·
·
+
, a−k ̸= 0
(z − c)k
z−c
の時, z = c を k 位の極という.
問 141. f (z) =
sin z
は D = C \ {0} で定義されている. 以下の問に答えなさい.
z
(a) z = 0 まわりでローラン展開しなさい.
(b) z = 0 が正則点であることを示しなさい.
(c)
{
f (z) =
sin z
,z
z
̸= 0,
α, z = 0
のように C 上で複素関数を定義する. f が C 全体で正則であるには α をどのように
定めればよいか.
複素関数 f の定義域に含まれていない正則点は, f が正則であるように元の領域に付け
加えることができる. (その意味で, 正則点はしばしば除去可能な特異点とも呼ばれる.)
sinh z
は D = C \ {0} で定義されている. z = 0 が正則点であることを示
z
しなさい. また, f (0) を適当に定義して, f が C 全体で正則になるように拡張しなさい.
問 142. f (z) =
2
e2z − 1
は D = C \ {0} で定義されている. z = 0 が正則点であることを
z
示しなさい. また, f (0) を適当に定義して, f が C 全体で正則になるように拡張しなさい.
問 143. f (z) =
sin2 z
問 144. f (z) =
について以下の問に答えなさい.
z2
(a) z = 0 まわりでローラン展開しなさい.
(b) z = 0 が正則点であることを示しなさい.
(ヒント: sin2 z を cos 2z の形にする.)
問 145. 以下の複素関数 f を指示に従ってローラン展開しなさい.
(a) f (z) = z 2 , z = −1 を中心として.
(b) f (z) = 1/z, z = −3 を中心として. (w = z − (−3) とおくと |w| < 3 でべき級数展開で
きる.)
(c) f (z) = 1/z 2 , z = −3 を中心として. (展開の最初の数項のみでよい.)
問 146. f (z) =
1
について以下の問に答えなさい.
+ 3)
z 2 (z
(a) z = −3 を中心とし, 0 < |z + 3| < 3 でローラン展開しなさい.
(b) z = 0 を中心とし, 0 < |z| < 3 でローラン展開しなさい.
問 147. f (z) = e1/z について以下の問に答えなさい.
(a) z = 0 まわりでローラン展開しなさい.
(b) z = 0 が真性特異点であることを示しなさい.
問 148. f (z) = e1/z について以下の問に答えなさい.
(a) 0 < r1 < r2 < ∞ を任意に固定する. 問 147 で求めた展開において, r1 ≤ |z| ≤ r2 で一
n
∑
1
様収束することを示しなさい, (ヒント: fn (z) :=
aj j とおくとき sup |f (z) −
z
r1 ≤|z|≤r2
j=0
∞
∑
1
fn (z)| ≤
aj j → 0 を示せばよい.)
r1
j=n+1
(b) 0 < r2 < ∞ を任意に固定する. 問 147 で求めた展開において, 0 < |z| ≤ r2 では一様
n
∑
1
収束しないことを示しなさい. (ヒント: fn (z) :=
aj j とおくとき sup |f (z) −
z
0<|z|≤r2
j=0
fn (z)| = ∞ を示せばよい.)
3
一般のローラン展開
f は 0 < r < |z − c| < R なる円環領域 D で正則とする. (この場合, z = c は孤立特異
点とは限らない.) この時 D に含まれる閉円環 r1 ≤ |z − c| ≤ r2 上では
∞
∑
f (z) =
an (z − c)n
n=−∞
のように一様収束級数に展開できる.
1
について以下の問に答えなさい.
− 2)
問 149.
z 2 (z
(a) 0 < |z| < 2 で z = 0 のまわりでローラン展開しなさい.
(b) 2 < |z| < ∞ で z = 0 のまわりでローラン展開しなさい. (a) の結果と一致するか.
問 150. 以下の関数について z = 0 を中心としてローラン展開し, z = 0 が極, 正則点, 真
性特異点のいずれであるか述べなさい.
(a)
1
, 0 < |z| < 1.
+ 1)
z(z 2
sin z
.
z
z
(c) z
(ベルヌーイ数を用いる.)
e −1
z
問 151. 関数 2
について z = 0 を中心として 1 < |z| < 2 でローラン展開せよ.
z − 3z + 2
(b)
留数定理と計算公式
複素関数 f は, 区分的になめらかな単純閉曲線 C とその内部において有限個の点
z1 , . . . , zn 以外で正則とする. (したがって, z = z1 , . . . , zn は f の孤立特異点.) こ
のとき, 以下の公式が成立.
I
∑
dz
f (z)
=
Resz=zj f
2πi
C
j=1
n
また, f が z = c に k 位の極をもつとき, (z − c)k f (z) = a−k + a−k+1 (z − c) + · · · のよ
うにかける. この場合, 留数は以下で計算できる.
a−1
1
lim
=
(k − 1)! z→c
(
d
dz
)k−1
{
}
(z − c)k f (z) .
問 152. 以下の問に答えなさい.
4
1
の z = 2, 3 の近傍でのローラン展開を考えて, 留数をすべて求
(z − 2)(z − 3)
めなさい.
I
dz
(b) C を |z| = 1 なる円周にとるとき,
f (z)
を求めなさい.
2πi
C
I
dz
(c) C を |z| = 5/2 なる円周にとるとき,
を求めなさい.
f (z)
2πi
C
I
1
dz
問 153.
を計算しなさい. ただし, ϵ は十分小さい正の定数とする.
2
|z|=ϵ z(z + z + 1) 2πi
(ヒント: 極 z = 0 の位数をまず調べよ.)
I
1 dz
問 154.
を計算しなさい. ただし, ϵ は十分小さい正の定数とする.
|z|=ϵ sin z 2πi
(a) f (z) =
問 155. f (z) =
1
について以下の問に答えなさい.
+ 3)
z 2 (z
(a) 孤立特異点(正則点を除く)をすべて求めなさい.
(b) (a) の各特異点の近傍でローラン展開しなさい.
(c) (a) の各特異点での留数を求めなさい.
問 156. f (z) =
sin z
とおく. z = 0 での極の位数について答え留数を求めなさい.
z2
sin z sin(z − 1)
とおく. z = 0, z = 1 での極の位数について答え, 留数を
z 2 (z − 1)3
a−2
a−1
求めなさい. (ヒント: z = 1 の近傍では f (z) = (z−1)
2 + z−1 + . . . とかけることがただち
にわかる. そこで, a−2 が 0 かどうか確認すれば位数がわかる.)
問 157. f (z) =
6.2
無限遠点
無限遠点
w := 1/z, w = 0 なる点として形式的に z = ∞ を導入 (無限遠点).
f (z) = f (1/w) = g(w) とおくとき
• z = ∞ が孤立特異点 ⇔ w = 0 が g(w) の孤立特異点.
• z = ∞ が正則点 ⇔ w = 0 が g(w) の正則点.
• k 位の極や真性特異点も同様に定義.
問 158. w = 1/z とおく.
5
(a) 領域 |z| < 1 は w 平面においてどのような領域にうつるか.
(b) 反時計回りの円周 z = reiθ , 0 ≤ θ ≤ 2π は w 平面においてどのような曲線にうつるか.
向きも含めて答えなさい.
(c) e−1/z において z = ∞ は極, 真性特異点, 正則点のいずれであるか理由をつけて答えな
さい.
問 159. f (z) = e1/z について, 以下の問に答えなさい.
(a) z = 0 が真性特異点であることをローラン展開によって示しなさい.
(b) zn = 1/n の時, lim |f (zn )| を求めなさい.
n→∞
(c) zn = −1/n の時, lim |f (zn )| を求めなさい.
n→∞
問 160. (配布版を修正) f (z) = e1/z , z ̸= 0 とする. 任意の複素数 α(̸= 0) を固定する時,
lim zn = 0, lim e1/zn = α を満たす複素数の列 {zn } を与えなさい.
n→∞
n→∞
一般に真性特異点 z = a の近傍では α を任意の複素数 (無限遠点 +∞ も含む) とするとき
lim zn = 0, lim f (zn ) = α
n→∞
n→∞
を満たす数列 {zn } が存在する. (ワイエルシュトラスの定理.)
問 161. ワイエルシュトラスの定理を用いて, 複素関数 f (z) の孤立特異点 z = c に関する
以下の同値性を示しなさい.(難)
(a) z = c が正則点 ⇐⇒ lim f (z) が有限の値で存在.
z→c
(b) z = c が k 位の極 ⇐⇒ lim |f (z)| = +∞.
z→c
(c) z = c が真性特異点 ⇐⇒ lim f (z) が存在しない.
z→c
6