北海道金融経済レポート 道内企業における設備投資動向と

2016年3月18日
日本銀行札幌支店
北海道金融経済レポート
道内企業における設備投資動向と今後の課題
本稿の執筆は日本銀行札幌支店営業課
河上
岳史
が担当しました。本レポートで示された意見は
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照会先:日本銀行札幌支店営業課 橋本(TEL:(011)241-5232)
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1.道内企業における設備投資額の動向
○ 道内企業の設備投資額は、2009 年度をボトムに増加に転じ、景気が緩やかに回復する
中、収益が改善するもとで増加している(図表1)
。
【図表1】道内企業の経常利益および設備投資額の水準(1989 年度=100)
110
100
90
80
70
60
50
経常利益
40
設備投資額
30
89
年度
91
93
95
97
99
01
03
05
07
09
11
13
15
(注)経常利益、設備投資額は、電気・ガスを除くベース。2015 年度は、2015 年 12 月調査における計画値。2014 年度以
前は、2015 年度の計数を基に前年度比増減率を使用して遡及算出したもの。
(出所)日本銀行札幌支店「企業短期経済観測調査(北海道分)」
2.道内企業における設備投資の特徴と課題
○ 道内企業の設備投資を内容別にみると、老朽化した既存設備の維持・更新投資が大宗を
占めており、需要増加に対応するための能力増強投資や人手不足等に対応するための省力
化・合理化投資などは一部に止まっている(図表2、3)。
【図表2】投資内容別にみた道内企業の設備投資実施割合
80
70
60
50
40
30
20
10
0
(%)
13年
維持・更新
能力増強
省力化・
合理化
経営多角化
研究開発
14年
環境保全
15年
その他
(注)四半期毎の調査結果を日本銀行札幌支店が暦年ベースに集計。具体的には、各調査回の回答企業数に「設備投資を
した(する)企業」の割合を乗じて、設備投資の実施企業数(A)を算出し、これに「設備投資の目的」の割合(複
数回答あり)を乗じて、設備投資の目的別の実施企業数(B)を算出。B/Aによって、暦年ベースの投資内容別
の道内企業の設備投資実施割合を算出した。なお、維持・更新は「設備更新」を、能力増強は「売上能力拡大」を
使用。
(出所)北海道「企業経営者意識調査」
1
【図表3】省力化・合理化投資の実施事例
A社
人手不足を受けて、魚の一次処理がほぼ自動化できる機械を導入した。
(食料品)
B社
人員が限られる中にあって、建設資材の加工作業の機械化を進めた。
(建設)
C社
パート職員が不足していることから、省人化を目的としてセルフレジを導入
(小売)
した。
○
特に省力化・合理化投資については、既に道内企業の人手不足感が過去にないレベルに
まで強まっており(図表4)
、今後も人口減少に伴い労働力人口がますます減少すること
が見込まれる中にあっては、製商品・サービスの安定的な供給力を維持するために必要不
可欠であると考えられる。
「過剰」超
【図表4】雇用人員判断の推移
「過剰」―「不足」(%ポイント)
20
15
10
5
0
▲5
▲10
▲15
▲20
▲25
▲30
予測
「不足」超
04
年
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(出所)日本銀行札幌支店「企業短期経済観測調査(北海道分)」
○
また、2014 年度における企業の従業員一人当たりの付加価値額をみると、北海道は全
国で 32 位と下位に位置している(図表5)
。道内で設備投資が増加し始めた 2010 年度以
降の推移をみても、全国を下回っており、その差も縮小していない(図表6)。
○
今後、人口減少により、国内需要の減少が見込まれるため、従来までの販売数量を増や
す方法では、企業収益の確保は困難となる。このため、製商品・サービスの付加価値を高
めていくことが課題であり、これに向けた高付加価値化投資や研究開発投資を進めること
が必要である。道内企業の一部では、すでにこうした投資を実施している(図表7)が、
さらに広がることによって、従業員一人当たりの付加価値額が全国に近づくことが期待さ
れる。
――
中長期的には付加価値向上に繋がると考えられる研究開発投資についても、その
実施割合は低水準となっている(図表2)
。
2
【図表5】従業員一人当たりの付加価値額(2014 年度)
(百万円)
6.2
高知県
鹿児島県
千葉県
沖縄県
岩手県
大分県
秋田県
宮崎県
福島県
和歌山県
鳥取県
滋賀県
岡山県
山形県
新潟県
北海道
岐阜県
福岡県
埼玉県
佐賀県
群馬県
茨城県
栃木県
三重県
長崎県
山口県
島根県
奈良県
熊本県
愛媛県
石川県
兵庫県
静岡県
京都府
長野県
香川県
広島県
福井県
青森県
大阪府
神奈川県
東京都
富山県
宮城県
愛知県
徳島県
山梨県
16
14
12
10
8
6
4
2
0
(注)速報値。「サービス業(その他のサービス業)」および「その他の産業」を除く業種計。従業員一人当たりの付加
価値額は、付加価値額を常時従業者数で割ったもの。
(出所)経済産業省「企業活動基本調査」
【図表6】従業員一人当たりの付加価値額の推移
10
(百万円)
北海道
全国
9
8
7
6
5
09
年度
10
11
12
13
14
(注)2014 年度は速報値。業種および算出方法は図表5と同じ。
(出所)経済産業省「企業活動基本調査」
【図表7】高付加価値化投資・研究開発投資の実施事例
D社
(輸送用機械)
E社
(宿泊)
F社
(運輸)
G社
(鉄鋼)
従来製品よりも燃費効率に優れており、かつ利益率が高い部品の生産ライン
を強化している。
客室のベッドを高級化するなどの投資を行った結果、狙いどおり客室単価の
引き上げに成功した。
グレードの高い車両を新たに購入し、販売価格を高めに設定できる富裕層向
けのビジネスを強化したことが増益に寄与している。
現在の業績は苦しいが、新興国のライバル企業が台頭する中にあっては、生
産性を高めない限り当社の競争力を維持できないことから、研究開発投資を
継続的に実施している。
3
○
現在、企業における金融機関からの借入金利は既往ボトムで推移しており、極めて緩和
的な金融環境となっている(図表8)。加えて、道内金融機関は、企業の前向きな投資案
件に対してファンドによる資金供給を積極的に行うなど、道内企業の設備投資へのサポー
トを強化している。こうした状況を追い風にして、道内企業が将来を見据えた設備投資を
拡大させていくことを期待したい。
【図表8】道内金融機関の貸出約定平均金利の推移(総合・ストックベース、4業態平均)
2.3
(%)
2.2
2.1
2.0
1.9
1.8
1.7
1.6
1.5
1.4
08
年
09
10
11
12
13
14
15
16
(注)4業態平均は都銀、地銀・地銀Ⅱ、信金の平均値。
(出所)日本銀行札幌支店
以
4
上