No.2016-026 2016年9月9日 http://www.jri.co.jp 貸家・マンション市場の先行き不安 ~ 着工は持ち直しも、需給緩和のリスク ~ (1)住宅着工戸数が持ち直し。利用関係別にみると(図表1)、持家は2014年入り後、消費税率引き上げ に伴う駆け込み需要の反動減が顕在化。2015年には下げ止まったものの、足許まで低水準が持続。一 方、貸家は反動減が軽微にとどまり、早期に増加基調に復帰。分譲マンションは、大規模案件が多く 振れが大きいものの、2016年入り後は高水準が持続。足許、景気を下支えしている住宅投資の先行き は、底堅い動きが続く貸家とマンションの動向が大きなカギ。 (2)貸家の着工増加の背景には、相続税対策需要が指摘可能。2015年1月から相続税制が変更され、他の 金融資産等に比べ資産評価額が低く、税負担を抑制できることから、貸家建設への需要が拡大。着工 は首都圏のみならず、その他地方圏でも大幅に増加(図表2) (3)もっとも、実需に見合わない着工の増加は、空室率を押し上げる懸念。実際、不動産情報流通業者の データを基に作成された首都圏アパート空室率は、消費税率引き上げに伴う駆け込み物件が流通し始 めたのに伴い上昇基調(図表3)。今後、相続税対策物件の流通が開始すれば、空室率は一段と上昇 する公算大。 (4)地方圏では、すでに賃貸用住宅の空き家率が首都圏より高かったうえに、世帯数は今後減少が見込ま れることから、空室率上昇は一段と深刻なものになる見込み(図表4)。今後、賃貸住宅の集約・除 却が進まなければ、空き家問題の深刻化や、賃料の下落、賃貸住宅経営の収益率低下などのリスクが 顕在化。着工も、これらリスクが意識され始めれば、早晩頭打ちとなる見通し。 (図表1)住宅着工戸数 (図表2)地域別貸家着工戸数(季調値年率) (万戸) (2010年=100) (季調値) 首都圏 170 45 持家<30.9> 貸家<41.8> 分譲・一戸建て<13.7> 分譲・マンション<12.9> 160 150 その他地域 40 消費税率引き上げ 35 140 30 130 25 120 相続税制変更 20 110 15 100 10 90 80 5 70 0 2005 06 2010 11 12 13 14 15 16 (年/期) (資料)国土交通省「建築着工統計」 (注)分譲の季節調整値は日本総研作成。凡例<>内は2015年度の 新設住宅着工全体に占めるシェア。 08 09 10 11 12 13 14 (資料)国土交通省「建築着工統計」 (注)季節調整値は日本総研作成。 15 16 (年/月) (図表4)地域別賃貸用住宅空き家率と 世帯数変化率 (図表3)首都圏アパート空室率 (%) 37 (%) 20 東京23区 36 07 賃貸用住宅空き家率(2013年10月時点、左目盛) 世帯数変化率(2015→2020年、右目盛) (%) 2.0 東京市部 35 神奈川県 34 埼玉県 33 千葉県 32 31 30 19 1.5 18 1.0 17 0.5 16 0.0 29 ▲0.5 15 28 2014 15 首都圏 16 その他地域 (資料)総務省「住宅・土地統計調査」、 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」 (年/月) (資料)分析:(株)タス、データ提供:アットホーム(株) 【ご照会先】調査部 研究員 菊地秀朗(03-6833-6228、[email protected]) 1 (5)一方、マンション市場にも先行き不透明感が増大。分譲マンション着工件数の過半を占める、首都圏 のマンション市場動向をみると(図表5)、着工は底堅く、供給戸数も比較的高水準にある一方、販 売戸数が減少した結果、在庫戸数は増加傾向。 (6)販売戸数の減少の背景には、家計のマンション取得能力の低下。家計の調達可能額と、マンション価 格のバランスから算出される取得能力指数をみると(図表6)、住宅ローン金利は低下したものの、 可処分所得の伸びは弱く、また、金利低下のプラス効果を大きく上回るペースでマンション価格が上 昇したため、取得能力は低下。 (7)2013年以降のマンション価格上昇の背景には、①既往の円安に伴う建材価格の上昇や、人手不足を背 景とした人件費の上昇を受けた建設工事費の上昇、②相続税対策を含めた投資マネーの流入、などが 指摘可能。足許では建設工事費はピークアウトしており(図表7)、投資マネーの流入が価格上昇の 主因に。 (8)家計の可処分所得の伸びが弱いこと、住宅ローン金利はすでに歴史的低水準にあり、低下余地がそれ ほど大きくないこと、政府当局が節税目的のマンション購入を問題視し始めていること、などを勘案 すると、高水準のマンション供給を維持することは困難。実際、首都圏新規マンション契約率は足許 で低下傾向にあり、好不調の判断の基準とされる70%を割り込む月が増加(図表8)。以上を勘案す ると、マンション市場は早晩調整局面に入ると見込まれ、着工も弱含む見通し。 (図表6)マンション取得能力指数(関東大都市圏) (図表5)首都圏マンション着工・販売・在庫 マンション全残戸数(右目盛) 分譲マンション着工 新規マンション全売却戸数 (万戸) 14 (2002年=100) 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年/期) (資料)総務省「家計調査」、不動産経済研究所「首都圏マンション市場 動向」、日本銀行を基に日本総研作成 (注1)取得能力指数=調達可能額/住宅価格 (注2)調達可能額は、年間返済額を可処分所得の25%、返済期間を30年、 金利を長期プライムレートとした際の借入額と、貯蓄額の合計。 (注3)可処分所得と貯蓄額は関東大都市圏。直近の貯蓄額は季節調整 済み前期比横ばいと仮定。 (2002年=100) 115 (千戸) 110 14 105 12 100 95 10 90 8 85 ↑取得易 80 6 ↓取得難 75 4 70 2002 03 04 05 06 2 12 10 8 6 4 2 0 0 2000 02 04 06 08 10 12 14 16 (資料)国土交通省「建築着工統計」、 (年/期) 不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」 (注)着工、売却戸数は季調値年率、後方4四半期移動平均。 全残戸数は期末値。季節調整値は日本総研作成。 (図表7)建設工事費(季調値、3ヵ月移動平均) (2010年=100) 112 (図表8)首都圏新規マンション契約率 90 建設工事費デフレーター(建築・住宅) 建設用材料物価指数 名目賃金指数(建設業) 110 80 106 75 104 70 102 65 100 60 98 55 96 11 12 13 14 15 (%) 85 108 2010 取得能力指数 調達可能額 マンション価格(右逆目盛) 50 2007 16 (資料)国土交通省「建設工事費デフレーター」、 (年/月) 日本銀行「企業物価指数」、厚生労働省「毎日勤労統計」 (注)季節調整値は日本総研作成。 08 09 10 11 12 13 14 15 (資料)不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」 【ご照会先】調査部 研究員 菊地秀朗(03-6833-6228、[email protected]) 2 16 (年/月)
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