2 フーリエ級数の収束 周期関数をフーリエ級数の和の形で表すと, 一般に無限個の項の和となる. この場合, いくつかの問題が発 生する. その問題とは, • 各項を足し合わせたとき, その和はある決まった関数に近づくのか (収束するのか). • また, その関数は元の周期関数の等しいのか. というものであり, これらは無限個の和特有の問題である. 2.1 無限個の和の収束 復習 周期 T をもつ周期関数 f (t) をフーリエ級数の形で書くと, f (t) = ∞ ∞ ∑ 1 2nπt ∑ 2nπt a0 + an cos + bn sin 2 T T n=1 n=1 (1) となり, フーリエ係数 an , bn は ∫ 2nπt 2 T f (t) cos dt an = T ∫0 T T 2nπt b = 2 f (t) sin dt n T 0 T (2) の積分をそれぞれ実行することで求められる. 多くの周期関数においては,an , bn の値は大きい n に対しても 0 にはならず, 式 1 の右辺は無限個の項の和となる. このような場合, 式 1 の左辺と右辺が等しいということ はどう考えるべきだろうか. 式 1 の右辺の二つの Σ は, それぞれ n = 1 に対する項からはじめて n = 2, 3, · · · と n を増やしていき, そ れらを足し合わせていくことを意味している. しかし例えば, 式 1 の右辺の形に定義された関数のグラフを実 際に描こうとするときには, n = ∞ の項まで足し合わせることは不可能である. そこで適当にある正の整数 N を選んで, n = N の項まで足し合わせを行なう. このことを無限個の項の和を有限項で打ちきるという. こ の打ち切って作った関数を fN (t) と書くこととすると, fN (t) = N N ∑ 1 2nπt ∑ 2nπt a0 + + an cos bn sin 2 T T n=1 n=1 (3) となる. どんなに大きい N を選んでも, N が有限値である限りは fN (t) と f (t) は厳密には等しくならない. 無限個の項の級数である式 1 の右辺が f (t) に等しい, と言えるための条件を fN (t) を用いて書くと「どの t に対しても, N を大きくしていったときに fN (t) が f (t) に際限なく近づいていく」と言ってよい. この条件 を満たすとき, 式 1 の右辺の級数は f (t) に収束するという. このことを, 式では lim fN (t) = f (t) N →∞ と表す. 1 2.2 滑らかな関数と収束 フーリエ級数の収束について調べてみよう. 例 ここでは, 前章で用いた周期関数 { sin2 t fp (t) = 0 (0 ≤ t < π) (π ≤ t < 2π) (4) を周期 2π に拡張した関数 fs (t) を考える. この fs (t) に対する fN (t) を求める. fs (t) のフーリエ係数は, 1 1 a = , a1 = 0, a2 = − , an = 0 0 2 4 bn = 0 (n が偶数のとき) 4 bn = − (n が奇数のとき) πn(n2 − 4) (5) なので, フーリエ級数の具体的な形は fs (t) = 4 1 4 4 4 1 + sin t − cos 2t − sin 3t − sin 5t − sin 7t − · · · 4 3π 4 15π 105π 315π (6) という無限個の項の和となる. 式 6 の級数を n = N で打ちきった fN (t) は, N = 1, 2, 3, 5, 7 のそれぞれに対 して, 上の和で最初の 2 項, 3 項, 4 項, 5 項, 6 項だけをとったものになる. N = 1, 2, 3, 5 に対する fN (t) のグラフより, フーリエ級数 (6) は確かに fs (t) に収束すると言えそうである. 一般に, 以下のことが知られている. 周期関数 f (t) が滑らかな関数ならば, そのフーリエ級数は f (t) に収束する. すなわち, 周期 T の周期関数 f (t) が滑らかであれば, どの t に対しても lim fN (t) = f (t) N →∞ (7) である. ¶Tips:滑らかな関数とは ³ f (t) が滑らかな関数というのは, f (t) もその 1 次導関数 f 0 (t) も連続であることを意味する. 要するに, どこででも繋がっていて, かつ折れ曲がっていないグラフをもつ関数のこと. µ ¶ 問題 ´ ³ 先ほどの関数 fs (t) が滑らかな関数であることを示せ. µ ´ 2 2.3 不連続点をもつ関数 すべての関数が滑らかであるならば, フーリエ級数の収束についてはここまでの話で事足りる. 実際には, もう少し一般的な関数を取り扱わなければならないことがしばしばある. そういうわけで, ここでは滑らかで ない関数について考えていく. まずは, 以下の関数 fp (t) = 1 2 t (0 ≤ t < 2π) 4π 2 (8) を周期 2π で周期的に拡張して作った関数 f (t) を考える. この関数は図からわかるように, t = 2kπ(k は整 数) のところで値がジャンプする. すなわち, ある t = t0 に対して, t が大きい方から t0 に近づいた極限値を f (t0 + 0), 小さいほうから近づいた極限値を f (t0 − 0) とすると, 今の場合,f (2kπ + 0) と f (2kπ − 0) が一致 しない. このように関数の値がジャンプする点を不連続点と呼ぶ. そして, 1 周期の間に有限個の不連続点しかもた ず, かつどの不連続点 t0 に対しても f (t0 + 0) と f (t0 − 0) が有限値として存在するような関数を区分的に連 続な関数と呼ぶ. さらに, f (t) とその 1 次導関数 f 0 (t) がともに区分的に連続であるとき, 関数 f (t) を区分的 に滑らかな関数と呼ぶことにする. 式 (8) を周期的に拡張して作った f (t) は, 不連続点 t = 2kπ(k は整数) を 1 周期に 1 つしか持た ず,f (2kπ + 0) = 0, f (2kπ − 0) = 1, f 0 (2kπ + 0) = 0, f 0 (2kπ − 0) = 1/π となり, 有限の値をもつ. さら に,t = 2kπ 以外では f (t) は滑らかになる. ゆえに, この f (t) は区分的に滑らかな関数であるといえる. ¶ 例題 ³ f (t) = tan t は区分的に滑らかな関数といえるか. µ ´ 解 1 tan t は周期 π の周期関数であり, その不連続点は tk = kπ + π(k は整数) だけなので 1 周期に 1 つしか 2 ない. さらに, この不連続点以外では tan t は滑らかである. しかし, f (tk + 0) は −∞, f (tk − 0) は +∞ とな り, 有限値とはならないので, f (t) = tan t は区分的に滑らかな関数であるとはいえない. よく扱う関数は, 滑らかではないが区分的に滑らかではある場合が多いので, 以下では区分的に滑らかな関 数のフーリエ級数を考える. ある周期関数 f (t) が区分的に滑らかであるときにも, フーリエ級数を求める積分 は問題なく実行できる. すなわち, 関数が滑らかである区間毎に積分して, その和をとればよい. しかし, この フーリエ級数は f (t) に収束するかわからない. この問題を考える際には,「sin 関数, cos 関数, 定数関数はい ずれも連続関数なので, それらに定数をかけて有限項足し合わせた関数 fN (t) も連続関数である」という点が 注意が必要である. この性質は N がいくら大きくても成り立つので,N を大きくしていったときの連続関数 fN (t) が,f (t) の不連続点付近でどのように振る舞うかが問題である. そこで, 式 (8) の fp (t) を周期 2π で周期的に拡張した関数 f (t) のフーリエ級数を考えよう. ¶ 例題 ³ 式 (8) の fp (t) を周期 2π で周期的に拡張した関数 f (t) に対する有限項で打ちきったフーリエ級数 fN (t) を計算せよ. µ ´ 解 周期 2π なので, T = 2π とする. まず a0 は a0 = 1 π ∫ 2π 0 1 2 2 t dt = 2 4π 3 3 n ≤ 1 では, 部分積分を使って 1 an = 4π 3 = ∫ 2π t2 cos ntdt 0 1 sin nt 2π ([t2 ] − 3 4π n 0 ∫ 2π 2t 0 1 cos nt 2π ] + =− ([−t 3 2nπ n 0 1 = 2 2 n π ∫ 0 sin nt dt) n 2π cos nt dt) n 同様に, bn = 1 4π 3 ∫ 2π t2 sin ntdt 0 4π 2 2 1 (− + 3 4π n n 1 = nπ ∫ 2π 2t = 0 sin nt dt) n が得られる. したがって, フーリエ級数は f (t) = ∞ ∞ 1 ∑ 1 1∑1 1 + 2 cos nt − sin nt 3 π n=1 n2 π n=1 n となり,n = N で打ちきった fN (t) は fN (t) = N N 1 1 ∑ 1 1∑1 + 2 cos nt − sin nt 3 π n=1 n2 π n=1 n となる. これを N を増やして図示してみると不連続点付近でどのように振る舞うかがわかる. それは次回のお楽 しみ!! 4
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