化学反応と熱・光~大学進学後の学習を見据えた指導

高等学校理科(化学)学習指導案
1.日時
平成27年1月29日(木) 5限目
2.場所
本校 化学Ⅱ教室
3.対象
2年3組・4組理型(男子16名女子19名 計35名)
広島県立三次高等学校
指導者 田中 宙斗
4.単元 化学 (2)物質の変化と平衡 ア 化学反応とエネルギー (ア)化学反応と熱・光
5.単元について
(1)単元観
本単元は高等学校学習指導要領理科 化学 (2)物質の変化と平衡 ア 化学反応とエネルギー
に位置付けられている。中学校では,第1分野「(4)イ(ウ)化学反応と熱」で,化学変化には熱
の出入りが伴うことについて学習している。ここでは,反応の前後における化学エネルギーの差が熱
や光といった形で現れることや,それが熱化学方程式で表されることを理解させることがねらいであ
る。生徒が化学反応に伴うエネルギー変化に着目し,熱力学的安定性について理解する最初の単元で
あり,大学において詳しく学習する,自発的に反応が進む向きについて考察するための基礎的な内容
を取り扱う。
(2)生徒観
本授業クラスは,2つの HR クラスから理系の生徒を集めた合同クラスであり,学習定着度の差が
非常に大きい生徒集団である。この1年間の定期テストの平均点は,両クラスで30点程度の差があ
る。理解力や計算力に大きな差があるため,授業進度の速度調節が大変難しい。しかし,科学現象に
対する興味・関心は高く,教員に対する反応も素直である。
本単元に関するアンケートを実施し,それに対する回答の結果より,本授業クラスには次の2点の
特徴が挙げられる。①身の回りにあるエネルギーの例を挙げるといった具体的な事象についての理解
はかなりの生徒ができている。②どういうときにエネルギーが生じるか,あるいは熱量と温度の違い
は何かといった問に対しての回答率が低く,エネルギーというものに対する理解度が低い。
(3)指導観
上記のことから,本単元では生徒にエネルギーという概念について,化学反応前後における変化と
いう観点から理解させることを目標とする。その際,抽象的な概念であるエネルギーを視覚的に捉え
る手段として ICT を用いて粒子モデル図・エネルギー図を示すことでイメージを定着させる。また,
学習定着度の低い生徒への手立てとしては,無理のない思考の流れを設定し,大まかなイメージの理
解から具体的な計算へとエネルギー図を用いて理解させることで,ヘスの法則を含めた熱化学に関す
る学習を系統的に進める。更に,発展的内容ではあるが化学反応をエネルギーの変化という観点から
考えるとともに,自発的反応が進む条件の1つとしてのエネルギー的安定性について考えるきっかけ
を与え,後に学習する速度論を合わせ,化学反応が起こる仕組みについて考察する素地を養う。
6.単元の目標
化学反応に伴う熱,光などの出入りについて観察,実験を行い,化学反応とエネルギーの関係を理
解させる。
7.単元の評価規準
関心・意欲・態度
日常生活や社会の中で,
熱化学に関する事物・現
象がどのように生かさ
れているか関心を持ち,
自ら進んで探究しよう
とする態度を身に付け
ている。
思考・判断・表現
身の回りの事物,現象の
観察及び実験から,その
原理を熱化学の基本法
則に適用して科学的に
考察し,導き出した考え
を的確に表現している。
8.指導と評価の計画
時間
学習内容
1 エネルギー図の定義
中学校内容の復習
2 化学反応とエネルギー的安定性
(本時)
3 熱化学方程式と熱の種類
4 ヘスの法則① 生成熱と反応熱の関係
5
実験 熱量測定実験
6 ヘスの法則② 結合エネルギー
観察・実験の技能
熱量測定実験における
恒温容器の使用や温度
測定の方法など,熱化学
における実験を行い,基
本操作を習得するとと
もに,その結果を的確に
記録,整理する技能を身
に付けている。
基礎的な知識・技能
化学反応に伴う熱や光
などは,エネルギーの
差から生じることを理
解するとともに,ヘス
の法則をはじめとする
熱化学に関する基本的
な原理・法則について
理解を深め,知識を身
に付けている。
評価
評価方法
関 思 技 知
◎
〇 定期テスト
ワークシート
○
◎ 定期テスト
行動観察
○
◎ 小テスト
定期テスト
○ ◎ 小テスト
定期テスト
○ ◎
ワークシート
小テスト
◎
定期テスト
9.本時について
(1)本時の目標
化学反応の前後における物質のもつ化学エネルギーの差が,熱及び光の発生や吸収となって現れる
ことを理解させる。
(2)観点別評価規準
・観察,実験に意欲的に取り組むとともに,様々な化学変化に伴うエネルギーの出入りについて関
心を持ち,意欲的に探究しようとする。
(関心・意欲・態度)
・発熱反応,吸熱反応における反応物及び生成物のエネルギー的関係性を理解している。
(知識・理解)
(3)準備物
7%及び 35% 過酸化水素水,酸化マンガン(Ⅳ),重曹,クエン酸, 100 mL ビーカー,温度計,PC,
スクリーン,プロジェクター,ワークシート
(4)学習の展開
指導過程・生徒の活動
【前時及び中学校内容の復習】 ICT を用いて確認する。
導入
(5 ・全ての物質はエネルギーをもっている。
・エネルギー図の表し方。
分) 【事象の提示】
◎ひもを引っ張ると温かくなる駅弁を紹介する。
【問題の設定】
◎実際に化学反応をエネルギー図で表してみよう。
【実験(1)発熱反応に伴うエネルギーの放出】(15分)
展開
(3 生徒実験
(1)過酸化水素の分解反応
7分
2H O → O + 2H O
)
・ 指導上の留意点
◎ 評価規準 [観点] (方法)
・簡単に確認を行う。
・身の回りで利用されている反
応熱を紹介し,興味付けを行
うとともに,中学校までの学
習を思い出させる。
・実際に触ることで,反応熱を体
感する。
・化学反応式を実験前に全体で確認する。
・火傷に注意させ,薬品が手に付
・試験管に MnO 粉末と H O を入れ,様子を観察する。 いた場合はすぐに洗うよう指
示する。
・試験管から溢れないよう,試薬
◎この反応で生じた熱エネルギーは,何エネルギーが
変化したものか。
量を調整しておく。
●化学エネルギー
・生徒の思考の流れに無理がない
◎この化学エネルギーは,どの物質がもっていたものか。
よう,机間指導によって様子を
●反応物である過酸化水素
把握する。
2
2
2
2
2
2
2
・エネルギー図をかき,反応の結果,
反応物と生成物のエネルギー差が熱
として放出されたことを確認する。
・自然現象はエネルギー的に安定な方
向へ進む,という原理を説明する。
◎これまで学習してきた多くの化学反応が,発熱反応で
あったことを,演示実験を交えて確認する。
演示実験 燃焼反応,中和反応
【実験(2)吸熱反応に伴うエネルギーの吸収】(20分)
◎発熱反応とは逆に,エネルギーの低い反応物からエネルギー
の高い生成物ができる変化について考える。
・水の生成反応 2H + O → 2H O の逆反応,
2H O → 2H + O は自然に起こるか。起きなければ,ど
のような操作をすれば起こるか。
●自然には起こらないが,電気分解をすると起こる。
◎水の電気分解をエネルギー図でかかせる。
・吸熱反応が,エネルギー図を用
・個人で考え,全体で発表する。
いて考えると“不自然な反応”
◎用語「発熱反応」「吸熱反応」について説明する。
であることに気付かせる。
2
2
2
2
2
2
◎吸熱反応が自発的に起こることはあるのだろうか。
・個人で考え,全体で発表する。
生徒実験
(2)クエン酸と重曹(炭酸水素ナトリウム)の反応
C H OH(COOH) + 3NaHCO → C H OH(COONa)
・クエン酸や重曹が掃除用品など
として利用されていることを
確認するため市販品を用いる。
+ 3CO +3H O
・ビーカーにクエン酸と重曹及び蒸留水を入れ,よくかき混ぜ, ・温度計を用いて溶液の温度低下
様子を観察する。
を客観的に示す。
◎観察,実験に意欲的に取り組む
[考察]
とともに,様々な化学変化に伴
◎この反応で起こったことを,
うエネルギーの出入りについ
エネルギー図と文章で表現させる。
て関心を持ち,意欲的に探究し
・個人で考え,班ごとにまとめる。
ようとする。 [関心・意欲・態
→全体で発表する。
度 ](行動観察及びワークシー
ト)
【まとめ】
◎発熱反応,吸熱反応における反
エネルギー図において,エネルギーが高い状態から低い状態へ 応物及び生成物のエネルギー
進むのが発熱反応であり,エネルギーが低い状態から高い状態へ 的関係性を理解している。 [知
進むのが吸熱反応である。
識・理解](ワークシート)
3
4
3
3
3
4
2
3
2
終結
(3 ◎反応はエネルギーの安定する方向に進むことだけでなく,「『乱 ・簡単に触れる程度にする。
分) 雑さ』が増加する方向に進む」という要素があることを説明す
る。