ワルラス均衡、厚生経済学の基本定理、公共財

ミクロ経済学(2015 年度)
教授 清水大昌 第 6 回 2015 年 10 月 22 日
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http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/micro2015.html
パレート優越・パレート改善・パレート効率性
まず、純粋交換経済の分析に入る前に、経済学で配分を考える際に非常に重要な概念を紹介する。
これらはイタリアの経済学者パレートによるものである。
• 選択肢 A が B をパレート優越するためには:
– 全ての人にとって A は B より悪くない。
– 少なくとも一人にとって A は B より良い。
• つまり、BからAに変更すれば、誰にも不満が起きずに、誰かは得をすることが出来る。この
ような場合に パレート改善された、ということが言える。
• パレート効率性: ある配分がパレート効率的であるのは、その配分をパレート優越する配分が
存在しないことである。
• 他に 4 通りぐらい同じことを言い換えることが出来る。どれかで納得して欲しい。
– その配分よりパレート改善することが出来ない。
– 誰かの効用を悪化させることなしに、他の人の効用を改善させることは出来ない。
– 誰かの効用を上げると、他の誰かの効用は下がる。
– 交換による利益は無駄なく、全て得つくされている。
• 経済学では「効率性=無駄がない」ということを、パレート効率性の考え方を使って表すこと
が多い。
純粋交換経済とエッジワースの箱
• 純粋交換経済:生産は行われず、各消費者は初期保有を持ち、それらを市場で交換することに
よって経済が成り立つ状況。一般均衡分析の一つの基本的な設定。国際経済学や公共経済学の
授業でも扱う。
• 経済主体 (ここでは2人の消費者) がある量の財を最初に保有する。それを初期保有量という。
消費者同士はそれぞれの初期保有量からある財を相手に渡し、別の財を受け取ることにより、自
分の効用 (満足度) を高めようとする。
• 交換することは全ての取引の基本。労働サービスや生産活動でさえ交換と解釈することが可能。
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• エッジワースの箱:消費者が2人のモデルで、2つの財があるときに、それぞれの初期保有量
の総量を縦と横の長さとして採った長方形の図。この箱の中のどの点も可能な資源配分になっ
ているし、逆にどの可能な資源配分も箱の中のどこかの点に対応している。よって、2 消費者間
の交換を一つの図で表せる。
一般均衡理論:純粋交換経済での市場均衡
• 基本的に消費者理論の図を 2 人のプレーヤーそれぞれについて描くこととなる。(片方は 180 度
回転し、予算制約線は一致する。)
• Aさんのりんごの初期保有量を x̄A , みかんの初期保有量を ȳA , りんごの価格を px , みかんの価
格を py とすると、Aさんが持っている収入 (資産) は px x̄A + py ȳA で与えられる。
• 予算制約線:初期保有の点を通り、傾きが −(px /py ) となる直線。
• Aさんのりんごの需要量を xA , みかんの需要量を yA とすれば、A さんの予算制約式は
px xA + py yA = px x̄A + py ȳA となる。
• 予算制約式は pA (xA − x̄A ) = pB (ȳA − yA ) とも書き換えられる。市場で y 財を売って、x 財を
買っている状態である。
予算制約とワルラスの法則
• ワルラスの法則:他の市場が全て均衡していれば、最後の一つの市場は必ず均衡する。
• 理由は予算制約。全体としての予算は初期保有なので、全ての市場を考えれば、使うお金の額
と持っている額は釣り合っている。そこで、他の市場で支出と収入が釣り合っていれば、最後
の市場でも釣り合っていることとなる。
• 2 財の場合のワルラスの法則の証明:
A さんの予算制約: px xA + py yA = px x̄A + py ȳA
(1)
B さんの予算制約: px xB + py yB = px x̄B + py ȳB
(2)
りんごの市場の需給均衡条件: xA + xB = x̄A + x̄B
(3)
となる。(1) と (2) をそれぞれ足し、(3) を代入して両辺から py を割ると yA + yB = YA + YB
が導出される。これはみかん市場の需給均衡条件と一致する。よって、予算制約が満たされて
いて、片方の財の需給が均衡すると、もう一つの財の需給が均衡されることが分かった。
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市場均衡とパレート効率性
• ワルラスの法則が成り立っている場合、市場均衡(ワルラス均衡)が成立している。
• エッジワースの箱で描くと、予算制約線の価格 (の傾き、つまり相対価格) がうまく調整され、
予算制約線と 2 人の無差別曲線がすべて同じ点で接している必要がある。
• 予算制約線と無差別曲線が接する話は消費者理論と同じ。無差別曲線同士が接するのは、そう
しないとパレート改善が出来てしまうから。
• つまり、市場均衡ではパレート効率的であること が分かる。
厚生経済学の基本定理
• 厚生経済学の第一基本定理:市場均衡はパレート効率的である。
– 相対価格調整メカニズムが働き、2 人の無差別曲線が接するようにすることにより、効率
性が達成されている。
– 完全競争、市場の失敗がない、完全情報などの条件は必要。
• 厚生経済学の第二基本定理:パレート効率的な配分は市場均衡として達成することが可能である。
– 所得再分配に経済主体が合意していれば、市場の規制なしに市場メカニズムによって望ま
しい配分に到達できる。
• これらにより、完全競争時では市場に任せることで良い結果がもたらされることが分かる。た
だ、その際の仮定が厳しい。
• 定理のために必要な仮定は (1) プライステーカー (2) 完全情報 (3) 財の同質性 (4) 取引費用が
掛からないこと。(5) 外部性がないこと (6) 財が公共財の性質を持たないこと。市場の失敗が起
こってしまうからである。
• 現実的にはこれらの仮定が成立しない際には、どのようにどのくらい結果が変わるかを理論的、
実証的に分析して、企業行動の決定や政策提言の際にあてはめる必要がある。
市場の失敗
• 市場に任せておくと良いことも多いが、社会的に望ましい状況と乖離してしまうことがある。
これを 市場の失敗 と呼ぶ。
• 上記と対応させると、(1) 産業が独占、もしくは寡占状態である場合、(2) 情報が完全ではない、
もしくは情報の非対称性がある場合、(3) 財が差別化されている場合、(4) 取引費用が多々掛か
る場合、(5) 市場に参加する行動 (消費、生産) に外部性が存在する場合、(6) 財が公共財の性質
を持つ場合には、市場の失敗が起こりうる。
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• これを調整するために政府が補助金や税金で介入するべきという論調がある。ピグー税を掛け
ることにより、環境汚染を出すインセンティブを減らし、環境を良くするのも一つの例である。
(第 7 回)
• ピグー税のような環境税は比較的害がないが(環境汚染を減らすのが良いことは分かっている
ので)、実際にどのくらいのピグー税を掛ければよいかは需要曲線と供給曲線を計量的に推計す
る必要があるが、難しい。また、政府は情報の非対称性により情報量が少ないのに、そのよう
な税を掛けて問題ないのかという考え方もある。市場の失敗より政府の失敗の方が怖いと言え
るだろう。
公共財について
• 公共財 とは、公共的な財のこと、ではあるのですが、経済学では (1) 消費が排除不可能 (非排除
性) で、(2) 消費の競合性がない (非競合性)、という二つの性質を満たしている財のことを言う。
• (1) 消費の排除可能性 とは、対価を払わない人には消費をさせなくできるということ。
• (2) 消費の競合性 とは、ある人が消費をすると、別の人が消費できる量が減るということ。
• 消費が排除不可能で、競合的ではない財のことを 純粋公共財 という。例として、外交、警察、
その他行政サービス、テレビの一般放送、法律など。
• 公共財と言えば純粋公共財のことだけを扱うこともあるが、上の二つのうち片方のみの性質を
満たしている 準公共財 もある。
– 排除は可能であるが消費の競合性がない財のことを クラブ財 という。例としてケーブルテ
レビ、ゴルフ場やジムの会員権。
– 一方、排除は不可能で、消費が競合する財のことを 混雑財 という。駅前の広場、公園、一
般道路、図書館。
• 財が公共財的であるか私的財的であるかどうかは、白と黒、0-1 の問題ではなく、程度問題。
• インフラであるから公共財であるかというのは少々違う。たとえば高速道路は?電波は?病院?
• 公共財や準公共財は市場によって最適な水準を達成できない。例えば、町内会で駐車場を設置
するかを議論するとしよう。設置に賛成した人が工事費用を負担する必要があるとすると、実
際には賛成でも虚偽の申告をして支払わず、最終的には非排除性から利用は可能になる。これ
を フリーライダー問題 という。全員がそう考え、結局駐車場が作られなくなる恐れすらある。
←囚人のジレンマ(第 8 回)。
• このような虚偽の申告を起こさせないようにするにはどうすれば良いでしょうか?この授業で
は扱いませんが、メカニズムデザインというゲーム理論の分野で扱うことができます。
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