ミクロ経済学II 第16回 市場と均衡 3 1 2 3 4 資源配分の効率性 (エッジワースボックス) パレート効率性 消費者の交換モデル 生産者の交換モデル 厚生経済学の基本定理 パレート改善 定義: 誰の経済厚生を悪化させることなく誰かの経済 厚生を改善すること つまり、無駄をなくして効率的にすること 一人でも悪化する人がいたらパレート改善ではない パレート改善の例 物々交換・分業によるサービスの交換 売りたい人と買いたい人が取引 ⇒取引なしの状態と比べて、両方の効用(利潤)が改善 次の例はパレート改善ですか? 駅から大学への道の整備 生活保護の拡充 パレート改善でないからといって、やるべきでないとい うことにはならない パレート最適 (パレート効率的ともいう) 定義: これ以上パレート改善できない状態 ⇔誰かの経済厚生を悪化させることなしには誰かの経 済厚生を改善することはできない状態 このコースの期末試験日を今のままにしておくことは パレート最適ですか? ⇔このコースの期末試験日を他の日に変えるとパレート 改善になるでしょうか? 今日やること 1. パレート効率性 2. 消費者の交換モデル 3. 生産者の交換モデル 4. 厚生経済学の基本定理 消費者二人の交換モデル 消費者がAさんとBさん二人だけの経済・生産は行わ れない 消費財はX財、Y財の二つだけ: Aさんの効用関数: UA=U(XA, YA) Bさんの効用関数: UB=U(XB, YB) AさんはY財をY*だけ保有、BさんはX財をX*だけ保有 AさんとBさんはX財とY財を交換できる エッジワースボックス 縦の長さが経済全体の X* XB YB YA XA XB YA OA XA Yの量(Y*)、横の長さが OB 経済全体のXの量(X*) OAからの距離がAさん YB の消費量 Y* OBからの距離がBさん の消費量 箱の中の点はどれも実 現可能 パレート改善の例 初期保有量: 初期保有 XB YA Y* X* OA XA (XA=0, XB=X*) (YA=Y*, YB=0) YB 赤がAさんの無差別曲線 青がBさんの無差別曲線 初期保有点から へ移動 ⇒二人とも効用増 ⇒ パレート改善 ⇒ 交換の利益 OB パレート改善の例 初期保有点から 初期保有 XB YA Y* X* OA XA の中の どこかへ移動 OB ⇒どちらも効用を減らすこと なく、少なくとも片方は効 YB 用増 ⇒パレート改善 ⇒初期保有点はパレート非 効率 ある点を通る無差別曲線 が交差→パレート非効率 契約曲線 Aさんの無差別曲線とBさ XB YA OA XA んの無差別曲線が接して OB いる点はパレート最適 (なぜか?) YB パレート効率的な点をす べてプロットすると、契約 曲線が書ける 契約曲線上では Aさんの限界代替率 =Bさんの限界代替率 補足: 契約曲線はなぜOA, OBを通るか? 点OAではBさんの効用を XB YA 下げることなくAさんの効 OB 用を上げるのは無理 (理由:BさんのXとYの限 YB 界効用がどちらも正) ⇒OAはパレート効率的 同じ理屈で、点OBもパレ ート効率的 OA XA 今日やること 1. パレート効率性 2. 消費者の交換モデル 3. 生産者の交換モデル 4. 厚生経済学の基本定理 2企業の交換モデル 生産者が企業Aと企業Bだけ 生産要素はK、Lの二つだけ: 企業Aの生産関数: FA=F(KA, LA) 企業Bの生産関数: FB=F(KB, LB) AはKをK*だけ保有、BはLをL*だけ保有 AとBはKとLを交換できる エッジワースボックス 縦の長さが経済全体の 初期保有量 LB OB KB KA K* L* OA LA Kの量、横の長さが経済 全体のLの量 箱の中の点はどれも実 現可能: OAから見ると 企業Aの投入量、OBか ら見ると企業Bの投入量 初期保有量: (LA=0, LB=L*) (KA=K*, KB=0) パレート改善の例 赤が企業Aの等生産量 初期保有量 LB OB KB KA K* L* OA LA 曲線、青が企業Bの 等生産量曲線とする 初期保有点から の 中のどこかに移動する とどちらも生産量を減ら さず、少なくとも片方は 生産増 ⇒ パレート改善 ⇒ 交換の利益 生産のパレート効率性 企業Aの等生産量曲線と LB KA OA LA 企業Bの等生産量曲線が OB 接している点はパレート最 適 (なぜか?) KB 契約曲線=パレート効率 的な点の集合 契約曲線上では Aの技術的限界代替率 =Bの技術的限界代替率 今日やること 1. パレート効率性 2. 消費者の交換モデル 3. 生産者の交換モデル 4. 厚生経済学の基本定理 厚生経済学の第一定理 完全競争市場で市場の失敗がないとき、資源配分は パレート最適となる 理由: 市場均衡ではすべての消費者・生産者の限界代替率 が一致する 消費財の価格比=消費者の限界代替率 生産要素の価格比=技術的限界代替率 ⇒パレート最適になる条件が満たされている すべての消費者の限界代替率が一致 効用最大化点でのAさん の限界代替率=p1/p2 x2 効用最大化点でのBさん の限界代替率=p1/p2 x2 Aさんの 無差別曲線 Bさんの 無差別曲線 Aさんの 予算線 傾き= -p1/p2 傾き= -p1/p2 x1 Bさんの 予算線 x1 すべての生産者の限界代替率が一致 費用最小化点でのA社の 限界代替率=r/w K 費用最小化点でのB社の 限界代替率=r/w K A社の 等生産量曲線 B社の 等費用曲線 A社の 等費用曲線 傾き= -r/w B社の 等生産量 曲線 傾き= -r/w L L 厚生経済学の第一定理への批判 XB YA OA XA 完全競争市場で市場の失 敗がないとき、資源配分 OB はパレート最適となる 批判:パレート効率的なら良 YB いわけ? 配分 はパレート最適、 配分 はパレート非効率 パレート効率性の基準: より のほうが良いが、 と は比べられない パレート効率性は公平・公正の概念とは無関係 AさんまたはBさんがX財・Y財両方を一人ですべて消 費するケースもパレート最適 この例では、AさんとBさんでXとYをそれぞれ「半分こ」 するのはパレート最適ではない ←AさんとBさんの効用関数が違うため 契約曲線上のどの点を選ぶべきか? ⇒ パレート効率性以外の価値基準が必要 効用水準の比較 「二人の効用水準が同じになるように分ければ公平」 ではダメなことも ←序数的効用理論: 異なる効用関数を持つ個人間で は効用水準の比較はできない 公共経済学では、すべての人の効用関数が同じだと 仮定して(「代表的個人」の仮定)、効用水準の比較を 行うことが多い もっと深く考えたい人は⇒公共経済学、社会選択論 厚生経済学の第二定理 パレート最適な資源配分はどれも、 適切な再配分政策をとれば、 完全競争市場の均衡として実現できる 厚生経済学の第二定理の例 初期保有量 パレート効率的な点であ XB YA OA XA る★を完全競争均衡とし て実現したい 灰色の点線が予算線なら YB ★はAさんBさん両方の主 体的均衡点 ⇒所得移転を行って灰色の 直線上のどこかの点に初 期保有点を移せば、 ★は 完全競争均衡として実現 される OB 厚生経済学の第二定理への批判 パレート最適な資源配分はどれも、適切な再配分政策 をとれば、完全競争市場の均衡として実現できる 「適切な再配分政策」って具体的には何? 一括税・一括補助金 (lump-sum tax/subsidy): 経済主体の行動と無関係にかかる税/補助金 →経済主体の行動に影響を与えない 所得税・消費税は一括税ではない 現実的には非常に難しい
© Copyright 2024 ExpyDoc