イントロダクション 機会費用とサンクコスト

ゲーム理論(2015 年度)
教授 清水大昌
後期第 1 回 2015 年 09 月 16 日
[email protected]
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/game2015.html
西 2−402
授業計画
• 前期に神戸先生が情報の経済学を講義されましたが、後期は私がゲーム理論の基本をご紹
介していきます。
• 数学についてはあまり高度なものは使わない予定。直観的で使えるツールとしてのゲーム
理論を紹介していきます。
• トピック (予定)
– 静学ゲーム
– 動学ゲーム
– 繰り返しゲーム
– オークション
– 交渉ゲーム
• 成績は学期末試験が 45%、ミニテストが 5% となります。前期の 50% と合わせての評価と
いうことになります。
• 前期試験について。テストの平均は 30.4(45 点中)、前期成績の平均は 33.9(50 点中) です。
後期の成績とバランスを取る可能性もありますが、基本素点と考えてください。
神戸先生が作られた略解はここです。
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜19950211/game/exam1 2015.pdf
• 教科書は神戸 伸輔『入門 ゲーム理論と情報の経済学』、日本評論社、2004 年を引き続
き参考にしてください。
• 授業は定刻に始め、10 分ほど早めに終えます。質問にいらしてください。
• 私語や携帯電話など音が出る行為は他の学生の迷惑となるため禁止します。
ゲーム理論の紹介
• ゲーム理論とは何か?オセロや将棋の研究?マリオやポケモンの攻略法?
• どちらかと言えば前者。ゲーム理論を 1920 年代に最初に定式化したフォン・ノイマン (John
von Newmann)やナッシュ均衡やナッシュ交渉解を考案したナッシュ(John Nash) は、チェ
スやチェッカーを参考にしてゲーム理論を構築した、と言われている(逸話レベルですが)。
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• 非常に複雑な数学を使って分析をする場合も多い。ただし、様々な基本モデルが存在して、
それらは比較的簡単に扱うことが出来る。この授業ではそれらを紹介していきたい。
• 経済学や経営学のみならず、政治学、心理学、(進化) 生物学、社会学、工学などへの応用
が見られている、基本ツールとして知られている。
ゲーム理論と経済学
• そもそもゲーム理論ってなに?
• 合理的な意思決定者が戦略的に行動するとき、その行動がお互いの利得に相互作用を引き
起こす際に、どのように行動するべきかについての手法。
• 合理的: 自分が決めた目的関数がある。企業の利潤最大化。消費者の効用最大化。
• 経済学では多数の経済主体が行動していて、それぞれの行動が他の主体の利得へ影響を
もたらしている。各主体は他の経済主体の行動を予測しつつ、自分の行動を決める必要が
ある。
機会費用とサンクコスト
• ゲーム理論の最初のトピックなのに、なぜか普通はゲーム理論の教科書には出てこない機
会費用とサンクコストの話から始めたいと思います。
• 費用概念として基礎ミクロ経済学で学ぶ二つの考え方。
• 費用:ある選択肢を選んで行動したことにより失われるもの。
• 機会費用 (opportunity cost): 複数の選択肢がある際、ある一つの選択肢を選ぶことによ
り、選択できなくなった選択肢をもし選んでいれば得られていたであろう利益 (の中で一
番高いもの)
• サンクコスト (sunk cost, 埋没費用、投下費用ともいう。): 行動を選択する際には既に掛
かっているもしくは掛かることが確定している (固定) 費用
機会費用
• (ミクロ) 経済学は何の学問でしょう?よく出てくるのは「希少性」というキーワードです。
資源配分、資金、時間などが希少であるため、それらをどのように配分して自分の立てた
目標を達成するか、ということが分析対象となります。
• そしてよく言われるのが経済学的費用と会計学的費用。wikipedia では機会費用は前者で
は費用とするが後者では利益とする、とあります。(実際には得られていないので利益と
呼ぶのは微妙ですが。)
• 経済学の目的に戻ってみると、「自分がどのような行動を採るべきか」を考えること、つ
まり与えられた選択肢の中でどれが最適かということを考えます。
• これはいずれ勉強する「展開形ゲーム」の「ゲームの木」を使ってみるとよく分かります。
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機会費用に関連する問題
• 大学に進学する費用。会計上では学費や入学金。経済学ではこれに機会費用、つまり就学
期間働いていたら得られたであろう利益が入ります。
– この場合、便益の方もしっかり考える必要があります。大学で得られる知見や人脈だ
けなく、卒業後の収入の上昇分の合計が便益です。
• 1 円でも安ければ隣町の店にでも行くこと。会計上では得ですが、機会費用として時間の
ロスと体力のロスがあります。時間のロスは時給換算するとわかりやすいですね。
• 社長がタクシーに乗らず電車移動しているという美談は、もしかしたら社長が機会費用を
分かっていない、もしくは合理的なのですが社長の生産性が低くて時間のロスがあまり関
係してこない、ということもあるかもしれません。
• Robert H. Frank “The Economic Naturalist” 「日常の疑問を経済学で考える」(日本経済
新聞出版社) から。
– エリック・クラプトンのコンサート・チケットが無料で手に入ったとする。転売は出
来ない。同じ夜にボブ・ディランのコンサートもあり、どちらかに行きたいと考えて
いる。ディランのチケットの定価は$40 だが、入手するためには$50 までなら出すつ
もりだ(つまり、$50 以上なら、予定がなくてもコンサートには行かない)。これ以
外の費用はかからないとする。このとき、クラプトンのコンサートに行くことによる
機会費用はいくらだろうか。
– A. $0
B. $10
C. $40
D. $50
• 東京に住む人は無礼でせっかちで、地方に住む人は親切で礼儀正しいのはなぜか?
経済学における「ゼロ利潤条件」について
• 長期的完全競争市場では企業の利潤は 0 になります。
• 「そんなわけないだろ!」「長期的ってどのくらい長期?地球が滅亡するぐらい?」など
という印象をお持ちかと思います。
• この話は機会費用を考えての利潤という意味で捉えてください。つまり会計上では正の利
潤がありますが、経済学的な利潤は長期ではゼロになるということです。
• 視点を変えると、長期なので参入退出を考えてみましょう。その産業で正の (経済学的) 利
潤が得られていたら、参入が起きて競争が激しくなります。よって一社当たりの利潤は減
ります。その産業での利潤が(経済学的に) 負であれば、退出するインセンティブがある
ので競争が和らぎ、一社当たりの利潤は増えます。
• このようにして経済学的利潤が 0 になるまで参入退出が起こります。この場合、会計上の
利潤は(少なくとも)機会費用分はあるので正となります。
• また、実際には企業が参入する際には参入費用も掛かるので、長期での利潤は参入費用と
機会費用の合計までは確保できるということになります。
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サンクコスト
• 一方、サンクコストは選択肢を選ぶ上で考慮するべきではありません。選択する時点では
既に掛かってしまっている費用であり、その時点でどの選択肢を選ぶにせよ掛かる費用な
ので。よって経済学的費用ではありません。
• 2 時間上映される映画を 1800 円で買い、映画を見始めた。15 分して耐えられないほどつ
まらないことが判明した。どうするべきか?
• 映画のチケットを 1800 円で買ったが、紛失してしまった。もう一回買うべきか?
• 「建設が進んでいた⃝⃝高速道路ですが、野党は採算が取れないことを理由に建設の中止
を求めています。与党と国土交通省は「既に 30 億円の税金が投入されたので、今更止める
ことは出来ない」と述べ、建設を継続する考えです。⃝⃝高速道路は、90% が完成してお
り、この判断はやむを得ないでしょう。」(http://yuma-z.com/blog/2013/03/cost/ より)
• 100 単位生産でき、限界費用は一定で 10 のとき、操業停止価格はいくらになるか?ただ
し、固定費用 500 は (A) 全てサンクされている (B) 300 だけサンクされている (C) 全くサ
ンクされていない。(基礎ミクロ経済学の話では固定費用は全てサンクされていました。)
• 食べ放題、飲み放題で元を取ろう!
• 付き合っている異性と別れたいけど、これまでのコスト(時間、お金、我慢など)を考え
ると…。
サンクコストの戦略的利用
• コストがサンクされていることがコミットメントになり、このコストを払うことが戦略的
効果を持つ場合があります。
• 参入費用がサンクされてしまうと、参入自体には慎重になりますが、入ってしまえば退出
しないことにコミットしたというメッセージをほかの企業に送ることができます。既存企
業が新規参入を思いとどまらせる、いわゆる参入障壁となります。
• 固定費用がサンクされている企業とされていない企業との価格競争は?
• 背水の陣
• サンクコストが行動選択に影響しないのはサンクされた後。サンクされる前に深く考えて
おくことが重要です。
まとめ・最後に
• 機会費用は経済学的費用、サンクコストは経済学的費用ではない。
• ゲーム理論の利得設定をする際にも、これらの概念をきちんと使ってください。
• これから半年間よろしくお願いします。
• この授業に毎週出るべきかどうか、今日の授業の内容を踏まえて考えてみてください。
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