はじめに BC300 年ごろ古代ギリシャの数学者ユークリッドが著した最も 古い数学の本である『原論』以来,整数は理論体系をもつ学問とし て扱われ,研究されてきた.現在までに得られた整数についての知 識の中で,オイラー(1707-1783)の時代までに得られた内容を, 初等整数論と呼んでいる.この初等整数論が,近年,情報科学にお ける暗号や符号理論などの実用的な分野でも活用されるようになっ てきた.高校での学習指導要領では,2012 年度から数学 A に整数 の章が設けられるようになっている. このシリーズでも整数についての内容を含む本がすでにいくつ か出ている.本書では,初等整数論の基本事項を習得できるように することをめざし,そのために興味深い題材をできるだけ多く取 り上げた.本書は,酒井文雄先生の『大学数学の基礎』 (シリーズ 4 巻)7,8 章と青木昇先生の『素数と 2 次体の整数論』(シリーズ 15 巻)との橋渡し的な内容の本であると思う. 整数について学ぶことは,初等幾何を学ぶことに似ている.どち らもごく基礎的な知識から出発して,興味深い結果を次々と導き出 し積み上げていく. まず,1 章で中学・高校で習う整数についての知識をもう一度厳 密に見直し,これらの知識を確実なものにしていく.割り算の定理 vi はじめに や素因数分解の一意性定理などは,中学高校で学んで以来,当たり 前のこととみなしている人は多いと思う.しかし,あらためて「こ れらの定理を証明せよ」といわれると,どのようにすればよいのか は,それほど明らかではないであろう.この章では読者が整数論に おける論法に早く慣れ,内容が容易に理解できるように,多数の例 を挙げてある. 2 章では 1 章の内容を土台にして,オイラーの定理,原始根定理 を導く.さらに,RSA 暗号や,完全数,友愛数,ピタゴラス数な どを紹介する.そこでの内容の選択・構成は,知っておきたい整数 の話題をできるだけ網羅したいという観点で行った. 3 章では,図形と整数にかかわるいくつかの面白い結果を紹介す る.証明もすべて初等的であり,十分に楽しめる内容であると思 う. 4 章では,領域の含む格子点の個数に関する古典的なミンコフス キーの定理とブリクフェルトの定理を証明し,シュタインハウスの 円と格子点の問題,および,そのバリエーションとして,既約な代 数曲線で囲まれた領域内の格子点数の問題などを取り上げる.さら に,円周上の格子点の個数に関するシンゼルの定理を証明する. 4 章で 2 重積分を用いるところが一箇所出てくるが,それ以外は 高校数学レベルの知識があれば読むことができると思う.ただし, かなりの根気は必要である.各章の練習問題には章末に解答をつけ てあるので,必要に応じて自分の解答と比べてみるとよい. 最後に,本書の原稿に対して貴重な意見を下さった編集委員の飯 高茂先生,中村滋先生と,出版にあたっていろいろとお世話になっ た三浦拓馬さんに感謝します. 2015 年 3 月 桑田孝泰・前原 濶
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