日本にプライベートバンキングを普及させるには 秦 依子 日本銀行による長引く金融緩和が金融業界の経営を圧迫しており、手数料収入が主な収 益となっている。そのため証券会社や銀行は新たな収益源としてプライベートバンキング に着目している。プライベートバンキングは預かり資産額が多額であり、管理料を収益と している。しかし日本におけるプライベートバンキングの利用率は低い。その要因をプラ イベートバンキング業務の各部門の課題から明らかにし解決策を検討する。 第 1 章では、プライベートバンキング業務とはリレーションシップマネジメントとウェ ルスマネジメントの 2 種のマネジメントで構成されておりウェルスマネジメントはさらに アセットマネジメントとタックスマネジメントに分類されることを説明する。主な顧客層 であるファミリービジネスオーナーにとっては特にリレーションシップマネジメントは重 要な役割を担うが、本論文では実務的な業務であるアセットマネジメントとタックスマネ ジメントについて詳述する。 第 2 章では、アセットマネジメントの具体的な業務と 2 つの課題を挙げる。第 1 は、顧 客の意識改革である。日本の金融資産は預金傾向にあるとともに適切に管理されないこと で後世へ資産を残すことが困難となる。顧客に資産管理の方法と程度を認識させる必要が ある。第 2 は、投資環境の整備である。日本の資産運用会社の成績は芳しくない。ウォー レン・バフェット氏と日本の資産運用会社のポートフォリオを比較し、理想的な運用方法 を検討する。日本の運用会社は短期的利益を求めモメンタムに乗ることを考えるが、バフ ェット氏の行う理想的な銘柄選択はファンダメンタルズ分析に基づいたバリュー株投資を した上でバイアンドホールドを行う戦略である。 第 3 章では、タックスマネジメントにおける具体的な業務と課題について述べる。タッ クスマネジメントは節税とコンプライアンス違反の防止の役割を担う。また、富裕層の重 大な問題として相続の問題を取り上げた。2015 年には相続税の増税がありタックスマネジ メントの重要性が増してきている。 第 4 章では、資産規模の小ささから従来のプライベートバンキング業務ではカバーされ てこなかったマス富裕層に対するビジネスモデルとして低コスト商品の提供を挙げる。ア セットマネジメントとタックスマネジメントのサービスをパッケージ化し、顧客に選ばせ ることによりコスト削減をする。このモデルで顧客が十分なメリットを享受するには顧客 へのパーソナル教育が必要である。顧客の囲い込み、適切な商品構築、コストに見合う人 材配置が重要な項目である。 プライベートバンキングの普及には、人材育成環境の整備とバックオフィスの構築によ り、プライベートバンカーが働くことのできる環境を整えることが重要課題となる。
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