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別紙第1号
No.1
博 士 論 文 の 要 旨
専攻名 システム創生科学専攻
氏名(本籍) 小林 一郎 (兵庫県)
博士論文題名
財務戦略の高度化に対応する法制度の在り方~
MSCB 利用の資金調達最適化システム~
要旨
都市機能の重要な要素に、商業機能がある。商
業は、社会的な資金調達システムに支えられて商
行為が可能となる。ここにおいて、社会的な資金
調達システムが安定的かつ最適に機能するために
は、
(国家の定める)法制度(システム)による規
制が必要となる。都市機能のひとつである商業機
能は、法制度により、十全に役割を果たしうる。
本稿は、都市機能を規制する法制度(システム)
に光をあて、商業機能――とりわけ、資金調達機
能が社会的に最適に機能するための法制度(シス
テム)の在り方について論じている。
本稿の論旨をより具体的に述べれば、MSCB に
関するわが国の法制度は、最適な資本調達を推進
し、日本企業の活動の適法性と収益性を確保する
ことができているか―を検討するものといえる。
従前より、MSCB の利用については、既存株主
の利益を害する資金調達手段であるとして規制、
もしくはそれ自体を禁止しようとする主張がなさ
れることが少なくない。
もっとも、資金調達の最適化という観点からは、
「良い MSCB」も存在するにも関わらず、多くの
事例の中で一部の極端なケースに目を囚われるあ
まり否定的な意見が跋扈してしまう中、実はその
要因は、MSCB を有効に活用するための法制度が
十分に整備されないままに置かれているからでは
ないか、というのが筆者の仮説である。
わが国の現状における会社法では、企業のエク
イティファイナンスに対しての、価格の妥当性(有
利発行規制)と支配権略奪の許容性(不公正発行)
という 2 つの考え方が反映されている。元来は、
MSCB は、発行体・引受会社・市場での当該関係
者間における情報の非対称性が大きく、株価が企
業価値を過大評価ないし過小評価している状況が
あり、時価で公募増資を発行できないという現実
的問題に対処すべく開発されたものであり、この
ようなファイナンス手法に対して従前通りの有利
発行規制を及ぼすことには過剰規制の疑いがある
といってもよい。
他方、
「企業経営者が必ずしも既存株主の利益に
つながらないエクイティファイナンスを履行する
可能性がある」という経営者の規律意識の欠落に
ついて、法が及ぼしている不公正発行規制につい
てはいまだ不十分である。こうした法規制の不足
に対応するためには、発行体の合理的な経営計画
の策定、引受会社の節度ある行動の喚起、自主規
制機関による自主規制を整備し、それらの具体化
として法規制を位置づけるべきであることを主な
論旨とした。
わが国のファイナンス手法においてエクイティ
調達が過度に重視されてきたことに鑑みれば、デ
ット調達の対象となる社債市場の充実が図られる
とともに、MSCB のような複合的な社債(正確に
は、商品設計上、後に自己資本拡充のための株式
での償還可能という意味でのデット)であっても、
必要な情報が十分に開示された安全な金融商品だ
という制度設計及びアナウンスメントが必要不可
欠である。そのためにも、現行法制を検討するこ
ととし、その問題点に鑑み、自らの仮説の検証を
行い、空売り規制、金商法 157 条の有効活用につ
いて検討し、解決への提言と述べ、株式発行より
も手続きの簡便性が高い MSCB を再考し、再活用
するための法制度を検討する、という本稿の試み
をその契機に資するものにしたい。
以上より、本稿では、発行体が合理的な経営計
画を立て、引受会社が節度ある行動をとり、社債
市場が充実するよう、当該3方面に対する適切な
法制度を考えることで、
「良い MSCB」の推進を図
る法制度のあるべき姿を検討する。
本稿の構成として、先ず、第 2 章では、わが国
のファイナンス手法において非常に重視されてき
たエクイティ調達に絡む法制度を、第 3 章では、
昨今特に社債市場の充実が図られてきたデット調
達に絡む法制度を整理し、そして、第 4 章では、
MSCB の現状について、第 5 章では、MSCB を有
効活用する上で特に重要であることから、空売り
規制について、第 6 章では、エクイティとデット
の複合的な社債(正確には、商品設計上、MSCB
は、エクイティ・ファイナンスとしての発行後に
時間的経過の中での自己資本拡充のための株式で
の償還可能という意味でのデット)に絡む現行法
制について改めて棚卸することとし、その問題点
を鑑み、第 7 章で自らの仮説の再検証を行い、第 8
章では、第 5 章で詳論した空売り規制に加えて、
金融商品取引法 157 条の有効活用について検討し、
第 9・10 章で解決への提言を述べたい。