機会均等を実現させるための奨学金制度改革について 久保 朱花 要旨 授業料の高騰が著しい中で、学生数、学校数とも大きく増加している。それによって奨 学生も増加しているため、奨学金制度も拡充しているとように感じるが、そこにはローン 回避問題や返済延滞問題が発生している。より公平な高等教育を受ける機会を整え、より 多くの学生が奨学金制度を利用し、また返済可能な奨学生からの回収率を上昇させるため、 奨学金制度の改革を提示する。 第 1 章では、高等教育における奨学金の位置付けを先行研究も踏まえて検討する。 第 2 章では、日本の奨学金制度の問題点を 2 つ挙げる。第 1 は、給付型奨学金の不足で ある。貸与の奨学金はたとえ無利子だとしても「債務」であり、ローンの性質を持つ奨学 金を回避してしまうケースがみられることである(ローン回避問題) 。第 2 は、返済余力 のある奨学生が返済を行っていないことである(延滞問題) 。 第 3 章では、諸外国の奨学金制度を取り上げて比較する。奨学生採用(入口部分)にお いては各国で大差がなく、所得基準もしくは基準なしが一般的である。しかし、奨学金の 内容(給付型か貸与型、または併用型)では、日本とは異なり、無利子の貸与や給付奨学 金が充実していた。一方で返済(出口部分)では、その国独自の様々な特徴が見受けられ たが、共通して実施していたのが「所得連動型」の返済方法である。これは、一定の収入 が得られるまで奨学金の返済が猶予されるとともに、一定の収入を得たあとも収入の多寡 に応じて返済の額が変動するものであるため、返済者の負担が従来の制度と比較して軽減 される。 第 4 章では、諸外国の奨学金制度を参考にして著者が考えた「評価基準別奨学金制度」 (入口部分)を提案する。この制度では、奨学金を申し込む段階(高校在学時)では、奨 学金の返済内容(給付型か貸与型、または併用型)は確定せず、大学在学時の成績で返済 内容が決まる。なお、全額給付型の奨学金制度を設置することによって、低所得者のロー ン回避問題にアプローチでき、大学での成績を評価基準に加えることにより高度人材育成 の目標を達成できる。 返済の制度(出口部分)では、所得連動型返済を提案する。日本でもマイナンバー制度 が 2016 年度から開始されるため、所得連動型における第一の前提条件であった各個人の 所得の把握が可能になる。これらの所得連動型奨学金の実現は、マイナンバー制度がどこ まで普及し実用化されるか、という前提部分への課題も残るが、着実に前進していること は確固たる事実であり、今後の進展に期待できる。 さらに民間企業や大学自身の工夫によって、官民一体となって学生支援体制を強化する ことが望ましいため、具体的な取り組み提案も行う。
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