国際観光学科卒業論文要旨 指導教員:飯嶋好彦教授 訪日観光客向け旅館のあり方 1820100117 新井 惠美 <目次> はじめに 第 1 章 訪日観光と旅館経営の実態 第 2 章 澤の屋旅館の訪問調査 第 3 章 訪日観光客に対するアンケート調査の結果と分析 第 4 章 訪日観光客向け旅館のあり方 おわりに 引用・参考文献一覧 <要約> 1.本論文の背景と目的 2003 年 1 月の観光立国宣言以来,本年(2013 年)で 10 年が経過した.この間,わが 国では,官民一体で訪日観光の推進に取り組んできたが,ようやく訪日外国人客 1,000 万 人を達成できた.さらに,2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開幕が決定し,今 後も来訪者の増加が期待できる.そして,それは,わが国の宿泊産業に大きなビジネスチ ャンスをもたらすと思われる. しかし,国内の宿泊産業の現状をみたとき,厚生労働省の「衛生行政報告」によると, 1980 年代に 8 万 3226 軒でピークとなった旅館軒数は,その後減少の一途を辿り,13 年 3 月末時点で 4 万 4744 軒と約半数になった.そして,この減少傾向は,今後も続くと予想 されている. 他方,海外では,日本独自の文化が海外で評価を受けている現象,つまりクール・ジャ パンが起きているといわれている.そして,その対象は,漫画やアニメから,和食や Bento (弁当)などへと広がってきた.そのため,もし旅館がこのクール・ジャパンの流れに乗 ることができれば,現在の苦境から脱却できるのではないか.旅館は,日本文化の集大成 であることから,旅館の認知度が高まれは,日本理解も深まると考える. そこで,本論は,現在外国人観光者を積極的に受け入れている旅館のインタビューや, 外国人観光者が抱く旅館へのニーズなどを把握しながら,外国人客を取り込むことができ るのか,取り込むためには何をすべきなのかを考察したい. 2.本論文の構成 本論文の構成は,以下である. まず第 1 章では, 「ビジット・ジャパン・キャンペーン」開始以降の訪日観光客数が, 浮き沈みはあるものの上昇傾向にあり,将来展望が明るいことを確認し,その増加がわが 国の宿泊産業にプラスの影響を与えると述べた. 次に,統計データを用いて,旅館業界がバブル崩壊を境に衰退し続けていることを明ら かにした.しかし,一方で,厳しい状況下で成功している旅館,例えば,京都の老舗旅館 柊家と炭屋旅館などがある.そこで,それら旅館を事例研究的に取り上げ,旅館経営を成 功させるための秘訣について論述した. 次に,第 2 章では,台東区谷中に所在する澤の屋への訪問調査の結果をまとめた.この 澤の屋旅館の宿泊客は,9 割が外国人であり,外国の客を受け入れて 28 年間で 100 カ国、 14 万人を迎えている.澤の屋旅館は,外国人を迎え入れるために,多少の施設改善は行っ ているが,昔とほぼ同じ施設を使い,同じサービスを提供している.本章では,旅館主人 澤功氏との面談調査に基づき,外国人客に選ばれる旅館について考察した. そして,第 3 章では,羽田空港ロビーで行った訪日外国人客へのアンケート調査の結果 を整理した.この調査では,訪日目的に加えて,旅館利用の有無,旅館利用意向について 聴取した.そして,アフリカ・アジア・南米と,欧米・オセアニアのグループに大別して, 訪日外国人観光者の宿泊ニーズを明らかにした. さらに,第 4 章では,前章の分析結果から,訪日外国人客の宿泊ニーズが国籍ごとに異 なることがわかったため,上述したグループ別に,旅館のあり方を考察した. 最後に, 「おわりに」では,本論文の要約,結論をまとめた. 3.本論文の結論 旅館は,全盛期と比べれば衰退してはいるものの,現状を打開する策はある.たしかに, 従前の旅館は,日本人客のみを顧客対象にしてきた.だが,今後は,日本人に加えて,世 界から顧客を招き入れ,日本文化を伝える役割を担うべきである.そのためには,多様化 する訪日外国人客のニーズを把握し,さまざまな国籍の旅行者が利用できるようにサービ スや施設を改善する必要がある. それは,決して容易なことではないが,旅館業再生への近道にもなり得る.事実,外国 人観光者から高い評価を得ている純和風旅館澤の屋は,試行錯誤の末に,宿泊客の 9 割が 外国人という段階に達している.われわれは,国際観光における旅館の価値を見直すとと もに,あまり迎合せずにありのままの姿を旅行者に提供することが,日本的な「おもてな し」である. <主な参考文献> マルコム・トンプソン(2007). 『日本が教えてくれるホスピタリティの神髄』 ,祥伝社. 南原竜樹(2012). 『旅館再生の教科書 全国旅館の 90%が赤字の旅館業 経営者なら知りたい再生の特効 薬』 ,AT パブリケーション. 田口八重(2000). 『おこしやす―京都の老舗旅館「柊家」で仲居六十年』 ,栄光出版社. 安田亘宏(2010). 『「澤の屋旅館」はなぜ外国人に人気があるのか』 ,彩流社.
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