小学校音楽科における歌唱共通教材の実践研究 ― NF システムを導入

小学校音楽科における歌唱共通教材の実践研究
― NF システムを導入したワークシートにおける思考過程の構造化について
教科・領域教育専攻
芸術系コース(音楽)
入村 文子
1. 研究の動機と目的
現行学習指導要領では、音楽科の授業にお
3.研究の構成
序論 研究の動機と目的、研究の範囲、研究
いて、
「思考、判断、表現」の一連の学習の流
の方法、用語の定義
れを重視している。しかし、筆者も含め、実
第 1 章 音楽科教育の現状と課題
際に行われている小学校の音楽科の授業にお
第 2 章 音楽科での「思考」と概念化の方法
いて、
「思考、判断、表現」の一連の学習の流
第 3 章 ワークシートの分析と課題、NF シ
れにはまだまだ課題がある。そこで筆者は、
ステムを導入したワークシートの提案
音楽科において子どもが「思考」する過程に
第 4 章 NF システムを導入したワークシー
着目することにした。子どもがどのような思
トを活用した小学校音楽科の授業実践
考、判断をして、それを表現につなげている
第 5 章 考察
のか概念的に表現する方法を明らかにしよう
第 6 章 結論、今後の課題
と考えた。子どもが思考の効果を高める有効
な手立てを明らかにし、さらに、充実した音
楽科の授業で子どもの豊かな感性を育みたい
と考えたからである。
4.研究の概要
第 1 章では、現行学習指導要領に基づいた
音楽科の改訂の主旨と要点を整理した。そし
て、
「観点別学習状況の評価の改善」を反映す
2.問題の所在
思考から判断への学習過程で「内なるもの」
るために、音楽科の評価において子どもの「思
考」を概念化する必要が出てきたことを明ら
(小島 1998)を誰もが分かるように概念化す
かにした。従来から、評価の方法として「ワ
る手立てについて探究する必要があると捉え
ークシート」が活用されてきたが、子どもの
た。
「内なるもの」は目視できるものではない
「思考」の概念化が意識されたものではない
ため、子ども自身がその存在に気付きにくい
という現状と課題が見えてきたからである。
からである。したがって、その「内なるもの」
第 2 章では、発達心理の視点から小学校の
から音楽的思考がどのように発展するのか、
子どもの「思考」とそれを概念化する方法に
その軌跡を認識できるよう構造化する手立て
ついて、筆者の経験もふまえながら整理した。
の開発が具体的な研究内容となる。本研究で
また、先行研究から、
「子どもが現在体験して
はその有効性について実践研究をとおして明
いることと、過去に蓄積された経験とをイメ
らかにする。
ージを媒介にし、想像の力によってまとまり
のある新たなイメージを創りだす」ところに
音楽科における「思考」があることが分かっ
た。
した「ふじ山」とで効果を比較した。
第 5 章では、第 4 章で得られた統計結果を
もとに、実践研究の文脈を考察した。そこか
第 3 章では、市販ワークシートの批判的検
ら導き出されたのは、NF シートを活用する
討を行った。その結果、子どものイメージや
ことで、子どもは音楽的に思考するとはどの
感性に働きかける発問が少なく、技能に関す
ような行為なのか、という学び方を経験した
る発問内容が多い、子どもの多様な気付きに
ということである。その経験が生活の中で音
対応しきれないワークシートの構成ではない
楽的に思考する場面を導き、子どもの生活が
か、といった問題が明らかになった。
豊かになると結論付けた。
そこで筆者は、これらの問題点を解消する
ために独自のワークシートのスタイルを考案
5.まとめと今後の課題
した。その構成は音楽科の授業における子ど
今回の授業実践で得られた子どもの変容の
もの「連続的に展開していく思考過程」を 4
すべては、筆者の考案した NF シートのみか
つに分け、
「NF システムを導入したワークシ
らもたらされたものとは言いきれない。音楽
ート(以下、NF シート)
」として視覚化した。
科の授業における子どもの「思考」は、教師
4 つの思考過程とは、
の授業構成と発問、子どもの発言内容や、そ
①イメージや感性を働かせ、想像やイメージ
れまでの子どもの音楽経験など、様々な文脈
の喚起をする
②曲を聴いたり歌ったりして感じた「内なる
もの」と音楽の要素とを関連付ける
に影響されるからだ。今回考案した NF シー
トは、子どもの思考の効果を高める一つの方
法である。音楽科の授業において子どもが「思
③表現への「思いや意図」をもつ
考」する場面をどのように作るか、教師が常
④「思いや意図」を表現するための具体的な
に意識することが、充実した音楽科の授業の
技能を意識する
実現に必要なのではないだろうか。
という 4 つである。この 4 つを連続的かつ視
覚的に NF シート上に展開していくスタイル
〔本研究における用語の定義〕
である。1 枚のワークシートに子どもの思考
NF システム:筆者考案のワークシートの新
を導いていく問いを設定するのは、従来のワ
スタイル。NF は筆者氏名の頭文字。
ークシートと同様である。異なる点は、前時
概念化:子どもが音楽科における思考、判断、
の回答を踏まえた新たな設問を毎回重ね印刷
表現という学習過程を、言語等によっ
し、臨機応変に子どもの多様な気付きに対応
て視覚化すること。
する手法である。
構造化:子どもの内なるものと音楽の要素と
第 4 章では、小学校音楽科の歌唱共通教材
がどのように関連し合いながら思考、
の「春の小川」
「ふじ山」において、NF シー
判断、表現の一連の学習の流れが成立
トを活用した授業実践についてまとめた。NF
していくかを教師自身が手を加え、分
シートを活用した「春の小川」における学習
かりやすくしたもの。
群と非学習群、非学習群が NF シートを活用
指導 尾﨑 祐司