⑥知的障害者の医学 - 日本知的障害者福祉協会

知的障害援助専門員養成通信教育優秀レポート
40 期生
⑥知的障害者の医学
課題 :医療倫理の面から、あなたが対応に苦慮した事例について、生命・医療倫理の原則を踏まえてあ
なたの考えを述べなさい。
近年の医学、医療技術の発達はめざましい。
遇されなければならない。
人工的に生命を誕生させることも、機械で
事例:
生命を長らえさせることも、容易くできるよう
知的障害者のある 42 歳
になり、希望すればその恩恵を受けることがで
きるようになった。しかし、意思が表現できない
知的障害者は、実施される医療を本人自身が
愛護手帳 3 度
女性
障害程度区分 4
両親は亡くなり、軽い知的障害のある弟は
決定できない場合がある。価値の対立が家族
間や医療従事者との間で起こった場合に倫
理・原則を理解しておくと問題解決に役立つと
脳腫瘍で入院中。両親が亡くなった時点で親
戚の方々が姪、甥を見ることは出来ないと成
年後見人を立てた。本人は通所している施設
思われる。
の系列のケアホームで生活しながら日中は生
活介護施設に通所している。
まず、「自己決定(自律)」は患者の権利の
中心的なもので、自らの行動を決定する自由
と捉えられる。医師に自分の身体になされる
ケアホームで入浴中、介助の支援員が胸に
しこりがあることに気づき、日中の職員と病院
治療の許可を与える権利と考えられるが、患
に受信する。乳ガンであり手術しなければなら
者自身の治療に対する理解度、意識レベル、
年齢などの状況によっては、家族や医療従事
者による代理決定が必要となる。
ないと診断された。手術の承諾は、親戚の方
の署名が必要で後見人を通して連絡を取り合
った。
善行と無害は患者に対して医療従事者が
本人には、入院・手術して、胸のしこりを取る
行う行為全般に対する原則といえる。すなわ
こと、取ると治るということを説明した。父親
ち、医療従事者は患者にとって利益が得られ
もガンだったため、乳ガンということを少し理
るように支援し、リスクを取り除く、あるいは減
らすといったように害が加わらないように支
援することが求められている。
解していると感じた。術後の傷口に痛みを感じ
ていたが、腕を上げるリハビリなども取り組ん
でいた。退院時に主治医より、今後の治療法と
して、知的障害があるため抗がん剤は色々な
正義(公平)は医療資源の適正な配分を意
味し、「同じヘルスニーズ」を有する人たちは
面で困難なため、定期的に皮下注射(ホルモ
ン剤)と、毎朝 1 錠ホルモンを抑える薬で様子
みな同量のヘルスケア資源を得ることができ
なければならない。すなわち患者は公正に処
を見ていくこととなった。現在は手術前と変
わらない生活を送り、病気・検査・治療・見通し
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などについて理解しやすい言葉や方法で納
得できるまで十分な説明と情報を提供してい
1980 年代に初めて、インフォームド・コンセン
る。十分な説明と情報提供を受けた上で、治
トのアメリカの実情を紹介し、日本各地の医師
療方法などを自らの意思で選択することがで
きる。ケアホームの世話人、施設の職員、医療
機関、親戚、後見人などと連携し利用者を支
会・大学病院に展開されてきた。医療とは、病
気を治すということだけではなく。患者の心
のケアまで細やかに気を配ること。医療の目
えています。
的として最初に必要なのは、心の癒しを与え、
そしてほんとうの苦しみに対する対症療法を
行い癒されることである。
この事例の利用者は、自身のこと、病気の
ことをある程度理解できたため、本人確認の
もと治療をすすめることができた。日常生活
いのちがただ長ければよしとするのではな
において、発熱、咳・たんが出るようであれば、
く、「いのちの質」が何よりも大切であること、
主治医にすぐ診察していただける体制を整え
た。
「いのちの意味」を知ることができれば毎日を
もっと大切に、よりよく生きることができると
いうこと。障害があってもよりよく生きること
施設には、様々な障害特性がある方がおり、
それぞれケースも違う。障害のある方が尊重
されながら安心して生活することができるよ
ができるよう、日々支援をしていきたいと思う。
う支援に取り組んでいる。
講評:よい取り組みがされていると思いました。
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