社 会 系 教 科 教 育 学 会「 社 会 系 教 科 教 育 学 研 究」 第24 号 2012 (p.123-124) 【課 題研 究 報告 】 後の資源・エネルギー・環境学習の論点 3.11 一 公 民科「再生可能エネルギー政策と自治体」の単元開発 を事例 にー (2012 年 2 月19 日 開 催) 石 川 照 子 (神 戸大学附属 中等教育学校) I 問題の所在 二項対立 を越 えて (1 ) ・エネルギー や環境問題の学習は,二項対 資源 ー ドの学習活動と して組織 される こと 立の論 争モ 。 た とえば 「 ̄ 原発に賛成/反対」である。 が 多い ,相手 を説得 ・論 二項対立は単純でわか りやす く ー タ を集め ,論理的に 破す るために信頼できるデ ,生徒た 自己の主張 を組み立ててい く学習過程は ちに と。 っし て主 体 的 取 り 組 め る 楽 し」 いや匚 授業専 に門 な家 る か し ,に 今 , 「  ̄ 正 し い 主 張 だろう 。n3. 後 に対する絶対的な信頼 」が揺らいでいる,この の社会系教科教 育における 1つ目の課題は 二項対立の問題設定に代わ る学習方法 を模索す る ことである 。 (2)科学と政治の交わ る場所の拡大 ーシ ョン」 伝統的な厂 科学と社会 の コミ ュニ ケに正 , そ れ を 社会 しく理 は科学の側に正解が あ り 。図 1はこの発想 解 してもらうという構造 で あ る 。 科 学 者は,自らが生み に基づくモデルである1 。 出 した客観的で中立的な知識 を政治に差 し出す これは匚 事実」と匚 価値」の二元論に立脚す るも のである。 に て答 える こと できない問題群か らなる領 域よ 」っ と し た (図2 )の 20 2 科 学 と トラ ンス ・サ イ エ ンス 図 ,科学的な知識が必要で 社 会 的な 意 思 決ラ 定ン にス は 。 し か し , ト ・サイ エンスの領域の意 ある , 思決定は科学技術の知識だけでは処理 で き な い 。n3. 後の社 価値判断が関与する意思決定である, トランス ・ 会系教科教 育に おける 2つ 目の課題は サ イ エ ン ス の 領 域 の 拡 大 に 伴 う 科 学 技術との コミュ ニケー シ ョン能 力の育成で あ る 。 H 「コンセンサス会議 」という試み 科学技術に関する政策決定過程における市民参 加の手法のひ とつに 「 ̄ コ ン セ ン サ ス 会 議(consen。 こ の 手 法 は , 素人の市 sus conference) 」が ある 民と科学技術の専門家の間での熟慮の過程が組み 込まれ た双方 向発 性の あ るデ 対ン 話 を し ては 合, 意政 形策 成を , 祥 の地 マ通 ー クで 策 めざすもので .日本では1998 年に研 定にも影響 を与えている3 。 究者 らによって初めて試行され た4 ,匚 鍵 コンセン サ ス 会 議 で 特 に 注 目 し た い の が 」と匚 提言」の作成である 。参加者の 閉 じた 知 識 生産 系 政 治 的意 思 決 定 となる 質問 , 各 自が もつ基礎知識や問題意識に基づい 市民は 図 1 政治 に 真 理 を提 供す る科 学 ,質問 リス トを作成す る て様々な疑問 を話 し合い。また ,参加者は専門家 ,A. ワインバーグは,科学と政治 ことで問題を構造化す る これに対 し , とのや り取 り け てっ 匚 提点 言 」を 文な 章か と し て点 ま, と ,を 合受 意 に至 た ・ 至 ら った が 交 わ る 領 域 を 「 ト ラ ン ス ・ サ イ エ ン ス 」 と 呼 び め る な か で それ を 「科学によって問うことはできるが ,科学 少数意見を整理 しなければならない。 - 一 一十 123− Ⅲ コンセ ンサス 会議の 手法 を取 り入れ た単元 開発 ー 高等学校公 民 科 の 小 単 元 「  ̄ 再 生 可 能 エ ネ ル ギ 」で,自治体の風 力発電所誘致にと 政策 と自 治体 ,自 治体主催の コンセンサス会議に参加す もな う 。 るとい, う導 設入 定 と で し 授て 業, を市 計民 画が する 科学技術について判 まず 断す る方法のひとつであるコンセンサス会議につ いて説明す る。, H県の風 力発電所誘致計画 を取 第 1段 階で は可能 。 再生 エネルギー法の制 定によ り自 り上げる 一方,風車の設置に 治体の取 り組みが模索 される ,社会的 は周辺住民や 自然保護団体の反対もあ り 合意が必要な問 題で あ発 る電 こと を 認て 識資 さ料 せ る O , 風 力 に つい を 使 い教 第 2段階で。 はその際 ,風 力発電の しくみ ,小規 師が 説明す る ー は自治体 レベ 模分散型である再生可能, エバ ネー ル ギス ド トライク など ルが 取 り組みやすいこと 。 風車設置で生 じ, る問 題段 の 3 点 か ら 説に 明対 すす るる疑問 第 2 階 での 説明 第3段階では ,班でま とめ る。さらにク ラス を生徒が書き出 し ,匚 鍵となる質問」をつくる 。恐 全体 , で風 話 し発 力 合 電 い設置の是非の大きな判断基準 とな らく ・経済的な質問,自然環境に与える影響 る技術的 , の 度 合 や 悪 影 響 を 回 避 す る 方 法 に つ い て の 質 問 海外の 先進事例に関する質問などが柱になるだ ろ う。 ,匚 鍵となる質問」に対する回答 第4段階 で は 。専門家や理科など他教科の協 力が得 がなされ る ,教師が資料 を集めて説明する 。 られ ない場合は ,匚 鍵となる質問」の回答と し 説明を聞 くとき は ,まだ解消 しない疑問は何か ,新 て十分であるか 。 たな疑問点が な班 , いで かに 匚 留 私た 意 さ ちの せ る 意見と提言」をま 第5。 段 階こ はでは,風 こ 力発電施設の 設置と自然保 とめ る ,話 し合いの中 護との折 り合 いを ど う つ け る か が 。 , 私たちの意見と提言」を発表 し, 心になるだろう厂 第6段階は ,多くの班が 盛 り込んだ観 各班の発, 表 を 他の 比班 較 し に見 て られ ない独自の観点を盛 り 点 込は ん何 だか 班はないか を検討する。 IV おわ りに 」の授業は ,意思決定 匚 模擬コンセンサ ス吉 会村 議功太郎が提起する匚 , 合 主 会科 の う ちめ 意義 形の 成社 能力 の育 成 を ざす社会科授 業」の派生系 。ここで派 生形とするのは , と し て 位 置 づ け ら れ る 合意形成 を図る形式に違いが あるか らである。 」の違いである。吉村が まず匚 だれが問 うのか ・臓器移植法と人権」5 示 し, た発 授 業す 指 導 案匚 脳 死 問 る の は教 師 であり,資料をもとに答 では 。それに対 し 「 ̄ 模擬 コンセン えるのは生徒 である サス 会議」では生徒が質問 し,専門家 (教師 )が 答 える。 」の違いである。吉 次に匚 だれ が教 対話 す発 る問 の かもとに匚 , 師の を 生徒同士の 村の」 授 業 で は による合意形成がめざされ るが,匚 模擬コ 対話 」では生徒 同士だけでなく,匚 鍵 ンセンサス会議 となる質問」 をめ ぐる厂 専門家 (教 師)との対話 」 重要になる。 が 」の 評価の され 方のち 最後に厂 形成 さ 合で 意は 。 吉 村れ のた 授 業 ,論理構成の妥当性 が いである ,合理的な意思決定が なれ たか ど を相互評価させ うか を確認さ せ て い る o こ れ に 対 し匚 模 擬コ 」 で は , ど の 班 の 合 意 形成 の 結ン 果セ が ンサス 会 議 」 と してよりふさわ しいか ,自分たちの班 「 ̄ 提言 」に足りなかったもの は何か を吟味する の匚 提言 ,生徒たちはより社会に 場と して設定され ており 。 コミ ッ ト し て い る 実 感 を 持 つ こ と が で き る だ ろ う n後,私たちは トランス ・サイエンスの領域 3. が拡大。 すま るた 社 会 を き てな い社 る こ に現 改に めは て気 づ か , 持生 続 可能 会と の実 社 会的 され た , トップダウンの政策決定は な 合意が 必要 あ り 。で 匚 問 い 」の投げかけあいによって合意 じまない 」の 手法 を取 り 形成 をめ ざす 匚 コ サス , 市ン 民セ 的ン 資質 の会 形議 成に一定の役割 を 入 れ た 授 業 は 果たす ことが できるのではないか 。 【註】 1)小林傳 司は ブ アン ・ ィ 匚 欠 ル」 。ラ 小イ 林 『 誰 がツ 科 学ン 技の 術に つ如 いモ てデ 考え る を図式化 した のか コンセンサス会議という実験』名古屋大学会, 2004, p.155. 2)小林前 掲 書,p , ヒ トユ55. ゲノムの解読に関するコンセンサス 3)例えば ,デンマーク議会は雇用や保険 会 議 の 結 果 を 受 け て 契約時の遺伝子試験 を禁止 した 。 4pp,187-189. )テーマは遺伝子治療であった。小林前掲書, 5) 吉 村 太 郎 匚 社 会 的 合 意 形 成 を ざ す 授 業 小 元 匚 脳 死 ・功 臓 器 移植 法 と 人 権 」 を 事 例 に ー 」 社一 会 系単 教 科 教育学会 『社会系教科教育学研究』第13 号,2001, pp.21-28. 124
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