サービス人材育成に学ぶ - 技術・技能教育研究所

技術・技能教育研究所 代表取締役
第6 回
森 和夫
サービス人材育成に学ぶ
原点は「人」
行動は、個性と環境の組み合わせ
で生まれます。両方を適切にとら
臨機応変の人材育成
今度はサービス人材育成につい
えることで、人の行動を理解する
ものづくり人材育成は、
「定式
て考えてみましょう。介護士、看
手がかりを得ることができるので
化」というスタイルで確かな人材
護師、美容師、教師、販売員な
すね。サービス人材育成は、専門
育成を確立してきました。これに
どの仕事を思い浮かべながら振り
的技術 ・ 技能のほかに、個性と環
対してサービス人材育成は、対象
返ってみますと、そこにはある共通
境とその結果としての行動をとら
が人であることから、
「臨機応変
したものがあります。そうです、
「人」
え、対応の仕方を学びます。
の人材育成」ということができま
です。いずれも、
相手はどう思うか、
サービス労働の核心は、サービ
す。想定外の対応は、十分にその
相手は何を考えているかを思いや
スを通じた満足度の追究です。そ
範囲に入っています。
ることから出発しています。
のためには、対象者が何を求めて
人間の行動や考え方はある程
ものづくり人材育成が「モノに
いるかをキャッチして対応しま
度、予想のつくこともありますが、
関する事実 ・ 現象」を原点とす
す。いくら技術力があっても、相
そうでないものもあります。よく
るのに対して、サービス人材育成
手に応じていなければ何の役にも
行われる方法は、
「○○の場合に
の原点は「人の把握」です。教師
立ちません。人は十人十色、すべ
は、○○する」という方法をもつ
は子どもの考え方や動きを感じ取
て違います。類似点、
共通点はあっ
ことです。状況のバリエーション
り、いま何をすべきかを考えま
ても、基本的には個別性の高い
を増やしておくのです。発生確率
す。子どもたちが活き活きと活動
サービスです。年齢が違い、職業
の高いものから数を増やし、究極
する場には、教師の隠れた力があ
が違い、考え方、育ち方が違う難
的にはあり得ない状況設定も視野
ります。また看護師は、患者の心
しさは想像がつきます。
に入れておくことです。論理的に
理的な側面、精神的な負担、肉体
このときに役立つのは、相手の
も確率的にもあり得ないものにど
的な苦痛などを思いやり、いまや
「観察」です。相手はどのような
るべきことをてきぱきと実行して
状態か、状況か、何を必要として
この根幹にあるのは「考え方」
いきます。そこで重視されるのは
いるかと観察します。良い観察が
といわれるものです。保育士であ
人の把握ですが、行われているの
決め手なのです。次に、観察に基
れば「子ども観」
、看護師であれ
は専門的な技術 ・ 技能サービスで
づく推理、推測、洞察、判断です。
ば「看護観」といった言葉も使わ
す。絶えず変化する人の心に合わ
これは、すべきことの選択肢から
れます。世間では「おもてなしの
せて、サービスを提供するのです。
優先順位をつけるところまでに関
心」という言い方がされますが、
係します。
そのようにしか表現できないよう
そのうえで行動し、相手の反応
な内容のことです。
人には個々に感情があり、思想
を確かめます。その際には、表情
このようにサービス人材は、そ
があり、行動の特性があります。
や状態の観察ばかりでなく、コ
れぞれの職業人がもつ精神的な
これらはその人の「個性」をつく
ミュニケーションが大切です。聞
バックグラウンドを確立すること
ります。これに対して、場面、場
き出すだけでなく、自分を相手に
で、どのような対象にも、どんな
所、状況、地域、国など、人を取
理解してもらえるように表現しな
事態でも、安定した仕事を遂行し
り巻く「環境」があります。人の
ければなりません。
ているのですね。
観察と判断が決め手
う対処するかを扱います。
企業と人材 2016年6月号
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