スピネル型酸化物の結晶歪と温度変化 (2)

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スピネル型酸化物の結晶歪と温度変化(2)
保志, 賢介
室蘭工業大学研究報告.理工編 Vol.7 No.2, pp.613-616, 1971
1971-09-15
http://hdl.handle.net/10258/3539
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Muroran Institute of Technology
スピネル型酸化物の結晶歪と温度変化
(
2
)
保 志 賢 介
Crystal Distortion of Spinel type Oxides and
1
t
s Temperature dependence
(
2
)
Kensuke Hoshi
Abstract
C
r
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n and i
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s temperature dependence o
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oKanamori,W was supposed t
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u
eo
f T~O.8 T c •
I.緒言
スピネル型酸化物の多くのものに自発的な結晶査がみられる。一般にこの結晶歪の大きさ
は温度上昇と共に協力現象的に減少し,転移温度より下では結品は正方晶であるが,上では立
方晶となる。この結晶歪の現象は,結品中の遷移金属陽イオンが縮退した電子軌道準位にある
ときは, Jahn-Teller効果によって生ずることが, Dunitz-OrgeF)によって提唱された。
この
結晶査の温度変化を説明するための統計理論は, Finch-Sinha2),Wojtowicz3,
1 Kanamori4) ら
によって提案された。 Finch-Sinhaはこの問題を A B型二元合金の規則一不規則変態の問題に
還元して BraggWilliams近似をもちいて説明したが,むしろ A B
2型 合 金 の 問 題 と し て 取 扱
うべきであることが Wojtowiczによって指摘された。これらの理論では,金属イオンの囲り
の歪んだ陰イオン多面体の配列が,絶対零度においては正しい方向 (
z軸)にそろっているが,
温度上昇と共に間違った方向
(
x又は y軸)に向きを変えるために,巨視的な結品査の大きさ
が減少するものと考えている。 Kanamoriは結晶の格子振動と電子の軌道状態との相互作用を
取入れ,結晶全体の歪を表わすノ 4ラメーターの項を含むハミルトニアンを組立てて,結晶査の
温度変化を与える理論を導いたが,その中に含まれるパラメーターの幾っかに,未だ実験的に
決定されていないものがあるので,実験との比較をすべてに亘って出来る迄には至っていな
い。結晶歪の温度変化については,非常に多くの実験がなされているが,これらの理論と比較
(
2
2
1
)
614
(呆志賢介
する目的でなされたものは未だ見当たらない。今回の実験では,これらの理論のうちで最も進
んだものと考えられる Kanamoriの理論をもとに,そこに含まれているバラメーターの値とそ
の温度変化を前回に引続き求めた。
I
I
. 理 論 式
Kanamoriによると,スピネル型酸化物の四面体位置に J
a
h
n
T
e
l
l
e
r イオンが入った場合
の結品歪は,巨視的な歪が z軸に沿って存在しているときに,歪んだ四面体が z軸に沿って配
列する場合のエネルギーを
2W
, x 叉は ν軸に沿って配列する場合のエネルギーを十 W と
して次の様に与えられる。
U
z= U
z
o[exp(2W/kT)-exp(-W/kT)]/[exp(2W/kT)+2exp(-W/kT)]
ここで U
zは温度 T における結晶歪であり ,U
z
oは絶対零度における結晶歪である。この
論文では u,W のかわりに相対的な結晶歪をあらわすパラメータ
-Sと W
を温度に換算した
S の測定値から L
1= T/2l
n(1+2S/1-S)
パラメータ -L1をもちいることにする。 d の値は ,T,
の関係をもちいて求める。 S,L
1:ま次の関係で与えられる S=Uz/Uzo,L
1=3W/2k.
2)
1
/
3
また,結晶歪 U
zは格子常数 C,α と次の関係がある u
z= (
c
a
)
/
(
c
a
0
1
1
1
. 実験および結果
1
) の正四面体位置(図 2
) に Cu2' イオンがおかれた場合には,
スピネル型酸化物(区)
電
3
) ので, J
a
h
n
T
e
l
l
e
r効果にまる結晶歪が期待される。
子軌道準位は 3重に縮退している(凶 -
この位置に Cu2'イオンを含む粉末試料 (
Z
n
O
.
2C
U
O
.
S
)Cr204' (
Z
n
O
.
4C
U
O
.
6
)Cr204' CuRh
04を通
2
常のセラミック法で作製しこれらの格子常
数 c
,aの温度変化を,
X線回折装置により
測定した。液体窒素温度から転移温度れま
での温度測定は,試料に密着させた熱電対の
起電力をポテンシオメーターにより検出し
た。測定にもちいた回折線のミラー指数は,
ー
-ー
ー
ー
ー
ー
,
・
-,
1
1
e
J
噛イ本位置の陽イオン
凶面イヰi
立誌の院イ才ン
図 2 r
司面体位討
図-1 スピネノレ型結晶構造
(
2
2
2
)
スピネノレ型酸化物の結晶歪と温度変化
615
(
2
)
L
l(
O
K
)
s
~圃圃園開園・・・・・ー・ー-
ー
,
,
-一一四国
恒国国ー¥
,
-
2D J
主主苅枝、
立方対称
。
¥一一一一
正方労相、
T
I
T
c
.
05
0
図 4 Zno.2Cuo.8Cr204(
T
)に
c=640 K
おける S,L
1の温度変化
図-3 四面体位置に入った Cu2十 イ オ ン
の軌道準位
S
L
1
(宇
(
)
1
0
4
0
0
6
0
0
0
.5
0
.5
4
0
0
/
0
0
。
2
0
0
。
T
/
T
c
5
.
0
0
図 5 Zno.4Cuo.6Cr204(T
c=390 K)に
おける S,L
1の温度変化
表 -1
(九四
1
-
T
/T
c
0
.
5
図--6 CuRh2
04
(T
00O
K
)における
c=9
S,L
1の温度変化
Tc と L
1max の 値
T
c
(
O
K
)
L
1max(
O
K
)
L
1max(
O
K
)
CuCr2
04
9
0
0
CuRh
204
1150
ZnO.2Cuo.8Cr204
510
NiCr204
270
ZnO.4CUO.6Cr204
320
(
4
,4
,0
)(
4,0
,4
)(
0,4
,4
)である。それぞれの試料についての結晶査品パラメータ - ,
!
L を
4,5,6に示した。
図今回の実験にもちいた試料についても ,L
!の値は温度上昇と共に Sに比例して単調減少せ
(
2
2
3
)
6
1
6
保志賢介
ずに,一度増加して極大値を経てから減少していることがみられ,また d の値の極大値と転移
温度とはほぼ等しい値をもっていることが確かめられた(表1
)
。
I
V
.
詰
語
協力現象を示すものとしては,規則合金の規則度の変化,強磁性体の磁化の変化がよく知
Williamsの理論,後者には Weissの
られている。これを説明する理論として前者には Bragg-
理論があるが,いず、れの理論においても分子場に相当するパラメーターは,温度上昇と共に単
調減少している。 Kanamoriも CuCr204の結品歪の温度変化を彼の理論と比較するにあたっ
て,分子場に相当するパラメータ - W (此の論文の L
1~こ相当する)は Uz に比例する,つまり温
度上昇と共に単調減少するものと仮定している。 CuCr204,NiCr204で分子場に相当するパラ
メーターが温度上昇と共に一度増加することを発見し,前の論文 5) で報告したが,今回の実験
にもちいた試料についでも同じことが判った。
このことは, Jahn-Teller効果に起因する結晶歪の温度変化を説明する理論として,
分子
場近似は不十分であることを示していると考えられる。
(
昭4
6
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.
2
0受理)
文 献
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室蘭工業大学,研究報告(理工編)第 7巻,第 l号.
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