1 NHK_2015 年 4 月 24 日放送分 ※※ 『社会の見方・私の視点』です。今朝のテーマは日経平均株価の読み方。お話は一橋 大学大学院経済学研究科教授の齊藤誠さんです。齊藤さん、おはようございます。 齊藤 おはようございます。 ※※ 今週水曜日の日経平均株価が、終値として 15 年ぶりに 2 万円台を回復しました。こ れは齊藤さんはどう見てらっしゃいますか。 齊藤 2012 年ごろまでは日経平均は 1 万円を割っていましたけれども、この数字を聞くと、 すべて東京証券取引所に上場している株価が 2 倍になったというふうに、思われる方も多 いかと思うんですけれども。例えば株を持っておられる方が、2 倍になったかなと思って調 べてみると、実はそうでもなかったという人も結構多いんじゃないかと思うんですね。 それは日経平均というのは東証の株価全体の動きを示している指標ではなくて、一部の 銘柄の動向を示している指標ですので。実は 2015 年の 3 月末で東京証券取引所の一部に上 場している株価の銘柄総数は、1,867 銘柄ですけれども、そのうちの 225 銘柄だけが日経平 均に反映しているわけなんです。そういうふうに考えてくると、市場全体の動向と日経平均 が一致しないというのは、起こり得る話なんですね。 ※※ 特に何か 21 世紀に入って、その日経平均と東証平均の動向がくい違ってきていると いうことですね。 齊藤 はい。いくつかの要因があると思うんですけれども、まずは東証一部に上場している 銘柄数が飛躍的に増えたということですね。日経平均に加えた 225 銘柄に含まれない株式 の数が増えてきた、これが 1 つですね。 2 つ目が、実は日経平均に含まれている株価に、ちょっといろいろ特徴があります。1 つ は値がさ株が多いという特徴があります。値がさ株というのは、1 株当たりの株価水準が高 い株なんですね。値がさ株が入ってくるとやっぱり平均値が上がるんですけれども、21 世 紀に入ってから値がさ株が、どんどん日経平均の 225 銘柄の中に入っていったんです。そ の結果一部の値がさ株の動向が、日経平均を大きく動かすということですね。現在ですと上 位 4 銘柄の値がさ株で、日経平均の 2 割以上を占めるような状態になっています。 ですので、日経平均がそもそも 1,800 銘柄以上あるうちの 225 の部分なんですけど、さ らにその一部の銘柄が日経平均を左右しているという状況があります。 それとあと、大型株という特徴があります。大型株というのはその株の時価総額が大きく て、取引が活発な銘柄ですね。取引が活発なことを流動性が高いといいますが、そうした時 2 価総額が高くて流動性の高い株が含まれています。流動性が高くて大型株というのは、今公 的年金が株式投資を拡大しているんですけれども、そうした投資の対象になりやすいこと から、よりそうした銘柄が上場して、市場全体の動きとちょっと乖離をしてしまうというこ とです。 ※※ 日経平均にそういった傾向があるということになりますと、我々はどんな指標を見 なければいけないんでしょうか。 齊藤 そうですね、いろいろな可能性があるんですけど、私がよく見ている指標は東証一部 全体の株価の動向に関して、企業収益と株価のバランスが取れているかどうかということ に、着目をしています。P/E という指標に私は具体的には着目しているんですけど、P/E の P というのはプライス、株価のことでその P です。それが分子に入ってきます。 P/E の E というのは英語で「earnings」、収益のことで、それが分母に入ってきます。そ の結果、「収益」分の「株価」となります。株価と企業収益がどの程度バランスが取れてい るのかを見ていくのに、ちょうど適した指標になります。 例えば 2015 年の 3 月の時点では、株価の平均動向が長期的な企業収益のほぼ 24 倍だっ たんです。この数字は 2013 年の 1 月の 22 倍とあまり変わっていません。 ということは、2013 年の 4 月から 2015 年の 3 月にかけて、収益も上がってその分に見 合って株価も上がって、結果 P/E 比率があまり変化しなかったといえます。言い方を変え ると、企業収益に見合った形で株価が形成されていたというふうに、考えていいのではない かと思います。 ※※ そうしますと、P/E 値が大きいということは、本来の収益よりも株価の方が過大評価 されている、株価の方が大きい値になっているということになるわけですね。 齊藤 収益に見合った株価形成ではなくて、収益の水準から見ると過大に株価が形成され ているというふうに考えます。例えば 1989 年はバブル経済の絶頂期だったんですけど、 1989 年の 12 月にはこの P/E 値は 103 倍にまで達しています。株価の相場が長期の企業収 益の 103 倍にまで達してしまったと。このような状態になると、もうまさに株価がバブル 経済の様相を呈しているということになります。 ※※ 日経平均が 1 万円を下回る水準から 2 万円になったというときに、2 つの見方があ って、1 つは非常に景気がよくなっているんだという見方、もう 1 つはお金がじゃぶじゃぶ 入っていて、これはバブルの一端ではないかという見方、この 2 つがあると思うんですけ れども、これは両方とも違うというお話ですね。 3 齊藤 そうですね、日経平均だけを見て景気が絶好調だというわけではない、ということで す。企業収益が改善しているときに株価が上がっているということです。一方でもしかする とこの景気が、バブルの状態に入っているんじゃないかという見方もあるんですが、市場全 体から見ると、すなわち、東証全体から見ると、収益と株価の水準のバランスはほぼバラン スが取れています。 ※※ お話を伺っていると、企業業績は着実に上がっているということだと思うんですけ れども、この背景にはどんなことがあるんでしょうか。 齊藤 そうですね、いくつか複雑な要因があると思うんですけれども、去年の後半からの上 昇に関しては、どちらかというと経済政策が、例えば金融政策や財政政策が功を奏した、企 業収益の改善をもたらしたというよりは、日本経済を取り巻く国際環境が日本経済にとっ て、非常によくなってきたという側面が多いと思います。 特に原油価格を始めとした資源価格が、去年の半ば以降からずっと低下をしています。石 油価格も去年の半ばぐらいまでは 1 バレル 100 ドルを超えていた水準が、去年の末には半 分ぐらいの水準まで、1 バレル 50 ドルを割るような水準まで低下しています。そのことが 企業業績を支える背景となっています。今日本経済を取り巻く国際環境が、日本経済にとっ て非常にいい方向に動いているというふうに考えて、それを株価が緩やかに反映している というふうに考えるのが、よいのではないかと思います。 ※※ よく分かりました。今朝のお話、どうもありがとうございました。 齊藤 こちらこそ、ありがとうございました。 ※※ 『社会の見方・私の視点』日経平均株価の読み方。お話は一橋大学大学院教授の齊藤 誠さんでした。
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