NHK_2015 年 6 月 5 日放送分 ※※ 『社会の見方・私の視点』です。今朝のテーマは SNA、国民経済計算から見えてく ること。お話は一橋大学大学院経済学研究科教授の齊藤誠さんです。齊藤さん、おはようご ざいます。 齊藤 おはようございます。 ※※ 先月 20 日に 2015 年第 1 期四半期の SNA、国民経済計算の速報値が公表されまし た。 実質 GDP というのは季節調整をして、前期と比べて 0.6%の増加。年率換算ですと 2.4% の増加となりました。 齊藤 はい。 ※※ この数字ですけれども、齊藤さんはどう見てらっしゃいますか。 齊藤 市場の方で予想されていた値よりは若干高かったので、歓迎する向きもあったんで すけれども、一方ですごく芳しい数字というわけではなかったので、力強い景気回復という ふうにはなかなかみなされなかったと思います。 ただ、私は比較的いい数字が出たのではないのかなと思っています。特に前期比、つまり 2014 年の第 4 四半期から、2015 年の第 1 四半期にかけて、一番大きく変わった点という のは、輸入物価が非常に下がったんです。これは石油を始めとした一次産品価格の値段が、 大きく下がったことが影響しているんですけれども、輸入価格を表す輸入デフレーターは 前期比で見ると 9%低下をしました。 経済学には、交易条件という用語があるんですけれども、この比率が非常に上昇したんで す。交易条件が改善するというのは、安く原材料を外国から輸入して、高い価格で製品を輸 出するということで、交易によって売買の差益を得ていく部分が非常に大きかったという ことなんです。そういう面では積極的に評価していい数字じゃないかと、私は思っています。 ※※ 一部には、消費税増税の影響を懸念する声も大きかったようですね。 齊藤 そうですね、消費税増税の影響を重視するエコノミストの方は、消費の伸び悩みとい うことをかなり指摘されています。実際に 2013 年度と 2014 年度の数字を比べると、確か に 2014 年度の数字はあまりよくありません。 ただ、消費税増税が 2014 年の 4 月に 5%から 8%に上がるということは、最初から見込 まれていたことなので、2013 年度に駆け込みの消費需要がかなり増えました。そういう駆 け込みのことを考えると、2013 年度に比して 2014 年度の数字が悪くなるのはある意味当 然なのです。そこで、この駆け込みの需要が反映されてないと思われている 2013 年度の第 1 四半期、つまり 2013 年の 1 月から 3 月までの数字と、今回の 2015 年第 1 四半期の数字 を比べてみると、案外にいい形が出ています。 例えば、消費税増税の影響を一番受けやすいといわれている耐久消費財は、2013 年の第 1 四半期は 43.8 兆円だったんですけれども、今回の 2015 年の第 1 四半期は 44.2 兆円と上 回った数字になっています。 あるいは衣服とか靴などの半分の耐久という意味で、半耐久消費財といわれているんで すけど、それも 22.8 兆円に対して 22.6 兆円まで回復をしています。 前回の 1997 年の 4 月のときの消費税増税のことを振り返ってみましても、耐久財消費と か半耐久財消費に関しては、その 1997 年の 4 月よりも今回の 2014 年の 4 月の方が、回復 のテンポが速いということです。 消費税増もそうした少し長いタイムスパンで見てみると、回復のテンポがある程度認め られると私は見ています。 ※※ 伺っていますと、今回の数字は同じ数字を見ても、見る人によってずいぶん大きく評 価が分かれたという印象ですね。 齊藤 そうですね、多様な意見があるというのは、悪いわけではないと思うんですけれども、 今回私のように積極的に見る人とやや消極的に見る人で、意見が分かれた背景として考え られるのは、どうしてもマクロ経済政策の影響を受けやすい要因に目が向きがちで、政策の 効果の及ばない国際環境の変化に対しては、あまりエコノミストがなかなか目を向けない という面があります。 今回のように石油を始めとした一次産品価格の下落という、国際環境の変化が日本経済 にとって、下支え要因になったということに関して、ちょっと関心が向かないという傾向が あるのが 1 つの理由だと思います。 ※※ この原油の価格の水準というのは、いつごろまで維持されるというふうに齊藤さん は見てらっしゃいますか。 齊藤 非常に難しい質問で、私がなかなか責任を持ってお答えすることができないんです けれども。去年の半ばぐらいまで 1 バレル 100 ドルを超えていたんですけれども、これは リーマンショック以降に各国がもう非常に積極的な金融緩和政策をして、資金が潤沢に市 場に出て、それが一部投機資金と化して、石油などの商品相場に流れ込んだという側面があ って、100 ドルを超える相場の方が、ちょっと異常な状態ではなかったかなと思っています。 今でも金融緩和は各国で進められていますが、アメリカの金融政策も若干引き締めの方 へ向かったりもしていて、そういうことを考えると石油市場が再び投機資金にまみれて、1 バレル 100 ドルを超えるというようなことになっていくということは、なかなか考えにく いのかなと。ですので、これ以上すごく下がっていくということも、なかなか考えにくいん ですけど、横ばいで推移をして日本経済を下支えしていく要因として、働いていくんじゃな いかと見ています。 ※※ あと、GDP の増加が各家庭の生活実感に結びついているのかどうか、この辺につい ては齊藤さんはどう見てらっしゃいますか。 齊藤 そうですね、これもなかなか難しいことなんですけれども、GDP の生産の統計が上 がれば、日本経済全体の所得も上がる。そうすると、国民の家計の所得も上がっていいのか なと、いうふうに思うのが自然なんですけれども… 所得には大きく分けて労働所得と資本所得。労働所得は賃金を通じて家計が享受する所 得で、資本所得というのは配当や利息、あるいは企業の利潤のように企業サイドで生まれて いく所得のことになります。経済全体の生産が増えて経済全体の所得が増えているんです けれども、今のところその配分に関しては、企業の方の利潤とかの資本所得の方に若干厚く 回って、賃金などの労働所得の方になかなか、まだまだ十分に回ってこない状態があるので す。 先ほど私が GDP はなかなかいいよと言ったことが、実際家計の皆さんが、なるほど、よ くなっているんだなと実感するのには、ちょっとまだ少し時間がかかるのかなというふう には思っています。 ※※ よく分かりました。今朝のお話、どうもありがとうございました。 齊藤 ありがとうございました。 ※※ 『社会の見方・私の視点』 。SNA、国民経済計算から見えること。お話は一橋大学大 学院教授の齊藤誠さんでした。
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