米国環境産業動向 - 日本産業機械工業会

情 報 報 告
シカゴ
●米国環境産業動向
○国連環境計画、排出量ギャップ報告
国連環境計画(UNEP)は、参加国 119 ヶ国がそれぞれの排出削減目標を実行したとしても、国連が
目指している 2100 年までに地球の気温上昇を 2℃未満に抑えるという目標のほぼ半分しか実現できな
いという分析結果を 12 月 4 日にパリ気候会議で報告した。10 月 1 日までに各国から国連気候変動枠組
条約(UN Framework Convention on Climate Change)に提出された約束草案(INDC)を評価した
結果、それぞれの削減努力によって、2030 年までに最大で CO2 換算 11 ギガトンまでの排出量を削減
できることが分った。しかし、2100 年までに気温上昇を 2℃未満に抑えるためには、2030 年までに 42
ギガトンの削減が必要となり、より劇的なアプローチと自由の利く国際融資が必要不可欠であるという。
○全 196 ヶ国・地域が参加し、新しい気候変動枠組を示すパリ協定を採択
パリで開催された国連気候変動枠組条約第 21 回会議(COP21)において、2020 年以降の気候変動
対策の枠組を示す『パリ協定』が 12 月 11 日に採択された。先進国のみに排出量削減を義務付けた
1997 年の京都議定書とは異なり、発展途上国を含む全 196 ヶ国・地域に、自主的な削減目標の策定と
国内対策の実施を義務付けた。数値目標の達成には法的拘束力を持たせないため、前回途中で離脱した
米国や最大排出国の中国を含めて全ての国が参加する画期的な合意となった。また途上国の参加を促す
ため、先進国から途上国への資金支援の義務化も盛り込まれた。温暖化の抑制のために、産業革命以降
の気温上昇を 2℃未満に抑える必要性を明記しつつ、1.5℃未満に抑える努力を追及することを併記した。
○大手企業 114 社、民間ベースで排出量削減を目指すイニシアティブを発表
パリ会議では、国や地域の代表ばかりでなく、産業界からも積極的な取組みが目立った。大手企業
114 社は、世界の気温上昇を 2℃未満に抑えるために、各社が科学的データに基づいて炭素削減目標を
設定し、達成に努力する『科学ベース目標イニシアティブ(Science Based Targets Initiative)』へ参
加する計画を 12 月 8 日に発表した。コカコーラ、デル、GM、Ikea、ケロッグ、P&G、ソニー、ウォ
ルマートなど 9 社は既に具体的な炭素削減目標を提出している。そのほか、フィリップス(Philips)
社は、2020 年までにカーボンニュートラルを達成する計画を発表し、コカコーラや ING は、消費電力
の 100%を再生可能エネルギーから賄うことを目指す RE100 イニシアティブに参加した。
○米国、発展途上国の気候変動助成金を年間 8 億 6 千万ドルへ倍増
米国は、発展途上国が気候変動に対応するのを支援するための助成金額を、当初予定していた年間約
4 億ドルから 8 億 6 千万ドルへ増額することを 12 月 9 日に発表した。途上国は、飢饉や洪水、海面の
上昇といった気候変動の影響を緩和する財政支援を求めており、米国やその他の先進国は、合わせて年
間 1,000 億ドル以上の資金を融通することで合意していた。米国は、途上国の適応とクリーンエネルギ
ーのプロジェクトを支援するために、2014 年に国連のグリーン気候基金(Green Climate Fund)に
30 億ドルを拠出することを発表しており、今回の支援はそれをさらに長期的に拡大したものという。
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○ニューヨークの 16 の大手ホテル、排出量を 10 年間で 30%削減する宣言
ニューヨーク市の 16 の有名ホテルが、今後 10 年間で温室効果ガスの排出量を 30%以上削減してい
く合意を交わしたことが 12 月 28 日に発表された。参加するのは、ウォルドルフ・アストリア、グラン
ド・ハイアット、ウェスティン、ペニンシュラといった高級ホテルで、合わせて 3 万 2 千トンの温室効
果ガスを削減し、エネルギー費を 2,500 万ドル節減できると推定される。ニューヨークのデブラシオ市
長は、2050 年までに市全体の排出量を 80%削減するという『NYC 炭素チャレンジ(NYC Carbon
Challenge)』を掲げている。ニューヨーク市は、2014 年に 5,650 万人が訪れた全米で最も観光客の多
い街の1つであり、有名ホテルが取り組む環境プログラムは強力な宣伝効果があると期待されている。
○米国の原油輸出が 40 年振りに解禁
米国の原油輸出を 40 年振りに解禁することを盛り込んだ 2016 会計年度歳出予算法案が、12 月 18 日
に上下院を通過してオバマ大統領の署名をもって成立した。米国原油の輸出解禁は、共和党と石油業界
にとって当法案の最優先事項であり、その代わりに民主党への歩み寄りとして太陽や風力エネルギーの
税額控除の延長が盛り込まれた。ここ例年の歳出予算法案は、紛糾の末に連邦債務上限の引き上げや政
府機能の一時停止にまで縺れ込む年が多かったが、今回は共和党、民主党ともに歩み寄りを見せて年内
に決着した。米国は、石油危機の 1975 年から原油の輸出を原則禁止してきたが、近年はシェールオイ
ルの飛躍的な成長によって、国内外の石油業界から解禁の要望が高まっていた。
○カリフォルニアの天然ガス井で史上最大のガス漏れ事故
カリフォルニア州アリソ・キャニオンの地下 8,700 フィートにある天然ガス井が破裂したことが 10
月 23 日に発見されて以来、2 ヶ月以上にわたって 77,000 トンものメタンガスを放出し続けていること
が 1 月 4 日に報告された。近隣の住民数百人が避難を余儀なくされており、米国史上最大のメタン漏れ
事故である。メタン漏れが最も激しかった 11 月後半には、自動車 700 万台分か 6 つの石炭火力発電所
に相当する温室効果ガスを毎日排出していた。現在、作業員が地下深く 7 インチ幅のパイプの損傷箇所
を探索しており、解決は早くとも 2 月末になると予想されている。アリソ・キャニオンの施設は、元々
石油の採掘のために 60 年程前に建設されたもので、油井が枯渇した後に天然ガス貯留場となった。今
回のガス漏れ事故により、米国石油・ガス業界のインフラの老朽化に再び懸念が高まっている。
○再生可能エネルギー電力の比率が高いトップ 10 の州
消費電力量に対する再生可能エネルギー発電量の比率等から州別のグリーン性を評価したグリーン州
トップ 10 リストが、イリノイ州のオリベット・ナザレネ(Olivet Nazarene)大学から 11 月 5 日に発
表された。首位はメイン州で、その風力発電量はニューイングランドの近隣 5 州を合わせたよりも多い。
2 位のロードアイランドは、太陽エネルギーを強く推進しており、2013 年には太陽エネルギー部門の就
労数が 62%も増加した。3 位のアイダホの主力は地熱発電であり、2013 年には総発電量の 78%が再生
可能エネルギー電力であった。4、5 位は、2025 年までに購入電力の 25%を再生可能エネルギーから賄
うよう義務付けられたデラウェアと、同じく 2030 年までに 40%と義務付けられたハワイが来る。6 位
のオレゴンは水力発電量が 73%を占め、7 位のネバダは州外から電力の 90%を州外から購入しているも
のの、地熱エネルギーは全米 2 位の潜在力を持つ。8 位のサウスダコタは風土の 88%が風力発電に好適
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な立地をしており、9 位のワシントンは全米有数の水力発電が盛んな州である。10 位のアイオワは総発
電量の 4 分の 1 を風力発電から賄っている。
○サンディエゴ市、2035 年までに全電力を再生可能エネルギーから賄うことを義務付ける条例
全米で 8 番目に大きいカリフォルニア州のサンディエゴ市の議会が、2035 年までに電力を 100%再
生可能エネルギーから賄うことを義務付ける条例を 12 月 15 日に全会一致で可決した。ニューヨークや
サンフランシスコなど、再生可能エネルギー電力の拡大を進める大都市はあるが、法的拘束力のある条
例として定めたのはサンディエゴ市が初めてである。2035 年までに市の電力を 100%再生可能エネルギ
ーから賄い、温室効果ガスの排出量を半分に削減するという。また、2020 年までに市所有の車両の半
分を電気自動車に替え、下水や排水処理場から出るメタンガスの 98%をリサイクルする計画も発表した。
○ニュージャージー州沖合いに洋上風力エネルギーの観測ブイを配備
ヨーロッパに比べて大きく遅れている米国の洋上風力発電が一歩前進する。エネルギー省が、AXYS
風力観測ブイをニュージャージー州のアトランティックシティ沖合いに配備したことが 12 月 7 日に発
表された。このボート状のブイは、将来の洋上風力発電の開発に必要な情報を集めるための観測機器が
搭載され、無人で操作できる。ブイの天辺には LiDAR(光検出測距)装置が取り付けられており、レ
ーザー光線を空に放ってその反射を測定することで、様々な高度の風速の特徴を見分けられるという。
洋上風力発電の開発には、正しい場所の選択が必要不可欠であり、利用可能な風力エネルギーの特徴を
評価することで、空と海の相互作用やその場所に特有の影響などが明確に見えるという。
○司法省、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェを大気浄化法違反で提訴
米国司法省と環境保護庁(EPA)は、フォルクスワーゲン社とその傘下のアウディ、ポルシェ社に対
して、大気浄化法違反による民事訴訟をミシガン州デトロイトの連邦地方裁判所に 1 月 4 日に提出した。
米国で販売された 2009~ 2015 年型の約 60 万台のディーゼル車には、排ガス浄化機能を操作する違法
ソフトウェアが搭載されており、排ガス試験時にだけ浄化機能を完全稼動させ、実際の運転時には
EPA の基準を大きく上回る窒素酸化物を排出していた。連邦政府による捜査は現在も継続しており、
EPA やカリフォルニア大気資源委員会は、基準不履行に対する賠償やリコールに関してフォルクスワ
ーゲン社と議論を続けている。また、今後は顧客からの損害賠償による巨額の負担も予想される。
○グーグル社、フォードと無人自動車の開発で合弁事業
グーグル社とフォード自動車が、無人自動車の開発と製造を行う合弁会社を設立する計画が 12 月 21
日に紹介された。1 月の消費者電子機器見本市(Consumer Electronics Show)で、フォード社から正
式に発表される予定である。グーグル社の開発した自走ソフトウェアと、フォード社の製造技術が合体
する。合弁会社をフォード社とは分離することで、無人自動車が関係して事故が起こった際の法的責任
から同社を守ることができる。事故の際の法的責任は、無人自動車の実用化に向けた障害の1つとなっ
ており、ボルボ、グーグル、メルセデス・ベンツは、事故に対する責任を負う意思を表明している。
○米国最大の宅配便 UPS 社、埋立地からの再生可能天然ガスをトラック燃料に利用
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米国最大の小口貨物輸送会社 UPS 社は、テネシー州メンフィスとミシシッピ州ジャクソンに所有す
る大型トラック 140 台以上の燃料として、埋立地から発生する再生可能天然ガス(RNG)を利用する
計画を 12 月 18 日に発表した。本来は埋立地から大気中に放出されてしまうバイオメタンを回収するこ
とで、排出量削減の効果もある。再生可能天然ガス(RNG)は、埋立地、排水処理場、農場の腐敗有
機廃棄物など、豊富で再生可能な資源から抽出される。天然ガスパイプラインを通して分配され、液化
天然ガス(LNG)や圧縮天然ガス(CNG)として利用できる。UPS 社は、天然ガスの他にプロパン、
エタノール、再生可能ディーゼル、水素、電気といった代替燃料を利用しており、2014 年には調達燃
料の 5.4%が代替燃料であった。2017 年末までに代替燃料で 10 億マイル走行という目標を掲げている。
○2014 年型の自動車燃費、EPA の燃費基準を 3 年連続で上回る
2014 年型車の燃費が、EPA の燃費基準を 3 年連続で上回ったことが、環境保護庁(EPA)から 12
月 16 日に報告された。『温室効果ガス製造者性能報告(Greenhouse Gas Manufacturer Performance
Report)』によると、2014 年型の自動車は、EPA の基準値よりも 1 マイル当り CO2 排出量が 13g、
燃費が 1.4mpg(1 ガロン当り走行マイル)上回ったという。また、2014 年型車の燃費は引き続き過去
最高を記録し、全種平均で 24.3mpg、軽量トラックで 20.4mpg となった。2004 年からの 10 年間で燃
費は飛躍的に向上し、全種平均で 5mpg、26%も増加した。EPA と運輸省は、2025 年までに新車の燃
費を倍増して排出量を半減する新しい基準を、2012 年から段階的に導入している。
○シアトル国際空港、全フライトにバイオ燃料を利用する計画
シアトル・タコマ国際空港とシアトル港を管理するポート・オブ・シアトル(Port of Seattle)は、
ボーイング社、アラスカ空港と協力して、同空港を利用する全航空会社の全フライトに、持続可能な航
空バイオ燃料を利用する計画を 12 月 16 日に発表した。シアトル・タコマ国際空港は、航空バイオ燃料
を長期的にインフラに組み込む米国で初めての空港となる。まず第 1 段階として、25 万ドルを投じて
航空バイオ燃料と従来のジェット燃料の混合に必要なコストとインフラの実現可能調査を 2016 年末ま
でに完了する。シアトル・タコマ国際空港は、26 の空港会社が年間 38 万以上のフライトを運行してお
り、インフラに組み込むバイオ燃料量も相当なものになる。ワシントン州では現在航空バイオ燃料を生
産しておらず、この計画がバイオ燃料メーカーの誘致に役立つことも期待されている。
○ドイツのソネン社、テスラに先駆けて米国で家庭用蓄電システムの発売開始
ドイツの蓄電システムメーカー大手のソネンバッテリー(Sonnenbatterie)社が、テスラ社に先駆け
て、家庭用蓄電システムを米国で発売開始したことが 12 月 18 日に紹介された。ソネン社は、カリフォ
ルニア州サンホセで蓄電システムを製造し、米国内の 30 の代理店と供給契約を結んでいる。生産は既
に完全生産体制に入っており、1,000 台を受注したという。ソネン社が提供する家庭用完全パッケージ
は、自家発電の太陽エネルギー電力を自家消費したいと望む顧客のために、リチウムイオン電池、イン
バーター、制御・計測テクノロジーが 1 つの箱に収められたプラグ&プレイシステムになっている。毎
日充電と消費を繰り返すことを想定し、1 万周期の寿命を可能にしている。コストは、設置費用を含め
て約$11,000 となる。一方、発売前から話題を集めているテスラ社のパワーウォール(Powerwall)は、
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7kWh 型で価格が約$3,000 で、2016 年 1 月から小売開始される予定である。こちらは、その他にイン
バーターやソフト、設置費用等が必要となり、最終卸価格は約$7,000 である。
○エネルギー省、商業用エアコンの省エネ基準を発表
エネルギー省は、商業用エアコンと暖房炉の新しい省エネ基準を 12 月 17 日に発表した。パリ協定の
数日後に発表された同基準は、エアコン業界や電力業界と協力して開発したもので、前基準との省エネ
幅は製品寿命を通して 1,670 億ドルと史上最大となり、炭素排出量は 8 億 8,500 万トンを削減できると
いう。新基準の導入は 2 段階式で行われ、まず 2018 年に効率性の 13%向上、2023 年にはさらに効率
性の 15%向上となる。エネルギー省はオバマ政権の間に、商業用冷蔵機器、電気モーター、蛍光灯を含
めて 40 種以上の家庭用・商業機器の省エネ基準を設定した。
○北米自動車産業へのロボットの売上げ、記録的な伸び
北米の自動車産業で、ロボットの売上げが記録的に伸びていることが 12 月 17 日に紹介された。ロボ
ットはより小型化して安く簡単にプログラムできるようになり、10 年前には不可能だった複雑な作業
をこなすことが出来る。最も進歩したのは視覚部分であり、$1,500 程度の手頃な視覚カメラを搭載し
たロボットは、複数のものが混在する箱の中から特定の部品を取り出すことができる。安全ソフトウェ
アの進歩やコストの低下によって、ティア 2 のサプライヤでもロボットを導入する企業が増えている。
ロボット工業会(Robotic Industries Association)によると、北米の 2015 年 1~9 月の自動車業界向け
ロボットの売上げは、前年同期比 6%増の 14,528 体を記録したという。2014 年には受注が前年比で
45%も増加しており、需要は堅調に伸びているものの、2015 年の成長率は若干減速する見込みである。
○ペンシルバニア州の下水道局、下水汚泥の改善プロジェクト
ペンシルバニア州のランカスター地域下水道局(Lancaster Area Sewer Authority)は、水汚染管理
の環境への影響を軽減するために、2,680 万ドルを投じて下水道の汚泥を改善するプロジェクトを 12
月 17 日に開始した。プロジェクトを実行するブシャール・ホルン(Buchart Horn)社は、嫌気分解装
置を使って下水汚泥を安定させ、メタンガスを発生させる。さらに、発生したガスの熱を利用して下水
汚泥を乾燥させる。乾燥した下水汚泥は、単なる悪臭や閉塞の元ではなく、肥料製品として売却できる。
○カリフォルニア州サンディエゴ郡に全米最大の海水淡水化工場
カリフォルニア州サンディエゴ郡に建設された全米最大の海水淡水化工場の操業開始を祝う祝典が
12 月 14 日に開催された。カールズバッド(Carlsbad)淡水化工場からは、既に 15 億ガロンの淡水が
地域に給水され、地域の水不足の緩和に役立っている。同工場を開発したポセイドン・ウォーター
(Poseidon Water)社は、サンディエゴ郡水公社(San Diego Water Authority)と 30 年間の水購入
契約を結んでおり、地域の水需要の 10%に当たる 40 万人を賄える年間 56,000 エーカー・フィートの
水を供給できる。20 年以上の年月と 10 億ドルを投じた淡水化プロジェクトには、カールズバッド工場
のほか、地域の配水システムへ繋ぐ 10 マイルのパイプライン、既存の配水システムの改善が含まれる。
淡水化コストは 1 ガロン当り約 0.5 セントで、標準世帯の負担は月間 5 ドル程度という。
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