米国環境産業動向 - 日本産業機械工業会

情 報 報 告
シカゴ
●米国環境産業動向
米国、政府の気候政策格付けで 44 位
公共政策や環境問題に取り組む非営利・非政府機関ジャーマンウォッチ(German watch)から、世
界 58 ヶ国の気候政策について格付けした気候変動性能指数(Climate Change Performance Index)が
2014 年 12 月 2 日に発表された。今回で 10 回目となるこのリストは、世界のエネルギー関連二酸化炭
素排出量の 90%を占める 58 ヶ国を分析したものである。“非常に良い”と見なされる国はなかったた
め、上位 3 位は空白である。4 位はデンマーク、5 位以下にスウェーデン、イギリス、ポルトガル、キ
プロス、モロッコ、アイルランドと続く。米国は、輸送部門での排出量が依然高いレベルではあるもの
の 2008 年以来減少し続けていること、連邦レベルの規制が未発達かつ公共交通機関が著しく未開発で
あること、第 2 期オバマ政権は気候政策に注力しているものの議会の大半が反対していること等から
44 位となったが、2 大排出国である中国と初めて将来の CO2 排出量に関する共同宣言を行った努力は
評価された。またカナダは、2020 年までに排出量を 20%削減するという目標を放棄したため 58 位とな
った。
国連のリマ気候変動協議、強制力を持たない枠組みで合意
世界 196 ヶ国の代表が集まってペルーのリマで昨年 12 月 1~14 日に開かれた国連の気候変動協議で
は、温室効果ガス排出量の削減に努めることで合意し、2015 年のパリサミットまでに各国の削減目標
を設定するという枠組みを承認したものの、強制力を持たせることはできなかった。この合意はパリサ
ミットで新しい気候条約を締結する際の基盤とされるが、インドなどは今後 6 ヶ月間で目標設定をする
のは難しいと既に表明しているほか、米国内やオーストラリアなどでは気候活動の有効性に疑問の声が
上がっている。今回の協議は、富裕国と貧困国で排出量削減の負担をどう分担するか大きく見解が分か
れた困難なものとなり、環境団体は効果のない妥協に過ぎないと批判的である。
シェブロン社、原油値下がりにより北極海石油の開発プロジェクトを凍結
カリフォルニアを本拠地とする石油メジャーのシェブロン(Chevron)社は、原油価格の下落に伴う
“景気の不透明感”から、カナダ北極圏のボーフォート(Beaufort)海における石油採掘プロジェクト
を無期限で凍結することを 12 月 17 日に発表した。過去 6 ヶ月間に原油価格は半分近く下落しており、
石油会社は軒並み 2015 年予算を削減しているが、今回のシェブロン社のプロジェクト凍結はそのなか
でも最大規模である。同社は、この EL481 鉱区を含めたボーフォート海の 2 つの採掘権を獲得するた
めに、既に総額 1 億 330 万カナダドルを支払っている。ツクトヤクツクの北西 250km にある EL481
鉱区の採掘プロジェクトは 2009 年から計画され、2020 年代に採掘開始される予定だった。ほかにボー
フォート海で合弁採掘プロジェクトを進めているエクソンモービル、BP、インペリアル・オイル社は、
初期段階の計画に変更はないものの、最終決定には至っていないと発表している。
ニューヨーク州、シェール層水圧破砕を禁止
ニューヨーク州のクオモ知事は、健康への懸念を理由に州内のシェール層水圧破砕を禁止することを
12 月 17 日に発表し、長年にわたる天然ガス採掘法に関する論議に終止符を打った。ニューヨーク州は、
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一時停止令によって水圧破砕の実施を 5 年以上差し止めていたが、今回全米で初めて州法によって水圧
破砕を禁止した。この動きが他州や地方自治体へも広がる可能性がある。ニューヨーク州からペンシル
バニア、ウェスト・バージニア、オハイオ一帯には国内有数のシェール鉱区マーセラスが広がっており、
原油と天然ガスによる経済効果に期待していた一部の自治体は、州経済の停滞を懸念している。
オバマ大統領、アラスカのブリストル湾における原油ガス採掘権リースを無期限に停止
オバマ大統領は、米国最大の漁獲量を誇るアラスカのブリストル湾を原油と天然ガスの採掘権リース
から無期限に除外することを 12 月 16 日に発表した。 ブリストル湾は、世界最大の紅鮭の産地であり
米国の天然漁獲量の 40%を占めて年間 20 億ドルもの漁業を支えるほか、風光明媚な湾内は娯楽的漁業
と観光業に 1 億ドルを生み出している。オバマ大統領は、2010 年に同湾の石油ガス採掘リースを暫定
的に停止することを発表しており、2017 年に期限が切れる予定であった。
オースティン市、2025 年までに電力の 55%をクリーン電力から
テキサス州オースティン市は、2025 年までに市の電力需要の 55%を再生可能エネルギー電力、エネ
ルギー効率改善、その他のクリーン電力から賄うことを誓う 2025 年発電計画を 12 月 11 日に承認した。
この計画が実現すれば、オースティン市は全米で最も高いグリーンな都市の 1 つとなる。内訳としては、
太陽発電から 950MW、このうち 600MW は 2015 年に発電業者へ提案募集を開始し、また 200MW は
地元から調達する予定である。エネルギー効率と需要反応によって、今後 10 年間で 800~900MW を
見込んでいるほか、既存の石炭火力発電所に代えて 500MW の天然ガス火力発電所を建設する予定であ
る。
米国商務省、中国と台湾からのソーラー機器に反ダンピング税
米国商務省は、中国に加えて台湾で製造されたソーラー機器にも重い関税を課すことを 12 月 16 日
に発表した。2012 年にドイツ系ソーラーパネルメーカーのソーラーワールド(Solar World)米国法人
の訴えにより、中国製のソーラー製品に対して最高 165.04%の反ダンピング税が課された。このため、
中国メーカーがパネルの部品となる太陽電池(セル)を台湾で製造し、組み立てを中国で行って税の適
用を逃れる例が増えた。2013 年の中国から米国へのソーラー製品の輸入は 2011 年からほぼ半減して
15 億ドルとなった一方で、台湾からの輸入は倍増して 6 億 5,700 万ドルとなった。今回の反ダンピン
グ税は、米国国際貿易委員会(ITC)によって 1 月 29 日に最終決定が下される予定で、中国で組み立
てられたパネルは、今後は部品の製造国にかかわらず中国製とみなされるほか、台湾製品の輸入に対し
ても反ダンピング税が最高で 27.55%課されることになる。
2014 年第 3 四半期の太陽光発電の新規設置量、前年同期比で 41%増
米国で 2014 年第 3 四半期に新設された太陽光(PV)発電容量は 1,354MW となり、前年同期比で
41%増加したことが太陽エネルギー工業会(Solar Energy Industries Association:SEIA)から 12 月
9 日に報告された。全米に設置済みの太陽光(PV)発電容量は累計で 16.1GW、集光型太陽熱(CSP)
発電は 1.4GW となった。住宅用ソーラーパネル新規設置量は、2014 年第 3 四半期に初めて 300MW を
超え、その半分以上が州の補助金を受けずに設置された。2014 年末までにソーラーパネルを持つ住宅
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の数は 60 万戸以上になると予想される。2014 年は、太陽光(PV)だけでなく集光型太陽熱発電
(CSP)にとっても最高の年であり、第 1 四半期には 392MW のイバンパ(Ivanpah)発電所が完成し、
12 月にはアベンゴア(Abengoa)社の 250MW のモハビ(Mojave)発電所が商業的に操業開始した。
2014 年の新規設置ソーラー発電容量は 6.5GW に達し、過去最高であった 2013 年から 36%増、2011
年と比べると 3 倍以上になると推定される。
GE 社、悪天候による停電から地域社会を守るマイクログリッド開発
GE 社が、カナダとの国境の町ニューヨーク州ポツダムに、悪天候による停電から地域社会を守る小
規模送電網“マイクログリッド”を開発する計画が 12 月 10 日に発表された。悪天候に見舞われやすい
地域が通常の発電所送電網から切断されても電力システムを数日間稼動させられるほか、電力需要の高
い真夏や真冬時の補助エネルギーとしても利用である。この強化マイクログリッド制御システム
(eMCS)は、エネルギー省から 120 万ドル、ニューヨーク州から 38 万ドルの助成を受け、GE 社が
30 万ドルを投じて今後 2 年間をかけて開発される。熱電併給システム 3MW、太陽光発電 2MW と蓄電
装置 2MW、水力発電 900kW を組み合わせて地下システムとして作られる。
2014 年の新車販売台数、リーマンショック以来 8 年ぶりの高水準
2014 年は度重なる安全リコールにもかかわらず、米国での新車販売台数が 1,650 万台とリーマンシ
ョック以来 8 年ぶりの高い水準となったことが調査会社オートデータ(Autodata)社から 1 月 5 日に
発表された。これは不況前の 2006 年の 1,694 万台に次ぐもので、2013 年と比べると 100 万台近く増
加した。この原因は景気回復、消費者の自信回復、ガソリン価格とリース価格の値下がりなどが考えら
れる。フィアット・クライスラー社は、前年比で 16%増加して 200 万台以上を販売し、とりわけ Jeep
ブランドは過去最高の販売台数となった。GM 社は、同社始まって以来最も深刻なリコールを経験した
にも拘らず、300 万台近くを販売して前年比で 5%増となった。とくに、Sonic や Spark などの小型車、
SUV の Buick Enclave や Encore など 7 車種は、過去最高の販売台数を記録した。Jeep Cherokee な
ど小型 SUV の人気が高まり、ホンダの CR-V は前年比 10%増、トヨタの RAV4 は 23%増となった。
ロイヤル・カリビアン・クルーズ社、排出二酸化硫黄を取り除く AEP システム
ロイヤル・カリビアン・クルーズ(Royal Caribbean Cruises)社は、ディーゼルエンジンから排出
される二酸化硫黄を 97%以上除去できる高度排出浄化(AEP)システムを所有クルーズ船の 19 隻に配
備 す る こ と を 12 月 24 日 に 発 表 し た 。 こ の 動 き は 国 際 海 事 機 関 ( International Maritime
Organization)の排出規制海域の基準改定と既存の EU 基準を満たすものである。硫黄含有量の少ない
燃料に切り替える代わりに AEP システムを導入するという決断は、低硫黄燃料が入手しにくい世界中
どこにいっても確実に基準を順守できるよう目指したものである。
フォルクスワーゲン社、電気自動車の航続距離を大幅に伸ばす電池技術に投資
フォルクスワーゲン社は、電気自動車(EV)の航続距離を 3 倍に伸ばす可能性を持つ技術の開発を
目指して、新興電池メーカーのクアンタムスケープ(Quantum Scape)社の株式を取得したことを 12
月 5 日に発表した。この蓄電技術は、電解液を使う大半の EV と異なり固体の電解質を用いた全固体電
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池であるため、発火しにくく安全であり、同社はゴルフ(Golf)EV から始めてポルシェやアウディに
も同技術を拡大することを検討している。利用可能かどうかのテストは 2015 年半ばに完了する予定で
ある。先行する EV メーカーのテスラ(Tesla)社では、2013 年にモデル S が発火する事故が起こり現
在連邦当局の調査を受けている。テスラのモデル S の航続距離は 265 マイルであるが、クアンタムスケ
ープ社の技術によってゴルフ EV は 430 マイル(700km)まで伸ばせる可能性がある。
スピードと燃料効率を高めるタイヤテクノロジー
タイヤメーカーは、連邦燃費基準の順守を義務付けられた自動車メーカーのプレッシャーのもとで、
その手助けとなるべく燃料効率の良いタイヤの開発に努めている。ブリジストン社は、直径が大きくて
幅の狭い “オロジック(ologic)”テクノロジーを BMW の新しい i シリーズ電気自動車(EV)へ供給
している。オロジックのタイヤは、1 回転でより長い距離を走ることができるうえに道路との接触が少
ないため、スピードと燃料効率を高めることができる。この動きは、コーナリングの鋭さと安定した発
進を目指した 1990 年代後半以降の幅広タイヤと逆行するものであるが、これによって BMW の i3 と
i8EV は 1 回の充電でより長い距離を走行できる。また、米国のグッドイヤー(Goodyear)社は、タイ
ヤ圧を絶え間なくモニターすると同時に自動内部ポンプ装置を使って正しい圧力を維持する“エアメン
テナンス”タイヤシステムを開発している。12 月 1 日に紹介された。
アイオワ州、スマートフォン版の自動車免許証を開発
通常の運転免許証の代わりに使えるスマートフォンのアプリを、アイオワ州が全米で初めて 2015 年
に導入することが 12 月 12 日に紹介された。通常の免許証とスマートフォン版の両方を持つこともでき
る。同州運輸省は、偽造免許証などの詐欺を減らすためにこのアプリを推奨していく予定で、利用者は
安全のためにアプリを開く際には PIN コードを使うことになる。しかし、プライバシー面で解決すべ
き懸念も多く、警察官が運転者の免許証アプリを調べているうちに他の情報まで覗き見てしまう可能性
などがある。他の情報へアクセスできない状態で免許証のみを見られるボタンが現在作成されている。
スタンフォード大学、ビルの熱を大気中へ放射するハイテク鏡を発明
建物内の熱を大気中に放射すると同時に、中に入ってこようとする太陽光を反射することで、エアコ
ンなしでも建物を冷やせる革新的な超薄の多層コーティング材が、スタンフォード大学から 11 月 26 日
にネイチャー誌に発表された。この発明の核となるのは、可視光と不可視光の両方を扱える極めて薄い
多層素材である。この素材は、熱を伝える不可視光である赤外線を建物から大気中へ放出し、可視光と
して入ってくる太陽光を鏡のようにほぼ全て反射することができる。まだ初期段階であるが、屋根に大
規模に採用することで冷房費を大きく節約できる費用効果の高い方法として期待されている。
カリフォルニア州のプラスティック袋禁止法の再投票を求める署名
プラスティック産業協会(Plastics Industry Trade Association)は、2014 年 9 月にカリフォルニア
州で成立したプラスティック袋禁止令を覆すために必要とされる以上の 80 万人の署名を集めたことを
12 月 29 日に発表した。同禁止令は 2015 年 7 月 1 日から実施される予定であるが、この署名が承認さ
れれば 2016 年 11 月に再び賛否を問う投票が行われることになる。米国の 2012 年のプラスティック袋
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とラップのリサイクル率はわずか 12%と低い。プラスティック袋のリサイクルが進まないのは、リサイ
クル材の単価が 1 トン当たり$5 と安いことも一因と言われている(プラスティック缶は 1 トン$500、
紙は 1 トン$100)。同法では、紙袋に 10 セント以上の料金を徴収することも認めている。
ニューヨーク州、電子廃棄物を一般ゴミに出すのは違法
ニューヨーク州は、電子機器のリサイクルを義務付ける法律を 2015 年 1 月 1 日から実施する。古い
コンピューター、モニター、電話、キーボード、テレビ、ゲームコンソールといった電子機器を処分す
る際には、一般ゴミ回収に混ぜて出すのではなく、参加する小売店か地元のリサイクル催事場に持ち込
まなければならない。違反者には 100 ドルの罰金が課されることになる。電子機器のリサイクルに関す
る法律は 25 の州に存在するが、マサチューセッツ、メイン、ミネソタなどはブラウン管テレビやモニ
ターの埋立廃棄を禁止するにとどまり、ニューヨークほど徹底したものは初めてである。
EPA、石炭火力発電所からの石炭灰の廃棄に初めての全国規制
環境保護庁(EPA)は、石炭火力発電所から生まれる石炭灰を安全に廃棄することを目的に、全国初
の連邦規制を 12 月 19 日に発表した。2014 年 2 月には、ノースカロライナとヴァージニア州にまたが
るダン川に膨大な量の石炭灰が長年にわたり無許可で廃棄されていたことが明らかになり、石炭灰処理
に関する規制の制定が待ち望まれていた。この新規制は、石炭灰を有害廃棄物(hazardous waste)と
は指定せずに、家庭ゴミや生ゴミと同様の要件で扱うものである。現在、石炭灰の一部はコンクリート
や壁板として加工されているが、もし“有害廃棄物”に指定されたならば建設プロジェクトへの再利用
が難しくなっていたため、産業界や廃棄物業者は歓迎している。しかし環境団体は EPA の判断を不服
としており、厳格化の判断は今後州や地方自治体の方針に委ねられていくことになる。
シェール水圧破砕による水質汚染に 530 万ドルの罰金
EPA と司法省は、全米最大の天然ガスを保有するエクソンモービル(ExxonMobil)社の子会社 XTO
エナジー(XTO Energy)社が、水圧破砕に関連する物質をウェスト・バージニア州 8 ヶ所の河川や湿
地に廃棄した件で、水質浄化法(Clean Water Act)による罰金 230 万ドルと原状回復費用約 300 万ド
ルを支払うことで合意したと 12 月 22 日に発表した。同社は、井戸や道路を建設するために無許可で土
砂や岩石を河川や湿地に廃棄し、5,300 立方フィートの河川と 3.38 エーカーの湿地に影響を与えた。
ヴェオリア社、ワイナリーの排水処理に嫌気性消化システム
ヴェオリア・ウォーター(Veolia Water)社が、カリフォルニア州ナパ・バレーのブドウ畑とワイナ
リーに排水をリサイクルする嫌気性消化(AD)システムを開発していることが 12 月 23 日に紹介され
た。このシステムでは、ワインと果汁の残滓、樽の洗浄、排水のスクリーニング、池の汚泥、放出した
冷却水、濃縮した硬水軟化剤、イオン交換廃棄物、酸腐食洗浄水、高塩分排水といったブドウ栽培やワ
イン醸造の過程で生まれる年間 1 億ガロンの排水を処理することができる。ブドウの皮なども嫌気バク
テリアによって 24 時間で分解することができ、処理された水はブドウ畑の灌漑に使われる。総額
1,500 万ドルのプロジェクトは環境投資団体から一部出資を受けており、ブドウ畑やワイナリーの現場
で、浄化槽、濾過場、排水池といった排水処理施設に要するコストが削減されるとみられている。
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