巻 頭 言 介護職員人材不足に思う 全老健常務理事、老人保健施設シルピス大磯理事長 岡田 温 ここ数年来介護職員の人手不足は深刻である。 今後要介護者がさらに増加する一方、労働人口は 減少が見込まれるため、介護職員の不足がより一 層深刻化する懸念が強い。 介護保険施行時(平成12 年度)の介護職員数 は55 万人であったのが、平成24 年度149 万人、 平成27 年度167 ~ 176 万人と推計されている。 そして高齢化がピークを迎える2025 年度(平成 37 年度)には約237 ~ 249 万人の介護職員が必 要と推計されている。つまり介護保険施行後介護 職員は増加し、12 年間で倍以上となっており、 2025 年には介護職員はさらに1.5 倍程度必要とさ れる計算となる。厚生労働省は2025 年度には約 30 万人の介護職員が不足すると推計している。 多くの事業所において介護職員が不足している のは、離職率が高いことも 1 つの要因であると思 われるが、以前から 3 Kなどといわれてきたよ うに、精神的にも肉体的にもきつい仕事であるに もかかわらず、賃金や社会的評価が決して高くな いことに起因するのではないだろうか。 最近では介護福祉士の有資格者の増加とともに、 介護の専門性について一定の評価を受けつつある が、看護師や理学療法士など他の専門職と比較す るとまだまだ評価は高くないのではないか。 賃金については昨今、キャリアパス要件、定量 的要件を満たすことにより介護職員処遇改善加算 の算定が可能となり、ある程度の賃金改善を図る ことができるようになった。ただ、各種手当や夜 勤手当を含めない基本給では確かに他の産業より も低いと思われる。介護職員と雇用する事業所双 方を踏まえた場合、抜本的な給与水準引き上げに は介護報酬の引き上げが不可欠ではないだろうか。 それでは我々老健施設としては介護職員確保の ために何をすべきか…、また何ができるのかを考 えた場合、介護の仕事の魅力発信や働きやすい職 場環境の整備、未経験者の育成、潜在有資格者の 就職支援、キャリア支援等々があげられる。 特に平成24 年のデータでは、介護福祉士登録 者数108 万人に対し、実際に介護職員として従事 している人数は58 万人といわれ半数が潜在有資 格者として介護に従事していないこととなる。そ の理由は必ずしも賃金ということではないであろ う。大いに老健施設として仕事の魅力を彼らに発 信して介護職として従事していただきたいものだ。 こうしたなか、平成20 年にEPA(経済連携協 定)に基づく看護師、介護福祉士候補者がインド ネシアから、平成21 年にはフィリピンから来日 した。EPA 介護福祉士候補者(以下、EPA 候補 者)は毎年インドネシア・フィリピン・ベトナム から多数来日され、そのなかで立派に介護福祉士 となり職場で活躍しておられる方ももちろん多数 いらっしゃる。 しかしながらEPA を受け入れるにあたり、言 葉・習慣・介護技術等々の問題もあるのが事実で ある。受け入れる側が十分な環境を準備し、かつ 日本語・介護技術等の教育を満たしてあげなけれ ば来日したEPA 候補者も試験に合格することな く帰国を余儀なくされる。またEPA 候補者自身 の考え方・姿勢も問われるので、双方がうまく適 応していくことが必要不可欠である。いろいろな 問題を乗り越えて初めて介護職員として戦力とな る。 このEPA の受け入れ自体もまだ十分に整備さ れていないなか、今般250 万人規模の介護従事者 を確保するにあたり、国内人材確保策はもとより、 EPA の枠に留まらない外国人材のさらなる活用 も不可欠として、介護分野における外国人技能実 習制度の創設も検討されている。個人的には、こ の件に関しては極めて慎重に検討していただく必 要があると考えている。いずれにしても我々が求 めるのは優秀な人材であり、そのためには全老健 が一丸となって取り組むべき課題であると考える。 老健 2015.6 ● 7 007巻頭言(五)0514.indd 7 2015/05/14 13:59:28
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