肩こりの病態生理 一筋緊張からみた肩こりの病態生理一 ム 彦 文 井 坂 ! 嶽, 日本人はテンション民族か 正確な疫学調査があるわけではないが、日本人 には肩こりが多いとよくいわれる。頭痛のタイプ にしても、日本人には緊張型頭痛が多く、片頭痛 は欧米程ではないと考える医師も少なくない。西 谷 裕博士︵国立療養所宇多野病院︶が、興味あ る仮説を述べている。白人と比べて、日本人に種々 の頸椎疾患が多いのは、日本には﹁うつ伏せ﹂保 育が少ないためで、発育初期の姿勢がその後の頸 椎の発育に影響を及ぽしているとの考えである。 幼児の保育の習慣が頸椎の弱さ、ひいては肩こり の原因かもしれないとする西谷博士の仮説は具体 的で、単に文化的ちがいとか遺伝的なちがいとし てしまう意見より説得力がある。 日本人に肩こりが多い理由として、その他にも いくつかの仮説が挙げられる。人問関係がややこ しくて精神的ストレスがこもり易い、うつむき姿 勢の人が多い、肘掛け椅子に座る習慣が少なく、 腕の重さが常に僧帽筋を伸展し負荷をかけている 特集・肩こりの臨床 17CLINICIAN’97No.461 と精神的 ス ト レ ス の い ず れ も が 関 係 し て い る こ と 肩こり の 原 因 に 、 肩 ∼ 頸 筋 群 へ の 筋 性 ス ト レ ス などである 。 訴える場合である。肩こりの病態に、様々な原因 第三は触診上筋肉は硬くないのにさわると痛みを とマッサージのように気持ちがよいという場合、 訴える場合、第二は硬いしこりがあり、触診する が複雑にからみ合っている可能性が考えられる。 は確かなようである。 肩こりとは 異なって定義される言葉であるが、いずれも肩こ 筋緊張からみた肩こりの病態 菩2こRのす旨なのかヨ仁ω〇一Φなのかと聞かれ りの中心的役割を果たしている。筋肉の過剰な緊 肩こりの定義は意外にむずかしい。外人に肩こ て、肩こりの”肩”が、肩関節は含まず、肩の筋 張、収縮、硬さは、筋の循環障害や炎症をきたし、 ﹁筋緊張﹂、﹁筋収縮﹂、﹁筋の硬さ﹂はそれぞれ 群と定義する必要があることに気づく。 肩こりの末梢性因子に対し、様々な形で中枢性因 有痛性筋緊張の原因となると考えられる。これら りのことを“誓2匡Rωま3霧9と説明すると、 次に、肩こりは肩凝りであるが、広辞苑によれ 触診で、 筋 肉 の し こ り を ふ れ る こ と が 多 い 。 硬 い こりとも読み、まさに肩こりを訴える患者さんの レスなどによる中枢性因子がどう関与するかを知 肩こりの病態に、筋緊張など末梢性因子とスト 子が関与すると考えられる。 しこりが肩こりの原因かというと、必ずしもそう る目的で、近年新しい手法を用いた研究が始まっ ば、凝りとは﹁かたまること﹂である。凝りはし ではない。肩こりの患者さんの肩・後頸筋群を触 ている。 診すると、いくつかのパターンのあることに気づ く。第一は硬いしこりがあり、触診すると痛みを CLINICIAN,97No.46118 (492) ωES2による中枢性因子の検討 縁系から脳幹への影響が低下していることを意味 ロンの活動が低下するためであり、それは大脳辺 らは、ES2が短縮するのは脳幹の抑制系ニュー より、ストレスに対する脳幹−大脳辺縁系の活動 ES2は、Φ圏Ro8宮一ぎω唇震霧ω一999日℃○− 侵害刺激に対する反応が正常にコントロールされ が測定できると考えられる。肩こりの中枢性機序、 するとした。すなわち、ES2を測定することに ているか否かをみる検査である。原理は寅≦8Φ巳夷 それも大脳辺縁系の機能異常の関与する可能性が うち、第二番目に見られるもののことで、これは お幕図で、例えば食事中に食物の中に混じってい 示唆されることになる。 轟一ヨ霧908試≦qに見られる筋放電の抑制波の た小石をガリッと噛んだとすると、通常は咬筋は 型頭痛患者では正常者群、片頭痛患者群に比し、 これまでの報告では、筋緊張を伴うような緊張 と考えられている。 辺縁系脳幹をまき込んだ2ぞω旨巷§な抑制反応 潜時の長いES2とが観 察 さ れ る 。 E S 2 は 大 脳 筋の活動電位に抑制が生 じ 、 潜 時 の 短 い E S 1 と 、 三叉神経に電気刺激を加える。正常者では、側頭 しめた状態で側頭筋の表面筋電図を記録しながら、 考えられる。ES2の実際の測定では、歯を噛み 生じたひずみとを連続的に測定する。すなわち、 面から筋を押したときにかかる力と、そのときに するものである。装置は、一㎡のプローブで体表 筋硬度測定器は、筋肉の硬さを体表面から測定 なる役割をもつかにつき検討した。 緊張型頭痛のメカニズムに頭・頸部の筋肉がいか 硬度を定量的、非侵襲的に測定する装置を考案し、 末梢性因子、すなわち筋肉の役割については、 の 従来あまりよい評価法がなかった。ω鴇巴らは、筋 ②筋硬度測定による末梢性因子の検討 反射的に弛緩する。侵害刺激に対する抑制反応と ES2の 持 続 時 間 短 縮 が み ら れ て い る 。 o o魯○讐窪 (493) 19CLINICIAN’97No.461 り ると、筋肉がどれだけへこむかで筋の硬さを評価 診するとき、どれくらい強く指で筋肉を押しつけ ずむかを見ている。ちょうどわれわれが筋肉を触 どれだけ の 力 で 筋 肉 を 押 す と 、 筋 肉 が ど れ だ け ひ Dωoげ○Φ器P﹂.H閃答R88ロ<Φ釜℃冥Φωω一〇pO︷9ヨOo雫 文献 ︵北里大学 助教授 内科学︶ 発が期待される。 こりの病態のさらなる研究とともに、治療薬の開 o一ぎ8巴ゆもも=090江○口﹂W憎巴P一一〇〇”認ω∼認一︵一8㎝︶ 鎚O﹃ΦH>口OPlぎく四ω凶<ΦeΦ鋤ω=﹃ΦPお口6ヨ①けげOα鋤Pα一冨 勺R一R鋤巳巴ヨ⊆ω9Φ﹃四巳器ωω一〇叶Φ屋一〇口み﹃℃Φげ8α− 巴”明こ国σ跨弩斜ω。︶>ζ図ΩOヨ斜]≦←コO﹃鱒㊤薯鋤︶]≦。H 一8一錺冨9ψ[勾Φ≦①≦]。08ご芭讐P窃る∼一。︵一㊤8︶ 巴一ω旨仁ωo一Φ碧戯<一蔓”B①90α〇一〇αq凶8一Qpα℃げ図巴〇一〇αQ− しているのと同じことになる。 僧帽筋群の硬さは、正常者群に比し、肩こりと 頭痛を訴える患者で有意に高値を示した。筋硬度 は筋肉の 持 続 性 収 縮 に 加 え 、 血 液 の う っ 滞 に よ る 血管床の増加、代謝産物による筋の膨化などが考 えられ、肩こりの機序としての重要性が示唆され る。 まとめ 肩こりの病態に重要な筋緊張には、中枢性と末 梢性因子が複雑に関連していることが明らかにさ れたが、この他にも、ストレス応答に関する研究、 痛み調節系に関する研究が注目されている。 戯曲﹁頭痛、肩こり樋口一葉﹂では、肩こりの つらさがみごとにアッピールされている。今後肩 CLINICIAN,97No.46120 (494) ⑳ω鋤犀
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