更年期障害からみた肩こり - e

各診療科の疾患からみた肩こりの発症機序
更年期障害からみた肩こり
三 橋直樹
ている。またQOLを重視する近年の傾向もあり、
とが分か っ て き て 、 近 年 で は 非 常 に 注 目 さ れ て き
速に低下すること、また血中の脂質が増加するこ
この時期 の エ ス ト ロ ゲ ン 低 下 に 一 致 し て 骨 量 が 急
以前はあまり興味を持たれなかった分野であるが、
はよく知られている。いわゆる更年期障害である。
この閉経前後の時期に、様々な症状が現れること
パーセンタイルは五六・三四歳といわれている。
歳で、一〇パーセンタイルは四五・三四歳、九〇
こるものと考えている。そのうちどちらの要素が
下と加齢による変化がミックスすることにより起
筆者は基本的には、血中エストロゲンの急激な低
更年期障害の病態は不明な点もまだ多々あるが、
多彩な症状については理解できるであろう。
ては異論もあろうかと思われるが、更年期障害の
れることがわかる。それぞれの症状の分類につい
訴える患者は約三三%と、かなりの頻度で認めら
まとめた症状を示した。これをみると、肩こりを
更年期障害の症状は様々であるが、表に相良の
更年期障害の症状と発症機序
大学病院などでも特殊外来として、更年期外来が
強いかは、症状により異なると考えられる。
最近の日本人の閉経時期の中央値は五〇・五四
開設されている。
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特集・肩こりの臨床
しびれ
腰背部痛
泌尿生殖器症状
外陰部違和感
性交障害
骨量減少
その他
人工的閉経または早発閉経
8.9
関節痛・下肢痛
5.9
手のこわばり
1.5
いらいら・情緒不安定
精神症状
5.9
意欲低下・無気力
1.5
不安感
1.5
喉頭っかえ感
1.5
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73CLINICIAN,97No.461
鋤b脚 姐b
頻尿
13.3
で、血中エストロゲン低下が原因であることは明
めまい
8.1
らかであるが、この症状はとくに治療しなくても
筋・骨格器症状
ンの絶対値の低下が持続することによる症状とエ
10.4
エストロゲン低下によるものでも、エストロゲ
17.0
倦怠感・易疲労性
高齢になれば減少するので、エストロゲンの絶対
20.7
睡眠障害
ストロゲンが急激に低下する変動が原因となって
32.6
頭痛・頭重感
値より、その急激な変化が原因であろう。関節痛
肩こり
いるものがある。膣の萎縮などが原因となる性交
9.6
や腰痛などの骨・骨格器症状については、エスト
その他の自律神経症状
障害は、エストロゲンの絶対値の持続的な低下に
14.8
冷え
ロゲン投与で改善するものはむしろ少なく、やは
43.7
発汗
よるものであり、年齢が進むにつれ症状を訴える
のぼせ・熱感
り加齢の要素が多いと考えられる。
血管運動神経症状
ものは増加する。一方のぼせ、発汗などの症状は、
症
薮
頻度(%)
ここでのテーマである肩こり・頭重感などの自
(n=135、複数回答)
エストロゲンを補充することで劇的に改善するの
更年期外来受診患者の訴える症状
と加齢の双方が半々に関係すると考えられ、エス
律神経症状の原因は、おそらくエストロゲン低下
トロゲンでもある程度効果は期待できるが、効果
はマイルドなものである。
更年期障害としての肩こ り の 治 療
更年期の肩こりの治療では、主訴のなかにのぼ
せ・発汗 ・ 性 交 障 害 な ど 、 エ ス ト ロ ゲ ン が 確 実 に
効果があると考えられる症 状 が 含 ま れ て い る 患 者
について は 、 エ ス ト ロ ゲ ン 投 与 で し ば ら く 様 子 を
いきなりエストロゲンを投与するのは乱暴で、そ
みればよい 。 し か し 肩 こ り だ け が 訴 え の 患 者 に 、
の場合は局所的な対症療法でよいであろう。ただ
し最近は、自覚的な症状はなくても骨粗霧症や動
脈硬化の予防のため、エストロゲンを服用する患
者も増加しつつあるので、そのような目的意識の
ある患者には、肩こりのみの訴えでもエストロゲ
ンを投与してよいであろう。
︵順天堂大学 助教授 産婦人科学︶
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