平成 25 年度 園内研究のまとめ 備前市立伊部幼稚園 園 長 原田 千暁 1 研究テーマ 自分の目当てをもち遊びや活動に取り組む中で,自己表出できる幼児の育成 — 2 環境の在り方の工夫 — 研究テーマ設定の理由 前年度の取り組みから,幼児は興味をもった活動に繰り返し取り組み,十分経験することで自己肯 定感をもち,伝えたい気持ちが芽生えることがわかった。幼児が心を動かす経験を重ね,その伝えた い気持ちが十分に膨らんだときに,自己表出できると考える。そこで,自分の目当てをもち遊びや活 動に取り組み,心動かす経験が幼児の自己表出につながるように,前年度の成果を活かし,今年度は 環境の在り方の工夫に焦点を絞って研究を深めていきたい。 3 研究内容及び成果 幼児が自分の目当てをみつけて取り組むことができる環境構成や教師の援助について,集団の中で の一人一人の心の動きに着目し,友達の存在を感じながら繰り返し取り組む場の設定や教師のかかわ りを工夫していった。 9月 運動会に向けての修行ごっこの中で 忍者をテーマにした 10 月の運動会に向けての取り組みのひとつとして,毎朝,4・5歳児で一緒に 活動する時間を設けた。その中では,フラフープや縄跳び,一輪車,竹馬などの数種類の運動遊びが 一斉に行えるよう園庭に配置し,毎日自分で選んで取り組むことができるよう環境構成した。教師は, 幼児一人一人が興味をもったことに安心して取り組むことができるよう側で見守ったり,意欲を引き 出すよう個々の幼児の頑張りを捉えて認める言葉がけをしたりする援助を意図的に行った。幼児の中 には,仲の良い友達が選んだことを一緒にすることで安心して取り組む姿や,自分ができることに繰 り返し取り組む姿,少し難しいことに取り組んでみようとする姿など,個々の幼児によって様々な姿 が見られた。 事例1 友達の姿に刺激を受けた A 児 (5歳児) 修行ごっこを始めて 2 週間,フラフープを続けている A 児の姿があった。日頃,友達の中で一 番になることにこだわる傾向がある A 児のその様子は,得意なことに繰り返し取り組み,満足感 を得ているというよりも「出来る」「出来ない」という結果にとらわれ目当てを見出せず現状に 甘んじているように見えた。教師は,自分なりの目当てをみつけて試みることへの興味を引き出 したいと考えた。そのとき,A 児といつも行動をともにしている B 児が竹馬をしようとしていた。 教師は A 児も含め,他の幼児にも刺激となるよう何度も挑戦している B 児の頑張りを繰り返し認 めたり,その積み重ねが成果につながることを信じて持続できるよう応援したりし,あえて目立 つようにかかわった。すると,横でフープをしていた A 児が体を止めて,次第に教師と同じよう に B 児を見て「惜しい」など言い出した。そしてしばらくすると自分も竹馬を出してきて一緒に し始めた。 〈考察〉 ・ 教師がフラフープをしていた A 児に対し,他のことにも取り組むよう直接促すような言葉をかけ ていたら,A 児は教師の言葉の裏に“甘んじている自分”を敏感に感じ取り,仮に取り組んでみ たとしても,意欲が持続しなかっただろうと考える。 ・ 教師が意図的に B 児の姿を取り上げてかかわったことは,A 児の気持ちに“頑張ることは楽しい ことかもしれない”と少しずつ変化をもたらし,自分から竹馬をしてみようと行動することにつ ながったと考える。 ・ 修行ごっこを始めて 2 週間目の姿であった。竹馬をし始めた A 児の姿は,自然と友達の姿が目に 入る環境の中で心が動いて行動した B 児の姿が連鎖したものであると考える。 1月〜2 月 マラソンとチャレンジタイムの取り組みから 12 月の発表会でも,年長組では運動会の修行ごっこを引き継ぎ,剣玉やこまなどに取り組んだ。 ここでは毎回その日の一人一人の取り組みを発表する時間を加えたことにより,さらに友達からの反 応を受けて目当てを見出し,選んだことを自分なりにやり遂げようとする姿が見られた。また,この 頃になると年少児が年長児のすることを真似て取り入れる姿が増え,4歳・5歳の異年齢のかかわり が互いの意欲を刺激することが伺えた。そこで,3学期には,異年齢で構成し,園生活の中で掃除や 食事を共にするグループ活動の一環として,登園後のマラソンで体を十分に動かした後,グループ別 に運動会,発表会で経験した遊びをローテーションで取り組むチャレンジタイムの場と時間を設けた。 事例2 「難しい」から「面白い」に変わった C 児 (4歳児) 初めてのことに不安を感じやすい C 児は,一輪車に取り組む際, 「できないんだよな」と,グ ループの友達の傍らで一輪車を持ったままうつむき気味に立っていた。教師はその気持ちを察 し,「そうだよね。一輪車って難しい感じがするよね」とそのままの気持ちを受け止めて言葉で 返した。 「どうやって乗ったらいいのかわからない」と教師の言葉に返す C 児だった。そこで教 師は,同じグループの年長児に C 児の言葉をつなげて「一輪車って,最初はどうやって乗ろう かと思ったよね」と橋渡しをすると,年長児は「いっぱい練習したんよ」と苦労したことが誇ら しいかのように伝えた。教師は,「初めは難しいと思うけど,だんだん慣れてきて自分でこげた ら嬉しかったから転んでもやめなかったんだよね」と年長児の言葉に,C 児が具体的なイメージ をもてる言葉を補足して伝えた。そして,C 児に補助バーを使ってまずは一輪車に座ってみるこ と,座れたら今度はペダルを動かしてみることなど側について教えていった。C 児は教師の助言 通りに取り組み,教師が細かく「さっきよりいい感じだったね」「あれ,知らないうちにここま で進んでいるね」と気付きを引き出したり,「さっきはしょんぼりしていたのに,何か嬉しそう に見えるよ。どうしてだろう」と表情を捉えて気持ちにつなげる言葉を投げかけたりしていくと, 「それは面白いから」と言い始めた。次の日,もっぱら乗り物と言えば三輪車だった C 児が一 輪車を持ち出し,降園後の園庭で母親に見てもらって乗ろうとする姿が見られた。 〈考察〉 ・ 教師は,不安を感じている C 児に, 「大丈夫」 「頑張ろう」という一方的な言葉を意図してかけな いようにした。C 児にとって教師にありのままの自分を受け入れてもらうことが,安心して取り 組むことにつながったと考える。 ・ さらに“どうしていいかわからないから嫌だ”という C 児の気持ちに対して,今すぐに出来るか どうかではなく,頑張る過程の魅力を感じ取ってほしいと考え,経験者である年長児の言葉とつ なげたことは,C 児の「面白い」という言葉に変化して表現されたのだと考える。 年間を通しての新採用教員研修園内研修から 新規採用教員指導の講師を招いた年間の園内研修では,幼児の興味や発達に即した環境構成や活動 の流れの配慮,教師の指導の立場などについて,全職員で日々の保育の見直しの機会に位置づけてい った。 その中では,教師の言葉がけが幼児にどのように響くか,幼児の行動にはどのような意識が働いて いるかなど,教師の資質や幼児理解について,毎日の保育後の会話だけでは受け流してしまいがちな 細やかなことを,改めて認識することができた。 ◎成果 ・ 年間を通して幼児が友達と一緒に繰り返し取り組むことのできる場の工夫について,物的,人的 環境の両面から探っていった。その中で幼児が心を動かすということは,幼児が主体的に取り組 むことのできる環境と幼児の言葉から内面を読み取り幼児に返していく教師の言葉がけによるも のだということがわかった。 ・ 継続的な場の設定は,幼児が様々な気持ちを溜め込んでいく場や,繰り返し味わい,実感する場 となり,徐々に変化していく幼児の言動として表れていくことが確認できた。 ・ 修行ごっこやチャレンジタイムでは4歳児,5歳児の姿を比較して見る中で,特に4歳児にとっ て5歳児と一緒に活動する中で受ける刺激について,教師が幼児の気付きや心の動きを読み取っ て言葉をかけていくことで,幼児の実感や変容を感じ取ることができた。 4 今後の課題 ○ 目当てをもって取り組む幼児の姿について,二つの事例を振り返ってみると,安心して取り組むこと ができる環境のもとで4歳の頃に十分な経験がなかったために,事例1のような5歳児の結果を気に する姿につながっていたのではないかということが見えてきた。どの時期にどのような経験が必要か について,より研修を深めたい。 ○ 安心して繰り返し取り組むことが楽しい時期には,修行ごっこのように自分がしたいことに繰り返し 取り組むことのできる環境がよいことや,経験を重ねて見通しをもち目当てをみつけて取り組むこと が楽しめる時期には,チャレンジタイムのようにローテーションでいろいろな活動を友達と一緒に経 験できる環境がよいことなどがわかった。2 年保育の中で,幼児の興味に応じた環境構成や,経験の 積み重ねの大切さを学んだ。次年度へ向けて,よりねらいを明確にした具体的な年間活動計画の作成 や年間を通じての見直し・修正の必要性を感じた。
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