学生によるポスター発表会「教育デザイン」 学生発表会 〈先生〉として成長するとき-教師のインタビューを通して- 教育デザインコース 教育学領域 渡辺 知和 1. はじめに あったが、指導が悪いのではないといった肯定的な助言 教師の仕事は免許があるからといって、簡単にできる や具体的なアドバイスを同じ目線で言ってくれる環境が 仕事ではない。教師は〈先生〉として日々成長し続けて あった。そんな中、今まで培ったものが通用していない いるのである。では、〈先生〉として成長していくため のではなく、自分の価値観の問題であることに気づいた に必要なものはなんだろうか。また、〈先生〉として育 という。校内研究では、指導案検討はアドバイスを伝え てる環境か。あるいはそのどちらも必要であるのか。大 あう場であり、方法を決定するのは授業者であることを 都市圏にある学校の教師へのインタビューを通して、ま 学んだという。だから、研究で別々のことをやっていて た、私自身の現職の教師の経験を通して、〈先生〉とし も、一人で働いている気がしないという。さらに、萎縮 て成長するために必要なものは何かについて分析してみ しない自然な自分が出せるようになったという。 た。 3. 分析 2. 現職教師のインタビューから見えたもの この二人の教師に共通することは、教師としての承認 ≪ケース 1 ≫ 2 年の臨任経験を経て採用された初任 欲求は満たされてはないが、教師として前向きに生きよ 教師は、今でも引きずっている出来事がある。決して手 うとし、何よりも子供がこうなったのは自分のせいだと を抜いたから起こった出来事ではない。インタビュー中 自らを責め、目の前の子供のためにできることを考えよ もひたすら自分を責める姿が見られた。周り(の先生方) うとする姿が浮かび上がる。教師が目の前にいる子供た は温かく、大丈夫だといってくれるが、どうしても抜け ちのために学び、自らの指導力を高めながら実践してい 出せない自分がいると呟く。 やめたいと思ったことはあっ くことは教師自身の自信と実力につながっていく。しか たが、ここでやめたらどこにいっても同じだと考え、頑 し、それだけでは自己満足な教師になりかねない。この 張ろうとする自分があるという。そんな語りの中に、自 二つのケースには、子供や周りを責めるのではなく、自 分はここにいていいのだと自分を正当化するようにして 分を責めつつ自分自身を見つめなおそうとする姿、自己 いるといった発言があった。さらに、頑張るのは自分だ 省察する姿が見られた。それは教師としての個の努力と が、支えなしにはできないとも語っていた。今は、少し いえるよう。しかし、個の努力だけが〈先生〉として成 でも仕事ができるようになって、チーム(学校のみんな) 長させるわけではない。頑張るのは自分だけど、支えが の役に立つ先生になりたいと元気よく話す姿があった。 ないとやっていけないとき、或いは新たな壁に遭遇した ≪ケース 2 ≫ 13 年経験した教師は、初任の頃、自 とき、助言やアドバイスがほしいときなどがそうである。 分を責めてばかりいたという。職場の同僚とは仲よし つまり〈先生〉として成長することは、個としての努 だったが、相談できる環境はなく、相談する方法もわか 力だけではなく、環境に共同体感覚が必要なのではない らず、7 年間自ら試行錯誤を繰り返し、子供の姿から指 かと考える。その共同体感覚とは、個人を責めず、個人 導方法を模索していったという。同期同士では、仕事の の良さを認め続ける。これは安易な傷のなめあいではな 大変さは共有できても、解決策は見いだせず、大学の恩 い。〈先生〉として認め合い、高めあおうとする感覚で 師に相談することもあった。今の異動先では、その培っ あり、信頼感や安心感の中、お互いを尊重しあう関係で た指導方針が通用せず、新たな試練を経験している。新 ある。さらにそれは競争原理ではなく、協力原理で結ば しい職場でも誰に相談していいかわからない状態では れているところにも着目できるのではないかと考える。 76
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