対話を 小学校 社会科 を構築するであろう。そして意見を交流する中 で社会的事象に対する自分なりのとらえを確か なものにしていくのである。 社会的事象を脈絡と構造でとらえるこ とを通して,自分なりのとらえをつくる 以下,習得型授業における「社会的事象を脈 絡と構造でとらえる活動」について述べる。 子どもを育てる授業とカリキュラム 1 自分なりのとらえをつくる子ども これからの社会は,大きな社会変動の中で既 2 「社会的事象を脈絡と構造でとらえる活動」 (1) 脈絡と構造でとらえるための教材化の工夫 存の枠組の再構築が急速に進むものと考えられ ている。そのような社会を主体的に生きていく 本年次は,脈絡と構造の行き来をより活発化 ためには,社会的事象を脈絡と構造でとらえた さ せる ため に, 過程 追跡 ( 1 ) とい う単 一事 例の 上で,新たな意味や価値を見出していくことが 多変数分析の手法を取り入れて教材化を行う。 大切である。 これは,社会的事象の要素をできるかぎり分解 社会的事象を脈絡でとらえるとは,その社会 したものを使って,当事象を明確にとらえる段 的事象がいかに形成されたかをとらえることで 階まで構築させていくものである。教師は,脈 ある。一方,構造でとらえるとは,社会的事象 絡や構造をもとに設定した変数によって導き出 の枠組みや仕組みにはいかなる特徴があるかを された事実や資料を,意図的に対峙させること とらえることである。その両面でとらえること で,子どもには脈絡と構造を行き来させ,社会 によって,取り上げた社会的事象をより多面的 的事象に対する多面的な分析・考察を促したい。 に理解することができると考える。 そこで,自分なりのとらえをつくる子どもを, 次のように定義する。 社会事象の因果関係を明らかにしようとした り,その特徴をとらえようとしたりする中で, 事象の中に新たな意味や価値を見出していく 子ども 子どもは,社会的事象の脈絡に入るような活 動を行うと,事象の構造をとらえやすい。また, では,過程追跡による教材化の例として,明 治時代の軍人,政治家の児玉源太郎を取り上げ た場合を述べる。 教師は,これから学習する事象や事象内のア クター(人物,集団等)を中心に部分から全体 をとらえようとするミクロ的なアプローチと, 事象やアクターを取り巻く環境の全体的な情勢 を中心にとらえていくマクロ的なアプローチを 念頭に置きながら変数を設定する(表1)。 その構造をもとに脈絡を考えていくと,社会的 表1 事象に対する多面的なとらえが生まれてくる。 事象「児玉源太郎」教材化のための変数表 変 そこで,教師は,まず既有知識・体験や調べ 数 ①児玉源太郎は,いかに形成されたか 活動に裏づけられた社会的事象に対する意見を ミ ②児玉源太郎は,どんな人物か 表出させる場を設定する。子どもは,互いの意 ク ③児玉源太郎をめぐる周辺人物からどう見えたか 見の相違に気づくであろう。ここで,教師は, 意見の交流を活性化させるために,社会的事象 に包含される矛盾等を焦点化した発問を行い, ロ ④ 児 玉 源 太 郎 の 人 格 的・思 想 的 形 成 の 背 景 に あ る も のはなにか 等 マ ⑤日露戦争をどうとらえるか ク ⑥明治時代をどうとらえるか 等 ロ 因果関係や特徴等に目を向けさせる。 子どもは,矛盾等を解明しようとする中で, 社会的事象の因果関係や特徴等に基づくとらえ 以下,①∼⑥を設定した変数の意味を述べる。 ミクロ的なアプローチの①はアクターがいか に形成されたかを分析する変数である。②はア ⑥明治時代 台湾 クターにはどんな特徴があるかを分析する変数 長州閥 である。③はアクターの人物相関を問う変数で ある。④はアクターの土壌にあたる変数である。 桂内閣 マクロ的なアプローチの⑤はアクターにとっ ⑤日露戦争 児玉 てのトピックといえる事象の位置づけや意味を 源太郎 日清戦争 分析する変数である。⑥はアクターを取り巻く 時代の位置づけや意味を分析する変数である。 なお,変数はアクターによって違いはあるが, 図2 時代状況や事象の中の「児玉源太郎」の位置づ け を と ら え る( 対 象 を と ら え る た め の シ ス テ ム 2 ) より多面的な視点をもつことができる変数を設 定することが必要である。 システム2(図2)は,対象がそれを取り巻 く環境の中で,どういう位置づけにあるのかに (2) 脈絡と構造でとらえる場や状況の設定 主眼が置かれている。ここで,子どもは,児玉 が明治時代の出来事(日清戦争,日露戦争等) 前頁の変数の関係を図に表すと,次のように なる。 に対して次第に重要な役割(陸軍検疫部長,内 務大臣,陸軍参謀次長等)を伴って参加してい くことに気づく。こうして歴史的事象に対する 彼の位置づけを構造的にとらえるようになる。 ③周辺人物 ④人格的・ そして,①∼⑥のそれぞれから抽出した事実 思想的形成 の中で,例えば矛盾するものを対峙させたり, の背景 価値が見出せるものを投げかけたりする。 例えば,以下の問いが考えられる。 ①児玉源太郎② ・「 ど う し て ,も う 少 し で 総 理 大 臣 に な れ た の に ,軍 人 の 仕 事 に も ど っ た の か 」( ① と ⑤ ) 乃木希典 長州藩 ・「 日 露 戦 争 で ,一 番 働 き が あ っ た 人 は 誰 か 」 (②と⑤) ・ 「 児 玉 源 太 郎 は ,日 露 戦 争 で 働 き が あ っ た 人 の 中 で 何 番 目 の 働 き と い え る か 」( ① ② と ⑤ ) 図1 内側と外側から「児玉源太郎」観をつくる (対象をとらえるためのシステム1) ただ,段階的なものとして,まず,ミクロ内 過程追跡は教材化の手法だが,同時に子ども の変数にもとづく問いかけを行う(ミクロとミ の対象に迫る際のとらえのシステム化でもある。 クロの変数を行き来する)ことで,対象(児玉 システム1(図1)は,対象そのものをどう 等)に対するとらえを高めることが必要である。 とらえるかに主眼が置かれている。ここで,子 そして,その上でミクロとマクロの変数間に生 どもは,児玉源太郎(以下,児玉)のデータ(明 まれる矛盾等を対峙させる(ミクロとマクロの 治時代の軍人,政治家等)を列記するとともに, 変数を行き来する)ことで,教材の本質に迫る 彼の行為(例えば,日清戦争での大検疫,日露 より高い価値をとらえさせるというプロセスが 戦争での戦争指導等)を追い,積み重なってい 考えられる。 く事実の意味を脈絡に即してとらえようとす このような過程追跡を行うことで,既有の知 る。このようにして,児玉そのものについてと 識・体験・経験と,獲得された知識のもと,自 らえるようになる。 分なりのとらえを導き出すのである。 (註) (1) ・コリン・エルマン/ミリアム・フェン ディアス・エルマン編『国際関係研究 へのアプローチ∼歴史学と政治学の対 話∼』東京大学出版会、2003年 ・G・キング/R・O・コヘイン/S・ ヴァーバ『社会科学のリサーチデザイ ン∼定性的研究における科学的推論 ∼』けい草書房、2004年 (文責 松村 淳)
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