再び 福島第一原子力発電所を訪ねる SCE・Net 小林浩之 E-79

E-79
再び
福島第一原子力発電所を訪ねる
SCE・Net
2015/8/8
小林浩之
も う 8 年 近く 前( 事故 発生 の 3 年 半前 )に な るが、SCE・Net の 交流 会の メン
バー が福 島 第 一 原 子力 発電 所を 見学 し た。 その 時 は 在来 線を 使い 、大 野駅 で下 車
をし 、東 電 手 配の バス で 発電 所に 直行 した 。そ の 3 年 半後 に、福島 第一 原 子力 発
電所 は大 地震 、大 津波 に襲 われ 、冷 却 電源 の全 喪失 によ り、 原子 炉燃 料は メル ト
ダウ ンを 起し、外 部に も及 ぶ致 命的 な事 故を 起 こす に 至 った。そ れか ら既 に 4 年
を過 ぎた が、 そこ を再 び訪 れる こと とな っ た。 しば らく は、 8 年 前の 面影 を探 し
出そ うと して 、 見 学の 途中 、ず いぶ ん と気 を廻 して みた が、 残念 なが ら明 確に 見
いだ せた のは、非常 用 電源 が残 って いて 、辛 うじ て致 命的 な 被 害を 免れ た 5 号機 、
6 号機 だけ であ った 。 設 置位 置が 標 高 13 メ ー トル で第 1 ~4 号 機 の 9 メ ート ルに
較べ て高 く、か つ 6 号 の非 常用 ディ ー ゼル 発電 機は 空冷 式で 高い ダク トに よっ て
水没 する こと なく 稼働 でき たと いう ので あ る。これ が明 暗を 分け 、5,6 号 機を 救
うこ とに なっ た。 8 年 前に は、 その 5 号機 の原 子炉 建屋 の使 用済 み燃 料プ ール の
あ る 5 階 ま で を見 学 し た 。 一 方 、 安 心 神 話 (一 般 に は 安 全 神 話と い う )を 示 す展 示
物や 、説 明を 受け たう えで 、帰 りに は 所長 以下 と記 念撮 影を して もら った サー ビ
スセ ンタ ーの 面影 は多 分こ の辺 りと いう 程 度で しか わか らな かっ た。
今 回は 、小 雨の 郡山 駅集 合で ある 。 化学 工学 会の 前会 長と 福島 問題 委員 会の 委
員の 先生 と私 に加 え て SCE・Net の福 島問 題 予備 研究 会の メン バー 合わ せ て 13
名が 参加 した 。マ イク ロバ スは 11 時 前、 郡山 駅を 出発 し、 郡山 東イ ンタ ーか ら
磐越 道に 入り 、い わき JCT を 経て 常磐 道 に入 った 。途 中、四倉 PA で 昼食 の弁 当
を摂 り、 広 野 IC で下 りる 。そ して すぐ に 、国 道 6 号線 に沿 って 位置 す る J ヴ ィ
レッ ジに 入っ た。 もと もと は日 本の サ ッカ ーの ナシ ョナ ルト レー ニン グセ ンタ ー
とし て、 サッ カー スタ ジア ム1 面と 天然 芝 のピ ッチ 10 面を 中心 とす るト レー ニ
ング 施設 が並 んで いた 。1997 年 に東 電 がこ の施 設を 地元 への 貢献 の 一 環 と して 福
島県 に寄 贈し 、 株 式会 社日 本フ ット ボ ール ヴィ レッ ジ と して 運営 され てい たも の
であ る。福 島第 一原 子力 発電 所で 2013 年 と 2014 年 に稼 働開 始が 計画 され てい た
7、8 号機 の 増設 の見 返り と揶 揄さ れる こと も あっ たが 、と も かく も、日 本サ ッカ
ーの レベ ルア ップ に少 なか らず 寄与 を して いた ので ある 。皮 肉な 話だ が、 事故 直
後か らこ れら 施設 や土 地そ のも のは 事 故の 救援 作業 の基 点と して 活用 され 、救 援
資材 や救 援作 業要 員の 兵站 とな った 。11 面 のサ ッカ ーコ ート やス タジ アム は駐 車
場や 宿泊 施設 用地 とな った とい う。 発 電所 周辺 の除 染が 進み 、こ れら の機 能は 、
第一 原子 力発 電所 その もの に部 分的 に 移動 して いる が、 現在 にお いて もそ の事 故
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対応 拠点 の重 要な 役割 の一 端を 担っ てい る 。東 京オ リン ピッ クの 2 年前 の 2018
年に は
サッ カー のト レー ニン グ施 設と し て復 活す る予 定と いう 。
私 たち が入 った J ヴィ レッ ジセ ンタ ーハ ウ ス では、本人 確認 、一 時立 ち入 り者
用 ID カー ド の貸 与な どの 入場 手続 きが 行わ れ た後 、概 況の 説明 がな さ れた 。1~4
号機 の現 状に 始ま って その 課題 から 個 別の 課題 につ いて 、す なわ ち廃 炉へ のロ ー
ドマ ップ 、汚 染水 の緊 急対 策及 び抜 本対 策 、多 核種 除去 設備 の運 転状 況、 1 号 機
のカ バー 解体 とガ レキ 撤去 、作 業員 確 保、 労働 環境 改善 、海 水モ ニタ リン グ状 況
など の説 明が あり 、概 して さわ やか で 、説 得力 に満 ちた 、安 心感 を与 える 説明 で
あっ た。 気に なる のは 、安 心神 話な ら ぬ成 功神 話を 再び 創り かね ない と感 じる こ
とで あっ た。 他に どの よう な説 明の 仕 方が ある のか 、む つか しい 問題 であ るが 、
もっ とフ ラン クで 真剣 なリ スク コミ ュニ ケ ーシ ョン があ るべ きだ と思 う。
プレ ハブ とい うよ りは 、こ こで はや は り電 気は “た だ” なの か? 寒い くら い冷
房の 効い た立 派な テン トハ ウス で、 説明 は 丁寧 で時 間は 予定 より 少し 過ぎ た。
一通 り 納 得し た と ころ で 東 電の 大 型 バス に 乗り 換え 、 1 F(第 一 原 発 )に向 か う。
6 号 線を 北に 上る 。広 野町 から 楢葉 町 にす ぐ に 入る 。こ こは 第 二 原発 が位 置す る
町で ある が、 現在 は避 難指 示解 除準 備 区域 と指 定さ れ、 夜間 の宿 泊以 外の 出入 り
は自 由と され てい るか ら、 家屋 も整 備 され 、コ ンビ ニや ガソ リン スタ ンド など い
くつ かの 店舗 は営 業さ れて いる 。間 も なく 、富 岡町 に入 る。 ここ では 、避 難指 示
解除 準備 区域 から 、居 住制 限区 域、 帰 宅困 難区 域を 走る こと にな る。 居住 制限 地
域に ある 富岡 駅は 大勢 の見 学者 があ り 、入 場や 通行 は自 由と いう 。 中 間貯 蔵施 設
も準 備さ れつ つあ るが 、こ こま では 、 除染 土を 入れ た黒 いフ レコ ンバ ック の 仮 貯
蔵が みら れる 。帰 宅困 難区 域の 入り 口 には 検問 があ り、 許可 車両 以外 は進 入で き
ない 。こ の 地 域 で は復 興作 業に 必要 な ガソ リン スタ ンド のよ うな 設備 も廃 棄状 態
とな って いる 。も ちろ ん住 宅な ども 放 置さ れた まま で、 雑草 の中 にあ る。 検問 は
各県 警が 持ち 回り で担 当し てお り、 当 日は 広島 県警 であ った が、 帰宅 困難 区域 の
富岡 町か ら 大 熊町 に入 る。 前回 の見 学 で利 用し た最 寄り の大 野駅 は大 熊町 に位 置
し、 帰宅 困難 区域 にあ る。 機能 を十 分 果た せな かっ たと いう オフ サイ トセ ンタ ー
もこ の大 野駅 の近 くに ある 。大 野町 の オフ サイ トセ ンタ ーは 第一 原子 力発 電所 か
ら 5 ㎞ に位 置す るが 、現 在 、南 相馬 市に 新た に 建設 中と いう 。大 熊町 を さら に進
み、 第一 原子 力発 電所 に至 る。 第一 原子 力 発電 所は 大熊 町と 双葉 町に わた る。
ここ では まず 入退 域管 理棟 に入 る。現在 はこ こ がチ ェッ クゲ ート とな って いる 。
以前 の正 門の 付近 であ る。 東電 のプ レ ート を 掛 けた バス が数 台は 見え たか ら、 来
訪者 も結 構多 いは ずで ある 。こ こで 、一 階 VIP ルー ムな る 部屋 に入 り靴 カバ ー、
綿手 袋、サ ージ カル マ スク、APD を 装着 して、バス に乗 り込 み入 構す る。バス は
構内 専用 バス であ る。 以前 来た とき も 所定 の手 続き はあ った が、 同じ バス で、 そ
のま ま入 構し たよ うに 思う。いき なり 、林 立す るタ ンク 群が 目に 入る。1000m 3 、
2000m 3 、のタ ンク が 1000 基 ある とい う。まだ フラ ンジ 継の タン クも 残る が、プ
レハ ブで 現地 据え 付け や、 現地 組み 立 てタ ンク もあ る。 タン クの 溶接 が円 周方 向
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では なく 、軸 方向 にな って いる のも あ り、 初め て見 る。 水タ ンク とは 言え 、タ ン
クが それ ぞれ 接す るよ うな 距離 で置 か れて いる 。化 学工 場な どで は見 かけ ない 風
景で ある 。法 規に は関 係な いの だろ う が、 メン テ ス ペー スが とれ ない 、 全 体を 見
通す こと はで き な いな どの 不自 由さ があ る に違 いな い。見 学通 路 は決 まっ てい る。
多核 種除 去設 備 ALPS の建 屋は 、タ ン クヤ ード と道 路を 隔て てす ぐ左 側に 位置 す
る。 機器 自身 は白 い建 屋に 設置 され て いて バス から は見 えな い。 タン ク群 を右 手
に海 に向 かっ て進 むと 、左 手に 今度 は サリ ーと クリ オン の建 屋を 見る 。さ らに 原
子炉 建屋 方向 に進 み、 4 号 機の 燃料 取 出し のた めに 使わ れた 巨大 な鉄 架構 を見 上
げな がら 、今 日は 雨 で作 業も 少な いの か 、通 常 は行 かな い と いう 4 号機 、3 号 機、
2 号 機 、1 号 機の 前 の 道路 を 通 り抜 ける 。3 号機 はガ レキ の撤 去が 間も なく 始ま る
はず であ るが 、今 日は その 作業 は見 られ な い。 通常 は立 ち寄 らな い 1,2 号機 も
目の 当た りに した とい うこ とに なる 。 核燃 料の メル トダ ウン はあ った が、 水素 爆
発は 無か った 2 号 機は 使用 済み 燃料 の 取り 出し まで は、比 較的 楽だ と 思わ れる が、
それ ぞれ に状 況が 違う ので 一様 には い かな い難 しさ があ る。 一方 、地 面上 には 、
1 号機 から 4 号機 を遮 蔽す る陸 側遮 水 壁と なる 凍土 壁形 成の ため の冷 媒配 管が 走
る。 汚染 水の 増加 を防 ぐた めの 抜本 対 策の 一つ で、 海側 遮水 壁、 サブ ドレ イン か
らの 地下 水く み上 げと とも に重 要 な 対 策と され てい る。 ここ から 、構 内ガ ソリ ン
スタ ンド や車 の整 備工 場な どい わば ユ ーテ ィリ ティ エリ アを みな がら いっ たん 戻
って 、5, 6 号 機の 方に 向か う。
前述 のよ うに 、5,6 号機 は 無事 であ った のだ が、海岸 線に 出 ると 座屈 した タン
クが 放置 して ある など 津波 の威 力の 強 さと 惨さ をう かが わせ る。 この 辺り もい か
にも 戦場 の跡 とい う感 じで ある 。そ の 時使 用さ れた 残材 や機 材も 、現 在使 用さ れ
てい る材 料も 機材 も混 在し て、 作業 の 無い ここ に放 置さ れて いる とい う印 象 で あ
る。た とえ ば、発災 時燃 料プ ール へ の注 水で 活 躍し た Putzmeister 社 製 の コ ンク
リー トポ ンプ 車( チェ ルノ ブイ の石 棺 作業 にも 投入 され た と いう )も 無造 作に 雑
草の 中に 、放 置さ れて いる とい う様 に 見え る。 放射 能の 影響 で作 業は 思う に任 せ
ない こと もわ かる し、 汚染 され た残 材 の処 理さ え自 由に はい かな いこ とは わか る
が、 だか らこ そ置 き場 管理 や、 線量 の エリ ア管 理を すべ きで 、間 違い を起 こし か
ねな い。 事実 、タ ンク 天板 から の落 下 事故 で一 人の 作業 者を 亡く した とい う。 痛
まし く、 冥福 を祈 るし かな いが 、こ の よう な現 場管 理で はそ れも あり うる ので は
ない かと 不安 を 感 じた 。と もか く管 理 され た現 場に は見 えな い。7000 人の 作業 者
が一 日に 入場 する とい う 。も っと も今 日は 雨も ある 。労 働時 間は 一 日 4 時 間( で
26,000 円)とい う の は イン ター ネッ トで 見た 情報 であ る。それ らの せい か 、実 際
に目 につ く作 業者 は少 なか った が、 緊 急事 態も まだ 警戒 する 必要 はあ る。 もっ と
工場 管理 とい うこ とに 気を 使う べき で あろ う。 フェ イシ ング につ いて は、 再三 、
説明 を受 けた 。事 故前 は必 要な かっ た のか もし れな いが 、 汚 染水 が雨 水 と とも に
地下 に浸 透 す るこ とや 、雨 水に よっ て 汚染 水を 増や すこ と を 防止 する ため 、構 内
を舗 装す るこ とは 、 普 通の 工場 では も とも と普 通 に 行っ てい るこ とで ある 。一 方
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では 常設 の休 憩施 設 棟 や新 事務 棟の 建 設も 行わ れ、 福島 給食 セン ター の建 設な ど
の厚 生施 設の 拡充 とあ わせ て、 労働 環 境も 整い つつ ある 。た だ、 大事 なの は入 れ
物で はな い。 中身 なの であ る。
とも あれ 、見 学は 無事 に終 わる 。靴 カバ ー、綿 手袋、サ ージ カル マス クを 外し 、
ハン ドフ ット モニ ター で汚 染検 査後 、 ID カー ドを 返却 する 。APD での 積 算被 ば
く量 は 0.01mSv と 勿論 問題 はな い。
J ヴ ィレ ッジ にも どっ ての 幾つ かの 質 疑の 中で は、 現場 が雑 然と して いる とい
う指 摘は あっ たが 、他 に、 本質 的課 題 やリ スク を議 論す る場 とは なら なか った 。
前会 長と 長 谷 部委 員長 の修 復努 力と 受入 れ への 謝意 が表 され た後 、帰 途に つい た。
後日 の福 島問 題予 備検 討会 の場 でも 、 運転 と同 時に 建設 補修 工事 をや らざ るを
えな い現 場の 管理 や物 を生 産し ない 化 学工 場、 もし くは 組立 工場 とし ての 工場 運
営の シス テム が整 って いな いと いう の が共 通に 指摘 され た。 原子 力発 電所 にお い
ては 、原 子炉 が唯 一無 二の 重要 な心 臓 部で あり 、発 電プ ラン トは 本来 、極 めて シ
ンプ ルな もの であ る。今の 発電 所の 状況 は、当事 者に とっ てこ れま で経 験の な い 、
慣れ ない 、錯 綜し た姿 であ ろう 。本 質 的に 解決 すべ き問 題や 深刻 な課 題は 勿論 他
に多 いこ とは わか るが 、第 一発 電所 を 見学 した 感想 だけ から 言え ば、 まず ここ を
整え るこ とが 問題 解決 の原 点で ある とい う こと であ る こ とを 言い たい 。
弓削 さん が書 かれ た、 前回 (2007 年 9 月 26 日)の東 京電 力・ 福島 第一 原子 力発
電所 見学 印象 記 の 終わ りに は
“桜 や松 、夾 竹桃 など が生 い茂 る、整理 の行 き 届い た緑 の中 を通 って 、サ ービ ス
ホー ルに 戻り 、大 出所 長以 下の 方と 、2 ,3 の 質疑 を交 わし まし た。質問 は沢 山あ
った ので すが 、帰 りの 電車 の都 合で 残念 なが ら 時間 切れ とな り、見学 会世 話人 の道
木幹 事が 代表 して お礼 の言 葉を 述べ 、大 出所 長 以下 の盛 大な 見送 りを 受け 発電 所を
後に しま した 。“
とあ るが 、今 回は その よう な こ とに なら な かっ たの は当 然で ある 。
た だ 、入退 域 管 理棟 で 、出 入 の線 量 の測 定 やチェ ッ ク をし て い る女 性 の笑 顔 に
安 心 感 を覚 え た 。
こ こ ま で来 た の であ る 。
終わ り
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追記
本文 は一 緒に 、訪 問に 同行 され た横 堀幹 事 の訪 問記 録を 多く 引用 させ ても らっ
た。 写真 の類 は、 撮影 が禁 止さ れて いて 、 東電 から いた だい た写 真と 資料 を添 付
させ てい ただ いた 。
厚く 感謝 した い。
東電 から は、他 の資 料 と一 緒に、第一 発 電所 の現 状が わか る構 内図 をい ただ き、
これ は添 付し たか った のだ が、 あま り に正 確な 現状 を 書 き込 んだ 写真 であ るの で
あえ て割 愛し た。 吉良 邸絵 図面 くら い の価 値は ある ので 、 こ のよ うな 図を 見学 者
個別 に配 布す る神 経は いさ さか 疑問 に 感じ る。 核テ ロが 云々 され るな か、 素人 で
も使 える 図で ある 。国 防秘 密と いう 意 識が 無い よう にも 思え る。 見学 とは 直接 関
係は ない が、 この 図に 限ら ず、 第一 原 発の 現状 は様 々な 機関 から 、な かば 、ア リ
バイ 作り のよ うに 、様 々な デー タが 公 開さ れて いる 。一 方で は、 情報 管理 は厳 格
だと も聞 く。 情報 は開 示さ るべ きで あ るが 、こ の種 の情 報の あり 方は もっ と考 え
られ て良 いと いう 気が する 。
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