廃棄物処理?としての事業仕分け

巻頭言
廃棄物処理?としての事業仕分け
上村達男*
我々の研究拠点形成は,世界水準の研究拠点形成を目指すグローバルCOE拠点として採択されたも
のであり,高い誇りと責任を日々痛感しながら多角的な研究活動を継続しているが,今年もまた
GCOE全体が民主党による事業仕分けの対象となった。
昨年の事業仕分けでは,最終的に間接経費(GCOEの形成に直接・間接に貢献する資金を大学にあ
てて支給するもの)ゼロ,すなわち早稲田大学ではGCOEの人件費を賄っていた経費が研究活動の継
続中に突如として3割削減された。我々の拠点は,一応21世紀COEの中間評価も事後評価も,グロー
バルCOEの採択時の評価も社会科学系では最高水準の評価を得たのであるが,それでも非常に厳しい
結果となった。今年の事業仕分けでも最低1割以上の削減が求められる結果となった。重点配分をす
るようにとの意見がついているが,これから公表される中間評価の結果が仮にかなり良いと仮定して
も増額はおろか現状維持も困難ではないかと想像される。こうした状況は民主党の反知性主義,反学
問的性格を如実に物語るものとしか言いようがなく,このところ民主党の事業仕分け人がテレビに出
ると,罵りの声をあげながらテレビのスイッチを変えている。
仕分けというのは国語辞典によると区分けないし分類を意味するが,当然ここでは無駄な事業を区
分けして分類することを意味している以上,お前がやっている研究拠点形成は廃棄物の方に分類され
たと言われているのに等しいのだから怒らない方がおかしいだろう。
第一に,このCOE企画は世界水準の研究活動と一体の形で若手研究者養成を図るというコンセプト
であるため,採択時にも中間評価の際にも,詳細な文書を作成した上で専門家による厳しい評価を経
ている。我々も社会科学分野とりわけ法学分野で,日本が世界に誇る比較法研究を軸にした世界水準
の研究活動を実施していると自負しているが,学問的な中身に関する専門的な評価を無視して,政治
家と政治家が勝手に選んだ仕分け人とやらが,事業活動を外から傍若無人に,かつ居丈高に評価する
という姿勢自体が学問研究の何たるを知らない傲慢極まる態度である。
第二に,我々の拠点が力を入れてきたアジアプロ向け債券市場構想,公開会社法構想,金融ADR構
想は,すでに実現を見たもの,実現過程にあるもの,重要な構想として議論の対象になっているもの
などであるが,これらはいずれも民主党が政策2009に掲げ,あるいは政府の成長戦略に明示される,
といった位置づけとなっている。仕分け人たちは,そんなことは露知らないのではないか。民主党に
も,こうした仕分けがまさに天に唾をする行為との認識を持つ人がいないわけではないが。
* 早稲田大学GCOE《企業法制と法創造》総合研究所所長・法学学術院教授
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第三に,GCOEは若手研究者の育成を旗印としているが,それは世界水準の研究活動をともに担
うものとしての位置づけであり,RAの報酬もそうした活動に見合うものとして認識されている。
単なる奨学金ではない。しかも気の毒なほどに少額である。
第四に,我々は中国全人代常務委員会法制工作委員会や中国証券監督管理委員会と協定を結ん
で研究協力関係を結んでいるが,中国側からは日本の比較法学をバックボーンとした法律学の水
準に対する高い評価を受けており,すでに我々が協力した法分野は14分野に及んでいる。事業仕分
けは,こうした日本が優位性を誇れる分野での地道な文化交流の息の根を止めようとしているこ
とを知るべきである。
我々は研究内容への評価を理由とした減額ならこれを甘んじて受ける。それは研究者として当
然である。しかし,始めからどうせ碌なものではないだろうという不当な予断に基づく,反知性主
義的な廃棄物処理発想には強く抗議したい。