大学生のゆるし傾向性と精神的健康との関連―大学生活からの検討―

目白大学大学院
修了論文概要
所属
心理学研究科 臨床心理学専攻 修士課程
修了年度
平成 23 年度
氏名
寺内 香織
指導教員
(主査)
丹 明彦
論文題目
大学生のゆるし傾向性と精神的健康との関連―大学生活からの検討―
本 文 概 要
【問題と目的】
これまでの中高生を対象にしたゆるし傾向性の研究から,精神的健康度や学校適応感などとの関連
が明らかにされた(石川・濱口,2007)
。しかし,同じ青年期の中でも中高生と大学生では発達課題
や学校,社会的生活の質が異なる。よって,本研究は,大学生のゆるし傾向性と精神的健康との関連
を検討目的として,ゆるし傾向性に影響を与える指標を大学生の発達課題や生活状況に沿ったものか
ら明らかにする。
【方 法】
対象者:都内 A 大学の学生 238 名(男性 108 名,女性 130 名,平均年齢 19.61 歳,SD=1.91)。
調査材料:①フェイス項目(性別,年齢,学年,専攻)②ゆるし傾向性尺度 23 項目(石川・濱口,
2007)③自立尺度 32 項目(大石・松永,2008)④日本版 GHQ 精神健康調査票短縮版 12 項目(中
川・大坊,1996)⑤友人満足感尺度 6 項目(加藤,2001)⑥大学生の生活状況を把握する項目(アル
バイトの有無,サークルやクラブ活動への所属の有無,ボランティア経験,居住形態,家族構成,余暇時間)
手続き:無記名・個別自己記入形式の質問紙調査を集団調査形式で実施した。
倫理事項:本研究への協力は自由意志に基づき匿名性が保持されること,回答を行わなくても不利益
が生じないこと,研究以外では使用しないことを口頭・紙面で説明した。
【結 果】
ゆるし傾向性尺度と精神的健康度の影響因の検討(重回帰分析)から,【他者へのゆるし傾向】
は GHQ に影響しなかった。
【自己への消極的ゆるし傾向】
,
【自己への積極的ゆるし傾向】について
は,GHQ 得点に対する有意な負の標準偏回帰係数(β)得られ,投入後の R²についても R²=.22,F
の変化量は 23.68 で有意であった(p<.001)
。
次に,ゆるし傾向性尺度の各尺度得点パターン(4クラスター)と生活要因とのχ²検定を行っ
た結果,いずれも有意な差は示されなかった。
【考 察】
ゆるし傾向性と精神的健康との相関・重回帰分析の結果より,ゆるしの方向が自己に向けられる傾
向の高い者は精神的健康度が高く,他者へのゆるし傾向の高低は影響しないことが明らかになった。
これは,自分に対するゆるしの高さによって、自身の安定を保つことができる(石川・濱口,2010)
という中高生の結果と一致し,大学生にとっても、自己をゆるせるかどうかが精神的健康を高める要
因となることが示唆された。一方で,ゆるし傾向性と大学生活との関連は確認することができなかっ
た。このことから,大学生のゆるし傾向性を高める要因として生活要因は関連性が少ないということ
が示唆された。そのため,今後は流動的な要因ではなく,パーソナリティ要因との関連について研究
を進めていくことが望まれる。
【引用文献】
石川満佐育・濱口佳和(2007)
.中学生・高校生におけるゆるし傾向性と外在化問題・内在化問題
との関連の検討 教育心理学研究,55,526-537.