News23/憲法特集/52:48(緊急事態条項について)

TV 報道検証
テレビ局: TBS
報告書
番組名:NEWS23
放送日: 2016 年 5 月 3 日
出演者:星浩 (キャスター )、駒田健吾 (キャスター )、皆川玲奈 (キャスター )、宇内梨沙 (キャスター )
検証テーマ:憲法特集
報道内容要旨:
・GW で混雑の繁華街に…
神戸三宮で車暴走
7人重軽傷
・「我を失うくらい嬉しい」“奇跡の優勝”レスター岡崎の「すごさ」とは
・熊本地震
被災地に大雨
医療支援
ビニールハウスに避難
石巻から熊本へ
市営住宅で抽選始まる
・日本政府 vsGHQ
子どもたちは…
“風邪”の奥にストレスも…
最大倍率 90 倍の狭き門
70 年前の音声記録を発掘
駒田アナの「今日は憲法記念日です。 1947 年に今の憲法が施行されました。いま、憲法改正への議論が巻き
起こっているなか、焦点となっているのがこちらです。 <緊急事態条項 >これは大規模災害などの非常事態に対
処するため、政府に権限を集中させようというものですが、これには「歯止めが利かなくなるのでは」といった
懸念の声があがっています。実は今から 70 年前、この緊急事態条項をめぐって、当時の日本政府とGHQとの
間でぎりぎりの交渉が行われていました。」という発言が導入としてあり、音声記録を用いた VTR が流された。
VTR ではナレーションが「これは終戦直後に法制局第一部長を務めていた佐藤達夫がGHQ(連合国軍総司
令部)とのやりとりについて語ったものです。佐藤の交渉相手はGHQの大佐ケーディス。問題となったのは衆
議院が解散されている間に大規模災害など非常事態が起きた場合の対応でした。佐藤は切れ目なく国会が役目を
果たせるよう国会に『常置委員会』を国会に設置すべきだと主張しました。一方ケーディスは『内閣のエマージ
ェンシーパワー』つまり、内閣に緊急の権限を与えることで乗り切るべきだと主張します。」と当時の状況を概
説し、「エマージェンシーパワーは超憲法的な場合をいうことなのでそういうことを初めから今憲法をこれから
作ろうっていうときに『超憲法的な措置ができるんだ』ってなことを言うのは憲法を踏みにじるもとになるんだ
から『そういうことは困る』っていうことを言ったんですけれども。」と佐藤達夫法制局第一部長の音声が紹介
された。これに対して、ナレーションが「佐藤は激しく抵抗。緊急時でも憲法の枠内で対処することにこだわり
ました。なぜなら憲法に縛られない権力の行使は弊害があると考えたからです。代案として佐藤が示したのは参
議院がその役割を果たすというものでした。」と補足を加えた後に「最終的に佐藤の提案は採用されましたが内
閣に強い権限を与える緊急事態条項の創設はGHQの強い反対により見送られました。」と GHQ との交渉の顛
末を説明した。
こうしたやり取りの紹介を受けて VTR では更に現在の緊急事態条項を巡る論争について「事前又は事後に国
会の承認を得るとしていますが専門家は政府による権力の乱用につながりかねないと指摘」している東京大学大
学院教授の石川健治氏の「何が起こるかわからないので、いつでもですね、法律抜きで、ことを進められるよう
な憲法改正を先行させるのは、むしろ不真面目な考え方だと思う。」というコメントと、「緊急事態宣言から100
日後に国会でチェックするという自民党案について『もっと期間を短くし、チェック機能を強化するよう改善し
ていく』考えを示し」ている自民党前憲法改正推進本部長の船田元氏の「どんどんどんどん法律を、政令を出し
て法律にしちゃって独裁的状況を作ってしまったということになりかねませんので、1週間とか、そういうとこ
ろできちんと必ず事後的にチェックを入れて、それでその緊急事態の時に出された政令というのが正しいのか正
しくないのか、できるかぎり短い時間で判断する、国会が、やっぱり関与するということはきちんと保証してお
く必要があると思います。」というコメントを紹介した。
・【考えるキッカケ】「改憲のエネルギー」
スタジオでは星浩キャスターが「そうですね。 30 年ほど私ずっと政治記者をやってましてね、 30 年以上前は
日本の政治家、そうそうたるメンバーがいたんですね、田中角栄さんとか福田赳夫さんとか大平さんとか。こう
いうメンバー、彼らみんな基本的には憲法改正必要だっていうんですけどそれは脇に置いといて当面の経済政策
を重点にしてきたわけですね。で、いまも 30 年たってこの政治家のパワー、残念ながら落ちてきていますよね。
一方で日本が抱えてる問題はどんどん深刻になっていってる。経済再生とか社会保障とか教育とか。そうすると
いま、小粒になったというといいすぎかもしれませんが、いまの政治家たちが憲法改正を唱えるのはいいかもし
れませんがやっぱり、当面の、大事な、課題にエネルギーを注いでもらいたいという気がするんですね。やっぱ
りこっちのほう(「経済再生、社会保障、教育、少子高齢化」と書かれたパネルを指差す)がおろそかに、やっ
ぱり憲法改正ばっかりやってますとね、やっぱりエネルギーがこっち(「憲法改正」と書かれたパネルを指差す)
のほうにいっちゃうとここ(「経済再生、社会保障、教育、少子高齢化」と書かれたパネルを指差す)がおろそ
かになっちゃうので、そこを考えてもらいたいという気がするんですね。そこでまあ憲法改正はもうちょっと長
期的な課題としてじっくり議論していくと。で、当面は政治のエネルギーは大事な課題にそそいでほしいなとい
うことが憲法記念日に考える、日本のいまの政治の状況から考えることですね。
」と自説を展開した。
・円高止まらず1年半ぶり一時 105 円台
・茨城・笠間市役所でパンク相次ぐ
・あす朝にかけ非常に激しい雨・風
・スポーツ
【新着】党大会直前の平壌
最新映像
・ふるさと納税で新たな被災地支援
「代理受付」で負担軽減
【セカイは今】マクドナルドより多い !?韓国チキン店
・天気予報
検証報告(放送法第 4 条の見地から):
緊急事態条項に賛成の意見およびその紹介を「賛成」、緊急事態条項に反対の意見およびその紹介を「反対」,
議論すること自体を喚起する意見および事実の紹介などの賛成反対以外を「その他」として処理した。
賛否の比率は以下の通り
賛成:55 秒(52%)、反対: 50 秒(48%) 、 (その他: 320 秒)
放送法4条1項4号の観点からは特に問題は見つからなかった。
「印象操作」に関する所見(最高裁判例の見地から):
特になし
検証者所感:
・憲法について
緊急事態条項についての GHQ との音声を元にした VTR で「これは終戦直後に法制局第一部長を務めていた
佐藤達夫が GHQ (連合国軍総司令部)とのやりとりについて語ったものです。佐藤の交渉相手は GHQ の大佐
ケーディス。問題となったのは衆議院が解散されている間に大規模災害など非常事態が起きた場合の対応でし
た。佐藤は切れ目なく国会が役目を果たせるよう国会に『常置委員会』を設置すべきだと主張しました。一方ケ
ーディスは『内閣のエマージェンシーパワー』つまり、内閣に緊急の権限を与えることで乗り切るべきだと主張
します。」と緊急事態条項に賛成のGHQ と反対の日本の間に争点があったことを示しておきながら、「最終的に
佐藤の提案は採用されましたが内閣に強い権限を与える緊急事態条項の創設は GHQ の強い反対により見送ら
れました。」と緊急事態条項創設を巡るGHQ と日本の交渉の結果を説明しているが、当初は GHQ のケーディ
ス大佐が「内閣のエマージェンシーパワー」を主張しているにもかかわらず、なぜその緊急事態条項が GHQ の
強い反対によって見送られたのか、VTR を一見する限りではよくわからない。GHQ の内部も一枚岩ではなかっ
た、内閣のエマージェンシーパワーはあくまでケーディス個人の主張であって GHQ の主張ではなかった、とい
うことも考えられないこともないが、そうした可能性に思い至るためには視聴者に一定程度の予備知識が必要で
あり、その点で不親切な VTR の構成であると言わざるをえないだろう。
石川健治氏の「何が起こるかわからないので、いつでもですね、法律抜きで、ことを進められるような憲法改
正を先行させるのは、むしろ不真面目な考え方だと思う。」というコメントについても、短文のものではあるが
非常に問題のあるものと検証者は考える。
自民党の憲法草案 (https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku -109.pdf)によると、緊急事態条項に
ついて、九十八条の一項、二項で「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩
序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めると
きは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。2緊急事態の宣言は、
法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。」と、緊急事態の定義および緊
急事態の宣言のために必要な手続きについて法律で定めることを要求している。また、九十九条の三項で「緊急
事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生
命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならな
い。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最
大限に尊重されなければならない。」と緊急事態においても憲法の第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条
は遵守されなければならない旨が明記されている。このことからも、緊急事態条項が発動されるような事態は予
め法律で規定されており、また緊急事態条項の発動についてもその手続が法律で規定されており緊急事態下での
施策についても人権規定の最大限尊重ということは揺るがないことが読み取れる。自民党の改憲草案での緊急事
態条項は「法律抜きではことは全く進まない」にも関わらず、「法律抜きでことが進められるような憲法改正」
と評するのは、些か不真面目ではないだろうか。
【考えるキッカケ】について
論旨の方で描き起こしたが、星浩キャスターの発言は「考えるキッカケ」と銘打つには程遠い稚拙な印象論に
すぎない、あまりにひどいものである。
田中角栄、福田赳夫、大平正芳、中曽根康弘らと今の政治家を比較して「政治家のパワー、残念ながら落ちて
きています」、「小粒になったと言うと言いすぎかもしれませんが」などと評しているが、現在の政治家の「パワ
ー」なるものが田中角榮らに比べて落ちているという根拠は一つも示されておらず、これでは「昔はよかった、
それに比べて今は……」式の、単なる印象論以外の何物でもない。
また、星浩キャスターのコメントでは憲法改正にエネルギーを注ぐ余りに経済再生や社会保障、教育、少子高
齢化がおろそかになっている、と言わんばかりのものであるが、アベノミクスとはなんだったのか、経済再生を
目指した政策パッケージではなかったのか。
更に、昨年の平和安全法制を巡って集団的自衛権の合憲性が広く議論となったが、このことからも憲法が大事
な課題として認識されていることは明らかであるが、にもかかわらず星浩キャスターは「憲法改正はもうちょっ
と長期的な課題としてじっくり議論していくと。で、当面の政治のエネルギーは大事な課題にそそいでほしいな」
とコメントしている。経済再生はともかくとしても、社会保障や教育・少子高齢化も十分に長期的な課題である
ように思えるが、一つの課題に直面しているからといって他の課題を疎かにしていい理由にはならないだろう。
もし、重要な課題解決のためには政治のエネルギーの総量が足りないのであれば、政治のエネルギーの総量を増
やすという道すなわち定数削減ではなく定数増加も考えられるだろう。
極めつけは星浩キャスターの「田中角栄さんとか福田赳夫さんとか大平さんとか。こういうメンバー、彼らみ
んな基本的には憲法改正必要だっていうんですけどそれは脇に置いといて当面の経済政策を重点にしてきたわ
けですね。で、いまも 30 年たってこの政治家のパワー、残念ながら落ちてきていますよね。」というコメント
である。前述の通り「政治家のパワーが落ちてきている」とは印象論にすぎないということは指摘したが、 30
年以上も前から有力政治家たちの間でも憲法改正の必要性についての認識が共有されていながらも、まだ憲法が
改正されていない現状で「まあ憲法改正はもうちょっと長期的な課題としてじっくり議論していく」という時間
感覚には驚きを禁じ得ない。一般の人間の感覚では 30 年は「長期」というのではないだろうか。また、30 年も
前から必要性が認識されている事柄について、未だにじっくりと議論がなされていないとすれば、それは普通、
怠慢というのではなかろうか。
備考:
放送法遵守を求める視聴者の会