試験・研究 建築物の外装材および付属物の風力特性 と耐風性能評価に関する研究 (学位論文要約) A Study of the Wind Force Characteristics and Evaluation Procedures of Wind Resistant Performance for Building Cladding and Appurtenances. (Summary of the Doctoral Dissertation) 高森 浩治*1 1.研究背景と研究目的 根、住宅軒天井、ピロティ内部の壁と天井および屋根設置 建築物の外装材設計用風荷重を算定するためのピーク 型太陽電池モジュールに作用するピーク風力を測定し、寄 風圧係数やピーク風力係数は建築基準法や建築物荷重指 棟屋根では隅棟周辺、ピロティ内部では開口部の少し内側 針などの基規準に示されているが、基本的な形状の建築 でピーク風力が大きくなるなどの風力特性を明らかにし 物にしか対応していないので、それらの例示は必ずしも十 た。また、屋根設置形太陽電池モジュールについては、今 分でない。また、台風等の強風時における変動風圧による まで把握されていなかったピーク風力特性を明らかにし、 繰返し風力の特性についても把握されていないことが多 現在広く用いられている平均風力係数に基づく設計値 く、外装材の疲労損傷に対する影響についても明らかでな (JIS C 8955)が過小であることを示した(図-1)。 いことが多い。他方、現状における外装材の耐風設計で は、ピーク風力に相当する荷重を静的に作用させて安全性 を確認する静的設計手法が用いられているが、外装材の 耐風性能評価を行う場合の載荷試験方法がJIS等の規格試 験として示されていない場合が多い。また、変動風力によ る繰返し荷重の外装材の疲労損傷に及ぼす影響はほとん どの場合において検討されていない。これらの状況は建築 物の付属物でも同様である。 本研究の目的は、建築物の外装材および付属物に作用 するピーク風力および繰返し風力の特性を明らかにし、設 図-1 ピーク風力係数の全モジュール中の最大値および最小値 の屋根勾配βによる変化と設計用ピーク風力係数の提案 計用風荷重を算定するための資料を充実すること、ピーク 第3章では、金属屋根葺材、屋根設置型太陽電池モジュ 風力および繰返し風力に対する耐風性能評価の方法につ ールおよびバルコニー手摺を対象として、ピーク風力に対 いて提案することである。 する耐風性能評価のための静的載荷試験を行った。金属 屋根葺材の試験では、圧力箱方式の耐風圧試験を実施 2.学位論文の概要 学位論文は、前章で述べた研究目的をもとに検討した結 果について、全6章にまとめた。 し、破壊荷重からの許容耐力の設定方法および耐風性能 評価の方法を提案した。屋根設置型太陽電池モジュール の試験では、太陽電池モジュールから屋根の構造部材ま 第1章では、建築物の外装材および付属物の耐風設計の でのすべての部材を再現した試験体を用いた耐風圧試験 現状と本研究の位置付けおよび研究目的について述べ を実施し、複雑な荷重伝達経路内において、屋根葺材固 た。 定部での破損が先行することを示すことによって、耐風性 第2章では、縮小模型を用いた風洞実験により、寄棟屋 能評価における荷重伝達経路の評価の重要性について述 *1 TAKAMORI Koji:試験研究センター 環境部 耐風試験室 室長代理 博士(工学) 32 GBRC Vol.40 No.4 2015.10 べた。バルコニー手摺の試験では、手摺支柱を対象に静的 把握、静的および繰返し載荷試験方法の開発の必要性に 載荷試験を実施し、風荷重を想定した載荷方法の提案と ついて述べ、今後の課題とした。 その試験方法の妥当性を検証した(図-2)。 3.おわりに 本研究は、当法人の自主研究、受託試験、外部委員会 等で実施した過去の研究成果を取りまとめたものであり、 研究にご協力いただいた関係各位に深く感謝申し上げま す。また、本研究全体の取り纏めにあたりご指導いただい た大阪市立大学の谷池義人教授、谷口徹郎准教授、研究 の当初よりご指導いただいた京都大学防災研究所の西村 宏昭博士、大学院への進学を許可していただいた当法人 図-2 風荷重を想定した載荷方法による載荷試験結果と等分布 載荷試験結果の比較(試験方法の妥当性の確認) 第4章では、モデル台風と風洞実験結果をもとに作成し の役員各位に心より感謝いたします。 【主な公表論文】 た台風の通過に伴う建築物の屋根面および壁面に作用す 1)高森浩治,浅見理英,西村宏昭,染川大輔,相原知子,低 る変動風圧の時系列を用いて、機械固定式シート防水シス テムおよびバルコニー手摺支柱のアルミ材の疲労損傷曲 層建築物の寄棟屋根に作用する風圧性状 -正方形平面の 場合-,第20回風工学シンポジウム論文集,pp.409-414, 2008.12 線に基づいて累積疲労損傷度の試算を行い、疲労損傷に 2)高森浩治,中川尚大,山本学,奥田泰雄,谷口徹郎,中村 寄与する繰返し風力の特性を明らかにした。その結果、台 風通過によって外装材に作用する変動風圧は小振幅の変 動が大半を占めるが、外装材の疲労損傷への寄与は極め て小さく、数少ない大振幅の変動が疲労損傷に大きく寄与 することを示した(図-3,図-4)。 修,低層住宅に設置される太陽電池モジュールの設計用風 力係数に関する検討,日本建築学会技術報告集,第47号, pp.67-70,2015.2.20 3)高森浩治,西村宏昭,谷口徹郎,谷池義人,外装材の疲労 評価のための変動風圧時系列の生成,第21回風工学シンポ ジウム論文集,pp.417-422,2010.12 第5章では、機械固定式シート防水システム、金属屋根 4)K oji Takamori, Hiroki Nishimura, Tetsuro Taniguchi, 葺材および手摺支柱を対象に変動風力を想定した繰返し の台風が通過することにより外装材が疲労損傷する可能 Yoshihito Taniike, Pressure Time Series for the Fatigue Assessment on a Roofing System, 13th International Conference on Wind Engineering, ISBN: 978-1-907132-33-9 USB-MEMORY,2011.6 性があることを示した(写真-1)。また、これらの載荷試 5)高森浩治,谷口徹郎,谷池義人,台風通過に伴う建築物壁 験結果より、繰返し風力に対する累積疲労損傷を考慮した 面に作用する変動風圧特性と壁外装材の疲労損傷評価,第 22回風工学シンポジウム論文集,pp.197-202,2012.12 載荷試験を実施した結果を示し、設計風速に達するひとつ 耐風性能評価方法の確立の必要性についても述べた。 第6章では本研究の結論をまとめた。また、外装材や付 属物の設計用風力係数の充実、外装材の変動風圧特性の 図-3 風圧時系列データにおける風圧変動の 振幅および平均値別の発生頻度 図-4 風圧時系列データにおける風圧変動の振幅 および平均値別の累積疲労損傷度寄与率 引上げ載荷 写真-1 変動風圧による繰返し風力 を再現した載荷試験によっ て疲労損傷したシート防水 システム(天地を逆にした 状態での繰返し載荷) 33
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